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第 3 章 インタビュー番組の談話分析に基づく日中ポライトネスの対照研究

3.3 中国語におけるポライトネス・ストラテジー

3.3.2 ネガティブ・ポライトネス・ストラテジー

3.3.2.3 ストラテジー5 敬意を示せ

聞き手はこのストラテジーを利用して、聞き手との距離を縮めたり、或いは維持するこ

とによって、相手に不快感を与えるのを避けることができる。

文法形式に乏しい中国語敬語の体系性に関して太田(1972)は、中国語の敬語は六種類に 分れると指摘した18。王(1989:27,44)はこの説を継承し、中国語の敬語表現を人称的、選語 的、接辞的、構文的敬語表現という分け方で分析した。「中国語にはその言語の構造によっ て、体系的敬語表現が少ないように見えるが、実は社会、文化、特にその中の人間関係の有 り方に応じた様々な敬語要素は違った構造に組織されているかもしれない」という。

つまり、表現形式による敬語体系が日本語のように複雑ではない中国語では、相手への 敬意や配慮を表明するために、どの語を選択するかというよりも、どのような方法で表現す るかといった「運用レベル」や「言語行動レベル」がより重要なのである。

日本語のように相手との差を言語レベルにより表現するのとは異なり、中国語では相手 との差は、主に相手に対する呼称や語彙的意味を加味した表現によって表される。

中国語の辞書には「敬語」という言葉はないが、「敬語」の代わりに「敬辞」という言い 方がある。『辞海』19によると、「敬辞也叫敬语,与谦辞相对。表示尊敬和礼貌的用语。如贵 方,阁下等(「敬辞」は敬語とも言う。謙辞と対をなしている。尊敬と礼儀を表す言葉であ る。例えば、贵方、閣下などがある。)」という記述がある。この説明を見ると、中国語の 敬語は語彙的な表現が多く、相手に敬意を表す単語だといえるだろう。特に対人呼称即ち 敬意を示す相手あるいは相手の所有物、所属について、話題にするときに、主に主語を変 化させることによって、即ち人称代名詞を使い分けて、敬意を表す傾向がある。

例えば、

○疲れたでしょう。 →你累了吧。(同等或いは下の人に)

○お疲れになったでしょう。→您累了吧。(上の人に)

そこで、ここでは、会話例によく観察される敬語「您」と「老」について検討してみよ う。

「您」:

現代中国語の第二人称代名詞には「您」という敬語がある。中国語では第二人称代名詞

「你(あなた)」と「您(あなた様)」が相手を呼ぶ時に一番多く使われる。現代中国語の人 称代名詞のうち敬意を表すのは「您」だけである。

自分より下の人(地位や年齢)に対しては、「你(あなた)」が使われ、上の人に対して、「您 (あなた様)」を使うことによって敬意を表わしたり、自分との差を示したりする効果があ

18太田によれば中国語の敬語は①皇室とくに皇帝に関する語、②人称代名詞、③人称に関係 ある名詞、④官職身分、⑤動詞・挨拶語、⑥表記法との六種類に分かれる。

19辞海编辑委员会(1999)『辞海』上海辞书出版社,p.1782

る。

(59)朱:您在电影界应该说是非常有名的导演。

(あなた様は映画界でとても有名な監督と言えるでしょう。) (会話 2)

(60)朱:您家里当时多少人?

(当時お家には何人いらっしゃいましたか。) (会話 7)

「您」は複数形から宋元以後に単数の尊称に転じたといわれる。「您们」という複数形は ときに書き言葉として使用されるが、話し言葉では「您二位」「您三位」「您幾位」などの ように言われる。その使用範囲を日本語の第二人称代名詞と比較して、彭(2000:193)は次 のように説明した。「日本語の人称代名詞には「あなた、きみ、おまえ、きさま」、「わたく し、わたし、ぼく、おれ」など様々な待遇レベルの表現が使われている。それに比べて、

