2.4 バイオマス政策を分析するためのシステム方法論
2.4.3. 知識構成システム論
本論文では,加賀市のバイオマスタウン政策の具体的な分析には知識構成システム 論を用いる.最初に知識構成システム論について述べて,次に,同方法論を採用した 妥当性について説明をする.
知識構成システム論とは,「しなやかなシステム方法論」と「知識マネジメント」を 融合した,知識創造への包括的・プロセス的アプローチであるとともに,知識の統合 と創造という文脈で,「いかに知るか」「いかに行うか」「いかに評価するか」という問 いに答える方法論である(中森2010b).この方法論ではi-Systemという知識の統合 と創造を行うためのシステムを活用する(Nakamori 2003)(Nakamori et al 2004).
i-System とは,5つの異なる次元またはサブシステムから構成されており,それぞれ
の サ ブ シ ス テ ム は ,Intervention,Imagination,Involvement,Intelligence,
Integration と呼称される.この 5 つのサブシステムを有する点,またシステム全体
は5つのサブシステムを5つの頂点に布置することから,I5SystemまたはPentagram
Systemとも呼ばれている(Wierzbicki et al 2005).この方法論は次の様に図示され
る.
図5 i-System概要
この時の5つのサブシステムは次の特徴を有している.
Interventionとは,問題設定を担うサブシステムであり.以下の三つのサブシステ
ムに知識の収集を依頼する役割をもつ.
Intelligence とは,問題解決のために必要なデータや情報を収集して科学的に分析
するサブシステムである.科学の次元,あるいは科学・実際の領域とも説明されてい
36 る.実際には,科学的な分析でなくとも,問題設定から依頼を受けた内容に対して論 理的に解釈したり説明をしたりしてもよいとされる.
Involvementとは,問題解決のために必要な社会的な側面の情報を集めるサブシス
テムである.社会の次元,あるいは社会・関係の領域とも説明される.実際には,問 題設定から依頼を受けた内容に対して,どのような事柄が関係しているのか,複数あ る場合はそれらの関係性はどうなっているのか,など探索したり明確化したりするも.
Imaginationとは,新しい,あるいは既存の物事に関するアイデアを作り出すこと
や部分的な情報に基づいて複雑な現象をシミュレートするサブシステムである.想像 の次元,あるいは認識・心理の領域とも説明される.実際には,シミュレートしなく ても,問題設定から依頼を受けた内容に対して,関係者や対象はどのような認識や意 識を有しているのか,また,どのようなアイデアが解決に役立ちそうかなど想像する ことも重要であるとしている.
Integration とは,上記 3 つのサブシステムを結合または統合するサブシステムで
ある.統合された結果はすなわち設定された問題・課題の解決のための知識である.
統合するプロセスは明示化される場合もあれば,暗黙的にあるいは創発的に行われる こともあり,かならずしもそのプロセスを明示化することは重要では無いとしている.
なお,統合過程では,一度ですべての問題や課題が統合されて解決されるとは限ら
ない.i-Systemでは,連続的再構成という側面を有しており,何度も繰り返して,さ
らには各サブシステム内に於いても i-System を用いて構造化または明示化していく ことで課題の解決にあたることができる「しなやかなアプローチ」であるとしている.
こうした特徴から,ハードシステムズ方法論とソフトシステムズ方法論の中間に位置 する方法論であり両方を兼ね備えたものであるとしている.なお,「しなやかなアプロ ーチ」とは 1990 年代に提案されたハードとソフトのシステム方法論の間に存在する 伝統的論争を解決しようと試みたものであり,ソフトシステム思考と極東哲学を融合 させて原則を示した概念である(椹木ら 1988)(Sawaragi et al 1990)(中森 1990)
(Sawaragi et al 1992).
図 6 知識構成システム論の様々な表現
37 また,知識構成システム論は,Interventionは要求の次元の他に介入,行とも呼ば れている.Intelligenceは科学の次元の他に集成,理とも呼ばれている.Involvement は社会の次元の他に,連携,縁とも呼ばれている.Imaginationは想像の次元の他に 想像,想とも呼ばれている.Integration は統合の次元の他に統合,知とも呼ばれて いる.
このシステム方法論は,様々な分野で活用されている.例えば,地球環境問題の解 決へのアプローチ,石川県の伝統工芸品である九谷焼の技術革新に関する研究や技術 に関するアーカイブの構築に関する研究(Yamashita et al 2007)(Yamashita et al
2009)や生鮮食料品のマネジメントに関する研究(Nakamori 2007)(山下ら 2007),
地域活性化の事業分析(千原ら 2010a)(千原ら 2010b)(千原ら 2011)などである.
さらには,知識創造場の評価(Nakamori 2006)(Nakamori et al 2005)(Kikuchi et
al 2007),ロードマッピング(Ma et al 2007a)(Ma et al 2007b)といった方面でも
利用されている.
