第 4 章 家庭レベル
第 1 節 保護者の養育態度と子どもが認知した自分の性格特性
方 法 調査時期 2012年9月
調査対象 中国の北京市の小学校では5,6年生及びそれぞれの子どもの保護者を対象に,
吉林省の延吉市の小学校では6年生及びそれぞれの保護者を対象に,質問紙調 査を行った。
質問紙 ①「保護者の養育態度」(中道・中澤,2003)
②「小学生用5因子性格検査」(曽我,1999)
(それぞれを元に筆者が訳し,日本語に熟達している中国人留学生等4名のチェックを 経て作成したもの)
調査方法 筆者の知人を通して,北京の8学級(5年生の4学級,6年生の4学級)と延 吉の5学級(6年生)の担任教師に依頼した。各担任教師はホームルームで自
分のクラスの生徒に対して質問紙調査を行った。その後子どもに自分の質問紙 と同じ番号を振ってある保護者回答用の質問紙を家に持ち帰り,保護者に回答 してもらってから翌日,学校に持ってくるように指示した。
有効回答 回答に不備のある質問紙を除き,有効回答として北京市の8学級で197部,延 吉市の5学級で132部,合計329部(子どもデータ:女160人,男169人,5 年生99人,6年生230人;保護者データ:女160人,男169名)が得られた。
(本調査は第3章第3節と同時期に調査を行った)
結果と考察 1.保護者の養育態度の分布,地域差
保護者の養育態度パターンの分布についてまとめたのが表34の通りである。
表34 保護者の養育態度パターン分布
保護者の養育態度における地域と性別の差について,2要因分散分析を行った結果,統 制における地域と性別の主効果が見られなかったが,応答性における地域の主効果が見ら れた(図36,表35)。
HH HL LH LL 延吉 40 23 34 35 北京 82 36 37 42 女 58 28 34 40 男 64 31 37 37
図36 応答性における地域と性別の得点
表35 応答性における地域と性別の効果
表 35 より,保護者の養育態度の応答性において,地域の主効果が見られ,延吉より北 京のほうが得点が高い事が分かった。つまり保護者が子どもの意図・欲求に気付き,愛情 のある言語的・身体的表現を用いて,子どもの意図をできる限り充足させようとする行動 について延吉と比べ,北京のほうがこのような行動が多い事が言える。その原因について,
地方都市部では若者が出稼ぎで子どもを親や親戚に預けている事が多いため,子どもの保 護者は祖父母や親戚になり,その保護者から自分の意に沿う愛情のある言動を得る事がよ り困難だと思われる。そのため,北京の保護者の方が応答性の得点が高いと考えられる。
2.保護者の養育態度パターンによる子どもの性格特性の差
保護者の養育態度パターンによる子どもの性格特性各因子得点の差について1要因分散 分析を行った。その結果「協調性」,「統制性」,「外向性」における養育態度パターンの差 が見られたが,「情緒性」,「開放性」における養育態度パターンの差が見られなかった事が 分かった(図37~図39)。
① 協調性
図37 協調性における養育態度パターンの差
1.00 2.00 3.00 4.00
女 男
応 答 性 得 点
延吉平均 北京平均
要因 平方和 df 平均平方 F 有意確率
地域 1.379 1 1.379 4.638 .032
性別 .079 1 .079 .267 .606
地域 * 性別 1.572E-05 1 1.572E-05 .000 .994
誤差 96.631 325 .297
総和 98.100 328
1 2 3
HH HL LH LL
協 調 性 得 点
子どもの性格特性の協調性における保護者の養育態度パターンについて,1要因分散分 析を検討した結果,F(3,105)=5.850, p=.001で有意であった。そこで多重比較を行った結 果,HH型(権威的養育態度)がLL型(無関心的養育態度)より得点が高く(p<.001), LH型(権威主義的養育態度)がLL 型より得点が高い(p=.048)事が分かった。つまり 保護者の子どもの意図・欲求に気付き,愛情のある言語的・身体的表現を用いて,子ども の意図をできる限り充足させようとする行動と,子どもの意志とは関係なく,親が子ども にとって良いと思う行動を決定し,それを強制する行動の二つの行動を増やす,また後者 の行動だけを増やす事は二つの行動ともしない事より,子どもの人間関係を重視し,他人 の気持ちを思いやり,共感や信頼を強く感じる性格特性が育つと言える。
