第 5 章 1 回目の断り発話に着目した分析([課題 2])
5.3 結果と考察
5.3.3 意味公式の出現パターン
5.3.3.1 意味公式カテゴリーの出現パターン
{直接的断り}、{間接的断り}、{付随表現}という 3 つの意味公式カテゴリーが、1 回目の断り発話においてどのような構成で出現するかを分析した結果を、以下の表 5-2 にまとめた。図の示し方に関して説明すると、便宜上、意味公式カテゴリーの使用数
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によって順に並べた。意味公式カテゴリーの使用 1、つまり、単独使用の場合から始 め、意味公式カテゴリー使用数 2、3、4 という順で並べる。意味公式カテゴリーの出 現パターン60を提示した後、3 つの意味公式カテゴリーを基準にグループ化し、全体的 な意味公式カテゴリーの使用傾向を見ることとする(詳細は以下の 5.3.3.2 節を参照)。
各意味公式カテゴリーは次のように表すことにする。 は{付随表現}を、
は{間接的断り}を、 は{直接的断り}を指す(吉田(2015, p. 69) を参照)。
表 5-2 1 回目の断り発話における意味公式カテゴリーの出現パターン
60 ここで用いる出現パターンとは1つの断り発話を構成する意味公式カテゴリーの出現順を考 慮した型を指すものである。
JNS-F JNS-M SNS-F SNS-M
5 3 1 3
0 4 4 2
7 6 6 6
0 0 2 1
0 4 0 0
2 1 1 3
1 1 1 3
0 0 0 1
0 0 0 1
4 1 0 0
0 1 3 1
0 1 2 1
1 0 1 1
1 0 0 0
0 1 1 0
0 0 1 0
0 1 0 0
0 0 1 0
1 0 0 0
2 1 0 1
0 1 0 1
0 0 0 1
1 0 0 0
0 1 1 1
1 0 0 0
0 0 0 1
0 0 0 1
0 0 1 0
1 0 0 0
0 0 1 0
0 1 0 0
0 1 0 0
0 0 1 0
0 0 0 1
1 0 0 0
0 0 2 0
2 0 0 0
0 1 0 0
30 30 30 30
合計(組)
意 味 公 式 カ テ ゴ リ ー の 出 現 パ タ ー ン
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表 5-2 が示すように、意味公式カテゴリーの出現パターンは、まず、全体として全 話者に共通して一番多く出現しているのが、上から 3 番目にある{付随表現}+{間 接的断り}の組み合わせである。
各言語話者についてみると、JNS-F において最も多いのは{付随表現}+{間接的断 り}で 23.3%(7 組)である。次に、単独使用の{直接的断り}が 16.7%(5 組)が続 き、{付随表現}」+{間接的断り}+{直接的断り}が 13.3%(4 組)である。他方、
JNS-M において最も多いパターンは{付随表現}+{間接的断り}が 20.0%(6 組)で ある。次は、単独使用の{間接的断り}と、{間接的断り}+{間接的断り}がともに 13.3%(4 組)、{直接的断り}が 10.0%(3 組)である。この結果から、JNS では男女で 有意差が見られず、JNS-F でも JNS-M でも意味公式カテゴリーのパターンにおいて{付 随表現}+{間接的断り}が最も多く使用されていることが共通している。一方、JNS-F は単独使用の{直接的断り}および{付随表現}+{間接的断り}+{直接的断り}
を、JNS-M は単独使用の{間接的断り}および{間接的断り}+{間接的断り}を使用 している点に、それぞれの特徴を見ることができる。
それに対して、SNS-F においては{付随表現}+{間接的断り}が 20.0%(6 組)で 最も多く、その次は単独使用の{間接的断り}が 13.3%(4 組)である。また、{付随 表現}+{間接的断り}+{付随表現}が 10.0%(3 組)である。他方、SNS-M におい ては{付随表現}+{間接的断り}が 20.0%(6 組)で最も多く、その次は単独使用の
{直接的断り}、{付随表現}+{直接的断り}、{直接的断り}+{付随表現}が同じく 10.0%(3 組)である。この結果から、SNS でも男女間で有意差は見られず、男女とも に最も多く使用されている意味公式カテゴリーのパターンは{付随表現}+{間接的 断り}であることが共通している。一方、SNS-F は単独使用の{間接的断り}、{付随表 現}+{間接的断り}+{付随表現}の使用から{間接的断り}を使用する傾向が、そ して SNS-M は単独使用の{直接的断り}、{付随表現}+{直接的断り}、{直接的断り}
の使用から{間接的断り}を使用する傾向があり、そこにそれぞれの特徴を見ること ができよう。
JNS と SNS の意味公式カテゴリーの出現パターンを比較すると、JNS と SNS の間にお いて{付随表現}+{間接的断り}の使用がともに最も多く、かつ男女間に有意差が見 られなかったという点が共通している。また、単独使用では JNS-F は{直接的断り}
を、JNS-M は{間接的断り}を中心に使用している。一方、SNS-F は{間接的断り}を、
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SNS-M には{直接的断り}を主に使用している。この点にそれぞれの特徴的な傾向を見 ることができる。それぞれの会話例を以下に示す。
