• 検索結果がありません。

第 2 パラグラフ

ドキュメント内 GPLv3 逐条解説 (ページ 128-132)

第 2 章 逐条解説

14. 第 11 条(特許)

14.2. 条文内容

14.2.2. 第 2 パラグラフ

コントリビュータは、「必須特許クレーム」(essential patent claim)に関する特許権を下 流の受領者に対してライセンスすることになる。 

必須特許クレームとは、コントリビュータ・バージョンについてGPLv3で許諾されてい る行為を行った場合に侵害することとなる特許クレームのすべてをいう。日本の特許法に ついていえば、コントリビュータ・バージョンの構成が特許発明の技術的範囲(特許法 70 条)に属することになる請求項をいう。また、文言侵害だけでなく、均等論の下での侵害 や、間接侵害、寄与侵害等によって侵害が成立する特許クレームも、必須特許クレームと なると解される。 

必須特許クレームには、コントリビュータが現在保有している特許だけでなく、将来取 得することになる特許も含まれる。 

また、コントリビュータが特許の再許諾を与える権利を有している特許クレームも、必

79ディスカッションドラフト最終版解説28頁脚注22参照 

Mozilla Public Licenseの「コントリビュータ・バージョン」の定義は以下のとおりで ある。 

1.2.  ʺContributor Versionʺ means the combination of the Original Code, prior M odifications used by a Contributor, and the Modifications made by that particula r Contributor. 

‐ 117 ‐ 

須特許クレームに含まれる。すなわち、コントリビュータ自身は特許権者ではないが、特 許権者からサブライセンス権付きでライセンスを受けている特許クレームも、必須特許ク レームに該当しうる。 

しかし、コントリビュータ・バージョンが下流の受領者により改変された結果、改変後 のプログラムの構成が特許を侵害することになった場合は、必須特許クレームには該当し ない。 

つまり、配布者(コントリビュータ)がライセンス義務を負うのは、自己が改変し配布 した時点のプログラム(すなわちコントリビュータ・バージョン)によって侵害されてい る特許に限られる。そのプログラムを受領した他者がさらに改変した結果、抵触すること になった特許は、ライセンスの対象に含まれない。 

 

以下、下図を用いてより詳細に説明する。 

 

A

上流の配布者X が配付 したプログラムα1

特許権者Yが改変・配付 したプログラムα2

①特許クレームⅠの構成要件がA+B の場合

②特許クレームⅡの構成要件がA+B+C の場合

③特許クレームⅢの構成要件がAの場合

下流の受領者Zが改変 したプログラムα3 構成要件Aに

相当する構成

構成要件Aに 相当する構成 構成要件Bに 相当する構成

構成要件Aに 相当する構成 構成要件Bに 相当する構成 構成要件Cに 相当する構成

   

図の①の場合すなわち特許クレームⅠの構成要件がA及びBからなる場合、特許権者Yは、

プログラムα1 に構成要件Bに相当する構成を追加(改変)してプログラムα2 を作成して いるので、プログラムα2に関する著作権を有している。したがって、特許権者Yは「コン トリビュータ」に当たり、プログラムα2は「コントリビュータ・バージョン」に当たる80。 

そして、特許クレームⅠは構成要件AとBからなるので、特許権者Yの配付したプログ ラムα2は特許クレームⅠの構成要件を充足しており、特許クレームⅠに抵触する(特許発 明の技術的範囲に属する)。よって、特許クレームⅠは「必須特許クレーム」に当たる。 

80プログラムα2を下流のZが改変して作成したプログラムα3も、構成要件Bに相当す る構成の改変部分について特許権者Yが著作権を有しているので、「コントリビュータ・

バージョン」に当たると解される。 

‐ 118 ‐ 

したがって、本条第 3 パラグラフにより、特許権者YはZに対し、プログラムα2 及びそ れを改変したプログラムα3の使用について、特許クレームⅠをライセンスすることになる

81。   

次に、②の場合すなわち特許クレームⅡの構成要件が A、B及びC からなる場合、特許 権者Yが「コントリビュータ」に当たり、プログラムα2及びプログラムα3が「コントリ ビュータ・バージョン」に当たることは、①と同様である。 

しかし、特許権者Yの配付したプログラムα2は構成要件Cに相当する構成を欠いてい るため、基本的には特許クレームⅡに抵触しない。したがって、特許クレームⅡは「必須 特許クレーム」には当たらない。ただし、均等侵害や間接侵害等の法理にしたがえば構成 要件C を欠いても侵害が成り立つ場合があるため注意を要するが、ここでは議論の簡素化 のために文言侵害のみを考えるものとする。 

