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第 3 章 インタビュー番組の談話分析に基づく日中ポライトネスの対照研究

3.4 日本語におけるポライトネス・ストラテジー

3.4.1 ポジティブ・ポライトネス・ストラテジー

ポジティブ・ポライトネスは聞き手の「人に認められたい、仲間とみなされたい」とい うポジティブ・フェイスを満足させるもので、話し手が聞き手に親密行動を取ることによ って、良い気持ちにさせることである。ポジティブ・ポライトネスは私たちが通常丁寧で あると思っていることとは異なるが、間接的に聞き手の負担を軽減し、人間関係を損なわ ずにコミュニケーションの目的を達成する重要な手段である。

以下では B&L が挙げているストラテジーに沿って、日本語ではどのようなストラテジー が用いられるかを見ていくことにする。

3.4.1.1 ストラテジー1 H(の興味、欲求、ニーズ、持ち物)に気づき、注意を向けよ このストラテジーは、話し手が聞き手の状態に気を配り、聞き手が話し手に気づいてほ しいと思うことを的確に見極める、あるいは、話し手が相手の状況に注目し、言及するも のである。

(66) K:それなら大丈夫ね、でもお宅は本当楽しそうな家族ね、想像できる。それで、

ひろみさんがお父さんで、子供たちが、自転車に乗ってどっかに行ったの?

(会話 K)

話し手と聞き手が聞き手の家庭のことについていろいろ話したが、聞き手が自分の子供 のことを一番大事にしていることに話し手が気づき、その話題についてもっと詳しく知り たい、興味があるという姿勢を相手に示している。

(67) K:お客様にお茶を出そうと思っております。あの、ここはですね、お台所もあっ てお見せしたいんですけど。徳光さんは日本のお茶がお好きだとお聞きしてお りまして、ちょっといただきましょうか。

T:有難うございます。 (会話 C)

日本語では、(66)では聞き手が話し手より年齢や地位もかなり下の人物なので、話し手 がその差を知りながら、くだけた表現である「どっかに行ったの?」を使用した。例(67) の「徳光さんは日本のお茶がお好きだとお聞きしておりまして」は話し手が相手の関心事 や興味などに気を配って、「ちょっといただきましょうか」と、「あなたのためにわざわざ 準備しましたよ」という好意を示そうとする。話し手は聞き手の状態に気を配り、聞き手 と親しくない関係を認識しながら、相手に近づこうと努める姿勢を示している。また、聞 き手がマスコミの業界で高い地位を持つ事実を認識して、聞き手に失礼にならないように、

ネガティブ・ポライトネスの「Give deference(謙遜表現によって敬意を払う)」も使い、

「ポジティブ・ポライトネス+ネガティブ・ポライトネス」という複合的形になっている。

また、互いの関係をよりよくし、より親密な関係にするための有効な言語行動として、「相 手をほめる」ということは、典型的なポジティブ・ポライトネスの一つのストラテジーで ある。会話例を見てみよう。

<話し手が自分より下の人に対しての会話>

(68) K:〔写真〕かわいい。これ長女?

H:これは長女です。

K:かわいい、お人形さんみたい。 (会話 L)

(69 ) K:あなた本当に美人ね、きれいな顔。 (会話 N)

(70) K:はじめにやりたいことは今出来てます?

W:できてると思います。

K:ただあなたは大橋巨泉さんじゃないけど、(?)みたいにしたいと思ってるの?

W:そうなんです。はい。

K:えー?今から考えてるの?すごいな。 (会話 O)

<話し手が自分より上の人に対しての会話>

(71) K:(髪型)本当に素敵、本当に個性的ですもんね。

S:カーブね、このカーブが難しいのよね。

K:そうですね。片側じゃなくて、両側ですからね。同状になっていてすごいです ね。 (会話 A)

(72) M:で、さきほど、黒柳さんマジック面白いとおっしゃっていただいたんですけ ど、文化人の方とかインテリジェンスある方ほどマジック喜んでくださるんで すよ。

K:そうでしょうかね。 (会話 J)

上記の会話例から、話し手はが自分より下の人に対してはよく普通体を使って、相手の 興味を引いたり、褒めたりしている一方で、自分より上の人に対する対話の中では、よく 敬語を使うことが観察できる。会話(71)では、話者 K と S は親しい関係である事が予想さ れるが、S が K より年上のため、相手に失礼を感じさせないように、K は丁寧体を使ってい る。

また、日本語では、褒めを行う際、その発話がほめであることをはっきり示す肯定的評 価語を用いる傾向が強い。褒めをうまく使うことは大切であるが、それによって相手のフ ェイスを脅かすようなことは避けたいという相手のフェイスを守ろうとする褒め手の意図 を表している。

