雇用の一般理論再説
原文:http://bit.ly/quKKSi
セクション I
いまや議論のいろいろな意図をまとめられるところまでやってきました。まず、経済シ ステムのうちで私たちが通常は所与のものとするのがどの要素か、どれがシステムの独立 変数で、どれが従属変数かを明らかにしておくと便利でしょう。
労働の既存の技能と量、使える設備の質と量、既存の技術、競争の度合い、消費者の嗜 好や習慣、様々な強度の労働が持つマイナスの効用、監督活動と組織のマイナス効用、国 民所得の分配を決める中で以下に説明する変数以外の力を含む社会構造は、所与のものと 考えています。別にこれは、そうした要因が一定だと想定しているということではありま せん。単にこの場と文脈では、こうしたものの変化がもたらす影響や帰結は考えていな い、ということです。
独立変数は、まずは消費性向、資本の限界効率表、金利ですが、すでに見た通りこれら もさらに分析できます。
従属変数は雇用量と、賃金単位で測った国民所得(または国民配当)です。
所与のものとして扱う要因は、独立変数に影響しますが、それを完全に決めるわけでは ありません。たとえば資本の限界効率表は、一部は所与の要因である既存設備量に依存し ますが、一部は長期期待の状態にもより、これは所与の要因から導出はできません。でも 他の要素の一部は、所与の要因がほぼ完全に決めてしまうので、そこから導かれたもの自 体も所与と思ってしまってかまいません。たとえば、所与の要因を使うと、ある雇用水準 に対応するのが、どの水準の賃金単位で測った国民所得かは導けます。ですから所与とし ている経済の枠組みの中で、国民所得は雇用量で決まり、つまりは現在生産に投入されて いる努力の量で決まり、この両者には一意的な相関があることになります*1。さらに、総 供給関数の形も導出できます。これは製品ごとに、供給の物理条件を内包するものとなり ます̶̶物理条件とはつまり、賃金単位で測った有効需要に対応して、生産に投入される 雇用の量が決まる、ということです。最後に、労働(または努力)の供給関数も与えてく
*1この段階では、製品ごとの雇用関数が、関係する範囲の雇用部分でそれぞれ曲率がちがうことから生じる ややこしさは無視します。本書20章を参照。
れます。ですからとりわけ、どの点で労働全体としての雇用関数*2が弾性的でなくなるか がわかります。
でも資本の限界効率
スケジュール
表 は、一部は所与の要因で、一部は各種資本的資産の見込み収 益によります。一方、金利は一部は流動性選好の状態(つまり流動性関数)、一部は賃金 単位で測ったお金の量によります。ですから時には、最終的な独立変数は以下の三つとな ります:(1) 三つの根本的な心理要因、つまり心理的な消費性向、心理的な流動性に対す る態度、心理的な資本的資産からの将来収益期待、(2) 雇用者と被雇用者の交渉で決ま る賃金単位、(3)中央銀行の活動で決まるお金の量。ですから、上で述べた要因を所与と すれば、ここに挙げた変数が国民所得(または配当)と雇用量を決めます。でもこれらは やはり、もっと分析ができるもので、ですから言わば究極の原子的な独立要素ではないの です。
経済システムの決定要因を、所与の要因と独立変数という二つに分類するのは、もちろ んどんな絶対的立場から見ても、かなり恣意的です。この分類は完全に体験に基づいて行 うしかありません。所与の要因は、変化が遅かったり関連性が低かったりして、私たちの 求めるものに対して小さくて比較的無視できるような短期的影響しかなかったりするもの です。独立変数は現実の中で、求めるものに対して支配的な影響を行使しているもので す。目下の狙いはある時点で、何がその経済システムの国民所得を決め(ほぼ同じことで すが)雇用の量を決めるのかということです。これはつまり、経済学のような複雑な研究 では、変化が検討対象を主に決める要因について、完全に正確な一般化は期待できないと いうことです。最終的な仕事は、私たちが実際に暮らすシステムにおいて、中央当局が意 図的にコントロールしたり管理したりできるような変数を選ぶことではないでしょうか。
セクション II
ではこれまでの章の議論をまとめてみましょう。要因は、これまで見てきたのと反対の 順番で挙げていきましょう。
新規投資の率はそれぞれの資本的資産の供給価格を変え、それを見込み収益とあわせて 考えたときには、資本全般の限界効率を、だいたい金利と一致させるようなところまで投 資を増やそうという誘因が作用します。つまり、資本財産業の物理的な供給条件、見込み 収益についての自信状態、流動性に対する心理的態度とお金の量(できれば賃金単位で 測ったもの)が相互に作用して、新規投資の率を決めるのです。
