金利の一般理論
原文:http://bit.ly/poKG6N
セクション I
第11章で、投資を上下に動かして資本の限界効率が金利に等しくなるようにする力が いくつかあるものの、資本の限界効率自体は、その時の金利とは別物なんだ、ということ を示しました。資本の限界効率
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表 は、融資可能な資金が新規投資のために要求される 条件を律する、と言っていいかもしれません。一方、金利は資金が目下供給される条件を 律するものです。ですから私たちの理論を完成させるには、金利が何で決まるのかを知る 必要があります。
第14章とそのおまけで、この問題について過去に提出されてきた答を検討します。
ざっと言うと、過去の論者たちは、金利というのが資本の限界効率
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表 と、心理的な貯 蓄性向との相互作用に依存するのだと主張していることがわかります。でも、ある金利で 実施される新規投資という形の貯蓄需要と、社会の貯蓄性向によりその金利がもたらす、
貯蓄の供給とを等しくするのが金利なのだ、という発想は、この二つの要因を知っている だけでは金利を導出できないことがわかると、崩壊します。
では、この問題に対する私たち自身の答は何なのでしょうか?
セクション II
ある個人の心理的な時間選好は、完全に機能するには二つのちがった決定を必要としま す。第1のものは、消費性向と名付けた時間選好の側面です。これは第三巻で述べた各種 の動機に影響されて作用し、所得のうちどれだけを消費して、どれだけを将来の消費に 役立てるべく何らかの形で保存しておくのか、というのをそれぞれの個人について決め ます。
でもその決断を下したら、その人を待ち受ける決断がさらにあります。将来消費に役立 てるための保存分(これは当期の所得から保存する分もあるし、以前の貯蓄からのものも あります)を、どんな形で保有するか、という決断です。それをすぐ使える流動的な状態
(つまり現金かそれにあたるもの)で手元に持ちたいか? それともすぐ使えなくてもよ くて、定期不定期をとわずある程度の期間は手元から離してもいいだろうか? その場
合、将来消費用の個別財に対する支配を、すぐに使えるあらゆる財に対する支配に切り替 える条件は、将来の市場条件に任されることになります。言い換えるとこれは、その人の 流動性選好はどのくらいか、ということです。ある人の流動性選好というのは、お金や賃 金単位で計測したリソースのうち、条件ごとにどれだけの量をお金として手元に置きたい か、という
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関 係 で与えられるものとなります。
これまで受け入れられてきた金利理論は、この心理的な時間選好の構成要素のうち、最 初のものから金利を導こうとして、二番目のものを無視していたのがまちがいだったので す。それをこれから示します。そして私たちが改めなくてはならないのは、この無視なの です。
金利というのが、貯蓄に対する収益や、待つことに対する収益だけではあり得ないこと は、もう明らかなはずです。自分の貯蓄を現金として抱え込めば、金利はつきませんが、
貯蓄額は変わりません。これに対して、金利の定義自体を見れば、それが一定期間だけ流 動性を手放す報酬なのだ、とことばを尽くして書かれています。金利というのはそれ自 体では、お金の総計と、そのお金と債権*1を一定期間だけ*2交換することにより、コント ロールを手放すことで得られるものとの比率以外の何ものでもないのです。
ですからいつの時点でも、金利というのは流動性を手放す報酬なのであり、お金を持っ ている人が、それに対する流動的な支配力の放棄をどれほどいやがるか、という指標なの です。金利というのは、投資するリソースの需要と、現在の消費を控える意欲とを均衡さ せる「価格」ではありません。それは、現金の形で富を保有したいという願望と、実際に ある現金の量とを均衡させる「価格」なのです̶̶つまり金利が下がれば、すなわち現金 を手放す報酬が減れば、人々が持ちたいと思う現金の総量は、世の中の現金供給を上回 り、そして金利が上がれば、だれも保有したがらない現金の余りが出る、ということにな ります。この説明が正しければ、ある状況で実際の金利を決めるのは、流動性選好ととも に、お金の量だということになります。流動性選好は可能性または機能的な傾向で、金利 が与えられているときに、人々が保有するお金の量を決めます。ですから金利がrでお金 の量がM、流動性選好関数がLなら、M =L(r)となります。こんな具合に、ここで初 めてお金の量が経済の仕組みに入ってくるのです。
でもここでちょっと立ち戻り、なぜ流動性選好なんてものがあるのかを考えましょう。
