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バイオマス政策に対する知識構成システム論

6.1.1. 知識構成システム論の妥当性

加賀市バイオマスタウンという政策の分析に知識構成システム論を用いたが,これ は,多くの人が関わる社会政策を進展させるための最適な方法論であるという理由か らである.先行研究でも示したとおり,これまでのバイオマスに関係する研究のレビ ューでは,別々の分野で独立した議論が為されていた.その中には,具体的にどのよ うにしてバイオマスタウンを進展させていくのか,といった知識への傾注は十分では なかった.

バイオマス資源に対するリサイクルの効率的な方法を技術的に研究したり,効率的 な収集ルートを最適化したり,環境負荷に関して定量化したり,経済的な収支を分析 するといった研究はハードシステムの研究として位置づけられる.この視点で政策の 進展に関して研究を進める場合には,バイオマス政策の明確な目標やマイルストーン を設定する必要がある.しかし,バイオマス・ニッポン総合戦略では達成目標の割合 を定めているが,何に対して最適化するのか,達成するための具体的な戦略は何か,

各自治体はそれに対してどのように協力できるのか,といった点には言及されていな い.各地域で展開されているバイオマス政策の目的は地域に賦存するバイオマス資源 の利活用の推進であり,これを通じた循環型社会の構築することを目指しているが,

それを各自治体の状況をすべて包含する具体策に落とし込むのは困難である.この理 由として,各地域に於いて取り巻く文化,環境,風土など様々な状況が異なるように,

社会政策に携わる人々も多種多様なため最適化が難しいのである.同時に,最適化対 象が明確化されて,方策が明らかになった次には,実社会において,それらを具体的 に実行するプロセスが必要である.

130 そこで,ソフトシステム方法論(またはソフトシステムズ方法論,以下SSM)とい う人が関わる社会問題の解決を行う方法論がある.この SSM は組織が如何にして問 題を認識し,解決するのかといった方法であるが,本研究では採用しなかった.ここ でいう組織とは,ある目的や目標を共有した集団を指す.例えば,企業の組織・部署,

地域の自治組織や任意団体などのコミュニティーである.本研究が対象とするのは,

もう少し大きな範囲である社会政策の当事者たちである.このアクターは,異なる背 景,知識,経験を有している集団であり,知識構成システム論では文化横断的知識の 統合が可能な対象事例である.また,SSMが対象とする組織と違う点は,必ずしもあ る目的や目標をすべて共有している集団ではなく,さらに,営利を目的とした企業体 と営利を目的としない地域住民というステークホルダーも参加しており,互いに利害 関係がある点である.

SSMは原理的には,本論文で注目する地域政策は範囲外であるが,SSMによる問 題解決を想定した場合には,参加者が自ら概念モデルを作成する作業を行う必要があ り,方法論について事前に学び扱えるようになる必要がある.つまり,参加者自身が 問題に対してより主体的に,積極的に介入したり,メタ的に問題意識を捉えたり,と 自主性が求められる.参加者自身の成長には効果的であると推察できるが,そのため には,SSM という方法論の習熟が必要になってくる.こうした点はSSM が「学び」

といった側面を持っているためでもある.

一方,文化横断的知識の統合事例を扱う場合の知識構成システム論は対象となる関 係者にシステム方法論自体の具体的な知識やその習熟は求めていない.これは,参加 者の主体性や積極性を排除するものではない.このシステムが要求するのは運用する ためのコーディネーターである.これは,知のコーディネーターと呼ばれる存在であ り,政策関係者が有する断片的な知識や情報,問題解決に必要な知識を外部からも収 集し,分析し,統合する役割を担う.今回の加賀市を扱った事例では,方法論の習熟 を目的とした問題解決は目指しておらず,政策を進展させる点に主眼を置いている.

そのため,2 章で説明したように加賀市バイオマスタウンの関係者が文化的,社会的 に現実で実行可能な政策を推進するためには,知識構成システム論という文化横断的 な知識の統合が可能なシステム方法論によるアプローチは妥当であるといえる.

6.1.2. システム論の新しいジンテーゼとしての知識構成システム論

知識構成システム論の統合過程に対する合理的な説明は,同方法論が目指す新しい システム論としての命題である知識の創造とはどのようにして為されるのか,という 問いに対する同方法論の理論を補完するものである.同方法論は5つのサブシステム で構成された客観的情報と個々人の人間の持つ断片的知識を組み合わせて,誰も持っ ていない知識を創造するシステムであり,プロジェクトのメンバーあるいは問題関与 者が知識創造システムの一部を構成する参加型のシステムである.例えば,新しい知

131 識を創発的知識と呼ぶ場合に対して,これは明示的に表現することができない「暗黙 知」である.暗黙知から「形式知」に変換する場合は,我々のシステムがそのプロセ スを保有している必要があるため参加型という表現が用いられている.この時,参加 するすべてのアクターがそのプロセスを保有していることは求めておらず,それに関 しては言及されていない.また,創発的知識が暗黙知でないとした場合は,少なくと もシステム自体がそれを有していることになり,誰も持っていない知識という表現に 矛盾が生じることになる(中森 2010b).つまり,知識構成システム論は,「いかに知 るか」「いかに行うか」「いかに評価するか」という問いに答えるものであり,そのた めには統合がうまくやれる人材として知のコーディネーターの介入を要求するのであ る.

しかし,我々,人間というシステムが暗黙知から形式知に変換するプロセスを有し ているために,知識構成システム論を用いた統合(integration)プロセスの導出過程 に対しては詳しく言明されていない.中森(2010b)は Integration の次元は,創造 的プロセスのシステム的ジンテーゼである最終的段階を示すノードであるとしている.

今日の人類の理性的知識の大部分を占める可能な限りの「システミックな知識」を用 いるべきであるとしているが,システム概念は「統合」を得るために適応できる合理 的なツールでしかなく,「統合」は必然的に部分的な直感プロセスであり,それには暗 黙知が必要になり「ひらめき」に信頼を置くものであると説明している.これは,各 サブシステムでの結果を基にした統合過程は,言葉では明示できず,暗黙知を形式知 に変換するプロセスを有する問題関与者に依存するといえる.

そこで,知識構成システム論は,知識はどのようにして創造されるのか,という問 いにおいて,「知識は合理的には説明できずに創発されるものである」という立場(テ ーゼ)と「知識は帰納的に創造されるものであり,科学は実験的経験や帰納,論理の 帰結である」という立場(アンチテーゼ)に対して,「知識は創造的行動や直感的ある いは感情的な創造プロセスの中で創造されるものであるが,このプロセスは合理的に 分析可能である」という立場(ジンテーゼ)をとる.暗黙知と形式知の連続的な変換 に関する理論を論拠に暗黙知と形式知は連続的に変換が可能であり,知識の創造は合 理的に説明が可能だとする立場であると考えられる.

一方,知識構成システム論は,存在論的立場のハードシステムと認識論的多市場の ソフトシステムの両方の特徴を持っているという.そのことは,科学・社会・認識と いう各次元でシステム論としてハードシステムという帰納的な知識プロセスを重視す るものと,ソフトシステムという必ずしも合理的でない人の介在する知識創造プロセ スの両方からアプローチ可能であり,創発的知識は創造的行動や直感的あるいは感情 的な創造プロセスの中で創造されるものであり.統合プロセスは合理的に説明が可能 であるため両者の融合したシステム方法論であると考えられる.