第3章 感性の定量化
3.2 操舵感の定量化指標の提案
3.2.4 操舵トルク入力の有効性
ここでは,操舵トルクのサイン波入力による試験方法が,人間の操舵の仕方に則したもの であることを示し,操舵感に関するオープンループの試験方法として提案する.
(1)操舵角入力と操舵トルク入力の違い
操舵角入力によるオンセンタ特性の評価は,車速は100 km/h,操舵周波数はいずれも0.2 Hzでおこなわれている.この条件は操舵角入力でのオンセンタの定量化指標に用いられて いる[17].またこれらの指標に基づき,摩擦や粘性感,非線形性などの定量評価をおこなう 提案もあり[18],広く用いられている[19].その一方,これらの評価指標は操舵トルクのヒ ステリシスの外環の特性を評価するものであり,オンセンタ特性を十分に評価できないと 指摘され,操舵の切り込み特性を評価する方法が提案されている[11], [20].また,同じ0.2 Hz の低周波サイン波であっても,操舵角入力と操舵トルク入力では大きな違いがある[21].し たがってここで提案する操舵トルクのサイン波入力による評価は,操舵角入力での評価の 置き換えではなく,操舵角入力では評価できない部分を補完するものである.さらに,ト ルク入力下における車両運動の詳細な解析をおこなった研究もあり[21]-[24],これらの研究 は動的な挙動に関するものであるため,低周波入力を議論する本章の適用範囲とは異なる.
図3-18は同一車両における操舵角入力と操舵トルク入力での応答の比較である.代表と する波形は,操舵角の時間応答,図3-18(a),操舵トルク-操舵角のリサジュー波形,図3-18
(b),操舵角-操舵角速度の位相平面図,図 3-18(c)とする.操舵角入力の場合,操舵角 速度や操舵角加速度が急激に立ち上がるため,操舵系の減衰やステアリングホイールの慣 性モーメントの影響を受け,操舵初期に操舵トルクや操舵速度が急激に立ち上がり,オー バーシュートなどもみられる.それに対して,操舵トルク入力では,操舵角,操舵速度の 応答も滑らかに立ち上がり,操舵トルク-操舵角応答が操舵角入力と比べて滑らかとなる.
これは実走行状態において,直進状態からカーブに入る状況であり,舵角の中点からの切 り込みの特性が想定される.さらに,操舵角の応答は操舵初期だけでなく,切り込む側の 特性がジャーク最小モデルと同様の,切り込み初期と操舵の収束点が対称の応答をみせて いることがわかる.図3-18(c)の位相平面図における切り込み側と戻し側の特性も大きく 異なる.したがって,同じトルク勾配やトルクヒステリシスなどの物理値でも入力による 違いが生じ,異なった指標となる.このように,操舵角入力では,反力としてのトルクを 評価することになるが,操舵トルク入力では操舵角が規定されず,車両ごとに操舵角応答 が異なるため,その車両応答を比較することになる.操舵角入力による指標は詳細な解説 がなされているが[25],操舵トルク入力とは本質的に異なるため,ここではその指標の違い については言及しない.
図3-18 操舵角入力と操舵トルク入力の違い
Steeringangle[°] Steeringvelocity[°/s]
Steeringangle[°] Steeringvelocity[°/s]
(2)操舵トルク入力による操舵応答特性
図 3-19に操舵トルク入力に対する操舵応答特性を示す.2車種の車両について操舵角,
操舵角速度,ヨー角速度の時間応答と,操舵角-操舵角速度,ヨー角速度-ヨー角加速度の位 相平面波形を示す.実験条件は車速100 km/h,操舵周波数0.2 Hzのステアリングロボット によるサイン波の操舵トルク入力である.横加速度の最大値が2.5 m/s2になるよう操舵トル クの大きさを調整して実験をおこなっている.操舵角,操舵角速度の応答の切り込み部分 と,切り戻し部分を取り出し,前節の式(3.34),式(3.35)に示す一般化したジャーク最 小モデルを用いて最小二乗法で近似曲線を求める.図3-19に示すように時間応答の波形と 重ねると,図3-1と同様の曲線で近似できることがわかる.つまり,ジャーク最小モデルで ある人間の操作に近い特性となっている.また,操舵の戻し側で到達運動の時間が短くな り,操舵速度が速くなっていることが確認できる.これは人間の操舵と同様に,車両操舵 系の影響を受けていることを表している.なお,位相平面上の第1,第3象限が切り込み側,
第2,第4象限が切り戻し側になる.
Vehicle A Vehicle B
図3-19 操舵トルク入力による操舵応答特性
0 1 2 3 4 5 6
-20 0
20 Raw data
MJ-fitting
0 1 2 3 4 5 6
-60 0 60
Time [s]
0 1 2 3 4 5 6
-6 0 6
Steering angle [°]
-20 0 20
-60 0 60
Yaw velocity [°/s]
-6 0 6
-20 0 20 Decreasing response time Tyi T
yd Increasing response time
Tsd Tsi
Decreasing response time Increasing
response time
Decreasing Increasing
0 1 2 3 4 5 6
-20 0
20 Raw data
MJ-fitting
0 1 2 3 4 5 6
-60 0 60
Time [s]
0 1 2 3 4 5 6
-6 0 6
Steering angle [°]
-20 0 20
-60 0 60
Yaw velocity [°/s]
-6 0 6
-20 0 20