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流動性を求める心理と事業上のイン センティブ

原文:http://bit.ly/pAZOuv  

セクション I

こんどは、13章で先走って紹介した流動性選好の動機について、もっと詳しい分析を展 開しなければなりません。中身は本質的には、時に「お金の需要」なる見出しで論じられ てきたものと同じです。それはまた、お金の所得速度と呼ばれるものと密接に結びついて います。お金の所得速度は人々が所得のうち、どの程度の割合を現金で持とうとするかを 測っただけのものです。だからお金の所得速度増加は、流動性選好の症状かもしれないの です。でも、同じものではありません。なぜかというと、人が流動性と非流動性との間で 選択を行使できるのは、所得に対してではなく、むしろ蓄積した貯蓄のストックに対して だからです。それにどのみち、「お金の所得速度」という用語は全体としてのお金の需要が 所得に比例するか、あるいは何か決定的な関係があるかのような、誤解を招く先入観がつ きまといます。でも実はこれから見るように、この先入観が成り立つのは、人々の現金保 有のごく一部だけなのです。結果として、金利の果たす役割が見すごされてしまいます。

拙著『貨幣論』で、私はお金の総需要を、所得保管、事業保管、貯蓄保管の三つの見出 しで検討しましたし、同書の第三章で述べた分析をここで繰り返すまでもありません。こ の三つの目的のために保有されるお金は、それでも一つのプールを形成し、保有者として はそれをきっちりした三つの区分に分ける必然性はまったくありません。これらは当人の 心の中ですら、きれいに分かれていなくてもいいからです。同じお金を、主にはこっちの 目的用だけれど、二次的にはあっちの目的用に保有することだってできます。だから、あ る状況でのお金に対する個人の総需要は、いろんなちがった動機の複合物ではあっても、

単一の決断として見なせます̶̶そう考えても遜色ないどころか、そのほうがいいかもし れません。

でも動機を考えるなら、それを何らかの見出しの下で区別するのがやっぱり便利です。

最初のものは、所得保管と事業保管に対応し、それに続く二つは、貯蓄保管にだいたい 対応しています。これらは13章で、取引動機としてちょっと持ち出しましたが、これは もっと細かく分けて、所得動機と事業動機、用心動機と投機動機、と区分けできます。

(i)所得動機。 ̶ 現金を持つ理由の一つは、所得を受け取ってからそれを使うまでの期 間のつなぎです。ある現金総量を持つ決断をうながすにあたり、この動機の強さは 所得の量と、それをもらってから使うまでの通常の期間に左右されます。お金の所 得速度の概念が厳密に適用できるのは、この概念との関連です。

(ii)事業動機。 ̶ 同様に、現金は事業用の費用を支払ってから売り上げが手元に入るま での時間をつなぐためにも保有されます。また問屋が買い入れてから卸すまでのつ なぎ現金も、この中に入ります。この需要の強さは、主に当期の産出額(つまりは 当期の所得)に左右され、さらにその産出が何人の手を経るかにもかかってきます。

(iii)用心動機。 ̶ 他に現金を持つ動機としては、突発的な支出を必要とする非常時や、

お得な買い物の機会が不意に生じた時の備え、さらには金額の決まっているその後 の支払い義務への対応などがあります。

この三通りの動機すべての強さは、必要なときに現金を手に入れる手法の安さと信頼性 にある程度は依存します。そうした手法は何らかの一時的な借り入れ、特に

オーバードラフト

当座借越やそ の相当物があたります。本当に必要なときに、簡単に現金が手に入るなら、つなぎで手元 に現金を遊ばせておく必要はないからです。現金を手に入れるには、儲かる資産の購入を 見送らなくてはならない場合、これはその金額の現金を保有する費用を高め、現金保有動 機を弱めます。当座預金で利子が稼げたり、現金があれば銀行手数料がかからないですむ なら、これは費用を下げて動機を強めます。でも、現金保有の費用が大幅に変わる場合で なければ、これはたぶん要因としては些末なものでしょう。

(iv)残るは投機動機です。 ̶ これは他のものより詳しく検討する必要があります。あ まりよく理解されていないこともあるし、またお金の量の変化の影響を伝えるにあ たり、ことさら重要だからでもあります。

