第 5 章 対人関係からみる日中ポライトネス意識Ⅱ
5.2 結果と分析
5.2.2 学生から日本のホームステイ先への手紙
**様
はじめまして。**の国際交流課を通してホームステイを申し込んでいた①**です。
(③今回)の私のホームステイの件では、心より②感謝差し上げます…
私は 8 月から夏休み(③なので)、8 月の 10 日から 17 日まで④お世話になりたいと(③思 います)。その他の日は、アルバイトやクラブ活動がありまして⑤無理です。…
⑥お返事をお待ちしております。7 月 21 日から 8 月 5 日までは調査旅行を計画しておりま す(③ので)、7 月 20 日までに⑦届くようにお願いいたします。…
このメールの内容は、相手の都合よりも自分の都合を優先して書かれており、相手への 配慮が感じられない。このため、不適切であると認められる。そのような表現を「8 月の 10 日から 17 日までのご予定はいかがですか。」「アルバイトやクラブ活動がありまして、都 合が悪く滞在できそうにありません」「7 月 20 日までにお返事頂けると幸いです」のように、
相手の都合を優先した表現や相手に配慮した表現に変えることによって、礼儀正しい表現
になると考えられる。また、⑤「無理」は失礼な言い方なので、削除するか、あるいは保 留する場合、詫びを添えて、事情を詳しく説明したほうが礼儀正しいと考えられる。
表 5-2.1 日本人のアンケート調査
番号 不適切な部分 理由 回答人数
① **です
―と申します
2
② 感謝差し上げます
―感謝申し上げます
17
③ 思います
―思っています。
2
⑤ アルバイトやクラブ活動がありまして無理 です
―都合が悪く滞在出来そうにありません
―勝手を言って申し訳ないですが、アルバ イトやクラブ活動がありまして無理です
―アルバイトやクラブ活動があるので参加 できません
・滞在先と同じ目線で あるため
・自分のできない都合 の前にわびる
・『無理』は失礼な言 い方、削除
17
⑦ 7 月 20 日までに届くようにお願いいたしま す
―7 月 20 日までに届くようにしていただけ たら幸いです
―恐れ入りますが、7 月 20 日までに届くよ うにお願いいたします(2)
―7 月 20 日までにお返事頂けると幸いです
・お世話になる相手に 対してはなるべく腰 を低くして接したほ うがよい。
・『届くように…』は 失礼
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運用上の誤用:
⑤:17 人(85%)の母語話者は、「無理」という言葉への抵抗感から、失礼だと感じている。
⑦のような表現は、自己優先的で、相手への配慮が全く感じられない。熊田(2001)は、一 般的に、高い配慮意識が要求される場合、「てもらう」系の使用率が高いと指摘している。
また、依頼行為の負担度が大きい場合も「てもらう」系の使用率が高いという。メール
(2)のようにお世話になる疎である関係の人に、日本語母語話者は「てもらう」の謙譲 語「て頂く」を使うことによって、自分の相手からの恩恵行為に対する配慮意識を示す ことができると言えるだろう。
語形上の誤用:
「申し上げる」は「言う」の謙譲語で、「感謝申し上げます」や「御礼申し上げます」は 定型文であり、書面に出すことで十分感謝の気持ちを表す挨拶となる。②「感謝差し上げ ます」は明らかに誤用である。
表 5-2.2 中国人のアンケート調査
番号 不適切と思われる部分 理由 回答人数
① **です
―と申します
―でございます
敬語を使うべき 7
② 感謝差し上げます
―心より感謝いたします
―感謝申し上げます
―感謝の意を申し上げます
「差し上げる」が 間違った
8
③ 今回―このたび なので、ので
―ですから
―ため
×―まで
思います―存じます
敬語を使うべき 3
④ お世話になりたいと思います
―お宅にお泊まりしたいと思います
―お世話になりたいと存じます
―お世話になりたいと思っております
―お世話になってよろしいでしょうか
×―お世話になるたいと思います
相手の自分の感謝 を示す時、「ありが とうございます」
という言葉を使っ たほうがいい
12
×―お世話になってとてもありがとうございま す
⑤ 無理です
―申し訳ございません(2)
―外で泊まります(1)
×―お宅へ帰って住むのは無理です
×―無理となります
×―都合がちょっと
×―失礼いたします
×―都合が悪いですが
×―無理でございます
―消す
「無理」と言うと、
失礼に感じられる
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⑥ お返事をお待ちしております
―ご返事をお待ちしております
―返信くださいますようお願いいたします
文末に置いたほう がいい
7
⑦ 届くようにお願いいたします
―お返事をお願いします(3)
―届いたら楽しいです(1)
×―お届きなるようにお願いいたします(1)
×―届いてくださるようにお願いいたします
(1)
「届く」を使うの は強引に要求する 感じがする
6
相手を頼む場合にもっと敬意を払ったほうがい い
11
全文が適切と思う 5
メール(2)を出す対象は疎且つお世話になる人なので、「もっと敬意を払ったほうがい い」という学習者の答えからわかるように、学習者は、この文では「敬語を使うべきであ る」と認めている。CL の答えを見ると、多様な意見があることが分かるが、注目する点と して、学習者の訂正は単語の丁寧度に集中していることが分かった。
運用上の誤用:
①:原文は間違っていないが、「敬語を使うべき」という理由で、7 名の CL は「です」を
「申す」と「でございます」に直した。
②も同じように「思います」を「存じます」、「今回」を「このたび」へともっと丁寧な 形に修正した。
⑤:19 名の学習者が、「無理です」という言い方は「失礼」であると判断した。この人数 は中国人被験者の 38%しか占めていない。「都合がちょっと」のような話し言葉を使っ たり、「失礼いたします」のような誤り表現を使ったりしている。相手への FTA を侵害 しないようにするためには、どのような表現が適切なのか、まだ把握していないよう である。
⑥:7 人は「お返事」を「ご返事」に直した。
この 7 人の学習者は「返事」に「お・ご」の両方を付けることができるということが 分かっていないようである。
⑦:50 人中、母語話者のように「ていただく」を使用して、自分が相手からの恩恵行為 に対する配慮意識を示そうとする人は一人もいなかった。
語形上の誤用:
②:CL はこの場合、謙譲語を使うべきことに気付いたが、「感謝申し上げます」という 定型的な言い方をマスターできず、50 人の中、42 人がこの誤りを認識することができ なかった。
⑦:「お届きなるように」「届いてくださるように」のような単純に語形が敬語として規 範的ではない表現が見られたが、人数が非常に少ないため、ここでは、検討の対象と しない。
以上の分析から分かるように、メール文に現れた表現の多くが、書き手自身の都合を優 先したものであることに日本人被験者は気づき、それらを修正した。しかし、CL は日本人 の「相手の都合を優先する」というポライトネス意識を理解できず、母語の干渉により、
一生懸命に単語の丁寧度を上げることを通して相手への尊敬の気持ちを示そうとしている。
このような理由から、日本人母語話者に違和感のある表現になってしまったのだと考えら れよう。