これとの関連で、お金というのが現在の事業取引のために使われる場合と、富の蓄積装置 として使われる場合とがあるという、昔ながらの区別が便利に使えます。 この二つの用 途のうち最初のものはといえば、ある程度までは多少の利息は犠牲にしても、流動性の便 利さを手にする価値があるのは明らかでしょう。でも金利は決してマイナスにはならない のに、どうして一部の人は富を利息のつく形では持たず、ほとんどあるいはまったく利息 のつかない形で持ちたがるのでしょうか?(むろんこの段階では、銀行口座と債券とのデ
*1この定義を乱すことなく、「お金」と「債権」の一線は、個別問題を解くのにいちばん便利なところに勝手 にひけばいいのです。たとえば、お金というのは一般購買力に対する支配力のうち、その所有者が三ヶ月 以上は手放していないもの、という扱いは可能です。そして債権とは、それ以上たたないと回収できない ものとすればよいのです。あるいは今の「三ヶ月」を一ヶ月にしても、三日にしても、三時間にしても、
その他どんな期間でもかまいません。あるいはお金から、法定通貨でないものをすべて排除することもで きます。実際には、お金に銀行の定期預金を含めると便利ですし、ときには短期国債(Tビル)のような 証券を含めることさえできます。私は基本的に拙著『貨幣論』でやったように、お金というのは銀行預金 を含めるものとしています。
*2債権の期間が明示されている個別問題ではなく、一般の議論であれば、金利というのは各種期間について の様々な金利の複合物、つまり様々な満期期間の債権に対する利子だと考えるのが便利です。
フォルトリスクは同じだと仮定します。)完全な説明は複雑なので、第15章までお待ち ください。でもある必要条件がないと、富の保有手段としてお金を持ちたがる流動性選好 は、存在できないのです。
その必要条件とは、将来金利についての不確実性があることです。つまり将来の時点 で、いろいろな満期期間についての金利の束がどうなるかはっきりしない、ということで す。もし将来の全時点での金利が確実にわかっていれば、各種期間の債権すべてについ て、あらゆる将来の金利は現在の金利から導出できます。それはわかっている将来金利に あわせて調整されるからです。たとえば1drというのが、現時点である1年目に1ポン ドだった価値を、r年先送りにした価値だとしましょう。そしてndrは、n年に1ポンド だった価値が、r年先送りにされたときの価値だとします。すると以下の通り。
ndr= 1dn+r
1dn
したがって、n年後に何らかの債権を現金化できる率は、現在の各種金利のうち二つを 見ればわかることになります。もし現在の金利があらゆる満期期間の債権についてプラス の値なら、富の蓄積としては、常に現金を持つよりは債権を買った方が有利になります。
逆に、将来の金利がはっきりしないなら、その将来時点でndrが1dn+r/1dnと等しく なるとは確信できません。ですから流動的な現金の必要性が、n年の期末までに生じるこ とが考えられるなら、長期の債権を買って、その後それを現金化するのは、ずっと現金で 持っているのに比べて損失が発生するリスクがあります。いまわかっている確率に沿って 計算した、確率的な利潤や数学的な期待利益̶̶そんなものが計算できるかは怪しいもの ですが̶̶は、予想がはずれるリスクを補うに足りるものでなくてはなりません。
さらに、もし債権を取引する組織的市場があるなら、さらなる流動性選好の根拠として は、将来金利について不確実性があるために生じるものがあります。人によってその見通 しの推計はちがいます。ですから市場価格に表現された優勢な見解とはちがった意見を 持っている人は、自分が正しければ、いずれ1drが相互にまちがった関係にあることが判 明するので、そこから利益を得るために流動的なリソースを保つに十分な理由があるかも しれません*3。
これは資本の限界効率との関連で詳しく論じたものと、とてもよく似ています。資本の 限界効率は「最高の」意見で決まるのではなく、大衆心理による市場の値づけで決まるの だ、と示しましたが、それと同じように、大衆心理によって決まる将来金利についての期 待は、流動性選好に影響するのです̶̶でもそれに加えて、将来金利が市場の想定より高 くなると信じる個人は、実際の流動的な現金を保有する理由ができます*4。一方で、市場 想定金利について逆方向の見解を持っている人は、短期の資金を借りて、長期の債権を買 う動機ができます。市場価格は、「弱気派」の売却と、「強気派」の購入が釣り合うところ で決まります。
ここまでで区別してきた流動性選好の三つの分類は、以下に依存するものとして定義で
*3これは拙著『お金の理論』で、二つの見方と「強気-弱気」ポジションという表題の下に論じたのと同じ論 点です。
*4同様に、投資の期待収益が市場の期待よりも低くなると信じている個人は、流動的な元気を持つ理由が十 分にあると思われるかもしれません。でもそうはなりません。株式に比べて現金や債権を持つ理由は確か にあります。でも、現金を持つよりは債権を買うほうが有利な選択となります。ただしその人が、将来金 利水準が市場の想定より高くなるはずだと同時に信じている場合は別ですが。