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シミュレーションによる解析

第4章 感性性能設計技術

4.1 車両運動と操舵系要素が操舵トルク特性に及ぼす影響解析

4.1.5 シミュレーションによる解析

の伝達効率から,摩擦を考慮しない場合,入力操舵角からの等価Cpは式(4.60)となる.

さらにトータル剛性Ktotal0を用いない場合は式(4.61)となる.

ξ δ

f s

sat K

T 0= N (4.58)

g mD N C

K T f wf

s

sat sat 2

2 0 0

ξ θ =

= (4.59)

f sat total R f

f C

K C K C

0 0 0

* = 2 =

θ

θ (4.60)





 +

+

=

t ps kp sat

f f

K G K K

C C

1 1 0 1

* (4.61)

図4-5 操舵応答特性比較

操舵角 0からの過渡応答部分を除き,操舵周波数一定の定常操舵になった 1 周期部分を 切り出して,リサジュー波形を描いている.ケース番号は,次のパラメータスタディの番 号と対応している.図4-5が示すように後輪等価Cp減少により操舵角に対する操舵トルク の傾きが急になり,操舵角 0 での操舵トルクのヒステリシス幅が狭まっていることがわか る.

このように,車両運動の変化により操舵角-操舵トルク特性が大きく異なり,操舵感を評 価する上で操舵トルク特性を評価する必要があることを示している.

(2)パラメータスタディの結果比較

本項ではこれまでに解析的に求めた数式による計算と,シミュレーションによる結果を 比較するとともに,その結果から考察をおこなう.表4-3,表4-4,表4-5に,操舵系の特 性と車両運動を考慮した操舵トルク特性やヒステリシス幅などの結果を示す.計算時の設 定パラメータは,車速Vh(単位はkm/h),後輪等価CpであるCr,EPSのアシストゲイン Gps,減衰制御Cps,摩擦Fps,操舵角θ0,それ以外は表4-1に示すものを基本としている.算

Steering angle [°]

-20 -10 0 10 20

Steeringtorque[Nm]

-4 -2 0 2

4 Case11

Case12 Case13

Yaw velocity [°/s]

-5 0 5

Steeringtorque[Nm]

-4 -2 0 2

4 Case11

Case12 Case13

Lateral acceleration [m/s2]

-3 -2 -1 0 1 2 3

Steeringtorque[Nm]

-4 -2 0 2 4

Case11 Case12 Case13

Steering angle [°]

-20 10 0 10 20

Yawvelocity[°/s]

-5 0

5 Case11

Case12 Case13

出値は前輪等価CpであるCf*,ヨーゲインGr(0)以降の,スタビリティーファクタ(SF), ステアリングトルク,トルク勾配,トルクヒステリシスなどである.解析による操舵角に 対する操舵トルクの TswR とヒステリシス幅は,式(4.46)を用いて計算し,操舵トルクの TswIは式(4.48)において摩擦を無視しFs,Fps,Fkpを 0として算出している.ただし,解 析式のヒステリシス幅は一方向に操舵する片振幅であるため,ヒステリシス幅の計算時に は片振幅の値を 2 倍にして両振幅のヒステリシス幅とした.車両運動に対する操舵トルク やヒステリシス幅は式(4.51)から式(4.57)を用いて同様に2倍にして算出する(図4-4

(a)参照).TswIにマイナス符号が付いている場合は,ヒステリシスの中央部が狭くなる鼓 形になることを示しており,反対にプラスの場合は樽形となる(図 4-4 参照). シミュレ ーションによるCf*,SFは,操舵角-ヨー角速度の応答を1次近似し,傾きからヨーゲイン を求め,式(4.20),式(4.29)より算出した.それ以外のトルク勾配やヒステリシス幅な どは,最小二乗法でパラメータ同定により算出した.

