第4章 感性性能設計技術
4.2 操舵トルク入力の定量化指標に基づく性能設計
4.2.2 操舵応答の立ち上がり特性の設計
(1)立ち上がり特性の設計概念
操舵トルク入力の操舵応答は,3.2.5 の図 3-23に示す車両応答が得られる.オンセンタ 特性の設計とは,操舵トルク–操舵角,操舵トルク-ヨー角速度の立ち上がり特性を,目標 特性として設定し,操舵系の特性,EPS のアシスト特性で造り上げることを意味する[15].
まず本設計の概念を述べる.
1) 操舵トルク-操舵角と操舵トルク-ヨー角速度の応答を目標とする.
2) 操舵トルク-操舵角の立ち上がり特性は,操舵系の機械的要素で形成される操舵トルク-操舵角特性に,EPSのアシストトルクを加えて目標特性に合わせこむ.
以上を共通として,以下の図4-8の3-(a),図4-9の3-(b)のいずれかを選択する.
3-(a) 入力トルクに対する実舵角応答,実舵角に対するヨー角速度応答を通じて,操舵ト ルクに対するヨー角速度の目標特性を実現する.
3-(b) 操舵角に対する実舵角応答,実舵角に対するヨー角速度応答を通して,操舵トルク に対するヨー角速度の目標特性を実現する.
図4–8 目標特性実現の概念 3–(a)
図4-9 目標特性実現の概念 3–(b)
(2)立ち上がり機械特性の構成
前節4.1の図4-3の簡単化した操舵系モデルにおいて,極低周波入力を考え,粘性減衰 系を無視したモデルを考える.また摩擦モデルは単純な摩擦モデル図4-10(a)から,より 一般化した図4-10(b)に示す弾性摩擦モデルを用いる.
図4-10 摩擦モデル
F x
F F x
x F
x
(a) 摩擦特性 (b) 弾性摩擦特性
操舵の立ち上がり特性は図4-11に示すように,4段階に分けて考える.第1段階はすべ ての弾性摩擦要素において,入力トルクによっても各摩擦力を超えず弾性部材として働く 場合とする.次に第 2 段階では,入力トルクによって入力に最も近い弾性摩擦の摩擦力を 振り切り,摩擦部材として働く.同様にして第 3段階,第 4 段階を経て,すべての弾性摩 擦部材が摩擦部材として働く.このようにして操舵トルクの入力の増大に伴い,操舵角,
実舵の立ち上がり特性が決まるモデルである.
(a) 第1段階
(b) 第2段階
(c) 第3段階
(d) 第4段階
図4-11 操舵系簡易モデル 各段階のモデル
図4-11から,一方向のみの運動を考えて,(a)第1段階の運動方程式は式(4.63)~式
(4.65)で表せる.次に(b)第2段階は,第1段階に対し,式(4.63)が式(4.66),(c)
第3段階は第1段階に対し,式(4.63)が式(4.66),(4.64)が式(4.67)となり,(d)第4 段階は第1段階に対し,式(4.63)が式(4.66),式(4.64)が式(4.67),式(4.65)が式(4.68)
となる.これらをTsw,θ1,θ2で解き,入力舵角θ0に対する操舵トルクTswと出力θ2を求め,
入力舵角θ0に対する操舵トルクTswから,操舵トルク Tswに対する入力舵角θ0,実舵角θ2が 求まる.実舵角に対するヨー角速度応答は前節4.1で述べたように求められる.
( )
swt
Fs K T
K θ0+ θ0−θ1 = (4.63)
(
1 0) (
1 2)
01+ θ −θ + θ −θ =
θ ps t kp
Fps G K K
K (4.64)
(
2 1)
2 02+ θ −θ + θ =
θ kp sat
Fkp K K
K (4.65)
( )
swt
s K T
F + θ0−θ1 = (4.66)
(
1− 0)
+(
1− 2)
=0 + ps tθ θ kp θ θps G K K
F (4.67)
(
2− 1)
+ 2=0 + kp θ θ satθkp K K
F (4.68)
以上の結果をまとめると次のようになる.
第1段階の応答は,以下のようになる.
