5.4. 知識構成システム論による地域再生システム論の分析
5.4.4. 地域再生システム論での議論(2009 年度)
2009年度の地域再生システム論は2009年10月24日,11月7日,21日,12月5 日の日程で開講された.受講者数は170名であり学外参加者は121名,学内参加者は
96 49 名であった(中森 2010a).2009 年度の初回のグループワークで,どういった点 をみんなで議論のか,議題のテーマをどのようにするのか,という点が最初に話し合 われた.そして,受講生のA氏から話題提供をする形で,市民団体の活動に関する話 から始まった.これまでのバイオマスの取り組みを振り返ることで市民団体の活動を ピックアップして議論したいという流れが生じた.そこで,バイオマス資源として厨 芥類を市民が持ち寄ることで,加賀市全体の焼却ゴミが大きく減少したことを例に挙 げた.下記から,「」内にある()内は筆者の脚注である.
A氏「(現在の)消費市場では,欲しいものを与える,それをほしいと思う市場があ る.そこから次世代を思う市場として(市民団体の活動を)良心の市場として温室効 果ガスがどれだけ低減できたのか,(それを深掘りして)一つの考えとしてみんなでま とめたい」という発言があった.これは,市民活動を具体的な数値として定量化して 評価したいという意図があった.
さらに,
A氏「市民団体の人たちが,どうすればやってよかったと思えるのかを行いたい(検 討したいという意味での発言)」
そうした発言に対して,事業者のB氏は「この紙をもう一度検証したい.現場では 様々な問題が起こっている.その現状をもう一度洗い直すなり,もっと(我々たちの 活動を)把握してほしい.いっぱい難しいことがある.これからどうしていくために.
リサイクル事業者は先端技術がいる.・・・(中略)・・・よりよい堆肥にしていくために.
多少異物が混入されていても,大丈夫な仕組み.(を作りたい)それにより,市民に安 心してもらう」と発言している.
ここでいう「この紙」とは 2008 年度のシステム論で議論をしてとりまとめた加賀 市のバイオマスタウンの厨芥堆肥に関する事業フローのことである.この発言は,事 業者自身がバイオマスの厨芥堆肥化事業である収集・運搬・リサイクルのフローに対 して危機感を持っている現れである.
続けての発言で,
B氏「(ある地域名称をさして)・・・からの農家から軽視されている.ゴミの分別 が徹底されていない.もう少し,議論をしたい」
こうした議論に対して
C氏「現実は,(加賀市バイオマスタウン構想は)市民中心だが,頭打ち,分別の悪 さ.(受講生の農家の方をさして)D さん.農家の反応が悪くなってきた.取り上げ られることが多くなった.我々,事業者は,(バイオマスタウンの)広がりと(その)
結果が違ってきているような気がする」
A氏「枠組みができていないのではいか」
D氏「堆肥になりきれていない.農地がごみ捨て場になっている」
A氏「致命傷ですね」
97 B氏「根底について議論をしたい」
とお互いの本音で議論をしている.なお,ここでのD氏の発言は,D氏個人の考え であり,事業者は厨芥類を適切に処理して,一次発酵と二次発酵をさせて完熟した堆 肥を各農家に配布している.また,この堆肥は成分試験等も行っており安全であると 第三者機関からも認められている.
そこで ,2009年度の地域再生システム論での加賀バイオマスグループの議論テー マを決めるに当たり,バイオマスタウンを進展させるためにはどういう問題を解決し ないといけないのか,議論を行った.
なお,参加者は,昨年度に引き続き行政,事業者(収集事業者,再資源化事業者),
NPO,農家,九谷焼伝統工芸師,市民,学生,講師のコアメンバー10 名と第二回目
から市民団体からさらに3名,山中漆器業界から2名,環境系の事業者から2名の参 加があり,全体で17名となった.
知識構成システム論は次の様に描かれる
1. Intervention:バイオマス資源の循環の根底にある問題をどのようにして解決す るのか
という問いを明らかにする.
その解決には,
2. Intelligence:各アクターに共通している問題は何か
3. Involvement:各アクターはバイオマスタウンでどういった役割を担っているの か
4. Imagination:バイオマス政策での取り組みたい方策や思いはどういったものが あるか
を用いる.そして,
5. Integrationで統合して結果を得る.
1. Intervention:バイオマス資源の循環の根底にある問題をどのようにして 解決するのか
バイオマスタウンを進展させるためには,現状の問題点に関して加賀バイオマスグ ループで議論することで,知のコーディネーターとして,バイオマス資源の「量」と
「質」に関して各ステークホルダー間に共通した問題が存在していることがわかって きた.関係者の間での問題意識として「加賀市がバイオマス政策を公表して2年が経 過した.対外的には成功した先進的なバイオマス利活用の取り組み事例としても認識 されるようになってきた.しかしながら,実際の現場ではうまく行かないことも多く ある.これはなぜか?」という点が投げかけられた.そこで,バイオマスの進展に関
98 しては,バイオマス資源に対して,収集量や再資源化量という面と,集められるまた はリサイクルされる物品の質の面に問題があると考えて,これらの問題を解決するた めの議論と分析が必要である.そのために,知識構成システム論の各次元にて分析を 行う.