表 4-3,表4-4,表4-5 が示すように,解析式による結果とシミュレーション結果は,

よく整合していることがわかる.シミュレーションによるヒステリシス幅が若干狭くなる のは,EPSの位相補償の影響が主な要因であり,本シミュレーションに用いた位相補償では

0.2 Hzで若干の位相進みを有している.位相補償の時定数を変え,Tn=0.02として位相進み

を増すと,さらにヒステリシス幅が1.415 Nmと減少し,Tn=0.005として位相進みを減らす と,ヒステリシス幅が1.486 Nmと増大した.つまりEPS制御の遅れや進みが,操舵トルク 特性に影響を及ぼしている.前輪等価Cpである Cf*の値が解析とシミュレーションで異な るのは,解析では式(4.61)により算出しており,操舵系の摩擦や減衰が考慮されていない ためである.系の位相進みや遅れを 1 次近似して算出した解析値が,シミュレーション結 果と整合することは,解析により操舵トルクやヒステリシス,トルクの勾配などの概算が 可能であり,性能設計の見積もりに使用できることを示している.

次に各パラメータの影響について考察する.Case11,Case12,Case13やCase16,Case17,

Case18が示すように,後輪等価Cpの低下に伴い,ヨーゲインが増大し,同じ横加速度を出

すための入力操舵角の大きさが異なる.また100 km/hのような高速走行時は,表4-2が示 すような車両運動による負の減衰が操舵トルクに影響を及ぼして系全体の減衰を低下させ,

TswI の値に負の符号がつく場合がある.Case11のようにCr =30の場合はCr =1.0 Ns/radで 十分補償ができているが,Cr =25, 20 においてはさらに減衰を増す必要がある.Case11 と Case14,Case15を比較すると,Cr =20の操舵角0でのヒステリシス幅を,Cr =30の場合と 同等にするためには,EPSの摩擦Fpsを2.78 Nm, 減衰Cpsを3.17 Nm/rad程度入れる必要が あることを示している.ただし補償することが必要かどうかは別の議論となる.逆に,40 km/h 時にはCr =30 では TswI が大きくなるため,ヒステリシス特性が樽形となり,粘性感 がでる可能性があり,EPS の減衰を減じることが必要となる.Case17,Case18 を比較する と,操舵入力点の減衰TswI を同程度に抑えるために,SATの減衰の差と同程度の補償をEPS の減衰低下でおこなっている.また,車両運動とトルクヒステリシスをみると,100 km/h

時のヨー角速度での操舵トルクのヒステリシス幅は横加速度での幅より広いが,40 km/hの 場合は逆転する.これは式(4.56),式(4.57)が示すように,運動の遅れに起因している.

このように車速によりEPSの減衰の利きが変わっており,その原因は式(4.48)の第1項に 示すように,減衰の利きが各部の剛性の影響を受け,その剛性はSAT により変化するため である.また, 表4-5のCase21が示すように,PSのパワーアシストにより,操舵角の伝達 特性が向上し,ヨーゲインが向上し,スタビリティーファクタが若干低下する.さらにPS のパワーアシストにより操舵トルクのヒステリシス幅が狭まるが,摩擦を増加させて同等 のヒステリシス幅を確保でき,また,PSの減衰増加により操舵角0でのヒステリシス幅を 同等にできることがわかる.いずれにしろ車両運動の特性が操舵系に影響を及ぼし,その 補償のためにEPS の各制御が有効であり,その影響度合いが操舵系の剛性や,摩擦,減衰 などの要素により変わることを示している.

表 4-3 定式化計算値とシミュレーション結果との比較

Parameters:m=1800IzN=0.9,l=2.8Dwf=0.55,Cf=15,Cs=0.01,Fs=0.1,Kt=91.7,Kkp=115, Ns=15,ξ=0.06Vh[km/h]=V[m/s]・3.6[s/h]

Front Rear Gain Damp. Fric.

