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どんな期間をとっても、ある事業者は完成した産出を消費者や他の事業者に販売し、一 定の金額を受け取ります。この金額をAと書きましょう。さらに、他の事業者から完成 品を買うために、ある金額A1を使っています。そしてまた手元に資本設備が残ってい ます。この用語は、仕掛品や運転資金や完成品在庫も含むものです。この価値をGとし ます。

でもA+G−A1の一部は、検討しているその期の活動からきたものではなく、期首に その事業者が持っていた資本設備によるものです。したがって当期の所得と言うときに意 味するものを得るには、A+G−A1から一定の金額を差し引く必要があります。その額 は、前期から引き継いだ設備が(言わば)貢献した価値を示す分です。この差し引き分を 満足のいく形で計算できる手法が見つかれば、所得の定義問題はすぐに片付きます。

これを計算する原理としては二つの可能性があり、どちらもそれなりの意義を持ってい ます̶̶一つは生産から見るやり方、もう一つは消費との関連で見るやり方です。これを 個別に見ていきましょう。

(i)期末の資本設備の価値Gは、その事業者が一方では当期中にそれを維持改善した結 果であり(これは他の事業者から何か購入して行ったり、あるいは自分で何か作業をした 結果だったりします)、一方ではそれが産出を生産するために使うことで、摩耗したり償 却したりした結果でもあります。でもそれを産出の生産に使わないことにした場合でも、

その維持管理や改善のために支払うべき、ある最適な額があります。仮にここで、そうし た維持管理や改善にB が支払われたはずだとして、もしその支出が行われていれば、そ の設備の期末価値はGになっていたとしましょう。つまりその設備がAの生産に使われ なければ、前期から保存された最大の純価値はG−Bだということです。 この設備の 潜在価値がG−A1を上回る分は、Aの生産により(何らかの形で)犠牲になった分の指 標です。この量、つまり:

(G−B)(G−A1)

すなわち、Aの生産のために犠牲となった価値を、Aの利用者費用と呼びましょう。利

用者費用はU であらわします*1。この事業者が、他の生産要素に対してそのサービスの 対価として支払う金額は、その生産要素側から見れば自分たちの所得になりますが、こ れをAの要素費用と呼びましょう。要素費用F と利用者費用U の合計を、産出Aの原 価と呼ぶことにします。

すると事業者の所得*2は、当期に売却された完成品の価値のうち、原価を上回る部分と して定義できます。つまり事業者の所得は、生産規模に応じてその事業者が最大化しよう とするものの量、つまりごく一般的な意味での総利潤に等しいというわけです̶̶これま た常識になじみます。ですから、社会の他の部分の所得は事業者の要素費用に等しいの で、社会全体の総所得はA−U となります。

このように定義された所得は、完全にあいまいさのない量です。さらに事業者が、他の 生産要素に対してどの程度の雇用を提供するか決めるときに最大化しようとするのは、こ の所得が他の生産要素に対する支出をどれだけ上回るかという期待額です。ですから、雇 用の因果関係にとって重要となるのは、この量なのです。

もちろん、G−A1G−Bを上回ることは考えられ、利用者費用がマイナスになる こともあり得ます。たとえば期間の選び方次第では、その期の投入は増えていたけれど、

それによる産出の増分はまだ仕上げが間に合わずに販売できないかもしれません。また投 資がプラスなら、産業があまりに統合されすぎて、事業者たちはほとんどの設備を自前で 作るようになるかもしれません。でも利用者費用がマイナスになるのは、事業者が資本設 備を自分の労働によって増やしている場合だけです。だから資本設備のほとんどが、その 使用者とは別の企業によって製造されている経済においては、利用者費用は普通はプラス だと考えてよいのです。さらに、Aの増加に伴う限界利用者費用、つまり dUdA がプラスに ならない状況はなかなか考えられません。

ここで、本章の後の部分を先取りして、社会全体としては当期の総消費(C)は∑ (A A1)に等しく、総投資(I)が∑

(A1−U)に等しいことを述べておくと便利でしょう。さ らにU は、個々の事業者が自分の設備に対して行うマイナス投資(そして−U は投資)

で、他の事業者から買う分を除いたものです。ですから完全に統合された経済系(A1= 0 の場合)では、消費はAに等しく、投資は−U に等しく、つまりG−(G−B)に等し くなります。いまのがちょっとややこしいのはA1を導入したからで、これは統合化され ていない生産系の場合用に、一般化した記述をするのが望ましいからです。

