2. 新聞報道を対象としたテキストマイニングによる災害時情報ニーズの把握
2.1. 概説
1.で述べたように,地震後の復旧・復興にあたり,従来型の公助主体の計画・対策には限界が指 摘されており1),来るべき大規模地震災害に備えて,ライフライン防災の面においても自助・共助の 重要性が高まっている.その支援・促進には適切な事前・事後のユーザー行動を支援する取り組みが 必要である.このため,適時適切なライフライン情報の提供が求められている.
一方,災害に関する事後の情報ニーズについては,時空間的に変化することが指摘されている2), 3). その動向を把握することを目的として,地震発生後の新聞報道を対象とした分析が行われてきた.近 年ではテキストマイニングを簡便に実行できるソフトウェアが普及している.これにより,テキスト マイニングの手法を用いて様々な文章(災害後のアンケート調査,新聞,ソーシャル・ネットワーキ ング・サービスなど)を対象とした分析が行われるようになってきた4), 5).そこでは,文章全体の特 徴を把握するとともに,それぞれの着眼点に沿った計量的な分析が行われている.一方で,短期間で 急激に変化するライフライン被害・復旧の状況に焦点を絞った分析を行う余地が残されている.
2016年4月14日と16日に連続して震度7が観測された2016年熊本地震では,各ライフラインシ ステムが甚大な被害を受けた.関係機関から発信されたそれらの被害・復旧過程がまとめられている
6)ものの,需要家の視点からの分析は行われていない.
そこで本章では,ライフラインに関する災害後の情報ニーズの把握に向けた基礎的な検討として,
2016 年熊本地震におけるライフラインに関連する新聞報道(地方紙と全国紙)の推移を分析する7). この分析結果に基づいて,予測モデルに求められる要件を明らかにすることを目的としている.新聞 報道を対象とした理由は,記事群に被災者の暗黙のニーズや社会全体を俯瞰した視点が含まれてい ると考えられることや,客観性が高い情報源とされているためである.地方紙と全国紙の比較を行う のは,情報の伝達対象の違いによって各紙の視点や記事の質・量に差が生じると考えられるためであ る.これらの特性から,公的な資料を対象とした分析を補完する役割が期待される.また,日々発信 される膨大な文字情報のうちライフライン関連の記事を効果的に抽出・分析する必要性があること から,テキストマイニングの手法を用いるのがふさわしいと判断した.
まず2.2.では分析に先立ち,2016年熊本地震による供給系ライフライン(電気,水道,都市ガス)
の被害・復旧過程の概要6)について述べる.2.3.では,2016年熊本地震に関する新聞報道のテキスト マイニングで使用するデータ・ツールについて述べる.2.4.では,2.3.で示した記事群の全体像を概 観するための基礎的な分析(頻出語の集計,主題の把握)について述べる.2.5.では,供給系ライフ ラインに関する主題の時系列変化および供給系ライフラインの停止率6)との比較,主題と関連語の推 移を示す.2.6.では,本章で得られた成果と今後の課題について述べる.
本章で明らかにした予測モデルの要件を踏まえて,3.~6.では,供給系ライフラインおよび交通 系ライフラインを対象とした地震時機能的被害・復旧予測手法の開発を行う.
26
2.2. 2016 年熊本地震における供給系ライフラインの機能的被害・復旧過程
2.2.1. 供給系ライフラインの初期被害・復旧過程6)
2016年熊本地震における供給系ライフラインの停止戸数の解消過程を図 2.1に示す.以下,各ラ イフラインの初期被害と復旧過程の概要についてまとめる.
図 2.1 2016年熊本地震における供給系ライフライン
(電力・水道・都市ガス)の停止戸数の解消過程6)
a) 停電
九州電力(株)管内において最大停電戸数は,前震で1.7万戸,本震で47.7万戸に及んだ.しかし 4月16日8時には系統復旧により18.1万戸まで減少し,その後の復旧も早かった.一方,阿蘇地方
(阿蘇市,高森町,南阿蘇村)では,大規模な土砂崩れにより66KV送電線の鉄塔が使用不可能とな った.このため,全国の電力会社から派遣された高圧発電機車による応急配電が行われ,4 月20日 19時10分に停電が解消された.
b) 断水
厚生労働省のまとめによると,一連の地震で最大断水戸数は 44.5万戸であった.その内訳は,熊 本市32.7万戸,大津菊陽水道企業団(大津町・菊陽町)3.1万戸,益城町1.1万戸,阿蘇市1.0万戸 などである.断水の発生原因は様々であった.特徴的なのは,熊本地域の11市町村では地下水を水 源として浄水場を保有しておらず,濁水の影響が大きかった点である.被害が集中した益城町・西原 村・御船町・南阿蘇村・阿蘇市では復旧の遅れが目立った.また熊本市は4月21日に通水完了とさ れているが,実際には同月30日までずれ込んでいた8).
c) 都市ガス停止
西部ガス(株)熊本支社の供給エリアは,熊本市を中心に2市4町である(益城町内の被害集中地 域はエリア外で,LPガスが供給されている).前震により約1,000戸が供給停止して一部復旧してい たが,本震で10.1万戸が供給停止した.これは,防災業務計画の規定(SIセンサーで60kine以上の
0 50,000 100,000 150,000 200,000 250,000 300,000 350,000 400,000 450,000 500,000
4月16日 4月17日 4月18日 4月19日 4月20日 4月21日 4月22日 4月23日 4月24日 4月25日 4月26日 4月27日 4月28日 4月29日 4月30日 5月1日 5月2日 5月3日 5月4日 5月5日 5月6日 5月7日 5月8日 5月9日 5月10日 5月11日 5月12日 5月13日 5月14日 5月15日 5月16日
停 止 戸 数
2016年
水道(熊本県)
都市ガス(熊本県)
電気(全域・朝)
電気(全域・夜)
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SI 値を記録すると直ちにガスを供給停止)に従った措置によるものである.ガス導管の被害が少な く供給再開が順調に進んだことから,当初の見込みよりも早い4月30日13時40分に復旧作業が完 了している.
2.2.2. 供給系ライフラインの復旧曲線6)
供給系ライフラインの復旧曲線(最大停止戸数を100%として復旧進捗を復旧率として表した曲線)
を図 2.2に示す.これまでの震災と同様に停電・断水・都市ガス停止の順に復旧している.2016年 熊本地震の特徴として,水道と都市ガスの復旧期間がこれまでの震災と比べて大幅に短縮されたこ とが挙げられている.主な要因は,震度曝露規模の違いであるが,加えて,過去の震災を教訓として 各種対策によって初期被害が軽減されたこと,復旧支援体制が早期に確立されたことが挙げられる.
図 2.2 2016年熊本地震における停電・断水・都市ガス停止の復旧曲線6)
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
4月16日 4月17日 4月18日 4月19日 4月20日 4月21日 4月22日 4月23日 4月24日 4月25日 4月26日 4月27日 4月28日 4月29日 4月30日 5月1日 5月2日 5月3日 5月4日 5月5日 5月6日 5月7日 5月8日 5月9日 5月10日 5月11日 5月12日 5月13日 5月14日 5月15日 5月16日
復 旧 率
2016年
水道(熊本県)
都市ガス(熊本県)
電気(全域・朝)
電気(全域・夜)
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