第 4 章 テラヘルツ分光法によるエステル油の解析
4.2.1 検討方法
(1)計算対象分子
現在市販されているエステル系絶縁油は、基油の化学構造の特徴から天然エ ステル、合成エステル、植物系脂肪酸エステルの種類に分類される [11]。この中 で植物系脂肪酸エステルは、植物由来の脂肪酸とアルコールを人工的にエステ ル交換反応させたもので化学構造は図4. 1に示すモノエステルである。1つのエ ステル基を有し、R は脂肪酸由来と R’はアルコール由来のアルキル基でいずれ も二重結合をもたない。この中で分子構造が比較的小さく計算でのモデル化が しやすい植物系脂肪酸エステルの中から 3 種類のエステル化合物を計算対象と した。計算を行ったエステル化合物の化学構造式を図 4. 2 示す。以下ラウリン 酸2エチルヘキシルを2H-12A、カプリル酸2-エチルヘキシルを2H-8A、ラウリ
169 ン酸メチルをM-12Aと略す。
図4. 1 植物系脂肪酸エステルの化学構造
図4. 2 検討を行った脂肪酸エステルの化学構造
(2) 量子化学計算
量子化学計算には、Gaussian16 Revision B.01 [12]を用いて行った。まず各化合 物の初期構造を作成し、これについて構造最適化計算を行った。構造最適化は、
最初に Hartre-Fock(HF)法、基底関数を 3-21G で予備的な構造最適化を行い、引
き続き B3LYP 法、基底関数 6-31G(d)で最終的な最適化構造を求めた。Gaussian
による構造最適化プログラムは、構造を少しずつ変化させながらエネルギーの 極小点を求めていく。このため最初から高精度な計算手法で計算するより、計算 レベルを落とした予備的な最適化計算を行った後、その構造についてさらに高 精度な計算に移行する方が、計算時間が少なくて済む場合が多い。今回もそれに 従いに段階に分けて構造最適化を行った。続いて求めた最適化構造に対し、振動 計算を行い、スペクトルを求めた。スペクトルを表示する際のピーク半値幅は、
ラウリン酸2-エチルヘキシル(2H-12A)
カプリル酸2-エチルヘキシル(2H-8A)
ラウリン酸メチル(M-12A)
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ソフトウエアの初期設定値である4cm-1とした。なお分子モデルの作成と計算結 果の表示には、GaussView6 [13]を用いた。
(3)THz吸光スペクトルの測定
THz吸光スペクトルは、日本分光株式会社製のVIR-F型(図4. 3)を透過測定モ ードで使用した。本装置には、液体試料測定用のセルがなかったため、セルを独 自に作成して測定を行った。一般に物質と光の透過性は、Lambert-Beerの法則(式 4.1)に従う。
𝐴 = −𝑙𝑜𝑔10(𝐼1
𝐼0) = 𝜀𝑐𝑙 (4.1)
A:吸光度
I0:透過前の光の強度、I1:透過後の光の強度
ε:モル吸光定数、c:媒質のモル濃度、l:媒質を光が透過する長さ
この式において、吸光度は、比例定数をモル吸光係数εとしたとき濃度cと物質 通過する長さlに比例する。今回の測定では、油を測定するため、濃度は一定と 考えると油を光が通過する距離を一定にすることが、精度よく測定するための 条件であると考えられる。液体試料の測定においては、液体を光が透過する距離 を固定した状態で設置する、すなわち分析波長の全領域に対して透過性が高い 固形材料で液体を保持する必要がある。赤外分光では塩化ナトリウム板など、可 視光ではガラス、紫外領域では、石英などがよく用いられる。しかし THz の透 過性が高いポリエチレンなどの材料は柔らかく単独では液体上の試料を精度よ く保持することが困難であった。そこで製作したセルは、2枚のポリエチレン板 の間に液体試料を挟み、光が通過する部分に穴をあけた 2 枚の金属板で挟み込 む形状とした。液体の厚さは、ポリエチレン板の間にスペーサとなる0.3mm の アルミ板を入れ、一定となるように工夫した。製作したセルの構造図を図4. 4に 示す。このセルを用いることにより、安定して測定が行えるようになった。
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図4. 3 日本分光製VIR-F型テラヘルツ分光測定器
図4. 4 THz分光測定用液体セルVer.1