第 2 章 逐条解説
9. 第 6 条(ソース形式以外でのコンベイ)第 3 〜 7 パラグラフ
9.2. 条文内容
9.2.1. 第3パラグラフ
本パラグラフは、「ユーザ製品」(User Product)を定義している。
GPLv3プログラムが組み込まれている製品がユーザ製品に該当する場合にのみ、「インス
トール用情報」の提供義務が課され、その他の産業用製品等の場合は「インストール用情 報」を提供する必要はない。
ユーザ製品とは、コンシューマ製品(consumer product)、及び住宅に設置されることを 目的として設計された製品または販売された製品(有体物)をいう。
コンシューマ製品とは、個人や家族が通常使用する機器、または家庭で使用されること が通常である機器をいう。
コンシューマ製品に該当するかどうかの判断において、個々のユーザがどのような態様 で使用するかは考慮されず、製品の典型的または一般的な使用方法に基づいて判断される。
したがって、一般的に見て個人用途でない製品をある個人が家庭内で、例えば個人的な趣 味の目的で使用しているからといって、コンシューマ製品及びユーザ製品に該当すること はない。しかし、ある製品が業務用や工業用などの用途がある場合でも、そうした用途が 製品の唯一重要なものではなく、個人的なまたは家庭内での用途がある場合には、コンシュー マ製品・ユーザ製品に該当する場合がありうる。
ある製品がコンシューマ製品に該当するかどうか明確に判断できない場合は、コンシュー マ製品に該当するとみなされ、インストール用情報の提供が要求される。
具体例としては、医療機器の場合、医師だけが使用を許可される医療機器[56]は、ユーザ 製品に該当しないであろう。家庭用として販売される医療機器(家庭用体温計、家庭用健 康測定機器など)は、ユーザ製品に該当するであろう。
また、プリンタの場合、オフィス用の複合プリンタ[57]は、ユーザ製品に該当しないであ ろう。個人用(家庭用)の複合プリンタは、ユーザ製品に該当するであろう。
[56]「医療機器」は薬事法および薬事法施行令で定義・例示されている。
[57]スキャナ、プリンタ、コピー、ネットワーク等の機能を同時に備えた複合プリンタ。電 子写真方式、インクジェット方式などの基本的な印刷方式に加え、異なる市場セグメント を明確に意識した製品が多く、機能、性能、価格、設置面積、本体重量などの点で、製品 の種類が多岐に渡る。
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一方、産業用機器はユーザ製品に該当しない。例えば、半導体メーカの工場に設置され る半導体製造装置は、個人的または家庭用途での用途は考えられないから、ユーザ製品に 該当しない。また、放送局向けに設計された放送機器も、通常はユーザ製品に該当しない であろう。ただし、放送局向けのオーディオ機器(DAコンバータ、アンプ等)であっても、
ハイエンドユーザが家庭で使用するケースがあり得るような場合は、ユーザ製品に該当す ると判断される場合もあり得よう。
9.2.2. 第4パラグラフ
本パラグラフは、「インストール用情報」を定義している。
インストール用情報とは、そのユーザ製品に組み込まれているGPLv3プログラムの改変・
改変したGPLv3プログラムのインストール、およびその実行を可能とするために必要な情
報のすべてをいう。これらの作業を実施するための手法や手順に関する情報もインストー ル用情報に含まれる。また、製品によっては、改変したプログラムのインストール・実行 に認証キーの入力を必要とするものがあるが、その場合には認証キーに関する情報もイン ストール用情報に含まれる。
改変したGPLv3 プログラムをインストールした後も、改変されたオブジェクトコードの
動作が妨げられることのないようにするために必要な情報のすべてをインストール用情報 として提供しなければならない。改変されたことが理由ないし原因で改変されたオブジェ クトコードの動作が妨害されてはならない。製品に何らかのチェック機能があって、プロ グラムの改変を検知すると、改変されたオブジェクトコードの動作を停止するようなこと があってはならない[58]。
具体的にどのような情報がインストール用情報として必要されるかは、本パラグラフの 定義に基づいてケースバイケースで判断する必要がある。組込み機器は、汎用コンピュー タと異なりハードウェアが個別設計であることに加え、ソフトウェアの開発・実装・実行 環境も製品毎に様々である。そのため、インストール用情報として汎用的な例を挙げるこ とはあまり意味がない。
SFLCによれば、インストール用情報として提供が要求されるのは、必要な知識と設備を 持った技術者であれば再インストール可能な情報であって、初心者向けの解説書である必 要はない。
さらに、SFLCによれば、改変やインストールに特殊なツールや機材を必要とする場合で も、当該ツールや機材を提供する必要はなく、それらを入手する方法等に関する情報がイ
[58]条文上、動作の継続が求められている対象は、組込み機器ではなく、改変されたGPLv 3プログラムの部分である。
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ンストール用情報に含まれていればよい。例えば、クロスコンパイラ[59]に関する情報など がこれに当たる。