さらに、中国語には「褒め+相手のプライバシーに関する質問」という形の対話がよく 観察される。中国人はコミュニケーションをする際、聞き手との親密さを強調するために 聞き手の私的領域に踏み込む発話が多いのに対して日本語の場合はそのような対話形は殆 ど見当たらない。これは中国人は話し相手とお互いの私生活の情報を共有することによっ て親しさを示すことを重視し、一方、日本人は自分の私的領域を守ることを重視している ことの表れだと言えるだろう。

3.4.1.2 ストラテジー2 (H への興味、賛意、共感を)誇張せよ

このストラテジーは音調、強勢などの音韻的素性を伴う誇張や過大表現を用い、相手の 興味を引いたりする。

<話し手が自分より下の人に対しての会話>

(73) T:もう今でもう万は超えたと思います、ひいた回数は。

K:そんな! (会話 E)

(74) K:42 歳でできちゃった結婚するって言われてるんですって。

T:そうなんですよ。しかも 3 人の占いさんから、

K:えっ!3 人からも!

T:はい。

K:すごくありません! (会話 I)

<話し手が自分より上の人に対しての会話>

(75) S:30 で舌癌、57 で乳癌、77 で乳癌です。

K: 77 で!あらら! (会話 A)

(73)(74)のように、年下の人や地位が自分より下の人に対して、「そんな!」「え!」な ど音調、強勢などの音韻的素性を使い、誇張を表わす表現がよく見られるが、年齢や地位 がかなり高い人に対しては見られなかった。(75)では、とても親しい関係を持つ人(S)に S の病気に驚く気持ちを表現するために、「あらら」を使用している。

3.4.1.3 ストラテジー3 H への関心を強調せよ

話し手が持っている興味の対象を強調するような表現を用いて聞き手に接することであ る。これにより聞き手を自分のほうへ引き込み、会話がスムーズに行くことを試みる。相 手にこれから自分の話すことに大いに興味を持たせるため、自分が相手に近づくことによ り、より一層相手を自分のもとに引き寄せるということである。

(76) K:お元気とは思っていましたけれども、あの、本当に充実していらっしゃいます ね、精神が。

S:精神は充実していますかもしれませんね。ただ、黒柳さん、私癌になりました の。 (会話 A)

(77) K:あ、そうなの。でも子供たちも慣れてて、

H:実家、でも、原因がはっきりしたんですよ。黒柳さん、(父は)来る度に内緒に 飴をあげてたの。だから来ると「じじ、じじ」とかって娘たち喜ぶですけど、

でもみてると特別遊んでるわけでもないし、…飴だったんですよ。 (会話 L)

日本語では直接対面して、話している時には、通常相手の名前を呼ばないが、ここでは、

相手の興味を引き、自分が次から言う言葉に興味を持たせたいために、「黒柳さん」という ように、相手の名前をわざわざ呼ぶことによって、自分の発話を強調したり、相手の注意

を喚起する効果があると思われる。

(76)(77)において、相手の名前を呼ぶことより、「聞き手を自分のほうへ引き込み、会話 がスムーズに行く」「相手にこれから自分の話すことに大いに興味を持たせる」という効果 が期待される。しかし、司会者である K は自分より下の人には常体を使うが、上の人には 失礼にならないように丁寧体、尊敬語を使っていることには注意しなければならない。

3.4.1.4 ストラテジー4 仲間ウチであることを示す標識を用いよ

これは親愛の念をこめた呼称、例えば「My son」「お前」などを用いることにより、

「(in-group)同じグループ」のメンバーであることを強調し、暗に話し手である自分を聞 き手である相手との同じ集団におくストラテジーである。日本語では夫婦間における「お 前、あなた」或いは、友達間におけるニックネーム「~ちゃん」などがこれにあたると思 われる。例えば以下の例を見てみたい。

(78)T:…、その点、かおるちゃんはどっちかというと、ちょっとなんか、腹がすわっ てるところなんで、なんか私たち大変なところになるらしいわよ、みたいなこと 言ってたんです、当初から。

K:まあ、そんなことみたいな、

T:えー、

K:ですからあなたはご結婚が決まって、去年の 10 月なさった時に杉田かおるさ んはまだなんで、ちょっとかわいそうというか、気の毒というか、

T:…ただ何しろ、その「金八先生」の時から、まあ、いろいろ、ほかの作品でも 夫婦役とか、

K:多かったですよ、杉田さんと。 (会話K)

(78)のように、「杉田かおる」という人物に対して、T と K がそれぞれ「かおるちゃん」

と「杉田さん」と呼ぶことになった。この呼称から、T と K と「杉田かおる」という人物の それぞれの「距離(親しさ)」がはっきり示されている。

同様に、下記の会話(79)(80)では、話し手が自分よりかなり年下の話し相手との親しさ を示し、相手のことを可愛がっている気持ちを表わすために、相手の名字「三井」「河我」

ではなく、名前「ゆっちゃん」「我聞」と呼んでいる。

(79) K:でも、あれなんですよ。あなたが、野口五郎さんと三井ゆりさんのご結婚、あ