革新的技術のアーカイブに関する研究では技術開発の知識基盤を作ることを目的と して,伝統工芸産業でも特に石川県の九谷焼産業を対象とし,i-System を用いた研 究がなされている(Yamashita et al 2007).具体的には,i-Systemを用いて科学の 次元で,九谷焼産業の技術開発に関するこれまでの取り組みを明らかにし,社会の次 元で,九谷焼産地や伝統工芸産業に関する社会的・文化的背景を明らかにし,認識の 次元で,研究家は遺髪への思いやヒント,アイデア,ひらめきに関して明らかにして いる.このような分析から九谷焼での特に社会的にも大きく注目を浴びた透光性磁器 の研究開発プロジェクトを取り上げて,さらに詳しくi-Systemにて分析している.九 谷焼の特徴は白色の磁器とそれに着色される豊かな色彩である.戦後の九谷焼は製造 しやすいような粘土を用いてきたが,これにより特徴のあった白色度が失われたとい う.そこで,Interventionで問題設定として,光を透過させた白色度の高い透光性磁 器の研究を進めるために客観的に透光性を測定するための評価方法はどのようなもの か,Intelligence では,その研究内容として,試料を段階的にスライスし,透過測定 器と濁度計を使って透光率を測定したが,薬品の種類と添加量が与える影響,焼成条 件が透光性に及ぼす影響はどのようになるのか,Involvementでは社会・文化的背景 として,シンプル・デザインの流行を受けてデザインに映える素地とはどんなもので どのように開発されているのか,Imaginationでは,透光性については水質の濁度を 計測する濁度計を使用することができないだろうかという着想があった.こうしたサ ブシステムをIntegrationでは研究結果として統合し,試料を段階的にスライスして,
透過測定器と濁度計を使用して透光率を測定する方法を確立した.さらに,透光性を 高めるためには成形時に内在する気孔量を減少させることが重要で,素地が焼き締ま るときの気泡の巻き込みを最小にするという結論を得えている.
さらに,Yamashita らは一見すると日本の伝統的な製法や技術,形状やデザインを
38 守り,伝えていく伝統工芸産業の様ないわば技術革新とは無関係であるような産業形 態でも多くの失敗と成功が繰り返されて技術革新が行われてきており現在に至ってい ると指摘している.
生鮮食料品では需要予測に関してはハードシステム的なアプローチにて理工学や情 報学等の分野から多く研究が為されているが,実社会,特に現場でこれらの知識が活 用されて高い成果が得られているとは言いがたい.そこで,小売店の過去の販売デー タをハードシステムアプローチにより分析して需要予測の算出と専門的知見を有する 人々と一般的な消費者の知識を活用する知識マネジメントアプローチを融合した学際 的な視点での需要予測システムを構築している(Ryoke et al 2007).
また,ロードマッピングに関する技術マネジメントに関して i-System の視点で研 究が行われてものでは,ロードマップの作成指針を与えることができると説明してい る(Ma et al 2007c).この研究では,Interventionを動機の次元として,ロードマッ プの作成者たちが「どのようなものを作成するのか」「その利点は何か」「何を計画す るのか」「だれを参加させるのか」「どのようなスケジュールで実施するのか」などに 関する深い洞察を要求することから始まるとしている.Intelligence ではロードマッ プとは合理的・形式的であるとともに直感・暗黙的であるという二つの側面を要求す るとしている.例えば,ロードマップ作成時にコーディネーターは参加者に対して形 式的な情報を探求させる義務があり,そのためテキストマイニング・ツールを用いた 科学データベースの探求を要求し,専門家を収集したワークショップなどで直感的知 識を有効利用すると説明している.Involvementでは社会の次元として社会的動機と 参加者の合意形成の二つの側面を要求する.ロードマッピングでは多くの研究者.専 門家,利害関係者,意志決定者を巻き込む必要があり,カスタマイズされたテンプレ ートやインターネットなど IT 技術を活用したグループウェアを利用して要求に応え ていくとする.Imaginationはロードマップの作成過程を通じて必要としており,参 加者は将来目標に対して「我々はどこにいくべきか」「どのようにすればそこにたどり 着けるのか」という想像を働かせる.その際には,グラフィック・ツール,シミュレ ーション,批判的な議論,ブレインストーミング,対話的計画法などを活用していく.
Integration は,ロードマップ作成過程で何度も実行することを要求している.例え
ば,初期のマップ,少し洗練されたマップ,最終バージョンなどがそれである.しか し,この次元では必ずしも合理的・明示的に実行できるわけではなく,直感や感性的 な知識に頼らなければならない側面があり,そうした場合にはヒューリスティックな 議論を支援するためのソフトウェアを活用することでロードマップを作成していくべ きであると述べている.
技術革新に関する事例では,それの関与者が問題を解決する過程でどういった閃き があったのか,といった視点にも注目している.そして,ロードマップを作成するな ど多様なアクターやステークホルダーが参画する事例では導出される結果が必ずしも