会話例 5-11 JNS-F15 発話文
番号 話者 発話内容
11 A うん、代わって欲しくて。← 依頼発話 12 B あー、私に?
13 A うん。
14 B ①そうなんか、へー②実は私も明日バイトが入っとって。← {付 随表現}(【ためらい】)+{間接的断り}(【理由】)
会話例 5-12 SNS-F03 発話文
番号 話者 発話内容
15 A
Tabuh opat, pan rada nyalse meureun tabuh opat mah, tah kumaha tiasa teu ○○? 〖4 時、多分 4 時なら少しは暇かと思って、どう、できま すか。〗← 依頼発話
16 B
Duh, abi teh kumaha nya...tabuh opat teh aya ospek, ospek jurusan.〖デ ゥー、私どうしよう、4 時には学科のオリエンテーションがある。
〗← {付随表現}(【困惑】)+{間接的断り}(【理由】)
上の会話例 5-11 の発話文 14B が示すように、断る側は「そうなんか、へー」と{付 随表現}(【ためらい】)を述べてから、「実は私も明日バイトが入っとって。」と{間接 的断り}(【理由】)を述べているので、使用しているのは{付随表現}+{間接的断り}
の出現パターンとなる。他方、会話例 5-12 の発話文 16B が示すように、断る側は “Duh, abi teh kumaha nya.”(〖デゥー、私どうしよう〗)と{付随表現}(【困惑】)を表明 してから、“Tabuh opat teh aya ospek, ospek jurusan”(〖4 時には学科のオリエンテーシ ョンがある。〗)と{間接的断り}(【理由】)を表明しているというパターンであ る。また、両母語話者ともに{付随表現}の連続使用が見られた。その例を、以下の会 話例 5-13 と 5-14 に示した。
会話例 5-13 JNS-F20 発話文
番号 話者 発話内容
2 A
=さっき友達にお願いしたら断られちゃって(うん)私も急用で行 けなくなっちゃったんだけど(うん)、○○にお願いすることって できる?← 依頼発話
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3 B
①うーん、②手伝いたい気持ちは山々なんだけど、③ちょっと私も できないかもしれないんだけど[声が小さくなる]。← {付随表 現}(【ためらい】)+{付随表現}(【願望】)+{直接的断り}
(【不可】)
会話例 5-14 SNS-F12 発話文
番号 話者 発話内容
21 B Hmm..iraha seminarna teh?〖うーん、学会はいつ?〗
22 A Enjing da.〖明日。〗
23 B
Enjing nya, kumaha nya enjing teh abi teh tos aya jangji euy.〖①明日か ー、②どうしよう、③明日はね、もう約束があるの〗← {付随表 現}(【繰り返し】)+{付随表現}(【困惑】)+{間接的断り}
(【理由】)
上記の会話例 5-13 の発話文 3B が示すように、断る側は「①うーん、②手伝いたい 気持ちは山々なんだけど、③ちょっと私もできないかもしれないんだけど。」 と{付 随表現}(【ためらい】)、{付随表現}(【願望】)、{直接的断り}(【不可】)
と述べ、そこに{付随表現}の連続使用が見られた。他方、会話例 5-14 の発話文 23B に見られるように、断る側は“Enjing nya, kumaha nya enjing teh abi teh tos aya jangji euy”
(〖①明日かー、②どうしよう、③明日はね、もう約束があるの。〗)と{付随表現}
(【繰り返し】)、{付随表現}(【困惑】)、{間接的断り}(【理由】)とと述べ、
そこに{付随表現}の連続使用が見られた。