近代中国語の人称代名詞の待遇的な使い分けは、二人称の「你」「您」にとどまり、極めて 未発達といえる。」という。ところが、王(1989:44)がすでに指摘したように、「日本語より 少ないようである。敬語専門のものは「您」だけである。しかし、この「您」の活躍ぶり が目立ち、敬語表現の機能が高いと思われる(p.44)」という。

日本語の第二人称代名詞の使用上の制限について、金田一(1988:166-167)は次のように 指摘した。

「注意すべきは、第二人称代名詞を絶対に使わない間柄というものがあることである。

親・兄・姉・おじ・おばに対してはそうで、この場合、「お父さん」とか「お兄さん」とか 一般の名詞を使う(略)ところで、現代ではそういう関係以外でも第二人称名詞が使えなく て不便をしている場合がある。目上の人に対する適当なものがないせいだ(略)第二人称代 名詞が使いにくいのは、日本語の場合、第一に相手を指す代名詞がどんどん格が下がって くることによるが、それ以外に、日本人の頭の中には、西欧人と違い、代名詞という単語 で相手をさすのは失礼に当たるという考えがあるようだ、中国人にもこれと同じような考 えがあり、昔から、大夫・公子・陛下・足下のような身分や場所を示す語で相手を呼ぶこ とが盛んだった(pp.166-167)」という。

ところが、現代中国語の第二人称代名詞「您」の場合は、その制限がないようである。

(61)朱:见到您呢,我一直在想称呼您什么,叫王老师显得有点远,叫王女士显得不够 尊敬,后来我想了半天,我觉得从年龄来讲的话,我叫您王阿姨好像更亲切一

些,您同意吗?

(あなたと会うと、何と呼んだらいいのかをずっと考えています。王先生ってち ょっと親しくないし、王さんってちょっと失礼だし、やっぱり年齢から見ると、

王おばさんと呼んだほうが一番いいと思います。よろしいでしょうか。)

(会話3)

例(61)から、中国語においては、日本語の第二人称代名詞の用法とは違って、相手との 関係が「内・外」にかかわらず、第二人称代名詞の「您」を使うことが可能であることが 分かる。

また、相手との親疎関係にかかわらず、「您」が使われると、他の語及び文の表現も自と 敬意を示す表現になる。「您同意吗?」など、「您」だけとりかえれば、動詞はそのままで も文全体が敬語表現となり、「好像」「請~」などの婉曲な表現もよく「您」に連動して用 いられる。現代中国語において相手に敬意を払うとき、二人称代名詞の「您」は頻繁に使 用され、その頻度が目立っている。

「老」:

「老」という漢字は、中国語の中で一つの称賛表現として存在している。『漢語大詞典』

(1998)は「老」という漢字について、次のように解釈している:「敬詞。年を表せない」。

現代中国語において、接尾辞に用いる「老」は、日常コミュニケーションの中で使用頻 度が高く、敬意のこもった表現である。また、中国語では、相手と自分が地位的にそん なに差はないが年齢的に相手が上の場合は、「老」+相手の名字という接頭辞のついた呼び 方がよく職場で使われる。或いは相手がある領域ですぐれた貢献がある人、トップに立つ 人である場合、相手の名字+「老」が使われる。中国語の「老」はもちろん「年を取る」の 意味であるが、「経験が多く、実績がある」という意味もある。「您+老」、「名字+老」、「老 師」(先生)や「老前輩」(先輩)などの「老」は、知識が多い、経験が豊富であるという意 味である。「中国は「老者」を尊敬している社会で、「老」は高い地位の象徴として存在し ている」(鄭 1993:61)。人を「老」をつけて、呼ぶとき、年齢に関係なく、尊敬の意を表し ている。中国語においては、この敬詞の使用率が非常に高い。

(62) 朱:常老師一生当中带给我们观众的,无论是戏台上的唱腔,做派,还是一生的为 人,都是那样美好。

(常先生は舞台に立った時だけではなく、人柄もすばらしく、いつも私たちの 心の中に美しい記憶ばかり残されました。) (会話 1)

(63) 朱:陈宪章老先生也的确信守了自己的诺言,遵守了和常老师的约法三章。

(陈宪章さまは本当に常先生との約束を忠実に守りました。) (会話 1)