0 1
0 θ
θ
ps Tsys Fs
sw G
K K
T = + (4.69)
0 1
2 θ
θ
Msys sysV
Lsys Tsys
K K
K
= K (4.70)
+
=
ps Tsys Fs
sw
G K K
T
1
θ0 (4.71)
+
=
ps Tsys Fs
sw Msys
sysV Lsys Tsys
G K K
T K
K K K
1 1
θ2 (4.72)
第2段階の応答は,以下のようになる.
0 1θ
ps Tsys s
sw G
F K
T = + (4.73)
0 1
2 θ
θ
Msys sysV
Lsys Tsys
K K
K
= K (4.74)
1 0
Tsys s ps sw
K F G T −
θ = (4.75)
(
sw s)
ps Msys sysV
Lsys G T F
K K
K −
2=
θ (4.76)
第3段階の応答は,以下のようになる.
+
+
= 2 θ0
Lsys ps ps Tsys s
sw K
F G F K
T (4.77)
−
=
t ps
ps sysV
Tsys
K G
F K
K
0 2
2 θ
θ (4.78)
( )
Lsys ps s sw Tsys
ps
K F F K T
G − −
=
2
θ0 (4.79)
( )
sysV ps s sw sysV
ps
K F F K T
G − −
2 =
θ (4.80)
第4段階の応答は,以下のようになる.
+ +
+
= θ0
sat kp Lps ps ps total s
sw K
F K
F G F K
T (4.81)
− −
=
t ps
ps Mps
kp sat
total
K G
F K
F K
K
0
2 θ
θ (4.82)
( )
sat kp Lps
ps s sw total
ps
K F K F F K T
G − − −
0 =
θ (4.83)
( )
sat ps kp s sw sat
ps
K F F F
K T
G +
−
−
2 =
θ (4.84)
また各係数,KsysV,KLsys,KMsys,KTsys1,KTsys2,Ktotal,KMps,KLps はそれぞれ以下の様に定 義する.なお,式(4.90),式(4.91),式(4.92)は,それぞれ4.1.4で定義した式(4.42), 式(4.43),式(4.44)に対応し,同一である.
sat Fkp
sysV K K
K = + (4.85)
sysV kp
sat Fkp kp Lsys
K K K K K
K 1 1
1 1
1 1
+
= + +
= (4.86)
Lsys Fkp
sat Fkp kp Fps
Msys K K
K K K K
K = +
+ + +
= 1 1
1 (4.87)
Msys t
ps Tsys
K K G
K 1 1
1
1= + (4.88)
Lsys t
ps Tsys
K K G
K 1 1
1
2= + (4.89)
sat kp t ps total
K K K G
K 1 1 1
1 + +
= (4.90)
kp t ps Mps
K K G
K 1 1
1 +
= (4.91)
sat kp Lps
K K
K 1 1
1 +
= (4.92)
これらの式に則り,操舵トルク(入力トルク)に対する操舵角と実舵角の応答を描くと図
4-12,図 4-13 のようになる.各段階の交点を結んで応答特性を得る.パラメータは Gps=1
で,EPSのパワーアシストが無い場合とし,それ以外は4.1のCase13とし,弾性摩擦の弾 性 KFs,KFps,KFkpはいずれも1000 Nm/radとした.このように操舵系の剛性や摩擦の変更 により,操舵の立ち上がり特性が設計可能であることがわかる.
図4-12 操舵系簡易モデルによる操舵トルク-操舵角特性
図4-13 操舵系簡易モデルによる操舵トルク-実舵角特性
より詳細なモデルでシミュレーション結果を図 4-14 に示し,実験的アプローチとして,
車両停止状態でタイヤ下に摩擦材を敷き,操舵トルクに対する操舵角,実舵角としてタイ ヤ&ホイールの舵角を測定した結果を図4-15に示す[15].
図4-14 操舵系モデルによる操舵トルク-実舵角特性 [15]
図4-15 実験による操舵トルク-実舵角特性 [15]
以上のように,操舵系の操舵トルク-操舵角,操舵トルク-実舵角の立ち上がり特性は多 段階の弾性摩擦と剛性で構成され,決定づけられることを示した.さらに解析的なアプロ ーチで定式化ができ,各部の弾性摩擦,剛性の各要素の影響が解析可能である.