• 検索結果がありません。

事業サイクルについてのメモ

原文:http://bit.ly/pzSbxe  

これまでの章では、あらゆる時点における雇用量を決めるのが何かを示したと主張して きましたので、それが正しいならば当然出てくるのは、この理論が事業サイクル(訳注:

景気循環)という現象を説明できるはずだ、ということです。

実際の事業サイクルの事例をどれでも詳しく検討すれば、それがきわめて複雑で、それ を完全に説明するためには私たちの分析のあらゆる要素が必要となることがわかるでしょ う。特に、消費性向や流動性選好、資本の限界効率の変動がすべて関係していることがわ かるはずです。でも事業サイクルの本質的な特徴、特にそれを

サイクル

周期と呼ぶことを正当化す る、時系列変化と継続期間の規則性は、主に資本の限界効率が変動する過程から生じてい るのだ、と私は主張します。事業サイクルは資本の限界効率の周期的な変化によって引き 起こされると考えるのがいちばんいいのではないでしょうか。ただしそれが、経済システ ムの他の重要な短期変数に生じる関連した変化のために複雑化し、時に増幅されているの です。この理論を展開するには一章ではすまず、丸ごと本一冊が必要ですし、事実関係を もっと詳しく検討する必要があります。でも以下の手短なメモは、これまでの理論から示 唆される検討の方向性を示すには十分でしょう。

セクション I

サイクル

周期的な運動というのはつまり、システムがたとえば上向きに進むにつれて、それを引 き揚げている力が当初は威力を拡大し、相互に累積的な効果を持つけれど、だんだんその 力を失って、やがてどこかの時点で、反対方向に働く力に置き換えられます。そしてこん どはそちらが威力を集め、相互に強化しあいますが、これもまた最高潮に達してから弱ま り、また反対の動きに道をゆずる、ということです。でも

サイクル

周期的な運動というのは、単に 上がったり下がったりする傾向がいつまでも続かずにいずれ逆転する、というだけの話を 意味するのではありません。その時系列推移や、上下変動の期間に、ある程度それとわか るだけの規則性があるということも意味しています。

でも、事業サイクルについての説明が適切なものであるためには、カバーすべき特徴が もう一つあります。つまり、危機という現象です̶̶上昇から下降への転換が、しばしば 突然暴力的な形で生じるのに、下降傾向が上昇傾向に変わるときには、そんな急激な転回 点はないのが通例だ、ということです。

投資変動で、それに対応した消費性向の変化が起きない者は、すべて雇用の変動をもた らします。投資の量はきわめて複雑な影響を受けるので、投資自体の変化や資本の限界効 率の変動が、すべて周期的なものになることはほぼあり得ません。 ある特殊な一例、つま り農業の変動に関係したものは、本章のあとのセクションで別に検討します。でも十九世 紀の環境における典型的な産業事業サイクルの場合、資本の限界効率変動に周期性がある べき決定的な理由がいくつかあるのだ、と私は考えます。こうした理由は、それ自体とし ても事業サイクルの説明としても、決して目新しいものではありません。ここでの私の唯 一の狙いは、それをこれまでの理論と結びつけることなのです。

セクション II

私の言いたいことをいちばんうまく紹介するには、好況の後期に入って「危機」が到来 するところから始めるのがいいでしょう。

これまで資本の限界効率*1は、資本財の既存の豊富さや希少性や、また資本財の現在の 生産費用に依存するだけでなく、資本財の将来収益についての現在の期待にも左右される ということを見てきました。ですから耐久資産の場合には、新規投資が望ましいと思われ る規模を決めるに際して、将来についての期待が大きな役割を果たすのは自然だし、もっ ともなことだと思えます。でもこれまで見た通り、こうした期待の根拠はとてもあぶなっ かしいものです。変動する信頼できない証拠に基づいているため、そうした期待は突然の すさまじい変化を起こしかねません。

さて、私たちはこの「危機」を説明するのに、取引目的と投機目的の双方でお金の需要 が増大することから、金利が上昇傾向になることを強調するのに慣れてきました。ときに はもちろん、この要因が確かに加速要因となりますし、ときには危機の火付け役になるこ とさえあるかもしれません。でも私は危機の説明としてもっと典型的で、しばしば支配的 なものは主に金利上昇ではなく、資本の限界効率が突然崩壊することなのだ、と主張した いのです。

