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第 1 章 序論

1.3.1 エステル系絶縁油

今日では変圧器用の絶縁油として一部特殊な用途を除いては、鉱油が用いら れている。鉱油は、優れた絶縁性能を有しており、流動性も高いため変圧器の冷 却に関しても優れた材料である。また非常に安価で容易に入手できる。こうした 背景から、現在では、電力用変圧器のほとんどが鉱油系の絶縁油を使用している。

近年、鉱油系絶縁油に代わって地球環境に配慮した絶縁油としてエステル系 絶縁油が開発され、使用が広がりつつある。現在天然エステル油入り変圧器だけ でも全世界で運転されている推定台数は 250 万台以上とされる [16]。日本国内 での変圧器の稼働台数は、資料 [17]によると 260 万台程度であるため、少なく とも日本国内で稼働している全変圧器と同等程度の台数の天然エステルを使っ た変圧器が全世界で稼働していることになる。他の種類のエステル油をこれに 加えた場合、その稼働台数はもっと多くなる。さらに天然エステルを使った変圧 器は、年々増加しており、2018年は、30万台が新たに稼働を開始した [16]。こ の流れは、今後ますます加速すると予測される。

エステル系絶縁油(エステル油)は、分子構造にエステル基を持つ物質を基油と

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した絶縁油で鉱油と比べて生分解性が非常に高いという特徴を持っている。こ のため、環境中に漏れた場合でも環境に与える負荷を小さく抑えることができ る。現在世界中で再生可能エネルギーの活用が増えてきているが、太陽光や風力 などの発電所は、山中や海洋などに作られる例が多く、こういった設備向けの変 圧器油としてエステル油は優れているといえる。またエステル油の中で植物油 などの天然エステルを基油としたものや植物油由来の脂肪酸を原料として物は、

石油系材料の使用を抑えることができ、サスティナブルな材料といえる。さらに 天然エステルを原料にすれば、絶縁油が廃棄される際に焼却してもカーボンニ ュートラル効果でCO2排出量の削減も期待できる。

一方で、エステル油自体の価格は、鉱油より高いと言われている。しかし、変 圧器を製造に必要な他の部材のコストに比べて絶縁油が占める割合が小さいた め、全体のコストに対する影響は小さい。エステル油は、鉱油に比べて防災性に 優れるという特徴があり、防災設備や保険等も含めた稼働コストも含めて考え るとコスト面で有利な点もある。今後、エステル油の使用量が増えれば、絶縁油 自体の価格も鉱油に近づくと考えられる。このように今後の普及や技術的な改 善が進めば、コスト面においても鉱油とそん色なく利用できるものにすること が可能であると考えられる。

図1. 23 エステル油の分類と一般化学構造にエステル油の分類と一般化学構

造を示す。現在市場で販売されているエステル油は、合成エステル、天然エステ ル、植物由来脂肪酸エステルの3種類に分類される。合成エステルは、化学合成 によって化学的に作られるもので原料は天然エステルに限らない。天然エステ ルは、植物油などの天然のエステル化合物を基油として用いたものでトリグリ セリド構造を持つ。大豆油や菜種油、ひまわり油を用いたものが開発され販売さ れている。植物由来脂肪酸エステルは、植物油から得られる脂肪酸とアルコール をエステル交換させて作られる油でパームヤシから得られる脂肪酸を利用した ものが市販されている。植物由来脂肪酸エステルは、脂肪酸とアルコールの組み 合わせによって絶縁油としての性質を調整できるという特徴もある。

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1. 23 エステル油の分類と一般化学構造

表 1. 6 に石油学会の調査専門員会であるエステル系絶縁油専門員会で調査さ

れた日本国内で使用されている代表的なエステル油の例を示す。エステル油は、

分子構造の特徴の影響で誘電正接が鉱油よりも高いが、絶縁破壊電圧や体積抵 抗率などの絶縁特性については鉱油と遜色ないといえる。またエステル油には 鉱油よりも優れている点もあり、引火点が高いという特徴を持っている。合成エ ステルで274℃、天然エステルで 330℃、パームヤシ脂肪酸エステルで 186℃と 鉱油の 154℃に比べて高いことが分かる。特に合成エステルと天然エステルは、

鉱油よりも100℃以上も引火点が高く、防災性に優れる。パームヤシ脂肪酸エス テルは他のエステル油と比べ引火点は低いが、動粘度が特に低く、鉱油よりも低 い値となっている。したがって冷却性能に優れた絶縁油であると考えられる。こ のようにエステル油は、生分解性以外にも優れた点が多数ある絶縁油であると 言え、今後ますます使用拡大が予想される。

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1. 6 日本国内で使用されている代表的なエステル油の例[24]

合成エステル 植物油 (菜種油)

植物系エステル (パームヤシ脂 肪酸エステル)

鉱油 (比較)

密度(15℃) kg/L 0.97 0.92 0.86 0.87 動粘度(40℃) mm2/s 30.6 35 5.56 8.36 動粘度(100℃) mm2/s 5.63 8.02 1.8 2.26 引火点(COC) 274 330 186 154

流動点 <-50 -27.5 -32.5 -32.5

比誘電率(80℃) - 3 2.9 3.0 2.2 誘電正接(80℃) % 0.12 0.05 0.31 0.005 体積抵抗率(80℃) Ωcm 2.3×1012 8×1013 7.1×1012 5×1015 絶縁破壊電圧(2.5mm) kV 81 78 81 72

特徴

生分解性 非危険物 酸化安定性

生分解性 非危険物 植物油

生分解性 植物由来 冷却性能

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