通常の状況だと、取引動機と用心動機を満たすお金の量は、経済システムの一般活動 と、名目所得水準の結果として主に決まります。でも金融管理(または管理がなければ、

お金の量の偶然による変化)が経済システムに作用するのは、投機動機への働きかけによ るのです。前者の二つの動機を満足させるための現金需要は、一般には全般的な経済活動 と所得水準が実際に変わらない限り、外部からの影響にはあまり反応しません。でも経験 的に見て、投機動機を満足させるためのお金の総需要は、通常は金利のゆっくりした変化 に対しては、連続的な反応を示します。つまり投機動機を満たすお金の需要変化と、金利 価格の変化との関係は、連続曲線になるということです。この場合の金利は、各種満期期 間の債券や債権の価格で示されます。

だって、もしそうでなければ「公開市場操作」などというものは実施不可能です。前に 述べましたが、経験によれば上で述べたような連続的な関係があるはずだと思われます。

なぜなら、通常の状況だと銀行システムはいつだって、市場で債券価格をほどほどに競 り上げたり(下げたり)することで、債券を現金と交換で売ったり(買ったり)できるの です。そして債券や債権を買う(売る)ことで、創りたい(吸い取りたい)現金量が多け れば多いほど、金利の下落(または上昇)も大きくなければなりません。でも(たとえば

1933-34年のアメリカのように)公開市場操作がきわめて短期の証券しか買わないよう制

限されていれば、その影響はもちろん、とても短期の金利だけに限られ、ずっと重要な長 期金利にはほとんど影響がないも同然、ということになります。

投機動機を扱う場合、投機動機を満たすのに使えるお金の供給変化(流動性関数の変化 なし)によって生じた金利変化と、主に流動性関数自体に影響する期待変化によるものと は、区別するのが大事です。公開市場操作は、実は両方の経路から金利に影響するかもし れません。それはお金の量を変えるだけでなく、中央銀行や政府の将来政策について、期 待を変えてしまうかもしれないのです。期待の改訂を引き起こすニュースに伴う、流動性 関数自体の変化は、しばしば不連続なもので、したがって金利変化もそれに応じた不連続 なものとなります。ニュースの変化が、人によってちがった解釈をされたり、個人の利害 にちがった形で影響する場合にのみ、債券市場での取引活動増大の余地が生まれます。も しニュース変化が、あらゆる人の判断と要求をまったく同じように変えたら、金利(これ は債券や債権の価格で示されます)はすぐに新しい状態に調整され、市場取引はまったく 必要ありません。

ですから、いちばん単純な場合で、全員が同じで同じ立場にある場合、期待の状況が変 わったところで、お金のやりとりは一切発生しません――単に金利が変わるだけです。そ れは当初の金利で各個人が感じていた、新しい状況や期待に対して現金保有高を変えたい という欲望を、相殺するに必要なだけの変化となります。そして現金保有高を変えたいと 思う金利の水準について、みんなが同じだけ考えを変えますので、取引はまったく起きま せん。それぞれの状況と期待に対し、対応した適切な金利があり、だれかがいつもの現金 手持ち残高を変えるとかいった話は決して起きないのです。

でも一般には、状況や期待の変化は、個人の手持ち現金をある程度は変えます――とい うのも実は、一部は環境の差、一部はお金を持ちたい理由の差、一部は知識と新しい状況 の解釈の差のために、変化はそれぞれの個人の考え方に、ちがった形で影響するのです。

ですから、新しい均衡金利は現金保有の入れ替えをもたらします。それでも、主に注目す べきなのはその現金の入れ替えではなく、金利の変化です。後者は個人差によるところが 大きく、本質的な現象は最も単純なケースで起こることなのですから。さらに一般論とし ても、金利変化は、ニュース変化への反応としていちばん顕著な部分です。債券価格の変 化は、新聞の決まり文句ではありますが「取引活動にくらべて極端なもの」です――これ は人々が、ニュースへの反応で細かいちがいはあっても、おおむね似た反応を示すことを 考えれば、当然のことです。

セクション II

取引動機と用心動機を満たすために個人が持ちたがる現金量は、投機動機を満たすため に持つ現金と完全に独立したものではありません。でも、一次近似としてはこの二種類の 現金保有が、おおむね相互に独立だと考えても安全でしょう。ですから分析を進めるた め、問題をこんな形で分解しましょう。

取引動機と用心動機を満たすための保有現金量をM1、投機動機を満たすための保有量 をM2とします。この二つの現金区分に対応して、L1L2という二つの流動性関数が出 てきます。L1はもっぱら所得水準に依存し、L2は主に現在の金利と期待の状態に依存し ます。

M =M1+M2=L1(Y) +L2(r)

ドキュメント内 ケインズ『雇用、利子、お金の一般理論』 (ページ 125-133)