上記のように、意味公式出現パターンにおいて、両母語話者間では大きな違いが見 られなかった。しかしながら、JNS-F の単独使用の{直接的断り}と SNS-F の{間接的 断り}のそれぞれの特徴が挙げられる。すなわち、単独使用の{直接的断り}は JNS-F では 5 組(16.7%)出現し、SNS-JNS-F では 1 組(3.3%)のみである。他方、SNS-JNS-F は、単 独使用の{間接的断り}が 4 組(13.3%)であるが、JNS-F では全く使用されていない。
つまり、JNS-F は{直接的断り}を、SNS-F は{間接的断り}を使用する傾向が若干見 られる。それぞれの以下の会話例 5-15 と 5-16 のとおりである。
会話例 5-15 JNS-F09 発話文
番号 話者 発話内容
1 A 学会に頼まれて、それで自分が急用できたから代わってもらってい い? ← 依頼発話
2 B できないかな。←{直接的断り}(【不可】)
90 会話例 5-16 SNS-F23
発話文
番号 話者 発話内容
7 A
Tapi, tapi diemut-emut deui dinten Kemis teh ○○ teh aya kuliah, teu bisa digentos. 〖よく考えたら、今度の木曜日は○○が授業があって、
帰れません。〗← 依頼発話
8 B
Ih lamun Kemis mah abi ge atuh kuliah terus lamun Kemis mah kuliahna ge dugi ka sore.〖木曜日なら私も授業があって、それで夕方まで。
〗← {間接的断り}(【理由】)
上記の会話例 5-15 の発話番号 2B に示されているように、JNS は「できないかな」
と単独使用の{直接的断り}(【不可】)を使用している。一方、SNS は会話例 5-16 の 発話番号 8B では“Ih lamun Kemis mah abi ge atuh kuliah terus lamun Kemis mah kuliahna ge
dugi ka sore”(〖木曜日なら私も授業があって、それで夕方まで。〗)と単独使用の{間
接的断り}(【理由】)を使用している。
意味公式カテゴリーの出現パターンについて、吉田(2015)の結果と比較する。吉 田(2015)は、日本語母語話者(JNS)とインドネシア人マナド語母語話者(MNS)の勧 誘に対する断りを分析した。その結果、吉田(2015)では、JNS の結果は{付随表現}
+{間接的断り}が最も多く、本研究の結果と一致している。ただし、次に出現割合が 高い単独使用の{間接的断り}の吉田の分析結果は、本研究の分析結果と異なる。本 研究では単独使用の{間接的断り}は、JNS-M に見られたが、JNS-F では、その代わり に単独使用の{直接的断り}が見られた。一方、吉田(2015)では女性のデータのみ示 されており、性差まで分析されていない。藤原(2003, pp. 149-150)は、日本語母語話 者(JNS)とインドネシア母語話者(INS)の断りを比較し、INS は「誘い」、「依頼」の 断り場面において断り意図を{直接的断り}で表す【不可】表現を多用する傾向があ るが、それに対し、JNS は{直接的断り}を避ける傾向があると述べている。この点も、
本研究の結果と一致していない。
従来、これまでの先行研究の断り場面において、JNS は曖昧で、間接的に断りの表明 をするなど、それほど明確に断りをしない傾向にあると指摘されてきたが、本研究の 結果からすると、必ずしもその指摘どおりではないことがわかる。つまり、JNS-F は、
断り場面において{間接的断り}を使用することが断りの典型例とは言えない可能性 があるということである。既述のように(p. 90)、JNS-F は若干{直接的断り}を使用 しており、意味公式の出現パターンは{間接的断り}より、{直接的断り}が使用され