一方、下流のZが改変して構成要件C に相当する構成を付加したプログラムα3は、特 許クレームⅡの構成要件のすべてを備えるので、特許クレームⅡに抵触する。 

特許クレームⅡが「必須特許クレーム」に当たらないため、必須特許クレームのライセ ンス義務を定める本条第3パラグラフは適用されないから、特許権者Yは、プログラムα3 を使用するZ(及びZの下流の受領者)に対して特許クレームⅡを行使できることになる。 

 

次に、③の場合すなわち特許クレームⅢの構成要件が A のみからなる場合、プログラム α1との関係では、特許権者Yは「コントリビュータ」ではなく、プログラムα1は「コン トリビュータ・バージョン」ではない。プログラムα1には特許権者Yが創作した部分は含 まれておらず、特許権者Yは著作権を有していないからである。 

上流の配布者Xが配付したプログラムα1は、特許クレームⅢの構成要件Aを充足して いるので、特許クレームⅢに抵触する。しかし、プログラムα1は特許権者Yの「コントリ ビュータ・バージョン」ではないため、特許クレームⅢは「必須特許クレーム」ではない。 

したがって、本条第3パラグラフは適用されず、特許権者Yは、プログラムα1を使用す るX(及びXからプログラムα1を受領して使用する者)に対して特許クレームⅢを行使で きることになる。 

これに対し、プログラムα2及びプログラムα3については、特許権者Yは改変部分(構 成要件Bに相当する構成の追加)について著作権を有しているので、特許権者Yは「コン

81GPLv3には上流の配布者に対する特許ライセンスについての定めはない。したがって、

特許ライセンスの相手方(ライセンシ)は下流の受領者に限られている。もっとも、上記 のケースでは、プログラムα1は特許クレームⅠの構成要件を充足していない(技術的範 囲に属していない)ので、特許ライセンスの有無にかかわらず、特許権者YはXに対し て特許クレームⅠを行使することはできない。 

‐ 119 ‐ 

トリビュータ」に当たり、プログラムα2及びプログラムα3は「コントリビュータ・バー ジョン」に当たる。 

プログラムα2及びプログラムα3は特許クレームⅢの構成要件Aを充足しているので、

特許クレームⅢに抵触する。よって、プログラムα2及びプログラムα3との関係では、特 許クレームⅢは「必須特許クレーム」に当たる。 

したがって、本条第3パラグラフにより、特許権者YはZに対し、プログラムα2及び それを改変したプログラムα3の使用について、特許クレームⅢをライセンスすることにな る。 

 

ここで留意すべきは、特許ライセンス義務が生じるのは、特許権者 Y が改変したことに よって特許クレームに抵触することになった場合に限られないということである。特許権 者 Y が受領した時点で既にプログラムが特許クレームに抵触する構成を備えており、特許 権者 Y が改変したのは特許クレームとは無関係の部分だったとしても、その特許クレーム は「必須特許クレーム」に当たり、本条第 3 パラグラフに基づいて特許ライセンス義務を 負うことになる。 

標準化団体のIP Policyでは、特許権者が改変したことによって始めて特許クレームに抵 触することになったもののみを「必須特許クレーム」と定義し、ライセンス義務を定めて いる場合が一般的である。また、他のOSSライセンスにも、このIP Policyと同様のものが 複数ある。このような場合は、特許権者自身が特許侵害の原因を作り込んでいるといえる ので、ライセンス義務を負わせても特許権者にとって酷とはいえないであろう。しかし、

GPLv3の場合は、上流から受け取ったGPLv3プログラムが大規模なもので、どのような機

能が実装されているか調査が困難な場合であったとしても、それが特許に抵触していた以 上、自身がそれに何らかの改変を加えて再配布した場合は、下流の受領者に対して特許権 を行使できなくなる。 

この点で、GPLv3の特許ライセンスに関する定めは特殊であることに注意が必要である。 

 

また、上記で特許権を行使できる場合でも、次のことに注意が必要である。 

すなわち、特許権を行使すると、第10条第3パラグラフの特許非係争義務(NAP)に違 反したことになり、第8 条(ライセンスの終了)により、上流の配布者Xから特許権者Y

に対するGPLv3のライセンスが終了することになる。したがって、特許権者Yは、プログ

ラムα1及びそれを改変したプログラムα2を使用することができなくなる(特許権者Yが Zまたはその下流の者からプログラムα3を受領していた場合は、プログラムα3も使用で きないことになる)。 

言い換えれば、特許権者Yは、GPLv3を遵守する限り、特許クレームが「必須特許クレー ム」に該当するか否かに関わらず、特許権を行使することができないということである。 

ドキュメント内 GPLv3 逐条解説 (ページ 128-132)