② 統制性
図38 統制性における養育態度パターンの差
子どもの性格特性の統制性における保護者の養育態度パターンについて,1要因分散分 析を検討した結果,F(3,105)=5.704, p=.001で有意であった。そこで多重比較を行った結 果,HH 型(権威的養育態度)がHL型(許容的養育態度)より高く(p=.039)LL 型よ り得点が高い(p=.001)事が分かった。つまり保護者の子どもの意図・欲求に気付き,愛 情のある言語的・身体的表現を用いて,子どもの意図をできる限り充足させようとする行 動と,子どもの意志とは関係なく,親が子どもにとって良いと思う行動を決定し,それを 強制する行動の二つの行動を増やす事が前者の行動だけを増やす事や二つの行動ともしな い事と比べ,二つの行動を増やすほうがより子どもの自己を統制し,責任感が強く,物事 に積極的に取り組もうとする性格特性を育てると言える。
1 2 3
HH HL LH LL
統 制 性 得 点
③ 外向性
図39 外向性における養育態度パターンの差
子どもの性格特性の外向性における保護者の養育態度パターンについて,1要因分散分 析を検討した結果,F(3,105)=3.769, p=.013で有意であった。そこで多重比較を行った結 果,HH型(権威的養育態度)がHL型(許容的養育態度)より得点が低い(p=.040)事 が分かった。つまり保護者の子どもの意図・欲求に気付き,愛情のある言語的・身体的表 現を用いて,子どもの意図をできる限り充足させようとする行動と,子どもの意志とは関 係なく,親が子どもにとって良いと思う行動を決定し,それを強制する行動の二つの行動 を増やす事は,前者の行動だけを増やす事より,子どもの自己を統制し,責任感が強く,
物事に積極的に取り組もうとする性格特性が育つと言える。
以上より,応答性・統制共に高い権威的養育態度は子どもの思いやりのある協調性,物 事を積極的に取り込みやり遂げる統制性の性格特性を育てる一方,攻撃傾向のある外向性 の性格特性を抑える事ができると考えられる。換言すれば,子どもに愛情表現を示しなが ら社会的規範も規制する望ましい養育態度は協調性,統制性のようなポジティブな性格特 性を育て,外向性のようなネガティブ性格特性を抑える事ができると言える。この結果が 戸田(2006)の「権威的態度の親を持つ子どもは喧嘩を避けようとする傾向が見られ自主 性も見られる」とは同じである。
応答性だけが高い許容的養育態度は,外向性の性格特性を育てる一方,統制性の性格特 性を抑える事ができると考えられる。これは奥田(1996)より指摘した「受容的な養育態 度で育った子どもは自律性が高い」とは違った結果が見られた。許容的養育態度の保護者 は子どもを中心に愛情表現ばっかり示し,社会的規範を教えない。その結果,子どもを好 き放題にさせてしまい,社会的規範や他者とのかかわり方を習得させずに,子どもは自分 の怒りや感情のコントロールができなく,困難や挫折したらすぐに保護者に頼ってしまい,
物事を最後までやり遂げる事もできなくなる。
1 2 3
HH HL LH LL
外 向 性 得 点
統制だけ高い権威主義的養育態度は,協調性の性格特性を育てると考えられる。これは 中道・中澤(2003)の「権威主義的態度の親を持つ子どもは他者からの働きかけに対して 攻撃的な反応を示す傾向が強い」とは違った結果が見られた。保護者の権威主義的養育態 度は保護者が正しいと思う事を子どもに押し付け,子どもの意に沿う愛情表現を示さない 養育態度であり,子どもが保護者に対して威厳を感じ,保護者の言う通りに行動するか,
逆に反発して他者に対して攻撃てきな反応になるかと推測できる。前者の子どもは社会的 規範を守り,協調性のある性格特性が育つが,後者の子どもは他者からの自分への働きか けに対し応答的な行動モデルを獲得できず攻撃的な傾向を示す外向的の性格特性が育つと 考えられる。