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第3章 感性の定量化

3.2 操舵感の定量化指標の提案

3.2.5 操舵感の定量化指標の検討

このようなリサジュー波形は,操舵角サイン入力による操舵感の指標でも用いられる波 形である[17], [18].操舵トルクのサイン波入力では,人間の操作パターンであるジャーク最 小で近似できる操舵入力であるため,操舵角入力とは異なった評価が可能である.ここで 注意すべき点は,操舵角の応答が必ずしもジャーク最小で近似できるとは限らない.たと えば,操舵系の摩擦が大きくステックスリップにより操舵が滑らかにできない場合もあり 得る.これはテストドライバのような熟練テストドライバでも同様である.しかし操舵角 ベースの入力ではどのような場合でも操舵角の応答は一定であり,操舵反力としてのトル ク特性を評価することになる.トルク入力の場合は,ステックスリップの現象を再現でき るところに優位な点があり,操舵角サイン入力による方法と同様に,操舵感指標のひとつ として提案できると考える.なおここで解析した38車種については,ジャーク最小での近 似が可能であった.

図3-21(a)に操舵角とヨー角速度の時間応答を比較する.図3-21(a)に示すように,

車両Aの操舵角応答は滑らかな応答をしており,車両Bは初期の応答が遅くなっているこ とがわかる.そして図3-21(b),(c)に示ように車両によって,操舵トルク-操舵角の応答 特性,操舵トルク-ヨー角速度の応答特性が異なる.

図3-21 操舵トルク入力による車両A,車両Bの操舵応答比較 Steeringangle[°] Yawvelocity[°/s]

Steeringangle[°] Yawvelocity[°/s]

したがって,これらの操舵トルクに対する操舵角,ヨー角速度などの車両応答を比較す ることにより,車両の操舵しやすさ,操舵感が評価できると考えられる.このような評価 法は従来から提案されているが[20],人間の操舵パターンに則したものではなく,定量化の 方法も明確でない.

ここでは操舵トルク-操舵角,操舵トルク-ヨー角速度応答の立ち上がりの特性を式(3.38), 式(3.39)の簡単な関数で,図3-21(a)のような時間区間を切り出しフィッティングして 整理する.SA は操舵角,STは操舵トルク,YR はヨー角速度を表す.図3-22に操舵トル ク-操舵角,操舵トルク-ヨー角速度応答の特性と,式(3.38),式(3.39)を用いたフィッ ティング結果を示す.赤線がフィッティング波形であり,操舵トルクの 0 点から最大操舵 トルクまでの区間を評価している.

bs

s ST

a ST a

SA= 0⋅ + ⋅ (3.38)

by

y ST

a

YR= ⋅ (3.39)

図3-22 操舵トルクに対する操舵応答特性

Steeringangle[°] Yawvelocity[°/s]

この定量化指標は操舵トルクに対する操舵角の応答,ヨー角速度の応答をみることがで きる.車両Bとの比較において,車両Aは操舵トルクに対し滑らかに操舵角が応答し,操 舵トルクに対するヨー角速度の応答もよく非線形性が弱い.これらの特徴を式(3.38),式

(3.39)の係数a0asbsaybyで表すことができる.これらの特性を操舵トルクに対す る操舵角の立ち上がり特性,ヨー角速度の立ち上がり特性とする.

図3-23に38車種の操舵トルク-操舵角,操舵トルク-ヨー角速度の立ち上がり特性を示 す.各車の操舵応答の差を定量化して表すことができる.図3-24に操舵応答の係数asbs, ヨー応答の係数aybyの関係を示す.横軸を対数目盛としているためlog(as)とbs,または log(ay)とbyは線形で相関が高いことを示している.いずれの車両においても操舵トルクに対 して操舵角,ヨー角速度の応答が下に凸で,非線形に増大する同様の特性を持っているこ とを示しており,さらに操舵トルクに対する応答が,ある程度の範囲内に収まることを示 している.このように車両応答として同様な特性を示し,これらの係数の値を具体的な目 標値として設定できるため,評価指標として妥当性を示すと考える.さらにこれらの立ち 上がり特性は,操舵系の要素やEPSのアシスト特性,車両運動に依存しており,性能設計 が可能である[26].操舵角とヨー角速度の立ち上がり特性の係数a0asbsaybyを定量 化指標とする.

