第6章 感性性能設計の実践と開発プロセスの提案
6.2 感性性能設計の実践
6.2.3 一般ドライバの操舵特性による多様性検証
実験参加者の多様性を検証するため,下山らの研究と同様にDSQを用いて,運転の傾向 を評価した.各チェックシートは文献[8] p.78を用いた.文献[8]により,これらのチェック シートを用いることは,運転行動の個人差を理解する上で有用であると考えられる.さら に,文献[9]ではパターン認識を用いたドライバの操舵特性の分析を行ってドライバの運転 のスタイルを分析している.したがって,操舵応答特性をDSQとともに解析することが望 ましいと考える.DSQの分析によると表6-1に示す運転スタイルの各尺度が使用された.
図 6-3 に実験参加者である一般ドライバの運転スタイルの分析結果の一部を示す.図に示 したものは 18名分中 10 名分の比較であるが,各個人の運転スタイルは異なっており,多 様性のあるドライバであることを示唆している.
表6-1 DSQの各尺度の内容
尺度 各尺度の内容
S1 運転スキルへの自信の有無
S2 運転に対する消極性
S3 せっかちな運転傾向
S4 几帳面な運転傾向
S5 信号に対する事前準備的な運転 S6 ステイタスシンボルとしての車
S7 不安定な運転傾向
S8 心配性的傾向
S9 虚偽発見尺度
図6-3 一般ドライバの運転スタイル分析結果
一般ドライバの操舵特性として,L字コースにおける13名,操舵トルク特性4ケース,
各走行回数5回の計 260走行の平均操舵角応答を図 6-4に示す.この平均操舵応答特性も 近似ジャーク最小モデルで表すことができる.さらに図 6-5 に示すように個々の操舵角応 答はそれぞれ異なり,時間ごとの分布が S 字コースの場合と同様に,切り戻し側のバラツ キが大きくなっている.
図6-4 平均操舵角応答と近似ジャーク最小モデル
図6-5 平均操舵角応答の時系列波形
次に,各時間の操舵角のヒストグラムをみると,図 6-6 に示すように,その分布は正規 分布に近くなっていることが分かる.このように,走行コースが異なり,一部実験参加者 が異なる状況下においても,平均の操舵角応答は近似ジャーク最小モデルで表現でき,さ らに操舵角応答の時間毎の分布は正規分布に近づくなど,同様の特性が現れている.一般 ドライバのDSQの分析により,個々のドライバはDSQの各尺度の値が異なり,図6-3の レーダチャートが示すように,多様性を持ったドライバではあるが,平均操舵角応答は,S 字,L字の走行コースが異なる場合でも,一般的な操作の応答であるジャーク最小モデルで 表すことができる.
図6-6 平均操舵角応答と各時間の操舵角ヒストグラム
-4 0 4
Histgram
0 0.1 0.2 0.3 0.4
Section 3 sec
0 10 20 0
0.05 0.1
Section 4 sec
20 30 40 0
0.05 0.1
Section 5 sec
20 30 40 0
0.05 0.1 0.15
Section 6 sec
25 30 35 40 0
0.05 0.1
Section 7 sec
40 50 60
Histgram
0 0.05 0.1
Section 8 sec
40 60
0 0.05 0.1
Section 9 sec
45 55 65 0
0.05 0.1
Section 10 sec
40 60 0
0.05
0.1Section 11 sec
20 30 40 0
0.05 0.1
Section 12 sec
Steering angle [°]
20 40
Histgram
0 0.05 0.1
Section 13 sec
Steering angle [°]
0 10 20 0
0.05
0.1Section 14 sec
Steering angle [°]
-5 0 5 10 0
0.05 0.1 0.15
Section 15 sec
Steering angle [°]
-5 0 5 0
0.05 0.1 0.15 0.2
Section 16 sec
Steering angle [°]
-5 0 5
0 0.1 0.2
Section 17 sec Time [s]
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
Steeringangle[°]
-50 0 50
260 cases plot
Maam Mean+σ Mean-σ
次に図6-7に実験参加18名と文献[8],p.88表5-4より20 歳代~70 歳代の男女539名の 運転スタイルの統計資料との比較を行ったものを示す.各尺度S#は表6-1に各尺度の内容 を記載する.細かくみると各尺度でそれぞれ異なるものの,本研究での実験参加,男性,
女性,539名の各平均値や標準偏差に大きな差は認められない.
図6-7 実験参加者と20 歳代~70 歳代の男女539名の運転スタイル比較
しかし,女性ドライバには図6-7および文献[10]より次の特徴が認められる.運転スキル への自信(S1)が低くい.運転に対する消極性(S2)が高い.せっかちな運転傾向(S3)
が低い.事前準備的な運転傾向(S5)が低い.ステータスとしての車の傾向(S6)が低い.
虚偽発見尺度(S9)は高い.また,高齢ドライバには文献[11], [12]より,次の傾向がある.
せっかちな運転傾向(S3)が高い.運動機能の低下により不安定な運転傾向(S7)が高い.
認知機能の低下により虚偽発見尺度(S9)が低い.さらに,男性は女性とは逆の特徴,実 験参加の若年ドライバについては図 6-7 より,事前準備的な運転傾向(S5)が高く,ステ ータスとしての車の傾向(S6)が高い.不安定な運転傾向(S7)は高いが,虚偽発見尺度
(S9)は低い傾向を示している.これらの傾向を考慮して,傾向が高い尺度に対しては平 均値+標準偏差,傾向が低い尺度に対しては平均値-標準偏差として,女性,男性,高齢ド ライバ,若年ドライバの特徴づけをしたドライバ設定をし,群平均法による階層クラスタ
ー分析と K-means法による非階層クラスター分析により,ドライバの多様性の検証をおこ
なった.
クラスター分析の結果を図6-8に示す.解析方法が異なるため,表6-2に示す 7クラス ターに分けた非階層クラスター分析の結果とは若干の相違はあるが,ほぼ同様のクラスタ ーに分かれている.図中Male,Female,Total Meanは文献[10]の男女及び男女を含む全体の 平均を示し,Female chara.,Male chara.,Aged chara.,Young chara.はそれぞれ女性,男性,
高齢者,若年を特徴づけたドライバの設定である.A~Rの16 名は本研究の実験参加であ り,Rは初心ドライバである.本実験での参加者の平均は,539名の男女,および全体の平
均と近く,同一のクラスターに属している.ある程度の参加人数が確保できれば,年齢,
性別が偏っていても平均的な特性に大きな差が見られない.また女性,男性,高齢者,若 年を特徴づけたドライバの特性に近く,あるいは同一のクラスターに分類できるドライバ が存在し,本研究の実験参加者は多様性を持ったドライバ群を網羅していると考えられる.
なお,各ドライバの運転傾向の数値データは本章の附録に記載する.
図6-8 クラスター分析によるドライバの多様性検証 表6-2 非階層クラスター分析の結果 (7クラスター)