第 2 章 逐条解説
13. 第 10 条(下流の受領者に対する自動的な許諾)
13.2. 条文内容
13.2.1. 第1パラグラフ
GPLv3 プログラムの受領者は、オリジナルのライセンサからプログラムを実行、改変、
及びプロパゲートすることについての許諾を自動的に受けること、すなわち受領するとい う行為に伴って著作権ライセンスを取得することを定めている。
受領者(あなた)とオリジナルの著作権者との間に他者(受領者したGPLv3プログラム を再配布した者)が介在している場合においては、受領者がGPLv3プログラムの著作権を 誰からライセンスを受けるのかに関して二通りの考え方がある。第1は、受領者(下図のY) がオリジナルの著作権者(X)から直接にライセンスを受けるという考え方である(下図「ラ イセンスの関係①」)。第2は、オリジナルの著作権者(X)がサブライセンス付きでプログ ラムを配付し、受領者(Y)は直前の受領者であるAからサブライセンスを受けるという考
‐ 106 ‐ え方である(下図「ライセンスの関係②」)。
X
(オリジナルの著作権者)
A
(Yにコンベイした直接 の相手方)
Y
(受領者)
対象著作物の流れ
X
(オリジナルの著作権者)
Y
(受領者)
ライセンスの関係①
X
(オリジナルの著作権者)
Y
(受領者)
ライセンスの関係②
A
(Yにコンベイした直接 の相手方)
ライセンス
ライセンス
サブライセンス
GPLv2第6条は、GPLプログラムの受領者は、元々のライセンサから複製・配付・改変
に関する許諾を自動的に得ると規定していたが、上記の①②のいずれの立場をとっている かは明確ではなかった。
GPLv3ではこの点を明確にすべく、ライセンスの関係①、すなわち受領者Yがオリジナ
ルの著作権者Xから直接にライセンスを受けるという法的構成によることを明記した。
したがって、GPLv3 ではサブライセンス(再許諾)という考え方は不要である。GPLv3 第2条第3パラグラフが「再許諾は、本第10条により不要であることから、認められてい ない」と定めているのは、このためである。
13.2.2. 第2パラグラフ
本パラグラフは、企業間において事業譲渡、会社分割、または合併(transferring control of an organization, or substantially all assets of one, or subdividing an organization, or merging organizations)が行われた場合の取扱いを定めている。
例えば、企業A内の事業部門aがGPLv3プログラムαの複製物を受領し保有していたと する。企業Aがその事業部門aを企業Bに譲渡(M&Aの一種)した場合、事業部門aご
とGPLv3プログラムαも企業Aから企業Bに譲渡されることになる。この場合、わが国の
会社法によれば、事業部門aを買収した企業BがGPLv3プログラムαを使用(複製等)す るためには、企業Aとは別個独立に企業Bもオリジナルの著作権者から許諾を得る必要が ある。すなわち、企業 Bが事業部門aの買収(事業譲渡)に伴ってプログラムαを複製等 するためには著作権者の許諾が必要なので、プロパゲートに当たる(第 0条第 6パラグラ フ)。
したがって、事業譲渡に伴うGPLv3プログラムαの企業Aから企業Bへの譲渡は、コンベ
‐ 107 ‐ イに当たることになる(第0条第7パラグラフ)[77]。
本パラグラフは、上記のような事業譲渡等の結果としてコンベイが生じた場合について、
企業Bが企業Aの地位を引き継ぐことを定めている。つまり、企業Bは、企業Aのライセ ンシとしての地位や、上流の配布者に対してソースコードの提供を請求できる権利などを 引き継ぐことになる。
なお、本パラグラフは、コンベイが生じうる場合として、事業譲渡以外に会社分割及び 合併も挙げている。しかし、日本法上、会社分割及び合併の場合はコンベイに当たらない と解される。なぜなら、会社分割及び合併は包括承継であって、従前の法律関係がそのま ま包括的に引き継がれる。そのため、企業Bは、企業A(の事業部門a)のライセンシとし ての地位も包括的に承継するから、改めてオリジナルの著作権者からの許諾を得ることな く、プログラムαを継続して使用(複製等)することができる。したがって、この場合は プロパゲートに当たらないと解されるからである。
13.2.3. 第3パラグラフ
(1)追加的制限の禁止
本パラグラフは、下流の受領者に対してGPLv3が規定する以上のさらなる制限すなわち
「追加的制限」を課すことを禁止している。コピーレフトの実現を妨げるような行為を禁 止するために必要だからである。
