• 検索結果がありません。

第 5 章 社会レベル

第 1 節 国の教育政策の影響

方 法 調査時期 2014年5月~9月

調査対象 中国の北京と延吉の小学校教師

実施方法 筆者の知人の校長先生を通して,中国の北京市にある二つの小学校と,吉林省 延吉市にある二つの小学校を訪問し,学校の環境,学級の様子,授業の様子,

担任教師の学級作りの様子などを見学した。それぞれの学校の担任教師を対象 に質問紙調査を行い,その後ランダムで二人の教師(延吉一人,北京一人)を 選んで30分~1時間程度のインタービューをした。

質問紙 ①「小学生用短縮版学級風土質問紙」(伊藤,2009a)

②「教師リーダーシップ行動測定尺度」(三隅・矢守,1989)

(それぞれの中国語版は筆者が訳し,日本語に熟達している中国人留学生等4名のチェ ックを経て作成されたものである。)

有効回答 有効回答として質問紙データ2 部(女性,北京 1 人,延吉 1 人)と,インタ ービューデータ2部が得られた。

倫理配慮 すべての関係者の承認を得たうえでビデオや録音を撮った。

結 果 1.小学校の教育環境の調査結果

① 北京(大都市)

学校の環境:建物が新しい,庭が広い,教室が広くてきれいで日当たりもいい。陶芸教 室,もの造り教室,凧揚げ手作り教室,紙きり教室,ロボット実験教室,電子実験教室,

組立教室,書道教室,ダンス練習室,楽器演奏室,美術教室,など(図 42~図44)多種 多様な教科学習目的以外の教室がある。子どもたちが豊富多彩な学校生活を送っていると 考えられる。さらに子どもの心のケアをするため,心理相談室(図45)も設置された。

42 書道教室(左上)・美術教室(左下)・廊下の図書コーナー(右)

43 ロボット実験教室(左)・組立教室(右)

44 航空模型教室(左上)・電子実験教室(左下)・裁縫教室(右)

45 心理相談室(左上は心理健康規準;左下は相談コーナー;右は休憩コーナー)

教室の様子:20 人~30 人前後の小規模な学級である。デスクの並びは一人一人独立し ているか,二つのデスクがくっつくか,みんな同じ方向で前を向いている。教室の窓側に は植物の鉢植えがあり,その反対側にはクラス全員の名前が書かれているボートがある。

先生に褒められた子どもに笑顔のマークをつけるある種の個人品行記録ボートである。

授業の様子:電子パネル(図 46 左下の白いボード)が導入され,パソコンを使う授業 が多いが,低学年の授業は旧来の授業とは変わらない(図46左上)。

46 授業の様子(右の黒板の後ろは電子パネル)

子どもの様子:先生の指示に従い,まじめに授業を受ける事ができる。活発的で明るく て,自分の気持ちや意見などを素直に他の人に表す事ができる。元気よくあいさつできる。

担任教師の様子:子どもと接するとき,上下関係を感じたが,子どもたちに「あれこれ しなさい」とよく丁寧に指示を出す。不真面目な子どもを注意しながら授業を進める。子

どもたちの家庭事情を全部詳しく知り,プライベートで保護者の応援をする事もある。

② 延吉(地方都市)

学校の環境:学校①は延吉市の周辺都市にある学校である。学舎は一つしかない。建物 がやや古く,敷地がまあまあ広い。建物一階の廊下に無料電話(図 47 右)があり,子ど もがもしもの事があるとき,すばやく保護者と通話できる。教室の外,廊下の壁に自分の クラスの子どもの書道作品や作文,絵画などが飾られている(図47左)。

47 学校①の廊下の様子

学校②は延吉市の都市中心部にある学校である。生徒数が多くて教室が足りない状況で ある。学校①も学校②も教科学習目的以外の教室が少ないが,一応準備はされている(図 48)。給食は学校内の食堂で作られている。食品安全の問題が見られなかった。

48 学校①のドリーム教室(自由に使える実際の生活にかかわるゆとりの教室)

教室の様子:学校①がある都市の若者は出稼ぎで人口が減少し,学校がどんどん合併し た。そのため,学校①は30人前後の小規模な学級になる。30人前後の子どもたちを4チ ームにわけている。高学年の教室内のデスクは教室の四角に集まり,対面で並べている(図

