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断り発話冒頭部に出現する個別意味公式

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第 5 章 1 回目の断り発話に着目した分析([課題 2])

5.3 結果と考察

5.3.2 断り発話冒頭部に出現する意味公式

5.3.2.2 断り発話冒頭部に出現する個別意味公式

次は、個別意味公式を分析する。上記の図 5-2 に示されている 3 つの意味公式カテ ゴリーのそれぞれに属する、具体的な個別意味公式の内訳は以下のとおりある。

表 5-1 1 回目の断り発話冒頭部に出現する個別意味公式(単位:組)

意味公式 カテゴリー

個別 意味公式

JNS-F JNS-M 意味公式 カテゴリー

個別 意味公式

SNS-F SNS-M

1 回目の断り 1 回目の断り

{直接的断り} 【不可】 7 4

{直接的断り} 【不可】 3 6

小計 7 4 小計 3 6

{間接的断り}

【理由】 1 5

{間接的断り}

【理由】 6 3

【謝罪】 0 3 【謝罪】 1 3

【言い差し】 0 2 【批判】 1 1

小計 1 10 小計 8 7

{付随表現}

【ためらい】 15 10

{付随表現}

【困惑】 11 13

【繰り返し】 4 5 【ためらい】 4 1

【情報確認】 3 1 【繰り返し】 3 0

小計 22 16 【願望】 1 2

合計 30 30 【受諾】 0 1

小計 19 17

合計 30 30

表 5-1 に示されているように、断り発話の冒頭で使用される個別意味公式を頻度の 高い順に列挙すると、JNS-F は、【ためらい】が 50.0%(15 組)、【不可】が 23.3%(7 組)、

【繰り返し】と【情報確認】がそれぞれ 13.3%(4 組)と 10.0%(3 組)で、【理由】は 3%(1 組)であった。このことから、JNS-F は基本的に【ためらい】({付随表現})と

【不可】({直接的断り})を断り発話の冒頭で使用することが分かる。他方、JNS-M は、

【ためらい】33.3%(10 組)、【理由】と【繰り返し】が 16.7%(5 組)、【不可】が 13.3%

(4 組)、【謝罪】・【言い差し】・【情報確認】がそれぞれ 10.0%(3 組)・6.7%(2 組)・

1.1%(1 組)である。このことから、JNS-M にはあまり偏りがなく、さまざまな意味公 式を冒頭で使用するが、その中でも、【ためらい】({付随表現})と【理由】{間接的断 り}と【繰り返し】({付随表現})を優先的に使用していることが分かる。以上のこと より、JNS は、男女とも【ためらい】({付随表現})を優先的に使用することが明らか になった。また、JNS-F は【不可】({直接的断り})を、JNS-M は【理由】{間接的断り}

と【繰り返し】({付随表現})を優先的に使用する傾向が見られる。

本調査の結果と吉田(2011a; 2015)の結果を比べてみると、吉田(2011a, p. 229)は 冒頭部の意味公式の分析をした結果、JNS で最も多かったのは{間接的断り}の【言い

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訳/理由】で(37.1%)、一方、{直接的断り}はほとんど見られなかった(2.9%)とい う。この結果に基づいて、吉田は、JNS が冒頭部に【言い訳/理由】の{間接的断り}

を多用するのは、直接性を軽減し、相手に断りの意図を察してもらうことを期待して いるからだと述べている。しかしながら、本調査の結果では JNS-F は【理由】をほと んど使用せず、むしろ、【ためらい】を最も多く使用し、また、直接性を表す【不可】

の使用も 23.3%(7 組)見られた。

吉田(2015)は断り発話の冒頭に JNS は{直接的断り}はほとんど見られず、{間接 的断り}と{付随表現}が多く見られたという(p. 74)。しかしながら、本調査の結果 から、必ずしもそうではない場合があると言える。特に、親しい同性の友人どうしで は直接性を見せる可能性がある。既述のように、森山(1990, p. 62)は、日本人の断り 場面では男女ともに率直に嫌だと言うのは、親しい相手に対しては対人関係に敢えて 配慮する必要がないからだという。

次に、SNS の断り発話の冒頭に出現する個別意味公式で、出現頻度が高い順に列挙す ると、SNS-F では【困惑】が 36.7%(11 組)、【理由】が 20.0%(6 組)、【ためらい】が 13.3%(4 組)、【不可】と【繰り返し】が 10.0%(3 組)、【願望】が 3%(1 組)であった。

このことから、SNS-F には偏りがあまり見られず、さまざまな意味公式を冒頭で使用し ているが、その中でも【困惑】({付随表現})と【理由】({間接的断り})を優先的に使 用していることが分かる。他方、SNS-M は、【困惑】が 43.3%(13 組)、【不可】が 20.0%

(6 組)、【理由】と【謝罪】は同様に 10.0%(3 組)、【願望】と【ためらい】がそれぞ れ 6.7%(2 組)と 3.3%(1 組)であった。この結果から、SNS-M は、基本的に【困惑】

({付随表現})と【不可】({直接的断り})を優先する傾向にあることがわかる。以上 の結果から、SNS は断り発話の冒頭で、男女とも【困惑】({付随表現})を優先的に使 用している点が共通している。また、SNS-F は【理由】({間接的断り})を、SNS-M は