禁止される追加的制限の例として、GPLv3 に基づく権利の行使に対してライセンス料、
ロイヤルティその他の対価を課すことが挙げられている。
GPLv3は、GPLv2同様、プログラムの配布の際に対価を請求することを許容している(第
4条第2パラグラフ)。この対価には、配布のための実費だけでなく利益を上乗せすること も認められている。配布の際の対価も一括前払いのライセンス料・ロイヤルティの一種と いえるが、本条第3パラグラフは、これ以外の場合にGPLv3によって認められている行為 に対して対価を課すことを禁じている。
[77]企業Aが社内用のシステムでGPLv3プログラムαを使用し外部に配布していなかった 場合、企業Aはコンベイに当たる行為を行っていないから、事業譲渡がなされるまでは ソースコードの提供等の義務を負うことなくGPLv3プログラムαを使用することができ る。
しかし、GPLv3では、事業譲渡に伴うプログラムαの企業Aから企業Bへの移転もコ ンベイに当たると考えられる。そのため、事業譲渡後は企業AはGPLv3の適用を受け、
企業Bや企業BからGPLv3プログラムαの配布を受けた第三者に対し、ソースコードを
開示する義務(第6条)や特許非係争義務(第10条第3パラグラフ)、特許ライセンス義 務(第11条)などの義務を負うことになる(企業Bは、企業Aから譲渡を受けただけで はコンベイしていないので、GPLv3の義務を負うことはない)。
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例えば、オブジェクトコード形式でプログラムを配布した後に、受領者の要求に応じて ソースコードを提供する際に実費を超えた対価を請求したり、プログラムをインストール したサーバの台数などプログラムの使用実績をベースに算定したライセンス料を課すといっ た行為は追加的制限に当たり、このような条件を付すことは許されない。
(2)特許非係争義務(NAP)
さらに、「本プログラム」すなわち GPLv3 が適用されるプログラムに対して特許侵害訴 訟を提起することも、追加的制限の例として挙げられて、禁止されている。いわゆる特許 非係争条項やNAP条項(Non‐Assertion of Patent clause)と呼ばれる規定である。
仮に本規定に違反して特許侵害訴訟を提起した場合は、第 8 条の解除事由に該当し、特 許権者に対するGPLv3プログラムの許諾が失われることになる。
本規定は、特許を重視している企業にとっては、実務上極めて重要な規定である。なぜ
ならば、GPLv3 プログラムに対して特許侵害訴訟を提起できないということは、法的には
GPLv3プログラムに対して無償の特許ライセンスを供与することと同じだからである。
第11条は特許ライセンスが義務付けられる範囲について詳細に定めているが、企業にとっ ては第11条よりむしろ本条第3パラグラフの方が影響が大きいとさえいえよう。
なぜなら、第 11条第 3 パラグラフでライセンスが義務付けられる特許の範囲は、「必須 特許クレーム」(essential patent claims)、すなわち特許権者自身が著作権を保有しているプ ログラム(コントリビュータ・バージョン)によって侵害される特許権に限定されている
(第11条第1、第2パラグラフ)。特許権者が著作権を保有している場合というのは、特許 権者自身が作成したプログラムを公開した場合か、第三者から受領したプログラムを改変 して再配布した場合である。したがって、第11条第3パラグラフで特許のライセンスが義 務付けられる場合というのは、作成・改変という積極的な行為を特許権者自らが行った場 合に限られる。
また、コントリビュータ・バージョン自体は特許権を侵害していなかったが、他者が改 変した結果特許権が侵害されることとなった場合は、特許ライセンス供与の対象外であり
(第11条第2パラグラフ)、そのようなプログラムに対しては特許侵害訴訟を提起できる。
このように、第11条第3パラグラフに基づく特許ライセンスの義務は、企業が自ら積極 的な行為を行った場合に限られるので、企業としてはある程度リスク管理が可能である。
これに対して、第10条第3パラグラフは、特許非係争義務の対象となる特許を必須特許 クレームに限定していない。したがって、特許権者がGPLv3プログラムの作成・改変を行っ ておらず単に上流から受け取ったGPLv3プログラムを再配布しただけでも、特許非係争義 務が生じる。
さらに、特許非係争の義務が生じるのは、GPLv3 プログラムをコンベイした場合に限定 されていない。他者から受領したGPLv3 プログラムを改変して「内部的」に使用している