さらに有効需要というのは単に、事業者たちが、現在提供しようと決めた雇用量に基づ いて受け取ると期待している総所得(または売り上げ)のことです。これは他の生産要素 に支払う所得も含みます。総需要関数は、各種の仮想的な雇用量を、それによる産出が生 み出すはずの収益と関連づけるものです。そして有効需要とは総需要関数上の点で、それ が有効になるのは、供給条件とあわせて考えたとき、そこが事業者の期待利潤を最大化す る雇用水準に対応する点だからなのです。

この定義群は、限界売上(または限界所得)を限界要素費用と同一視できるというメ リットもあります。したがって、利用者費用を無視したりゼロと仮定したりすることで、

*1本章のおまけで、利用者費用についてはさらに考察を行います。

*2これは以下で定義する、事業者の純所得とは別物です。

供給価格*3と限界要素費用*4とを等しいとしてきた一部の経済学者の主張と同じような主 張に到達し、こうして定義した限界売上げを限界要素費用と同一視できるわけです。

(ii)次に、上で言及した第2の原理に目を向けましょう。ここまでは、期首と比べた期 末の資本設備の価値変化のうちで、利潤最大化を狙う事業者の自主的な決断に関わる部分 を扱ってきました。それに加えて、自分にはどうしようもなく、現在の決断とは関係ない 理由で生じる、非自発的な損失(あるいは利得)があるかもしれません。それは例えば市 場価値の変化、陳腐化や単なる時間経過に伴う価値低下、あるいは戦争や地震などの災害 による破壊などがあるでしょう。さてこうした非自発的な損失は、避けがたいものですが

̶̶全般的には̶̶予想外ではありません。使用の有無にかかわらず時間経過で生じる損 失や、「通常」の陳腐化、ピグー教授に言わせると「十分に定常的に発生して、細部はさ ておき、少なくとも大まかには予見できる」もの、あるいは追加して言うなら「保険可能 なリスク」と一般に思われるものも含みます。期待損失の量はその期待がいつ形成される と想定するかにもよる、という事実は、とりあえずは無視しましょう。そして設備の減価 償却(これは非自発的ですが予想外ではありません)、つまり予想される減価償却のうち 利用者費用を超える分を、補填費用と呼び、V と書きましょう。この定義がマーシャルの 補填費用の定義とはちがうことは、言うまでもないでしょう。でもその根底にある発想、

つまり予想される減価償却のうち原価に入らないものを別立てにしようという考え方は似 ています。

ですから事業者にとっての純所得と純利潤を考えるにあたっては、上で定義した所得や 粗利から推定補填費用を差し引くのが通例です。というのも、自分が使うか貯蓄するか自 由に決められるのはいくらかを考えているとき、補填費用が事業者に与える心理的な影響 は、それが粗利からやってきた場合と実質的に同じだからです。設備を使うかどうか決め る生産者としての立場だと、上で定義した原価と粗利が重要な概念となります。でも同じ 人が消費者の立場だと、補填費用がいくらあるかは、それが原価の一部であるかのように 作用するのです。ですから、もし総純所得を定義するとき、利用者費用に加えて補填費用 も差し引いて、総純所得がA−U−V となるようにすれば、一般の用法にきわめて近い ところに来ただけでなく、消費額に関係した概念にも到達したわけです。

残るのは、市場価格の予想外の変動、異常な陳腐化や、災害による破壊などです。これ はどれも非自発的だし̶̶広い意味では̶̶予見できません。この費目下の実際の損失 は、純所得でも含めずに資本勘定に計上しますが、突発損失とでも呼びましょう。

純所得の因果関係における重要性は、V の規模が当期消費量に与える心理的影響にあり

*3供給価格というのは、私が思うに、利用者費用の定義問題を無視するなら、不完全にしか定義されていな い用語になると思います。この問題は本章のおまけでさらに議論されており、そこでは利用者費用を供給 費用から除外するのは、ときに供給総額の場合には適切ですが、個別企業の産出一単位の供給価格の問題 においては不適切だ、と論じます。

*4たとえば総供給関数としてZw = ϕ(N)、あるいはZ = W ϕ(N) を考えます(W は賃金単位で W Zw=Z)。すると限界生産の売上げは、総供給曲線上のあらゆる点で、限界要素費用と等しくなる ので、

∆N= ∆Aw∆Uw= ∆Zw= ∆ϕ(N)

となります。これはつまり、ϕ(N) = 1ということです。ただし、要素費用が賃金単位に対して一定の 比率で、各企業(企業の数は一定とする)の総供給関数は他の産業で雇用されている人数とは独立だと仮 定します。これで上の方程式の各項は、個別事業者についても成り立ち、また全事業者について総和もで きます。これはつまり、もし賃金が一定で他の要素費用が賃金総額に対して一定比率なら、総供給関数は 線形となって、その傾きは名目賃金の逆数で与えられます。

ドキュメント内 ケインズ『雇用、利子、お金の一般理論』 (ページ 41-45)