第 3 章 学級レベル
第 4 節 学級での社会的地位の自己認知と学級風土
方 法 調査時期 2015年9月
調査対象 中国の北京市D小学校の本校と分校,4,5,6年生の子どもを対象にした。
質問紙 ①「小学生用短縮版学級風土質問紙」(伊藤,2009a)
②「学級での社会的地位の自己認知」(金,2016)
(それぞれを元に筆者が訳し,日本語に熟達している中国人留学生等4名のチェックを 経て作成したもの。)
実施方法 D小学校の校長先生の同意を得て,本校と分校で勤務している教師2名に質問 紙の配布・回収を依頼した。自習授業の時間を利用して,子どもに質問紙への 回答を求めてから回収した。
有効回答 回答に不備のある質問紙を除き,有効回答として377部の有効回答を得た。女 性180人,男性173人,不明24人(4年生59人,5年生198人,6年生100 人,不明19人)であった。
結果と考察 1.学級での社会的地位の自己認知と学級風土の関係
学級での社会的地位の自己認知と学級風土各因子の相関検定を行った。その結果が表33
の通りである。
表33 学級での社会的地位の自己認知と学級風土の相関検定結果
「主導的地位」と「学級内の不和」以外の学級風土各因子とは正の有意な相関が見られ た。つまり,自分は影響力を持ち,かつ皆に受け入れられていると認知している子ども程,
学級にいる楽しさが多くなり,学級活動に関与する熱心さが高くなり,学級のルールの遵 守がよくなり,学習意欲が高くなり,対人の自己開示度が高くなると言える。逆にこのよ うな学級風土ポジティブ因子の得点が高い子どもが,学級での社会的地位の自己認知につ いて主導的地位と認知する事が言える。
「浮遊的地位」と「学級内の不和」とは正の有意な相関が見られ,他の学級風土各因子 とは負の有意な相関が見られた。つまり,自分は影響力を持たず,かつ皆に受け入れられ ていないと認知している子ども程,学級での緊張感を高め,学級にいる楽しさや学級活動 に関与する熱心さが低くなり,学級のルールを遵守できなくなり,学習意欲や対人の自己 開示度が低くなるなどが言える。逆にこのような学級風土ポジティブ因子の得点が低く,
ネガティブ因子の得点が高い子ども程,学級での社会的地位の自己認知について浮遊的地 位と認知する事が言える。
「追随的地位」と「学級内の不和」とは負の有意な相関が見られ,「規律正しさ」以外の 他の学級風土各因子とは正の有意な相関が見られた。つまり,自分は影響力を持たずに学 級の皆に受け入れられていると認知している子ども程,学級での緊張感を緩め,学級にい る楽しさや,学級活動に関与する熱心さ,学習意欲,対人の自己開示度などが高くなると 言える。逆にこのような学級風土ポジティブ因子の得点が高く,ネガティブ因子の得点が 低い子どもが,学級での社会的地位の自己認知について追随的地位と認知する事が言える。
「虚勢的地位」と「学級内の不和」とは負の有意な相関が見られ,「学級への満足度」,
「自然な自己開示」,「規律正しさ」とは正の有意な相関が見られた。つまり,自分は影響 力を持つと思うが,皆に受け入れられていないと認知している子ども程,学級での緊張感
関与 不和 開示 満足 学習 規律 主導的地位 浮遊的地位 追随的地位 虚勢的地位 関与 1 -0.41 0.34 0.56 0.58 0.67 0.15 -0.24 0.27 0.08 不和 *** 1 -0.17 -0.36 -0.40 -0.39 -0.04 0.39 -0.21 -0.10 開示 *** *** 1 0.41 0.32 0.37 0.14 -0.12 0.27 0.13 満足 *** *** *** 1 0.46 0.54 0.18 -0.35 0.34 0.13 学習 *** *** *** *** 1 0.58 0.15 -0.19 0.16 0.10 規律 *** *** *** *** *** 1 0.14 -0.23 0.25 0.11 主導的地位 ** n.s. ** *** ** ** 1 -0.05 0.07 0.21 浮遊的地位 *** *** * *** *** *** n.s. 1 -0.36 -0.07 追随的地位 *** *** *** *** ** *** n.s. *** 1 0.19
虚勢的地位 n.s. * * * n.s. * *** n.s. *** 1
N= 377
を高め,学級にいる楽しさや対人の自己開示度が高くなり,学級のルールの遵守がよくな ると言える。逆に学級での緊張感を気にせず,学級にいると楽しく感じ,学級のルールを 遵守でき,自由に自分の意見を言えるなどの子どもが,学級での社会的地位の自己認知に ついて虚勢的地位と認知する事が言える。
2.学級での社会的地位の自己認知における学級風土パターンの差
学級での社会的地位の自己認知各因子における学級風土パターンの差について,1要因 分散分析を行った。その結果が図32~図35の通りである。
① 主導的地位
図32 主導的地位における学級風土パターンの差
図 32 の通り,主導的地位における学級風土パターンの差について,1要因分散分析を 検討した結果,F(3,118)=5.339, p=.002で有意であった。そこで多重比較を行った結果,
学級風土のネガティブ高群が全高群より低く(p=.002),ポジティブ高群より低い(p=.044)
事が分かった。
② 浮遊的地位
図33 浮遊的地位における学級風土パターンの差
図 33 の通り,浮遊的地位における学級風土パターンの差について,1要因分散分析 を検討した結果,F(3,118)=11.917, p<.001で有意であった。そこで多重比較を行った結果,
学級風土のネガティブ高群がポジティブ高群より高い(p<.001)事が分かった。
0 1 2 3 4 5 6
全高群 ポジティブ高群 ネガティブ高群 全低群 主
導 的 地 位 得 点
0 1 2 3 4 5 6
全高群 ポジティブ高群 ネガティブ高群 全低群 浮
遊 的 地 位 得 点
③ 追随的地位
図34 追随的地位における学級風土パターンの差
図 34 の通り,追随的地位における学級風土パターンの差がについて,1要因分散分析 を検討した結果,F(3,118)=10.35, p<.001で有意であった。そこで多重比較を行った結果,
学級風土のネガティブ高群が全高群より低く(p=.011),ポジティブ高群より低い(p<.001)
事が分かった。
④ 虚勢的地位
図35 虚勢的地位における学級風土パターンの差
図 35 の通り,虚勢的地位における学級風土パターンの差がについて,1要因分散分析 を検討した結果,F(3,118)=2.904, p=.038で有意であった。そこで多重比較を行った結果,
学級風土のネガティブ高群がポジティブ高群より低い(p=.026)事が分かった。
以上より,主導的地位,追随的地位,虚勢的地位について,学級風土ポジティブ高群の 得点は学級風土ネガティブ高群に比べて有意に高く,浮遊的地位について,学級風土ポジ ティブ高群の得点は学級風土ネガティブ高群に比べて有意に低い事が分かった。この事か ら,学級では自分の社会的勢力をアピールしない子どもは自己顕示欲が低く,皆に受け入 れられていないため学級活動に参加する熱意も低く,学級内の緊張感を感じやすくなり,
学級の秩序の遵守もよくない,学習意欲も低くなり,次第に学級にいる楽しさも低くなる と推察できる。
脚注:本章は,金(2013),金(2014),金・田中(2014a),金・田中(2014b),金(2017a)の内容を再 構成したものである。
0 1 2 3 4 5 6
全高群 ポジティブ高群 ネガティブ高群 全低群 追
随 的 地 位 得 点
0 1 2 3 4 5 6
全高群 ポジティブ高群 ネガティブ高群 全低群 虚
勢 的 地 位 得 点