好況の後期段階は、資本財の将来収益に関する楽観的な期待が十分に強いため、それが ますます豊富になり、生産費用が上昇して、おそらくは金利も上昇しているのも相殺でき るほどです。組織化された投資市場の性質として、自分が何を買っているかほとんど何も 知らない購入者と、資本的資産の将来収益についての妥当な推計をするよりは、次の市場 感情の推移の予測に血道をあげる投機家たちに影響されているため、過剰に楽観的で買い のかさんだ市場に幻滅が到来すると、それは突然、カタストロフ的な勢いで下落します*2。 さらに、資本の限界効率崩壊に伴う失望と将来に対する不確実性は、自然に流動性選好の 急増をもたらします̶̶そしてそのため金利も上がります。ですから資本の限界効率崩壊 がしばしば金利上昇を伴うという事実は、投資減少を深刻に悪化させます。でもこの状況 の本質はそれでも、資本の限界効率崩壊にあるのであって、特にそれがそれまでのフェー ズにおける、大量の新規投資に最も貢献していた資本の場合にはそれが言えます。流動性

*1誤解の余地のない文脈ではしばしば「資本の限界効率のスケジュール」という意味を便宜的に、「資本の 限界効率」と書きます。

*2本書で前に(第12章)示したことですが、民間投資家は新規投資に自分が直接責任を持つことはほとん どないが、直接責任のある事業者たちは、自分ではもっとまともな理解をしてはいても、市場の空気に流 されるほうが財務的に有利でしかもそれがしばしば避けがたいことなのだと知ることになるのです。

選好は、それが事業や投機の増加と関連してあらわれるもの以外は、資本の限界効率崩壊 の後でないと増えません。

これこそまさに、不景気をかくも御しがたくしているものなのです。後になれば、金利 低下が回復に大きく貢献するし、おそらくはそれが回復の必要条件でもあるのでしょう。

でもとりあえずは、資本の限界効率崩壊があまりに徹底していて、現実的に可能な金利削 減をいくらやっても不十分かもしれません。もし金利削減だけで有効な療法となり得るの であれば、大して時間をかけずに回復もできるし、金融当局が多かれ少なかれ直接コント ロール可能な手法だけですむでしょう。でも実際には、普通はそうは行きません。 そし て資本の限界効率を回復させるのは、そうそう簡単ではありません。というのもそれを決 めているのは、実業界の制御不能で聞き分けのない心理だからです。普通の言い方をする と、個人主義的な資本主義経済において実にコントロールし難いものといえば、安心の復 活なのです。不況のこの側面は、銀行家や実業家が正しく強調していたことで、「純粋金 融的」対処法を信奉していた経済学者たちはこれを甘く見ていたのです。

ここで私の論点です。事業サイクルにおける時間要素の説明、つまり回復が始まるまで に通常はある程度の時間規模が必要だという事実の説明は、資本の限界効率回復を律する 各種の影響に求めるべきなのです。第一に、ある時期における通常の成長率と比較した耐 久資産の寿命、そして第二に余剰在庫の保有費用のおかげで、景気下降の期間は偶発的な ものにはならず、たとえば今回は一年で次回は十年などといった変動はみせず、習慣上の 規則性、まあ三年から五年といった期間が毎回観測されるのです。

危機で何が起こるかを思い出しましょう。好況が続いている限り、新規投資のほとんど が見せる当期収益は、そんなに不満なものではありませんでした。幻滅がやってくるの は、見込み収益の信頼性について突然疑念がわき起こるからです。それは新規に生産され た耐久財の在庫が増えるにつれ、当期収益がだんだんジリ貧になってきたからかもしれま せん。もし現在の生産費用が後日よりも高いと思われたら、これも資本の限界効率低下の さらなる理由となります。疑念はいったん始まると、急速に広がります。ですから不況の 発端では、たぶん限界効率がゼロかマイナスにすらなった資本がたくさんあるでしょう。

でも、利用や劣化、陳腐化を通じた資本の減少が、一見してわかるほど十分な希少性を作 りだして限界効率を上げるまでにかかる時間は、その時代での平均的な資本の寿命からく る、かなり安定した関数になっているかもしれません。もしその時代の特徴が変われば、

標準的な時間間隔も変わります。たとえば人口増の時代から人口減少の時代になれば、サ イクルを特徴付けるフェーズは長くなります。でもこれまでの話で、なぜ不況の期間がそ の時代における耐久資産の寿命や通常の成長率と明確な関係を持つのか、本質的な理由が 得られます。

第二の時間安定要因は、余剰在庫の保有費用によるものです。それはその在庫吸収を一 定期間内で終えるよう強制しますが、それはあまりに短期ではなく、あまりに長期でもあ りません。危機の後で突然新規投資が止まれば、仕掛品の余剰在庫が積み上がるでしょ う。こうした在庫の保有費用は、年率10パーセント以下になることはほとんどないはず です。ですからその価格低下はそれらが、せいぜい三年から五年で吸収されるような条件 をもたらすに足るものでなければならないことになります。さて在庫吸収プロセスはマイ ナス投資ですから、これはさらに雇用を抑えることになります。そしてそれが終われば、

目に見えて回復が感じられるでしょう。

さらに、運転資金削減も、下降期の産出低下には必然的につきものですが、これまたマ

ドキュメント内 ケインズ『雇用、利子、お金の一般理論』 (ページ 195-200)