でも投資の率が増加(または減少)すれば、それに伴って消費の増加(または減少)も 起きなくてはなりません。なぜなら一般に人々の行動は、所得と消費との差を拡大(また は縮小)したがるのは、所得が増加(または減少)する場合だけという性格を持つからで す。つまり消費の率の変化は、一般に言って所得変化の率と同じ方向(ただし額は小さ い)なのです。[所得増分と]、ある貯蓄増分とに必然的に伴う必要がある消費増増分との 関係は、限界消費性向で与えられます。この比率は、投資の増分とそれに対応した総所得 の増分(どちらも賃金単位で計測)との間のものですが、これは投資乗数で与えられます。
最後に、もし(一次近似として)雇用乗数が投資乗数に等しいとするなら、前に述べた 要因によってもたらされる投資率の増加(または現象)に乗数を適用して、雇用の増加を
*2本書20章で定義します。
導けます。
でも、雇用の増加(または減少)は、流動性選好
スケジュール
関 係 を上げる(下げる)ことになり ます。それがお金の需要を増やす道筋は三つあります。これは雇用増に伴い、賃金単位や 物価(賃金単位で測ったもの)が変わらなくても所得の価値が上がる場合ですが、それに 加えて、雇用が改善すれば賃金単位自体も雇用の改善とともに上昇しがちで、産出増は短 期的にはコスト増につながり、物価上昇(賃金単位で測ったもの)が伴います。
ですから均衡位置は、こうした反響によって影響されます。そして他の反響もあるで しょう。さらには、上の要因は一つ残らずあまり予告なしに突然変わりがちですし、その 変化はかなり大きかったりします。だからこそ実際の出来事の方向性は、すさまじく複雑 なのです。それでも、切り分けると便利で有益な要因は、いま挙げたもののようです。上 の仕組みにしたがって実際の問題を何でも検討してみれば、扱いやすくなることがわかる でしょう。そして実務的な直感(一般的な原理で扱うよりは、細かい事実の複合体を考慮 できます)としても、作業を進めるにあたって扱いにくくない材料が得られるでしょう。
セクション III
以上は『一般理論』のまとめです。もっとも経済システムの実際の現象は、消費性向や 資本の限界効率や金利の特別な特徴によっても色づけられています。それらについては、
体験からまちがいなく一般化できますが、でも論理的には必要ありません。
特に、私たちの暮らす経済システムの傑出した特徴として、産出や雇用は大幅な変動を 起こすものの、極度に不安定ではない、ということがあります。実際それは、回復も見せ ないが、完全な崩壊に明らかに向かうこともなく、通常以下の活動状態で慢性的に、ずい ぶん長い期間とどまり続けることができるようです。さらに証拠を見ると、完全雇用また はほぼ完全雇用に近い状態ですら、まれで長続きしない出来事のようです。変動は力強く 始まりますが、大きな極端に進む前に脱力してしまい、絶望的でもないが満足ともいえな い中間的な状態が普通だということになります。変動が極端にまで進む前に脱力し、やが て逆転してしまうという事実にもとづいて、規則的な
フェーズ
相 を持つというビジネスサイク ルの理論が形成されています。同じことが物価についても言えます。最初に何かの乱れを 引き起こすような原因に対しても、しばらくはそこそこ安定でいられる水準を見つけ出す ようです。
さてこうした経験上の事実は必ずしも論理的必然性から出てくるわけではないので、そ うした結果を生み出すのは、現代社会の環境と心理的性向なのだと想定しなければなりま せん。ですから、どんな心理的性向が安定したシステムにつながるかを仮想的に考えると 役にたちます。そして現代の人間の性質に関する一般的な知識をもとにした場合、そうし た性向がいま暮らす世界によって生じると考えられそうかを検討しましょう。
これまでの分析が示唆する安定条件で、観測事実を説明できるものは以下の通りです。
(i) 限界消費性向は、資本設備に投入する雇用が増える(または減る)とその社会の産 出が増える(または減る場合)ようになっているが、この二つを関係づける乗数は 一よりそんなに大きいというわけではない。
(ii) 資本の見込み収益や金利に変化があったら、資本の限界効率
スケジュール
関 係 は、新規投資の 変化が見込み収益や金利の変化とそんなに乖離しない程度のものとなる。つまり、