第 6 章 三つのレベルでの知見
第 2 節 学級レベルと社会レベル
方 法 調査時期 2014年5月
調査対象 中国の北京市と吉林省延吉市にある二つの小学校の現役教師(クラスの担任を 持つ教師)。
調査方法 筆者が二つの小学校で,知人に質問紙調査の依頼をした。それぞれの学校で 教師会議の時間を利用して質問紙の配布,回答,回収を行った。
質問紙 ①「教師リーダーシップ行動測定尺度」(三隅・矢守,1989)
②「小学生用短縮版学級風土質問紙」(伊藤,2009a)
(それぞれを元に,筆者が訳した中国語版を日本語に熟達している中国人留学生等4名 のチェックを経て作成したもの)
有効回答 有効回答としては102部(男性8人,女性94人,北京50人,延吉52人)が 得られた。
(本調査は第3章第2節の調査とは同じ調査である。)
結果と考察 1.調査協力教師の諸属性
キャリア 102名の教師をキャリアで分類したところ,初任教師(キャリア1~10年)が 38名,中堅教師(キャリア11~20年)が39名,ベテラン教師(キャリア21年以上)が 25名であった。
授業形態 調査の協力をいただいた北京の小学校と延吉の小学校の低学年は旧来の一斉授 業を行い,延吉の小学校の高学年では高効授業を行っている。合わせて一斉授業を行って いる教師は74名,高効授業を行っている教師は28名であった。
科目数 国語,数学,英語の専科の教師(単一)が 60 名,国語・数学,数学・道徳など 二科目を教える教師(複数)が42名であった。
PM型分布 リーダーシップについて,P得点,M得点それぞれの平均得点を境にP,p,
M,mを定義し,その組み合わせでリーダーシップPM型の定義をした結果,PM型が41 名,pM型が18名,Pm型が19名,pm型が24名であった。
2.授業形態,科目数が教師のリーダーシップと学級風土に及ぼす影響
教師のリーダーシップと学級風土の各因子について,授業形態,科目数を独立変数とし,
2要因分散分析を行った。その結果が下記の通りである。
① P行動
図65 P得点における授業形態と科目数の得点 表44 P得点における授業形態と科目数の効果
表44,図65より,P行動について,授業形態にかかわらず科目数の主効果が見られ,
単一科目を担当する教師より複数の科目を担当する教師のほうがP行動の得点が高い事が 分かった。その原因について,教師が教える科目の数が増える事によって,子どもたちと 触れ合う機会が増える。複数科目の教師はコマ数が多い分,授業の準備,授業秩序の維持,
生徒学業の監督などの業務に費やした時間は単一科目の教師より多い事が考えられる。そ のため,複数科目を担当している教師は授業場面で子どもと触れ合いの中に規律を強調し たり,統制をとったりするという自分のP行動の印象が一科目だけ担当する教師より自分 のP行動を発揮している実感が強いと思われる。
② M行動
図66 M得点における授業形態と科目数の得点
30 40 50 60
一斉授業 高効授業
P 得 点
単一平均 複数平均
要因 平方和 df 平均平方 F 有意確率
授業形態 35.763 1 35.763 .691 .408
科目数 294.916 1 294.916 5.695 . 0 1 9 授業形態*
科目数 119.400 1 119.400 2.306 .132
誤差 5075.023 98 51.786
総和 5937.843 101
30 40 50 60
一斉授業 高効授業
M 得 点
単一平均 複数平均
表45 M得点における授業形態と科目数の効果
表45,図66よりM行動について,科目数にかかわらず授業形態の主効果が見られ,旧 来の一斉授業より高効授業のほうがM行動の得点が高い事が分かった。つまり,高効授業 のような子どもが主役で教師が見守り役のグループ学習の授業形態は教師の M 行動を高 める効果があると言える。高効授業では教師が机間巡視をしながら,子どもたちの様子を 観察したり,子どもの学習の個別指導をしたり,生徒間のトラブルを解消したりする事に よって,教師自身のM行動を高める事が考えられる。
③ 「学級活動への関与」
図67 学級活動への関与における授業形態と科目数の得点
表46 学級活動への関与における授業形態と科目数の効果
表46,図67より,学級活動への関与について授業形態の主効果が見られ,一斉授業よ り高効授業のほうが得点が高い事が分かった。
④ 「学級への満足度」
図68 学級への満足度における授業形態と科目数の得点
要因 平方和 df 平均平方 F 有意確率
授業形態 391.013 1 391.013 9.651 . 0 0 2
科目数 65.295 1 65.295 1.612 .207
授業形態
* 科目数 151.883 1 151.883 3.749 .056
誤差 3970.583 98 40.516
総和 4914.588 101
0.00 1.00 2.00 3.00 4.00 5.00 6.00
一斉授業 高効授業
学 級 活 動 へ の 関 与 得 点
単一平均 複数平均
要因 平方和 自由度 平均平方 F 値 有意確率
科目数 0.105 1 0.105 0.193 0.661
授業形態 5.214 1 5.214 9.614 0 . 0 0 3 科目数 *
授業形態
1.244 1 1.244 2.293 0.133
誤差 53.147 98 0.542
総和 61.666 101
0.00 1.00 2.00 3.00 4.00 5.00 6.00
一斉授業 高効授業 学
級 へ の 満 足 度 得 点
単一平均 複数平均
表47 学級への満足度における授業形態と科目数の効果