2. Intelligence:各アクターに共通している問題は何か
この次元では,関係者に共通する問題や意見は何かを明らかにする.そのために,
各アクターに対してGWでの議論に加えてヒアリングを行う.そして,問題点を抽出 する.そうすると,次の課題があることがわかった.市民や市民団体は,より多くの 厨芥由来堆肥を使用した農作物を購入したいし,よりおいしくいい野菜を購入したい という希望を持っている.事業者は,事業を拡大するために厨芥類の収集量を増加さ せたいという希望を持っている.しかし,収集する厨芥類には不純物の混入があり,
堆肥化には,不純物の除去を要するために,このまま収集量が増加することに対して 危惧を抱いている.農家は,より多くの堆肥を使用したいと考えている.しかし,単 純に多くの堆肥を望むのではなく,発酵済みの完熟した堆肥を欲しており,完熟して いない堆肥や不純物が混入しているような堆肥は使用したくないという.
これは,それぞれ異なることを述べているが,共通した点として,市民・市民団体 は,農作物への高い購入意欲を示しており,事業者は厨芥類の収集量の増加への希望 があり,農家は,堆肥の使用量を増やしたいというようにすべて「量」に関する点で ある.さらに,質に関しては,に言及している.市民・市民団体は,おいしく食せて 質の高い農作物を希望しており,事業者は不純物の少ない厨芥類を希望しており,農 家は完熟して不純物のない堆肥を希望している,という質に関する共通点がある.
ステークホルダーを市民,事業者,農家と簡略化して考えたバイオマス資源の量と 質に関するモデルを図示した.
図32 量と質の問題
この量と質に関する問題は,それぞれが密接に関係しており,例えば,市民から不純
99 物が少なく質のよい厨芥類を多く収集することが出来れば,事業者は安定した堆肥を 供給できる.そして,不純物が少なければ堆肥としての質の向上も見込める.これに より農家は安定した農作物・野菜を市場や市民に届けることができ,より多く普及す ることが出来ればブランド化にも繋がる.また,厨芥堆肥化事業を単純化して,市民,
事業者,農家とすることは,問題の把握と関係者間での理解の促進に資するものであ り,概念モデルをコーディネーターとして提案した.
なお,事業者からは厨芥類の混入物には,紙類,ビニール類,スプーン等の金属な どが含まれていることがあると報告があった.これらの混入物,不純物は,専用車両 での厨芥類の収集時の計量する際に確認して取り除かれている.
3. Involvement:各アクターはバイオマスタウンでどういった役割を担って いるのか
GWでそれぞれが抱えている問題点は科学の次元で明らかにした.そこで,議論の 過程でバイオマスタウンに対して各アクターがどういった役割を担っており,そこか らどういった進展策を担うことができるのかを知るために,コーディネーターを通じ てステークホルダーの目的や実施したい内容について議論した.
市民や市民団体は,厨芥類を提供するという役割を担っている.特に,市民団体は,
自分たちがこの事業の立ち上げに大きく貢献したことに対して自信と誇りを持ってい る.団体では,廃食用油の収集事業も担っており,こうした環境によい取り組みをみ んなで行いたい,そして,加賀市でのバイオマスタウンといった大きな政策に対して も,これを一つの契機として,各団体とも連携して団体の活性化を図っていきたい,
という思いがあることがわかった.
農家は,バイオマスタウンという取り組みを通じて,堆肥を使って農作物を育てて,
それを地域に提供するという役割を担っている.農業者の思いとしては,農業という 一次産業全体が衰退傾向にあり,高齢化が進んでいることに対して,当事者自身も漠 然とはしているが問題意識を抱えている.そこで,新しい取り組みである加賀市バイ オマスタウンという政策に対して,厨芥を使った堆肥で農作物を生産するという資源 の循環型農業に興味を持っている.農業者としては,政策に参加して,持続的に農業 というビジネスを展開し,農業という立場から循環型や環境保全に協力したいという 思いがあることがわかった.
事業者は,市民から提供される厨芥類を堆肥化して,それを農家に提供するという 役割を担っている.事業者は,このような新しい取り組みを環境ビジネスとして捉え ており,単に通常業務の拡大を目指す過程で地域の雇用の創出を担う以外にも,市民 や市民団体,農業という異業種と交流することも含めて地域へと貢献したいという思 いがあることがわかった.
行政は,加賀市バイオマスタウンを公表しており,同政策を進めるための事業運営