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第 3 章 量子化学計算によるエステル油の熱分解による

3.4.7 放電時のガス発生について

これまで、熱分解におけるガス発生について量子化学計算を用いて検討して きた。ここでは、放電による分解について述べる。分解反応として単純に考えた 場合、放電では、油にかかる熱エネルギーがさらに高くなる(一般的に1000℃以 上の温度とされる)と考えられ、3 章で述べてきた熱分解機構の延長線上にある と考えられる。しかし 2 章で述べた実験結果では、過熱と放電の分解ガスの挙

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動はかなり異なっていた。具体的には、過熱では、C2H4やC2H6がかなり多量に 発生しているのに対して、放電では、これらのガスは少なくH2やC2H2が多く発 生した。さらに、過熱では、COやCO2の発生量が多いが、放電ではあまり発生 していないことが分かった。したがって、過熱と放電では、基本的な分解機構が 異なっていると考えられる。これには、放電の物理的な現象が影響していると推 測される。放電では、熱平衡に達していない状態で分解が進んでいると考えられ る。放電では、油中にもともと存在するボイド状の気泡や放電によって発生する 気泡が放電現象やその後の分解反応へ大きく影響する可能性も考慮に入れる必 要がある。また過熱と放電では、油に注入されるエネルギーの時間的、空間的な 差なども分解反応に影響している可能性が考えられる。このような差が、過熱と 放電での分解ガスの挙動に大きく影響していると推測される。しかし、これらの 物理的現象の差異を明らかにし、モデル化できれば、今回のような量子化学計算 による解析で、放電によるガス発生も解析できると考える。

3.5 まとめ

エステル油の加熱時におけるガス生成メカニズムを検討するために数種類の 脂肪酸エステルについて量子化学計算による解析を試みた。開放型以外の変圧 器などの酸素がない条件での加熱を想定し、水素や炭化水素系のガスが生成す る分解反応は、主にランダム分解による結合の切断によるラジカル生成、次いで そのラジカルが引き起こす反応によってガスが生成すると仮定し、結合解離エ ネルギーや反応速度を評価した。

結合解離エネルギーの計算からは、分子構造の中で C-C 結合が弱く、熱分解 のラジカル生成では、主に C-C 結合が切断することがわかった。さらにエステ ル基の存在や、アルキル基の分岐の有無、側鎖の種類は、生成するラジカルの安 定性に影響し、C-C結合の強さ変化させる。これが切断しやすい結合の位置と生 成するラジカルの種類を変化させる。このため、エステルの化学構造が異なると ガス生成特性が異なると予想される。

このモデルにおいて、ガスを生成する反応経路を整理し、反応速度を評価した。

エステル油中でのラジカル反応は、周辺分子からの水素引き抜きとラジカルの β開裂の 2 種類と考えられた。その仮定から、ガス生成を伴う反応過程につい て整理し、300℃から700までの温度条件における各径路の反応速度を比較する ことで生成ガス比率を算出した。結果、一部異なる部分があるものの実験結果の 傾向と一致することが確認できた。本計算モデルのガス生成機構は、実際のガス 生成に対してある程度妥当であると考える。以上の結果から脂肪酸エステルの 結合切断が引き起こすラジカル生成による熱分解機構に関して以下のような知 見を得た。

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・ エステルのアルキル基の熱分解の過程は、結合切断によるラジカル生成と そのラジカルが引き起こす反応の2つの段階で構成される。

・ 結合の切断は、主にC-C結合で発生する。

・ アルキル基の構造やエステル基の存在は、C-C結合の強さに影響し、生成 するラジカルの比率に影響する。

・ エステル油中でのラジカル反応は、水素引き抜き反応とβ開裂の2つが主 であると考えられる。

・ 高温でのC2H4生成では、他のラジカルがC2H5ラジカルの水素を引き抜く 反応が関係していると推測される。

本章では、エステル油の熱分解過程における反応経路とガス生成について理 論的に整理することができた。実験結果ともある程度一致することから、実際の ガス生成について理論的に裏付ける結果の一つということができると考える。

今回の計算モデルは、複雑な素反応の重ね合わせである熱分解過程を整理分類 することで理論的にガス生成過程を推測することが可能であった。今回はモノ エステル構造の化合物のみの検討にとどまったが、今後様々な化合物へ適用し、

検証することで本手法の妥当性や精度が確認できれば、エステル油全体のガス 生成についてのメカニズムを解析できると考えられる。また本手法は、エステル 油の化学構造から、分解生成物が予測できる。新規の絶縁油材料についても、煩 雑な実験を行うことなく、DGAに利用できるガスの選定や不具合の現象に対応 したガスの比率を推測できる可能性も考えられる。今後さらなる発展が期待さ れる。

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