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子どもの社会的地位の自己認知の改善

第 8 章 学級風土改善に対する提言

第3節 子どもの社会的地位の自己認知の改善

日本も中国も子どもの「生きる力」を育てることを教育の目標の1つとしている。「生き る力」は自分を取り巻く環境の変化に適応する生存に関わる能力であると定義することが 考えられる。具体的には,あらゆる集団(家庭,学級,会社,社会など)の中で,物理環 境・組織環境の変化に順応する能力,他の集団構成員と良好な人間関係を築き・維持する 能力,生きるための知識・スキルを習得し利用する能力,生涯学習能力,自分の欲求・要 求と他者の利益や社会道徳規範・法律の葛藤を処理する能力,などの能力が挙げられる。

これらの能力を育てるため,子どもがメゾレベルでの認知・行動の変容や社会性の発達,

学習能力の獲得・訓練・使用の過程,などを把握する必要がある。そこで本研究では「社 会的地位の自己認知」という概念を導入し,メゾレベルの家庭と学級に行き来する子ども が自分の所属する集団における対人的地位についての自己認知を検討する必要があると考 えられる。

集団での社会的地位について,Moreno, Jennings & Stockton(1943)はソシオメトリ ック・テストを提案した。学級集団において,集団内構成員についての好き嫌いを子ども に尋ね,ソシオグラムで分析し,リーダーを中心に大きな仲間グループがいる学級や,い くつかのグループに分かれ,孤立している子どもが多い学級など,集団内の人間関係を一 目瞭然にする方法である。しかし,この生徒間にお互いの好き嫌いを直接尋ねる方法は,

子どもの心理的負担をかけてしまう欠点もある(田中,2003a;伊藤,2017a)。藤本(2004)

はその欠点を補うため,集団内の人間関係について直接好き嫌いを尋ねるのではなく,他 の構成員との関係の親密さを5段階で評価するソシオプロフィール法を開発した。しかし,

これらの方法で捉える社会的地位は,他人の情緒的な側面からの評価による自分の間接的 な「地位」で同定されたものであって,その集団内における成員の直接的な「地位」の認 知的判断に基づくものではない。

本研究では上記の諸点を踏まえて,直接的に社会的地位の自己認知を測定でき,かつ多 様な場面で集団内成員にどう見られているのかについての自己認知が測定できるスケール を開発した。その尺度を用いて,家庭レベルと学級レベルが絡み合うメゾレベルでの,保 護者の養育態度と子どもの家庭での社会的地位の自己認知の関係,家庭での社会的地位の 自己認知と学級での社会的地位の自己認知の関係,学級での社会的地位の自己認知と学級 風土の関係,を検討した。その結果が下記の通りであり,それらの結果から子どもの社会 的地位の自己認知の改善策を考察する。

1.子どもの家庭での社会的地位の自己認知の改善

保護者の養育態度と子どもの家庭での社会的地位の自己認知の関係から見ると,子ども の家庭での社会的地位の自己認知各因子において保護者の養育態度パターンの差について,

「家族愛的地位」においては,応答性・統制両方高い「権威的養育態度」が応答性だけ高 い「許容的養育態度」,両方低い「無関心的養育態度」より高い事が分かった。「家族排斥 的地位」においては,応答性・統制両方高い「権威的養育態度」が両方低い「無関心的養 育態度」より高い事が分かった。つまり,子どもの家庭での社会的地位の自己認知につい て,保護者の「権威的養育態度」は「家族愛的地位」を高め,「家族排斥的地位」を低くす

るのに最も効果的な養育態度であり,保護者の過度の愛情表現を示す「許容的養育態度」

は「家族愛的地位」を低くし,保護者の「無関心的養育態度」はあってはならない養育態 度であると考えられる。

家庭での社会的地位の自己認知と学級風土の関係から見ると,「家族愛的地位」は学級風 土のポジティブ因子である「学級への満足度」,「学校活動への関与」,「規律正しさ」,「学 習への志向性」,「自然な自己開示」とは正の有意な相関が見られ,学級風土のネガティブ 因子である「学級内の不和」とは負の有意な相関が見られた。「家族排斥的地位」は学級風 土のポジティブ因子である「学級への満足度」,「学校活動への関与」,「規律正しさ」,「学 習への志向性」とは負の有意な相関が見られ,学級風土のネガティブ因子である「学級内 の不和」とは正の有意な相関が見られた。「家族承認希求的地位」は「自然な自己開示」と は正の有意な相関が見られた。つまり,子どもの家庭での社会的地位の自己認知について,

「家族愛的地位」は肯定的な学級風土,「家族排斥的地位」は肯定的ではない学級風土につ ながると考えられる。そのため,保護者は「家族愛的地位」を高め,「家族排斥的地位」を 低くするのに最も効果的な「権威的養育態度」をとることが肯定的な学級風土につながる と考えられる。

吉澤ら(2017)は養育者の応答性の養育行動を,子どもは自分をほめるしつけと認知し,

子どものルール適切性を高め,反社会的認知バイアスを抑制していた事と,養育者の穏や かに話しかける平穏議論態度を,子どもは統制の養育態度と認知し,規範意識を高め,反 社会的な認知バイアスを抑制する効果がある事を指摘した。換言すれば,保護者が「権威 的養育態度」を持ち,子どもに働きかけ,子どもが保護者の行動を「権威的養育態度」と 認知し,子どもがその認知を内在化された社会的ルールとして獲得した結果,反社会的認 知バイアスを抑制したと言える。そのため,保護者はまず自分の養育態度を見直し,「権威 的養育態度」を持ちながら子どもに働きかけ,常にその働きかけの効果を確認し,子ども の適応的な認知・行動をほめ,不適応的な認知・行動を指摘することが重要である。

2.子どもの学級での社会的地位の自己認知の改善

学級での社会的地位の自己認知と学級風土の関係から見ると,学級風土のポジティブ因 子である「学級への満足度」,「学級活動への関与」,「規律正しさ」,「学習への志向性」,「自 然な自己開示」と「主導的地位」,「追随的地位」とは正の有意な相関が見られ,「浮遊的地 位」とは負の有意な相関が見られた。学級風土のネガティブ因子である「学級内の不和」

と「追随的地位」,「虚勢的地位」とは負の有意な相関が見られ,「浮遊的地位」とは正の有

意な相関が見られた。「虚勢的地位」と「学級への満足度」,「規律正しさ」,「自然な自己開 示」とは正の有意な相関が見られた。また,各学級での社会的地位の自己認知因子におい て学級風土パターンの差について,「主導的地位」,「追随的地位」,「虚勢的地位」において は学級風土ポジティブ高群がネガティブ高群より高く,「浮遊的地位」においてはその逆で あった。

以上より,学級での社会的地位の自己認知を「浮遊的地位」と認知している子どもに注 意を払う必要があり,「浮遊的地位」と認知している子どもに対して,聞く・話すのような 初歩的スキル,助けを求め,指示に従うなど高度のスキル,自分の感情を知り,感情を表 現するなど感情処理のスキル,許可を求め,自己統制などの攻撃に代るスキル,不平を言 い,苦情に応えるなどストレス処理のスキル,何をするか決め,問題がどこにあるか決め るなどの計画のスキル(菊池,1988)のような「社会的スキル」の訓練を行う事が効果的 であると思われる。本研究の第7章で紹介したように,子ども達に話し合いの場を提供す るA先生の「子どもと相談して学級のルールを作る,そのルールをクラスの前に置かれて いるボードに書く」や,B先生の「皆で話し合い,学級のルールとルール違反の罰を決め る」の活動は有効であると考えられる。