Case # Vh C*f Cr Gps Cps Fps q0[°] Gr(0) SF

Case 11 30 21.8 0.236 0.00233

Case 12 25 20.4 0.253 0.00209

Case 13 20 18.2 0.284 0.00172

Case 14 1.00 2.78 18.2 0.284 0.00172

Case 15 3.17 2.00 18.2 0.284 0.00172

Case 11 10.18 30 22.6 0.234 0.00236

Case 12 10.21 25 21.1 0.252 0.00211

Case 13 10.24 20 18.9 0.283 0.00173

Case 14 10.21 1.00 2.81 19.0 0.282 0.00175

Case 15 10.24 3.13 2.00 18.9 0.283 0.00174

Case 16 30 62.8 0.205 0.00233

Case 17 25 61.3 0.210 0.00209

Case 18 20 59.1 0.218 0.00172

Case 19 0.50 1.67 62.8 0.205 0.00233

Case 20 0.25 2.00 62.8 0.205 0.00233

Case 16 9.89 30 63.3 0.203 0.00247

Case 17 9.90 25 62.0 0.208 0.00222

Case 18 9.90 20 60.0 0.215 0.00186

Case 19 9.90 0.50 1.68 63.2 0.203 0.00246

Case 20 9.89 0.26 2.00 63.3 0.203 0.002466

Steering angle

Yaw gain

Stability factor

2.00

20 Vehicle

velocity

Equivalent EPS control

Analysis

100 10.27 3.5

1.00

2.00

30

Simulation

100 3.5

1.00 2.00

20

Analysis

40 10.27 3.5

0.50

Simulation

40 3.5

0.50 2.00

30

表 4-4 定式化計算値とシミュレーション結果との比較

表 4-5 定式化計算値とシミュレーション結果との比較

Torque gradient

Re Im by SA byr byAy

Case # TswR TswI Nm/° Nms/°Nm・s2/m atr=0 atAy=0

Case 11 3.55 0.043 0.130 1.45 1.49 0.549 1.13 1.63 1.92 2.20

Case 12 3.55 -0.103 0.139 1.44 1.34 0.549 1.13 1.63 1.76 2.18

Case 13 3.53 -0.409 0.156 1.41 1.09 0.549 1.13 1.63 1.53 2.14

Case 14 3.73 -0.409 0.156 1.81 1.49 0.549 1.13 2.07 1.98 2.59

Case 15 3.53 0.097 0.156 1.41 1.49 0.549 1.13 1.63 1.98 2.59

Case 11 3.61 0.015 0.128 1.45 1.46 0.540 1.12 1.63 1.90 2.18

Case 12 3.60 -0.126 0.137 1.43 1.31 0.538 1.12 1.62 1.71 2.14

Case 13 3.57 -0.430 0.152 1.40 1.05 0.534 1.12 1.63 1.52 2.13

Case 14 3.73 -0.430 0.152 1.80 1.46 0.529 1.12 2.08 1.94 2.59

Case 15 3.58 0.076 0.152 1.40 1.46 0.526 1.11 1.62 1.93 2.57

Case 16 3.61 0.504 0.045 1.57 2.95 0.219 1.13 1.63 3.54 2.83

Case 17 3.61 0.490 0.046 1.56 2.88 0.219 1.13 1.63 3.48 2.81

Case 18 3.61 0.465 0.048 1.56 2.77 0.219 1.13 1.63 3.38 2.80

Case 19 3.52 0.504 0.045 1.38 2.77 0.219 1.13 1.44 3.35 2.64

Case 20 3.61 0.437 0.045 1.57 2.77 0.219 1.13 1.63 3.35 2.64

Case 16 3.69 0.489 0.045 1.57 2.93 0.216 1.11 1.63 3.48 2.82

Case 17 3.68 0.475 0.457 1.57 2.86 0.214 1.11 1.63 3.42 2.79

Case 18 3.67 0.451 0.047 1.56 2.75 0.215 1.11 1.63 3.48 2.82

Case 19 3.52 0.489 0.045 1.39 2.75 0.214 1.11 1.44 3.31 2.61

Case 20 3.66 0.425 0.045 1.57 2.75 0.213 1.10 1.63 3.31 2.61

Hysteresis width q atq0=0

Torque

gradient Torque hysteresis atr,Ay

by fric.

with

damp. by fric. with damp.

AnalysisSimulationAnalysisSimulation

Steering torque

Front Rear Gain Damp. Fric.