図3-23 38車種の操舵の立ち上がり特性

図3-24 操舵の立ち上がり特性のフィッティング係数の分布 Steering torque [Nm]

0 1 2 3

0 2 4 6 8 10 12

Steering torque [Nm]

0 1 2 3

0 1 2 3 4

(a) Steering angle increasing property (b) Yaw velocitye increasing property

by

bs

(2)戻り側特性の定量化

前節で切り込み側の特性を定量化して論じたが,ここでは戻し側の定量化を試みる.戻 し側のコントロール性は,操舵角-操舵速度の位相平面で把握することができる.前述の図 3-19 での操舵角-操舵速度,ヨー角速度-ヨー角加速度の位相平面図にみられるように,切 り込み側に対し,戻し側の操舵速度が速くなっており,車両の操舵特性の影響を受けてい ることが見て取れる.そのためジャーク最小モデルでフィッティングしても,時間応答が 速くなる.車両A,車両Bの比較においても,非線形な応答を持つ車両Bの戻し操舵速度 が速く,戻し側にも非線形特性が表れている.したがって,この時間の応答も定量的な評 価をすることが可能である.

しかしここでは,切り込み側と同様に,リサジュー波形での定量化を考える.操舵トル ク-操舵角,操舵トルク-ヨー角速度の戻り特性において,単純な操舵トルクに対する操舵 角,ヨー角速度の 1 次関数で評価した.図3-25の車両A,車両Bの結果を示すように,1 次関数の係数である勾配と切片で定量化をおこなう.図 3-26 には38 車種のそれぞれの勾 配と切片を示す.

図3-25 戻りの定量化指標の検討 Steering torque [Nm]

-5 0 5

-20 -10 0 10 20

9.673*x + 3.896 12.256 *x -8.104

Steering torque [Nm]

-5 0 5

-5 0 5

2.917 *x + 0.658 4.100 *x -2.430

Vehicle B

(c) Steering torque-angle (d) Steering torque-yaw velocity

図3-26 戻りの定量化指標の傾きと切片の分布

勾配が大きいことは操舵トルクの変動に対して操舵角,ヨー角速度の応答が敏感になる ことを意味し,勾配が大きく,切片の絶対値が大きく負の場合は,より大きなトルクで操 舵角,ヨー角速度をコントロールする必要があることを意味している.したがって,いず れの分布においても右下に位置するほど戻しが敏感で,かつ大きな操舵トルク域での車両 コントロールが必要であることを意味しており,操舵角とヨー角速度の戻し特性の勾配,

切片を定量化指標とすることができる.図3-26に示すように操舵角においては勾配と切片 にゆるい相関がみられるが,ヨー角速度においては相関が低い.図3-25のリサジュー波形 から推察するに,操舵系の摩擦の影響が操舵角における勾配と切片の相関を低くさせてお り,さらにヨー角速度においては,操舵角に対する車両運動の影響が加わる.また,操舵 トルクのサイン入力による方法は,戻し側でトルクを抜きながら操舵をおこなうため,ス テアリングから手を放したフリーでの評価と異なる.

(3)保舵特性の定量化

ここでは,図3-27に示す操舵トルクのヒステリシス幅について検討する.操舵トルクの ヒステリシス幅は切り込み側と切り戻し側の操舵トルクの差で定義できる.3.3.1 で述べた ように,人間は一定の力が出せないとの指摘があり,保舵のように操舵角を一定に保つ時,

操舵トルクのヒステリシスがあると,操舵トルクの変動があっても操舵角の変動を抑える ことができるため,安定した保舵が可能と考えられる.操舵角入力による方法でも横加速 度 0 点でのトルクヒステリシスを評価するが,操舵角の中点付近と,切り込んだ位置での トルクヒステリシスの幅は異なる点を考慮し,異なる評価指標として提案する.