49)。学校①は「高効授業」の実験校である(後ほど説明する)。学校②は生徒数が多いた

め,60人前後の大規模な学級になる。

49 学校①の教室の様子

授業の様子:学校①では,「高効授業」が実施されたため,授業は面白かった(図 50~

図52)。

授業の流れはまず「独学」で,10 分くらい自分で勉強する。次に「対学」で,10 分く らい対面でのクラスメートとペアを組んで一緒に勉強する(ペアできないとき3人で勉強 する)。次に「群学」で,7人か8人かのチームで約15分勉強し,チームで発表する。最 後に10分くらいで先生がまとめる。

グループ学習の方法としては,まずクラス全体を4つのチームに分ける。そのうち二つ ずつ同じテーマで研究し,発表をする。同じテーマのグループ同士で互いに評価し,その 評価の妥当性を他のテーマの二つのグループに問い,評価を修正し,最終的な評価とする。

同様に他のテーマの二つのグループも同じような事をする。

各チームにはチーム名があれば,チームの目標やスローガンもある。それらを含んでチ ームメンバとリーダーの名前を教室の前と後ろにある4つのブラックボートに書かれてい た。そのブラックボートと教室にある電子パネルはチーム発表のときにも使える。子ども たちは積極的に発言し,勉強に取り組んでいる。クラス全員が授業を楽しんでいるように みえる。

50 「高効授業」の様子(独学中)

51 「高効授業」の様子(群学中)

52 「高効授業」の様子(群学後の発表の準備)

子どもの様子:先生の指示に従い,まじめに授業を受ける事ができる。子どもたちの座 席が近いせいか,たまに揉め事が起きる。「高効授業」を実施して以来,子どもの授業参加

率は100%に上がった,学級全員の国語と英語の平均成績も上がった。

担任教師の様子:授業中子どもの様子を観察し,難しい顔をする子に速やかに教えてあ げる。子どもと接するときは,厳格そうな態度をとる。子どもたちの家庭事情を全て詳し く知り,保護者とよく連絡をとる。

2.質問紙調査の結果

① 学級風土

北京と延吉の担任教師が認知した自分が担当している学級の学級風土得点と金・田中

(2017)の平均得点(2014年5月に取得したデータを2017年の学会で発表した)を示し たのは図53である。

53 学級風土各因子の得点

図 53 より,学級風土のポジティブ因子「学級活動への関与」,「学校への満足度」につ いて,北京と延吉の得点は平均値とほぼ同じである事が分かった。ネガティブ因子「学級 内の不和」について,延吉の得点は北京や平均値より高い事が分かった。どちらでもいえ ない因子「規律正しさ」について,延吉の得点が北京や平均値より高く,「学習への志向性」,

「自然な自己開示」について,北京の得点は延吉や平均値より高い事が分かった。

② 教師のリーダーシップ

北京と延吉の担任教師が認知した自分のリーダーシップの得点と金・田中(2016b)の 平均得点(2014 年 5 月に取得したデータを 2016 年の学会で発表した)を示したのは図 54である。

1 2 3 4 5 6

北京 延吉 平均

54 P行動とM行動の得点

図 54 より,P 行動について北京と延吉との得点差がなかったが,共に平均値より高い 事が分かった。M行動について,延吉の得点が北京や平均値より高い事が分かった。北京 の得点が延吉や平均値より低い事が分かった。

3.インタービュー調査の結果

① 学級運営の心得

延吉のデータ 学級全体のイメージについて,延吉の先生は自分が担当している学級の中,

学習成績の悪い子が多いが,保護者とよく連携して成績の向上に努力した。子供たちは高 学年になると,学級内のいじめやグループ化など,不和の現象が起きた,そのとき先生が 過ちを犯した子どもに説教したり,その子の保護者と連絡したりして,結果的には不和の 雰囲気を解消した。

学級内のルールについては,実際に問題を阻止する事ができないから,ただの目標やス ローガンに過ぎなかったと先生が述べた。実際に起きた問題を解決するには道理(何が正 しい,何が悪い事)を教えたり,よい対人の習慣を培ったりしかできなかった。

「高効授業」など授業改革の方法に対して,不信感を持ち,授業の形式だけ変えて,結 局成績の悪い子どもが受験で落ちたら最後。国の受験制度が変わらない限り何も変わらな いと思われている。子どもはもちろん大人さえ勉強が嫌いだから,子どもの学習意欲が低 いのは当たり前だと考えている。子どもたちの学習意欲が低いけど,「己の知識が己の運命 を変える」という意識を叩き込み,勉強したくないけど勉強せざるを得ないので,子ども たちに勉強させられた。

先生はとても熱心な先生で,2010年に職業病を患い,のどの手術がされた。しかし自分 の学級を他の先生に任せられなくて,退院次第に復帰した。6 年間この学級を担当し,学

40 45 50 55 60 65

P行動 M行動

北京 延吉 平均