第4章 感性性能設計技術
4.2 操舵トルク入力の定量化指標に基づく性能設計
4.2.8 操舵系の剛性,摩擦,パワーアシストのバラツキによる影響
ここでは,操舵系の剛性,摩擦,EPSのパワーアシストのバラツによる操舵特性への影 響を考える.機械的な特性である剛性と摩擦による操舵のバラツキと,EPSのパワーアシス トがある場合の比較をおこなう.ここで定義した剛性,弾性摩擦の剛性と摩擦の大きさ全 てと,車両運動を決定づける前後の正規化等価Cpが,基準値に対して基準値5%の標準偏 差の正規分布のバラツキを持つと仮定する.各剛性,摩擦のパラメータ,等価Cpに正規分 布ランダムで5,000個のデータを入れ,第4段階の傾きと切片を計算する,いわゆるモンテ カルロ法でバラツキを算出する.図4-35にEPSの摩擦部分Fpsについての例を示す.標準 値2.0 Nmとして,その5%を標準偏差σ =0.1 Nmとする.3σ =0.3 Nmとなり,99.7%が0.17
~0.23 Nmの範囲に入る.0.02 Nmごとに区切った分布の様子を図4–36に示す.
次にパワーアシストの有無(Gps=2.5,Gps=1)による第4段階での操舵トルク-操舵角特性の 傾きを図4-37に,操舵トルク-操舵角特性の切片の分布を図4-38に示す.傾きは0.02 °/Nm ごとに区切った分布であり,切片は 0.1 °ごとに区切った分布で表す.傾きはパワーアシス トにより,その分布が広がり,傾き自身も大きくなる.これは,パワーアシストの影響が 大きいことを示していると同時に,パワーアシストの小さい領域では,操舵系の剛性や摩 擦が操舵の立ち上がり特性を決定づけていることを示している.したがって,オンセンタ
の微小な領域では,これらの要素の値や精度が大切であることがわかる.それに対して切 片の分布は大きな違いが見られない,また,基準値の値も若干小さくなるが,大きな違い が見られない.そして基準値の変動の方向が異なっている.このように,摩擦一つとって も中間パラメータの値の影響が異なるため,多数の部品で構成される場合は,バラツキの 予測は困難であり,解析結果をもとにモンテカルロ法を用いることは一つの解決法である と言える.
図4-35 EPS摩擦部材のトルクの分布
図4-36 EPS摩擦部材のトルクの分布
図4-37 第4段階の操舵トルク-操舵角の傾きの分布
図4-38 第4段階の操舵トルク-操舵角の切片の分布
次に,操舵トルク-操舵角特性の2.0 Nm,3.0 Nm各点での操舵角のバラツキを求め,そ のバラツキから考察をおこなう.操舵トルク2.0 Nm,3.0 Nm点では,操舵の段階が第4段 階であり,この段階の傾きの切片及び操舵トルクで決まる.Asm設定の場合のアシスト特性 を用いる場合,2.0 Nm,3.0 Nm各点での出力/入力Gpsはそれぞれ約2.39,2.81となる.
算出した操舵トルク2.0 Nm,3.0 Nm点での操舵角の値を表4-12に示し,0.1 °ごとに 区切ったバラツキの分布を図4-39,図4-40に示す.
表4-12 操舵トルク2.0 Nm,3.0 Nm点での操舵角の値
図4-39 第4段階の操舵角の分布@操舵トルク2.0Nm
Steering torque Mean Max Min s +3 s -3 s
2Nm 5.51 7.61 3.75 0.51 7.04 3.98
3Nm 13.77 17.79 10.39 0.92 16.52 11.01
Steering angle [°]
図4-40 第4段階の操舵角の分布@操舵トルク3.0Nm
以上の結果から,基準値としての平均値と±3σの点を,Asmの操舵トルク-操舵角特性と 重ねてかくと,図4-41となる.平均値を「*」,+3σ を「+」,-3σ を「○」と表示する.た だし,計算は切り込み側だけの特性のバラツキを対象におこなった.
このように最終的な操舵角の応答特性のバラツキが見積もれることを示した.この例の ようにほとんどすべての構成要素に標準偏差5%程度のバラツキがあると,最終的な操舵角 の値としては,大きな変動を生じる.これは,量産した車両の操舵特性として見た場合,
±3σの間に生産された車両の99.7%が入ることを意味している.
図4-41 操舵特性のバラツキ検討結果