した。でもこれが正当化されるのは、限界利用者費用がゼロか、あるいは供給価格の定義 が特殊で限界利用者費用を差し引く形になっている場合だけだ、というのは明らかでしょ う(第三章で私が「売上げ」や「供給総額」を総利用者費用を差し引く形で定義したのと 同じです)。でも時には総産出を扱うときに、利用者費用を控除するのは便利なこともあ りますが、これを単一の産業や企業の産出に、考えなしに(黙って)適用すると、分析 からはまったく現実味がなくなってしまいます。なぜならそれはあるモノの「供給価格」
を、あらゆる通常の意味での「価格」と無関係にしてしまうからです。そして、実際にそ れをやる慣行のため、多少の混乱が生じたかもしれません。どうも「供給価格」は個別企 業の販売可能な産出1ユニットに適用した場合には意味が明らかだと思われて、この問題 は特に議論の必要がないとされていたようなのです。でも限界産出の生産の結果として、
他の企業から購入されたものの扱いと、企業自身の設備損耗の扱いとは、所得の定義に関 わる山のような困惑をもたらします。というのも、その企業の供給価格と呼ぶものを計算 するとき、産出を追加で1ユニット販売するのに必要な、他の企業からの購入の限界費用 はそのユニットの売上げから控除すべきだと想定した場合でも、その限界産出の生産に関 わったその企業自身の設備の限界マイナス投資は考慮が必要だからです。あらゆる生産が 完全に統合された企業によって実施されているとしても、限界利用者費用がゼロだと想定 するのは不適切です。つまり、限界産出の生産による限界マイナス投資が一般に無視でき ると考えるのはまちがっているのです。
利用者費用と補填費用の概念はまた、長期供給費用と短期供給費用との関係をもっと はっきり確立させてくれます。長期費用はもちろん、予想原価をその設備の寿命全体に平 均化したものに加え、基本補填費用をカバーする額も含まなくてはなりません。つまり産 出の長期費用は原価と補填費用の期待総和に等しくなります。さらに、通常の利潤を得る ために、長期供給価格はこのように計算された長期費用を超えなくてはなりません。どの くらい超えるべきかといえば、同じような期間とリスクを持つ現在の融資金利で決まる値 を、その設備価格の割合として計算した金額になります。あるいは標準的な「純粋」金利 を使いたければ、長期費用には実際の収益が予想収益と乖離する未知の可能性をカバーす る、リスク費用とでも言うべきものを含めなければなりません。ですから長期供給価格 は、原価、補填費用、リスク費用、利払い費用の合計となり、それをいくつかの構成部分 に分けて分析することもできるでしょう。これに対して短期供給費用は、限界原価に等し くなります。ですから事業者は、設備を買ったり作ったりするときには、補填費用、リス ク費用、利払い費用を限界原価が平均原価を上回る余剰価値の中から捻出できると予想し なくてはなりません。そうすれば長期均衡では、限界原価が平均原価を上回る金額は、補 填、リスク、利払いの各費用合計と等しくなります*7。
限界原価がずばり平均原価と補填費用の和に等しくなる産出水準は特別な意義を持って
*7こういう形で書くのは、限界原価曲線があらゆる産出変動についてずっと連続だという都合のよい想定に 依存しています。実際には、この想定は非現実的なことが多く、いくつかの不連続点があるかもしれませ ん。特に設備の技術的な容量いっぱいに対応する産出に達した場合がそうです。この場合、限界分析は部 分的に崩壊します。そして価格は限界原価を超えるかもしれません。そのとき限界原価はちょっと産出が 減った場合のものが使われます(同様に、下方でも不連続性がしばしば見られるかも知れません。つまり 産出がある点以下になった場合です)。これは長期均衡における短期供給価格を考えているときには重要 です。というのもその場合には、技術的な容量いっぱいの点に対応して不連続点が出てきたら、それが実 際に機能すると想定しなくてはならないからです。ですから長期均衡における短期供給価格は、限界原価
(ちょっと産出が減った場合のものを使用)よりも大きくなる必要があるかもしれません。
います。というのもそれは、事業者の事業会計が収支とんとんになる点だからです。つま りそれは、純利益がゼロになる地点です。それ以下の産出だと商売は純損失となります。
原価以外にどこまで補填費用を用意しなければならないかは、設備の性質によって大きく 変わってきます。極端な例を二つあげましょう。
(i)設備の維持の一部は、必然的にそれを使うのと並行して実施しなくてはなりません
(たとえば機械に油を差すなど)。この経費(外部からの購入とは別)は要素費用に含まれ ています。もし物理的な理由から、現在の減価償却が必然的にこうした形でまかなわれて いたら利用者費用(外部からの購入は別)は補填費用と同額で符号が反対になります。そ して長期均衡だと、限界要素費用が平均要素費用を上回る金額は、リスク費用と利払い費 用に等しくなります。
(ii)設備の価値低下の一部は、その設備を使った場合にしか生じません。この費用は利 用者費用に計上されています(ただしそれが利用に伴ってまかなわれていない限りです が)。もし設備の価値低下がこのような形でしか起きないなら、補填費用はゼロです。
指摘しておきますと、事業者は別に利用者費用が低いからというだけで、最も旧式で劣 悪な装置をまっ先に使ったりはしません。利用者費用が低くても、その相対的な非効率 性、つまりその高い要素費用を補えるほどではないかもしれないからです。ですから事業 者は、産出1ユニットの生産について、利用者費用と要素費用の和が最も低い設備から順 番に好んで使っていきます*8。すると、検討している産物のどんな産出量に対しても、そ れに対応する利用者費用がありますが*9 、その総利用者費用は限界利用者費用(つまり 産出の速度増加による利用者費用の増分)とは均一の関係は持たない、ということになり ます。
セクション II
利用者費用は、現在と未来をつなぐ結びつきの一つを形成します。というのも、生産規 模を決めるにあたり、事業者は設備を今使い果たすか、それを将来の利用のために保存す るかという選択を行使しなくてはならないからです。現在の利用にこめられた、将来便益 の期待犠牲こそが利用者費用の額を決め、そしてこの犠牲の限界量が、限界要素費用と限 界収益の期待とともに、事業者の生産規模を決めるのです。では生産行為の利用者費用 を、事業者はどうやって計算するのでしょうか?
利用者費用は、設備を使わないときと比べて、使った場合の設備の価値低下だと定義し ました。これは有益だと思われる維持改善費用と、他の事業者からの購入分を含みます。
するとそれを求めるには、それが現在使われなかった場合に、いずれ後の時期に得られる はずの追加的な見込み収益の割引価値を計算すればいいはずです。さてこれは、少なくと も設備を遊ばせておくことで、更新を先送りにできる機会の現在価値と少なくとも等しく なくてはなりません。そしてそれ以上になるかもしれません*10。
*8利用者費用は部分的には将来の賃金水準期待に左右されるので、賃金単位の削減が起きてもそれが短期的 でしかないと思われたら、要素費用と利用者費用とは変動割合がちがってくるので、どの設備が使われる かに影響します。またそれが有効需要の水準にも影響することが考えられます。というのも要素費用は利 用者費用とは別の形で、有効需要の決定に効いてくるかもしれないからです。
*9最初に使われる設備の利用者費用は、必ずしも産出の総量と独立(下を参照)ではありません。つまり利 用者費用は産出の総規模が変わると至るところで影響を受けるかもしれません。
*10それ以上になる場合というのは、後日になれば通常以上の収益が得られると期待されるが、その期間はあ