第 3 章 インタビュー番組の談話分析に基づく日中ポライトネスの対照研究
3.1 研究範囲
本章では、日中両言語におけるポライトネス表現の同異点を「社会言語学的範囲や習慣 に則った言語使用」と「話し手個人の方略的な言語使用」より、「談話レベル」で考察して いく。
ここでは、主観的な論究を排除するために、台本のある談話ではなく(小説やドラマなど)、
自然な談話に近いインタビュー番組を利用して、分析を行う。
インタビューでは、ゲストは司会者にとって、目上であったり目下であったり、力関係 や性別なども異なるため、両者の関係、という点で捉えるなら、さまざまな要素の組み合 わせがありうる多様な関係を表すとみなすこともできる。このことによって、より包括的 な言語表現を観察することができると言えるであろう。
本章はB&Lが提唱したポライトネス理論を基本的理論として、言語データを基に分析し検 討した上で、日中両国のポライトネスの同異点を探る。B&Lのポライトネス理論では、「フ ェイス」という概念を中心的な概念としている。すなわち、人間には基本的欲求として、「ポ ジティブ・フェイス」と「ネガティブ・フェイス」という二種類のフェイスがあるとして いる。「ポジティブ・フェイス」は相手によく思われたい、親しいものとして扱われたいと いう欲求もある。「ネガティブ・フェイス」は自分の領域に他人にむやみに踏み込まれたく ない、でしゃばられたくないという欲求、自分のことは他人に邪魔されたくないという欲 求である。B&Lはこの基本的欲求としての二つのフェイスを脅かさないように配慮すること がポライトネスであると捉える。そのうち、ポジティブ・フェイスに訴えかけるストラテ ジーを「ポジティブ・ポライトネス」、ネガティブ・フェイスを配慮するストラテジーを「ネ ガティブ・ポライトネス」と呼んでいる。
3.1.1 ポジティブ・ポライトネス
ポジティブ・ポライトネスは聞き手に対し「人に認められたい、仲間とみなされたい」
というポジティブ・フェイスを満足させるもので、話し手が聞き手に親密行動を取ること によって、いい気持ちにさせることである。相手の他者から認められたいというポジティ
ブ・フェイスを満たしてあげるように、相手の何かを褒めたり、共通の興味を強調したり、
相手を楽しくさせるような言語方略をとったりする。話し手と聞き手の関係が「親密」で あるため、何か物を頼む場合も、低いレベルのポライトネス・ストラテジーで十分目的を 達成することが出来る。ポジティブ・ポライトネスは私たちが通常丁寧であると思ってい ることとは異なるが、間接的に聞き手の負担を軽減し、人間関係を損なわずにコミュニケ ーションの目的を達成する重要な手段である。
B&L はポジティブ・ポライトネスとして 15 種類のストラテジーをあげている。(B&L 1987:
101-129、訳は田中 2011:134-178 を参照)
ストラテジー1.H(の興味、欲求、ニーズ、持ち物)に気づき、注意を向けよ
相手の状況に注目し、言及することを指す。例えば、髪を切ったことを指摘したり、相 手の物を褒めたりすることに関わる。
ストラテジー2.(H への興味、賛意、共感を)誇張せよ
大げさな声の調子や、誇張を表す表現を用いる。“What a fantastic garden you have!”
のような表現やアクセントがあげられる。
ストラテジー3.H への関心を強調せよ
話を面白おかしく語るなどして、聞き手とその内容を共有できるようにし、話し手と 聞き手が同じ立場でいることを表す。
ストラテジー4.仲間ウチであることを示す標識を用いよ
仲間内だけで通じる呼び名や方言、スラング、短縮語などを用いて、仲間であること を強調する。
ストラテジー5.一致を求めよ
無難な話題を取り上げることで意見の一致を求め、対立を避ける。また、会話のやり 取りの中で、相手の発話で用いられた言葉を繰り返したり、相づちを打ったりするな どして、同調する。
ストラテジー6.不一致を避けよ
同意していることを表す発話を行う。これは、真に同意していない場合でもそのよう な発言をすることも含んでいる。
ストラテジー7.共通基盤を想定・喚起・主張せよ
FTA を行う前に世間話をする、相手の視点から話をするなど、話し手と聞き手が共通の 立場にあることを前提にしている態度を表す。例えば、転んで怪我をした子供に「あ
-、痛かったね」と述べることもこれに含まれる。
ストラテジー8.冗談を言え
ジョ-クを言うことによって、話し手と聞き手が共通の話題や価値観を持っているこ とを示す。
ストラテジー9.S は H の欲求を承知し気づかっていると主張せよ、もしくは、それを前提 とせよ
相手の望みは自分の望みであり、自分の望みは相手の望みであると言う。相手をよく 知っていることを前提とした発言をする。
ストラテジー10.申し出よ、約束せよ
相手への協力を申し出たり、約束したりする。
ストラテジー11.楽観的であれ
話しての欲求が相手の欲求であるかのように発言する。これはお互い共通の立場にあ ることを前提として述べられるものである。
ストラテジー12.S と H 両者を行動に含めよ
発話において、お互いが含まれる表現を用いる。We や Let’s の使用があげられる。
ストラテジー13.理由を述べよ(もしくは尋ねよ) 話し手が行うとする FTA の理由を示す。
ストラテジー14.相互性を想定せよ、もしくは主張せよ お互いに協力することを前提に FTA を行う