Case # Vh C*f Cr Gps Cps Fps q0[°] Gr(0) SF

Case 12 3.5 2.00 20.35 0.253 0.00209

Case 21 2.00 19.83 0.260 0.00200

Case 22 2.85 19.83 0.260 0.00200

Case 23 3.09 2.00 19.83 0.260 0.00200

Case 12 10.21 3.5 2.00 21.1 0.252 0.00211

Case 21 10.49 2.00 20.4 0.259 0.00201

Case 22 10.47 2.84 20.5 0.258 0.00202

Case 23 10.49 2.98 2.00 20.4 0.259 0.00202

Stability factor Vehicle

velocity

Equivalent

cornering stiffness EPS control Steering angle

Yaw gain

Analysis

100 10.27 25 1.00

5

Simulation

100 25 1.00

5

Torque gradient

Re Im by SA byr byAy

Case # TswR TswI Nm/° Nm・s/°Nm・s2/m atr=0 atAy=0 Case 12 3.55 -0.103 0.139 1.44 1.34 0.55 1.13 1.63 1.76 2.18 Case 21 2.52 -0.073 0.100 1.09 1.02 0.38 0.79 1.20 1.30 1.59 Case 22 2.68 -0.073 0.100 1.41 1.34 0.38 0.79 1.54 1.64 1.93 Case 23 2.52 0.294 0.100 1.09 1.34 0.38 0.79 1.20 1.64 1.93 Case 12 3.60 -0.126 0.137 1.43 1.31 0.538 1.12 1.62 1.71 2.14 Case 21 2.54 -0.092 0.098 1.08 1.00 0.38 0.79 1.19 1.28 1.58 Case 22 2.71 -0.092 0.098 1.40 1.31 0.38 0.79 1.53 1.59 1.89 Case 23 2.55 0.255 0.098 1.08 1.31 0.37 0.78 1.19 1.59 1.89 Torque hysteresis at

r,Ay

by fric.

with

damp. by fric. with damp.

AnalysisSimulation

Steering torque Hysteresis width q

Torque gradient

(3)実車に則したアシスト特性による検証

実車のような非線形アシスト特性の場合のシミュレーション結果を図4-6に示す.前項 の解析結果をもとに,Cr=30のケースに対し,Cr=20の場合と,Cr=20において摩擦,減衰,

アシスト特性を変更して,操舵角-操舵トルクの特性を,Cr=30の場合の,ある領域まで重 ね合わせた結果を比較する.Case11*,Case13*は,アシトスが非線形である以外,他のパラ メータはCase11,Case13と同じであり,Case11**はCase11*に対しCps=2.6,Fps=2.7とした ほか,アシスト量を増やして合わせこんでいる.今回おこなった大まかな手順は,解析の パラメータスタディを参考に,全体のヒステリシス幅を摩擦で設定し,全体の傾きの変化 をパワーアシストで設定,リサジューの膨らみ具合を減衰で調整した.図4-5と比較して,

リサジュー波形の中央部が膨らみ,端部が細くなる傾向がみられるのは,低トルク域でア シスト量が低く,高トルク域でアシスト量が増加するような非線形であることによる.こ

れは4.1.4の解析結果と一致する.したがって,非線形のパラメータが入っても,線形での

解析を用いた予想が可能であることを示している.これらの結果,操舵角-操舵トルク特性 は比較的自由に制御できることがわかる.

図4-6 操舵応答特性比較

Steeringtorque[Nm] Steeringtorque[Nm]

Steeringtorque[Nm] Yawvelocity[°/s]

しかし,一部の領域の操舵角–操舵トルク特性を合わせこんでも,ヨーゲインが異なると,

全領域を合わせこめず,ましてや車両運動-操舵トルク特性は大きく変化し,全く異なった 特性になる.したがって,車両の運動特性に合った操舵角-操舵トルク特性を見出す必要が あり,それが目標特性となる.その目標特性が決定されたなら,本論文の解析やシミュレ ーションを用いて,目標特性に合わせ込む性能設計が可能となる.

4.1.5のシミュレーションで用いた摩擦特性とアシスト特性を,図4-7に示しておく.こ

こに示すのは,摩擦トルク2.0 Nmのもので,他の摩擦要素は相似形で摩擦トルクの大きさ が異なる.

図4-7 摩擦特性とアシスト特性