表47,図68より,学級への満足度について,科目数の主効果が見られ,単一科目より 複数科目を担当する教師のほうが得点が高い事が分かった。また科目数と授業形態の交互 作用が見られ,高効授業において差がないが,一斉授業において単一科目より複数科目を 担当する教師のほうが学級への満足度の得点が高い事が分かった。
⑤ 「自然な自己開示」
図69 自然な自己開示における授業形態と科目数の得点
表48 自然な自己開示における授業形態と科目数の効果
表48,図69より,自然な自己開示について科目数の主効果が見られ,単一科目より複 数科目を担当する教師のほうが得点が高い事が分かった。
⑥ 「規律正しさ」
図70 規律正しさにおける授業形態と科目数の得点
要因 平方和 自由度 平均平方 F 値 有意確率
科目数 2.970 1 2.970 4.142 0 . 0 4 5
授業形態 0.928 1 0.928 1.295 0.258
科目数 * 授業形態
3.179 1 3.179 4.434 0 . 0 3 8
誤差 70.264 98 0.717
総和 83.814 101
0.00 1.00 2.00 3.00 4.00 5.00 6.00
単一平均 複数平均
自 然 な 自 己 開 示 得 点
一斉授業 高効授業
要因 平方和 自由度 平均平方 F 値 有意確率
科目数 4.947 1 4.947 7.598 0 . 0 0 7
授業形態 0.023 1 0.023 0.035 0.853
科目数 * 授業形態
0.023 1 0.023 0.035 0.853
誤差 63.813 98 0.651
総和 71.103 101
0.00 1.00 2.00 3.00 4.00 5.00 6.00
一斉授業 高効授業
規 律 正 し さ 得 点
単一平均 複数平均
表49 規律正しさにおける授業形態と科目数の効果
表49,図70より,規律正しさについて授業形態の主効果が見られ,一斉授業より高効 授業のほうが得点が高い事が分かった。
以上より,アクティブラーニングの高効授業は旧来の一斉授業より「学級活動への関与」,
「規律正しさ」を高める効果があると言える。その原因について,アクティブラーニング の高効授業の特徴は子どもの能動性,学習の自主性などを引き出す授業形態である。その ため旧来の一斉授業より高効授業のほうが子どもの学級活動への関与を高める効果がある と思われる。また,高効授業は学年全てのその科目を担当する教師によって作成された導 学案(教案に相当する)に沿て,子どもが高効授業の流れの通りに「独学」,「対学」,「群 学」を行い,導学案には各流れでの学習目標や学習時間の目安が規定されており,子ども が授業に専念するしかできない状態であるので,学級のルールの遵守がよくなったと思わ れる。
また,単一科目を担当する教師より複数科目を担当する教師のほう「学級への満足度」,
「自然な自己開示」を高める効果があると言える。その原因について,複数科目を担当す る教師のほうが子どもと接触する機会が多いので,単一科目を担当する教師より子どもに とって親しみを感じやすく,子どもがその先生と一緒にいるとより気楽に自分の気持ちや 意見を表し,学級にいると楽しく感じると思われる。
3.授業形態による四種PM型の出現率
授業形態によるPM型の出現率は図71の通りである。
図71 授業形態によるPM型の出現率
χ²検定を行った結果,χ²=11.2518, df=3, p=.010で有意であった。つまり,授業形態 によってPM型の出方が違う事が分かった。図3の通り,授業形態によってPM型の出方
要因 平方和 自由度 平均平方 F 値 有意確率
科目数 0.216 1 0.216 0.378 0.540
授業形態 2.123 1 2.123 3.717 0 . 0 5 7 科目数 *
授業形態
1.449 1 1.449 2.537 0.114
誤差 55.961 98 0.571
総和 61.586 101
0% 20% 40% 60% 80% 100%
一斉 高効
PM Pm pM pm
が違う。高効授業の場合はPM型が最も多く,pm型が最も少ない,Pm型よりpM型の ほうが多い事が分かった。つまり高効授業は M行動の高い PM 型指導形態を多く生み出 す事が考えられる。この結果は高効授業と同様なアクティブラーニングの実践において,
M行動の発揮が高くなる教師の指導形態を生み出す事が推測できる。
4.地域とキャリアが教師のリーダーシップと学級風土に及ぼす影響
教師のリーダーシップと学級風土について,地域とキャリアの効果を検討するため,2 要因分散分析を行った。その結果が下記の通りである。
① P行動
図72 P行動における地域とキャリアの得点 表50 P行動における地域とキャリアの効果
図71,表50より教師のリーダーシップP行動において地域の主効果が見られ,延吉の 教師の得点は北京の教師の得点より高い事が分かった。また地域とキャリアの相互作用が 見られ,初任教師,中堅教師においては延吉の教師の得点が高いが,ベテラン教師におい ては北京の教師の得点が高い事が分かった。
② M行動
図73 M行動における地域とキャリアの得点
30.00 40.00 50.00 60.00
初任教師 中堅教師 ベテラン教師 P
得 点
延吉平均 北京平均
要因 平方和 自由度 平均平方 F 値 有意確率
地域 364.694 1 364.694 7.774 0 . 0 0 6 キャリア 192.342 2 96.171 2.050 0.134 地域 *
キャリア
529.550 2 264.775 5.644 0 . 0 0 5
誤差 4503.456 96 46.911
総和 5937.843 101
30.00 40.00 50.00 60.00
初任教師 中堅教師 ベテラン教師 M
得 点
延吉平均 北京平均