【不可】({直接的断り})を優先的に発話する傾向にあることが明らかになった。

JNS と SNS を比較すると、1 回目の断り発話の冒頭部で優先的に使用される個別意味 公式について、JNS の場合、男女とも【ためらい】({付随表現})を優先的に使用する 点で共通しているが、JNS-F は【ためらい】の使用が JNS-M より 16.7 ポイント多かっ た。一方、JNS-M は【理由】の使用が JNS-F より 13.3 ポイント多かった。他方、SNS で は、男女とも【困惑】({付随表現})を優先的に使用している点が共通している。男女 による大きな違いはないが、SNS-F は【理由】を SNS-M より 10.0 ポイント多く発話し、

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SNS-M は【不可】を SNS-F より 10.0 ポイント多く発話している。この結果から、両母 語話者は 1 回目の断り発話の冒頭部においてともに{付随表現}の意味公式カテゴリ ーを最も多く使用するが、そこに属する個別意味公式の選択には言語によって優先す るものが異なることが明らかにされた。

次は、断り発話の冒頭で使用される率が比較的高い個別意味公式について、意味公 式カテゴリーごとにその内容を考察する。対象となる意味公式は、{付随表現}の【た めらい】と【困惑】、{直接的断り}の【不可】、そして{間接的断り}の【理由】と【謝 罪】である。

(1){付随表現}の【ためらい】と【困惑】について

JNS と SNS の結果を比較してみると、女性でも男性でも共通点としては{付随表現}

の使用が最も多かったが、表現の内容が異なっていることが明らかになった。顕著に 見られる違いは、まず、{付随表現}において JNS は【ためらい】を、SNS は【困惑】

を使用するという点であった。その他に、両母語話者では【繰り返し】なども見られ た。これらの付随的な表現は前章の[課題 1]で分析されたように、断りによって生じ る不愉快や摩擦を緩和するために、断りを表明する前の緩衝材として使用される。付 随的な表現は、断り発話に至るまでの過程だけでなく、断り発話の冒頭部でも多く出 現していた。

前章[課題 1]において既に論じたように、JNS は断り発話に至るまでの過程で【た めらい】を多く用いていた。この節では、断り発話に至るまでの段階で見られる、独 立的な発話で出現する【ためらい】ではなく、断り発話の冒頭部に見られる【ためら い】に焦点を当てる。任(2002)と邱(2002)によると、日本語の断りにおいて【ためら い】が先行するのは、断り発話の直接性を緩和させ、あるいは断りを予告するためで あるという。また、断り発話の先頭に【ためらい】を先行して使用することによって、

相手の依頼の意に添えない気持ちが伝わるだけでなく、「断りの予告」の機能を持って いるため、不愉快さを緩和できるという(邱 2002, p. 26)。さらに、任(2004, p. 70-71)

は、断り発話の冒頭に見られる【ためらい】を十分に利用すれば共話54を導くことがで きると述べている。例えば、断り場面において、依頼を受けて断る側は「うーん」と

54 水谷(1983, p. 43)によると、二者間で問い、答えるという話し方を「対話」というが、互い に相手の話を完結し合う関係には「共話」という。

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【ためらい】のみ文頭で述べ、次に依頼側が先取り発話、つまり、相手が言いにくそ うだと察し、依頼側が相手の後続発話を先取りして、「無理ですか」と完結させる共話 が自然に生まれる可能性があると主張している。

JNS は、断り発話に至るまでの過程において【ためらい】を多用するだけでなく([課 題 1]を参照)、断り発話の冒頭でも【ためらい】を優先して使用していることが明ら かにされた。この結果から、断り発話の冒頭に出現する【ためらい】は、相手に対する 配慮行動として重要な役割を果たしていることが分かる。

他方、【困惑】は、JNS には見られなかったが、SNS が多く使用している。具体的に は、SNS-F では 36.7%(11 組)、SNS-M では 43.3%(13 組)で使用されている。【困惑】

は、断り発話の冒頭に現れる間投詞や感情表出の“Aduh/Duh55”、“Kumaha nya?”(〖ど うしよう〗)、または両方の組み合わせ“Duh, abi teh kumaha nya?”(〖 ドゥー56、私ど うしようかな〗)である。“Aduh/Duh”は前章で述べたように、スンダ語では 1 つの感 動詞であり、感動や応答などを表すために使用される。このような【困惑】を意味す る表現は困った気持ちを表す時にしばしば使用される。

以上、JNS の【ためらい】と SNS の【困惑】は、断り発話に至るまでの過程に見られ るだけでなく、断り発話の冒頭部にも多く使用されることが分かった。

(2){直接的断り}の【不可】について

断り発話の冒頭部に【不可】が出現するのは、JNS-F が 23.3%(7 組)で、JNS-M が 13.3%(4 組)である。他方、SNS-F は 10.0%(3 組)で、SNS-M が 20.0%(6 組)であ る。このことから、JNS では女性が、SNS では男性が、それぞれ 10 ポイントずつ多く 使うことが分かった。1 回目の断り発話で【不可】に分類される表現に、「断る」や「お 断りします」のような遂行表現57は見られなかった。JNS-F の【不可】には、以下の会 話例 5-6 と 5-7 のように、「ちょっと」という副詞や「かな」という終助詞など、表現 の直接性を和らげる語句が付加されることが多い。

55 “Duh”は“Aduh”の略語である。

56 第 3 章 研究の枠組み、注 46 を参照のこと。

57 3 章の断り発話の分析における枠組みに書かれているように、【遂行表現】とは直接的に 断りの意志を表す表現である(3.4.1節、47-49頁)。

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