ストラテジー15.H に贈り物をせよ(品物、共感、理解、協力)
相手の希望をかなえる。贈り物は物質的なものだけでなく、相手のポジティブ・フェ イスを満たすものも含む。
上記のストラテジーは大きく以下の三つのカテゴリーに分けられる。
A.共通基盤を主張せよ (ストラテジー:1-8)
B.S と H は協力者であることを伝えよ (ストラテジー:9-14) C.H の何らかの X に対する欲求を満たせ (ストラテジー:15)
3.1.2 ネガティブ・ポライトネス
人に何か物を頼む時、話し手が聞き手の自由を一方的に自分の都合で侵害し奪う行為、
つまり FTA をおこす行為なので、それを中和しようとして、まず始めに「お忙しいところ 誠に申し訳ございませんが」とか「あの、ちょっとよろしいですか」などと言って切り出
すストラテジーをネガティブ・ポライトネスと呼ぶ。聞き手が話者により「負担をかけら れた」と感じるのを減らすコミュニケーション・ストラテジーで、聞き手の気持ちを和ら げるために、話者は適切なストラテジーを選択しなくてはならない。その例としては「間 接的表現をとる」、つまり文形式では疑問文や平叙文の文意であるが、その機能としては依 頼を表わすようなもの、直接的依頼文「ペン貸して」の代わりに「ペンある?」という文 がそれに当たる。さらに悲観的・否定的言い方をする。つまり「ペン貸してください」よ り「貸してくれませんか」と否定形を使った方がよりポライトだというのである。
B&L はネガティブ・ポライトネスを示す 10 種類のストラテジーをあげている。(B&L 1987:
129-211、訳は田中 2011:179-298 を参照)
ストラテジー1.慣習に基づき間接的であれ
相手に直接働きかけたい、しかし、強制したくないという、相反する気持ちによって、
字義通りの意味ではない間接的な表現を用いることを指している。
ストラテジー2. 質問せよ、ヘッジを用いよ
話し手側の勝手な判断を避けているという配慮を示すもので、例えば、「ちょっと聞き たいですが」の発話における「ちょっと」といった hedge 表現の使用があげられる。
ストラテジー3.悲観的であれ
悲観的な予測を述べることによって、相手が拒否しやすいように配慮する。
ストラテジー4.負担 Rx を最小化せよ
聞き手のフェイスに最小限に関わるできるだけ相手に負担を感じさせないような表現 を用いる。
ストラテジー5.敬意を示せ
相手を高い位置に置く、あるいは話し手自身を低い位置に置くことによって、相手に 敬意を払うものである。
ストラテジー6.謝罪せよ
侵害という事態から自分と相手を分離させる。相手のフェイスを侵害することに対し て謝罪する。侵害している事実を認める発言や FTA を行うことに対するためらいの表 現を用いることなどもあげられる。
ストラテジー7.S と H を非人称化せよ
相手のフェイスを侵害することを話し手は望んではいないことを表すために、話し手 を明示しない表現を用いる。例えば、“I regret that…”のように話し手を明示する のではなく。“It is regretted that…”のような受動態を用いて非人称化し、話し手
自身の行為はなかったかのように表現する。
ストラテジー8.FTA を一般的規則として述べよ
自分はフェイスの侵害を望まないが、一般的な状況からやむを得ず行為を起こすと言 う。例えば、相手に向かって話していても、「指定券をお持ちでないお客様はお座りに なれません」と述べる場合があげられる。
ストラテジー9.名詞化せよ
動詞を名詞化することにより、改まった文体にする。例えば、“I am pleased to be able to inform you…”の代わりに、“It is my pleasure to be able to inform you…”
と表現することを示す。
ストラテジー10.自分が借りを負うこと、相手に借りを負わせないことを、オン・レコー ドで示せ
話し手が聞き手に<依頼>をする時には話し手が借りを負うことを、<申し出>をす る時には、相手に借りを負わせないことを明示する。例えば、<申し出>の場合、“I could easily do it for you.”のように述べる。
上記のストラテジーは大きく以下の五つのカテゴリーに分けられている。
a:直接的であれ (ストラテジー:1) b:推定/想定するな (ストラテジー:2) c:H に強制するな (ストラテジー:3—5) d:H を侵害したくないという S の欲求を伝えよ (ストラテジー:6—9) e:H のほかの欲求を補償せよ (ストラテジー:10)
B&Lのポライトネス理論は、敬語体系15の違う日本語と中国語の比較に新しい枠組みを提 供している。彼らのポライトネス理論は待遇行動における日中の対照研究に一つの新しい 道を開いたともいえるだろう。
本章ではB&Lが提唱した各主要ストラテジーを基に、日中両言語にポジティブ・ポライト ネスとネガティブ・ポライトネスの各ストラテジーのうちどのストラテジーが多く使用さ れ、またどういった場面に使われているか、司会者とゲストの会話の中でどのように使用 されているのか、各々の面から分析を試みる。そして、日中両言語の具体的な会話場面に おいてどのようなストラテジーが現われるのか、また、両言語にどんな異同点があるのか
15南(1987)は、敬語を日本語型敬語と非日本語型敬語と区別し中国語は非日本語型敬語とし ている。