図3-27に示すように,車両状態量が一定の部分,ここではヨー角速度3.0 °/sを切り出し て操舵トルク-操舵角,操舵トルク-ヨー角速度での操舵トルクのヒステリシス幅を算出す る.ここで,ヨー角速度のピークである4.0 °/sでのヒステリシス幅で評価するところを,

ヨー角速度3.0 °/sと定めたのは,切り込み側から,切り戻し側へ移行する特性がなだらか なため,4.0 °/sではトルクの幅が規定できないためである.

図3-27 保舵の定量化指標の検討

38車種によるデータを図3-28に整理する.横軸にヒステリシス幅を算出した切り込み側 の操舵トルクを,縦軸にヒステリシス幅の1/2を取る.切り込み側と切り戻し側の中点が保 舵のトルクと仮定すると,切り込み側の操舵トルクからヒステリシス幅の1/2を減じた値が,

保舵トルクと考えられる.そこで保舵トルクとして一定の値となる斜線を加える.これに より図3-28からは次の3項目の評価が可能である.1.横軸:操舵時の操舵トルクであり操 舵の重さ,2.縦軸:保舵時のトルク変動の許容度,3.斜線:保舵時の負担の大きさである.

たとえば操舵トルクが3.0 Nmでトルクのヒステリシスの1/2の値が0.5 Nmの場合,その交 点は保舵トルク2.5 Nmとなり,横軸値と縦軸値との差が保舵トルクとなり,各物理量の比 較が容易である.図3-28に示すように,切り込み側の操舵トルクが大きくても保舵時に軽 くなる車両が存在することがわかる.ヨー角速度のヒステリシス幅が広いのは,車両のヨ ー運動の遅れに起因する.

Steeringangle[°] Yawvelocity[°/s]

Steering torque [Nm]

0 2 4

Steeringangle[°]

0 5 10 15 20

Steering torque [Nm]

0 2 4

Yawvelocity[°/s]

0 1 2 3 4 5

(b) Steering torque-yaw velocity Vehicle A

(a) Steering torque-angle

図3-28 保舵の定量化指標の操舵トルクとヒステリシスの分布

(4)リサジュー波形による線形性の評価

図 3-20 で示したように,操舵トルクのサイン入力による,操舵トルク-操舵角,操舵ト ルク-ヨー角速度の応答は,車両により同一車両でも車速により大きく変化する.その全体 の非線形性やリサジュー波形のうねりを評価することを考える.これらの「うねり」は文 献[21]が示すように系の摩擦やパワーアシストの非線形性によるものであり,入力波形が操 舵トルクの0.2 Hzと固定され高調波がノイズ以外含まれていないため,操舵角の時間応答 をフーリエ級数に展開することで,高調波成分で非線形性が評価できると考えられる.

図3-29に代表として車両A,車両Bの操舵角,ヨー角速度の応答を基本周波数0.2 Hzで

3.0 Hzまでフーリエ級数に展開し,フーリエ係数により応答波形を再構築し,実応答波形と

比較する.同時にそれぞれの差をエラー波形として表示した.双方の車両の応答ともエラ ー波形は小さく抑えられており,グラフ上,実波形と再構築波形はほぼ重なり,相関係数

は何れも0.999以上あり,0.2~3.0 Hzまでのフーリエ級数展開で実波形を表すことができる.

線形システムの場合は,単一の周波数入力に対し,出力も入力と同一の周波数成分のみ で構成させる.この方法により,応答波形の高調波成分を比較することで,切り込みの立 ち上がり特性や,戻りの特性のほかに,各車両の操舵応答全体の非線形度合を評価できる ことを示している.図3-30に車両A,車両Bにおけるそれぞれの車両状態量をフーリエ級 数に展開した結果を示す.各高調波の係数を基本操舵周波数0.2 Hzで除して正規化し,周 波数は第2高調波の0.4 Hzから第15高調波の3.0 Hzまでを表した.

図3-30に示すように,車両Bは車両Aより高調波の波高が高く,より振幅の大きな高調 波を含んでいることを示している.38 車両における高調波の評価として,操舵角,ヨー角 速度の変動を評価することを考え,高調波は周波数の大きさの重みづけをおこない積算し 評価した.つまり式(3.40)で操舵応答を記述する時,式(3.41)で線形性を計算する.式

(3.41)より値が小さい方が線形と評価される.その結果を図3-31に示す.