ところで、デジタルTVや携帯電話などのユーザ製品で、放送波や電波を用いて組込みソ フトウェアのアップデート情報が送信され、機器により自動的にソフトウェアのアップデー ト処理が実行される場合がある。このような機種が、ユーザが改変したソフトウェアをイ ンストールするための手段を用意していない場合は、第6条の第4パラグラフ及び第 5パ ラグラフの要求を満たさないことになる。SFLCによれば、それぞれの国の法律の規制を遵 守するために組込みソフトウェアの改変を禁止するような場合についてまで、本条項の履 行を強制することはないとしている。
9.2.3. 第5パラグラフ
GPLv3プログラムを組み込んだ製品が販売される場合や、製品の販売時はGPLv3プログ
ラムがまだ製品に組み込まれて(インストールされて)おらず製品とともにGPLv3プログ ラムが譲渡される場合などは、GPLv3 プログラムをオブジェクトコード形式で配布する場 合に当たる。したがって、この場合、オブジェクトコードの配布者は、第6 条第1 パラグ ラフに規定される適切な方法により対応ソースを提供しなければならない。
本パラグラフは、対応ソースを提供する際に、インストール用情報も一緒に提供すべき ことを定めている。つまり、組込み機器を販売する場合は、組込みソフトウェアのソース コードだけでなく、インストール用情報も一緒に提供することが義務付けられている。
ただし、インストール用情報の提供が必要なのは「当該ユーザ製品の所有及び使用にか かる権利を永久に又は一定期間譲渡する取引の一部として行われる場合」である。すなわ ち、ユーザ製品の所有権を永久または一定期間譲渡することになる相手方に対してのみ、
インストール用情報を提供する義務を負うことになる。通常は、エンドユーザがこの相手 方に当たる。ディーラや販売店は、製品を転売目的で一時的に保有するにすぎないから、
所有権を永久または一定期間譲渡する場合に当たらない。したがって、ディーラや販売店 は、通常はインストール用情報の提供義務を負わないと考えられる[60]。
また、ユーザ製品のメーカも改変した組込みソフトウェアをインストールできない仕様
[59]クロスコンパイラとは、異なる機種のコンピュータまたは異なる動作環境に向けたオブ ジェクトコードを生成するコンパイラをいう。
[60]インストール用情報の提供義務を負うのはオブジェクトコードの配布者であり、必ずし も組込み機器の製品メーカに限られない。しかし、インストール用情報の提供が必要なの は組込み機器を販売したり貸与する場合であって、かつオブジェクトコード形式で配布す る場合に限られるから、製品メーカ以外がインストール用情報の提供義務を負うケースは 少ないであろう。
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の場合、例えば対象となるGPLv3プログラムがROMに格納されているような場合は、イ ンストール用情報を提供する必要はない。
もっとも、最新の組込み機器は、販売後にもソフトウェアを更新できる仕様のものが多 く、再書き込み可能な記憶デバイスや装置(フラッシュメモリやハードディスク等)にプ ログラムを格納する方式が主流なので、上記のようなケースはごく限られるであろう。
9.2.4. 第6パラグラフ
ユーザの手により改変・インストールされたユーザ製品については、保守サービスや保 証を提供する必要はない。また、組込みソフトウェアのアップデート版の提供を継続する 必要もない。
また、組込みソフトウェアが改変されたことで、ネットワークの運用に悪影響を及ぼす 場合や、通信プロトコルに違反するような場合には、ネットワークへのアクセスを拒否す る(接続できないようにする)ことが許される。これは、改変されていることが原因でオ ブジェクトコードの動作が妨害されることを禁止している第 4 パラグラフの例外規定であ る。これによって、改変結果がネットワーク上で社会的な被害をもたらすような行為に悪 用される危険を排除することができる。
もっとも、ユーザ製品のメーカにとっては、エンドユーザによる自社製品の改変に関す る想定リスクはネットワークに限った話ではない。法律、公的機関による各種の指針等を 踏まえ、ユーザ製品の製造各社における製品安全、リスク管理、その他に関する社内指針 に沿って慎重かつ十分な検討をした上で総合的に判断すべきである。
9.2.5. 第7パラグラフ
対応ソースとインストール用情報の提供形式について定めている。
対応ソースとインストール用情報の提供は、文書化され一般に公開されているフォーマッ トを用いて、かつソースコード形式で一般に利用可能な何らかの実装方法を用いてなされ なければならない。言い換えれば、そうしたファイルフォーマットを扱うことのできる何 らかのFOSSが公開されていればよい。また、情報の記載されたファイルの圧縮展開や読み 込み、あるいは複製に特別なパスワードやキーを必要としてはならない。一般に利用可能 でないような特殊なフォーマットのファイルで提供したり、あるいはファイルがパスワー ドやキーで保護されていたのでは、受領者がその情報を利用することができず、本条の目 的を実現できないからである。
プレーンテキスト形式(.txt等)はもとより、リッチテキスト形式(.rtf)やMicrosoft WORD 形式(.doc等)、Adobe Acrobat形式(.pdf)であれば、フォーマットに関する何らかの公 開情報が存在する。例えば、.rtfや.docを扱う機能を備えたオープンソースによる実装とし