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第 1 章 序論

1.4.2 テラヘルツ分光分析の可能性

機器分析装置の技術の最近の20年くらいで非常に進歩している。分析機器に コンピュータが接続されている状況が当たり前となっており、取得したデータ をデジタル情報のまま解析・処理に利用できるようになった。分析装置自体も半 導体や光学技術の進歩により、新しい原理を使ったものが次々と登場している。

テラヘルツ分光分析もその一つで、装置技術の進歩により、実験室で使用できる 使いやすい装置が市販されるようになった。

テラヘルツ波は、電波と光の中間に位置する波長帯の光で一般に0.1~20THzの 領域の光を指す。近年まで実用的な装置が開発されてこなかったことからテラ

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ヘルツ波の研究は未発達で電磁波の中で未開拓の領域といわれている。しかし、

赤外線よりもエネルギーが低く、その吸収スペクトルは分子間相互作用などの 弱いエネルギー領域に属するものに対応していると考えられる [37] [38]。この 特性を利用して分子間相互作用やそれらが関連した分子同士の 3 次元的な構造 など、これまで解析が困難であった分野への活用が期待されている。

テラヘルツの吸収スペクトルは、様々な複雑な現象が重なりあって起こる。し かし吸収スペクトルについては、完全な解析や帰属ができておらず、測定データ の蓄積も進んでいない。本論文では、エステル系絶縁油の基油の一つである脂肪 酸エステルを測定対象として量子化学計算と組み合わせ、エステル分子のテラ ヘルツ吸収について解析した。その結果を元に、テラヘルツ波を用いた油中の水 分についての解析も試みた。

1.5 本研究の目的

電力は、われわれの社会にとってなくてはならないものである。現在は、IT技 術を駆使した高度な処理を前提とした社会構造となっており、より便利で快適 かつ効率的な社会が実現できているが、その反面で電力エネルギーの社会に果 たす役割はより重要となっている。また発展途上国の経済発展に伴い、これらの 国や地域においても電力消費は増加しており、世界的に電力需要が増大してい る。したがって安定的な電力供給システムを永続的に維持していくことが社会 全体としての大きな課題であると考えられる。電力設備主力である変圧器の保 守管理は、電力の安定供給において必須であり、発電方法が多様化した現在でも それは変わらない。変圧器の内部異常診断技術発展した油中ガス分析は、これま でその役割を果たしてきた。

永続的であるべきということは電力機器の材料についてもいえることである。

電力設備の中で主力の油入変圧器には、多量の絶縁油が充てんされており、現在 そのほとんどが鉱油である。石油が原料である鉱油は、永続的に利用できる材料 ではなく、廃棄される際に焼却すれば多量の CO2 を排出する。環境中に漏洩し た場合の環境汚染も問題となる。このことに対する解決策として誕生したのが エステル系絶縁油である。生分解性が高く、植物油等の原料を利用したものは、

永続的に生産可能でありサスティナブルであるといえる。こうしたことから電 力システムを永続的に維持していくためには、鉱油からのエステル油への転換 が必然であるだろう。

これまで鉱油を対象として発展してきた油中ガス分析の手法は、エステル油 においても非常に有力な手段であると考えられる。有機物であるエステル油は 鉱油同様に過熱・放電によってガスを発生させる。油中ガス分析は、非常に高感 度で、変圧器を停止することなく実施できるため非常に便利である。またサンプ

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リングに使う器具やその方法、分析装置などこれまでの鉱油のものがそのまま 活用できるというメリットも大きい。したがってエステル油に対する油中ガス 分析の技術を確立し、データを蓄積することで、これまで同様の内部異常診断を 提供することができると考える。

前述のとおり、エステル油における異常診断技術は発展途上である。ガス発生 の現象を検証する実験データや研究がまだ不足していると考える。また理論的 な解析も必要である。そこで本研究では、変圧器の代表的な内部異常である局所 加熱、部分放電、アーク放電を油中で発生させた際のガス発生特性を実験装置を 用いて調査した。異常の種類や温度、放電エネルギーにより発生するガスの種類 や比率がどのように変化するかを調査した。得られたデータをもとに、内部異常 診断に利用できる指標についても検討を行った。また量子化学計算を用い、エス テル油からのガス発生メカニズムについても検討し、理論的な検証も行った。さ らに、テラヘルツ分光分析を用いて絶縁油の新たな分析、解析方法の可能性につ いても探った。

1.6 本論文の構成

本論文は、以下の5章から構成されている。

第1章では、序論として本研究の背景と目的及び構成について述べる。

第2章では、3種類のエステル油を用い油中で局所加熱、部分放電、アーク放 電が発生させ、生成したガスを調べた。局所加熱では、300℃~700℃までの加熱 温度における発生ガスを、部分放電、アーク放電においては、放電エネルギーを 変化させた場合の発生ガスの変化を測定している。ガスの種類と比率、発生量な どを比較し、変圧器内部異常診断に利用できる指標についても検討を行った。

第 3 章では、量子化学計算を用いて脂肪酸エステルの分解反応を結合解離エ ネルギーと自由エネルギー変化の計算によって解析した結果について述べる。

過熱を想定し、加熱温度ごとのガス発生比率を算出し、第 2 章で述べた実験結 果と比較している。

第4章では、3種類の脂肪酸エステルについてテラヘルツ吸収スペクトルを測 定し、その結果を量子化学計算での振動計算の結果と比較し、脂肪酸エステルの テラヘルツ帯の吸収について検討した結果について述べる。この解析結果を用 いて、油中での水分についても測定と計算から解析を行った。

最後に第5章において本論文の結論を述べる。

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