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第5章 性能確認・操舵トルク特性がドライバの操舵に及ぼす影響

5.6 一般ドライバの操舵分析

一般ドライバの操舵傾向を調べるために,操舵角の時間応答の平均を求めた.操舵トル ク特性が4ケースで,各ケース5回走行するため,一人につき20走行のデータがある.実 験参加者8名についての160走行データの平均操舵角応答を図5-20に示す.これらの操舵 の応答は第 3 章で述べた人間の基本的な操作パターンであるジャーク最小モデルで近似で きる.14 秒点で各走行データの時間軸を揃えたため,同時間点での不連続性は見られるも のの,操舵角の応答,操舵速度の応答もジャーク最小モデルで近似できることがわかる.

この結果から,一般ドライバも人間の基本的な操作パターンで操作を行うものの,コース とのズレなどの修正が入り,操舵が乱れていると推察される.すべての操舵角応答とこの 平均操舵応答により車両モデルのシミュレーションを実施し,走行軌跡を算出すると,平 均操舵応答の走行軌跡は,他の走行軌跡の平均の特性となり,滑らかな走行コースを描く.

この結果,任意の操舵角に合わせるような操舵の場合,一般ドライバであっても,基本的 にはテストドライバのような熟練した技能を持つ者の操舵と同様のパターンの操舵をおこ なっていると考えられる.

なお,図 5-20中の 記号は一連の操舵の周期を T,始点の操舵角を As,終点の操舵角を

Ae とし,3.1.2に記述した記号と同一である.図中Fittingと表示した波形は近似ジャーク最

小モデルを用いた.

図5-20 平均操舵角応答と近似ジャーク最小モデル

図5-21に平均操舵角時間応答と標準偏差の時刻歴を示す.この図ではサンプル時間0.01 秒ごとの操舵角の平均である平均時間応答と標準偏差を求めグラフ化した.

図5-21の上図は走行の全データ,平均応答,標準偏差をσとするときの±2 σの応答を薄 い青線で描き,平均応答は黒線とした.図中 2 σ を超える応答も幾分観察できる.図 5-21 の中図は平均応答と,平均応答の±σ,±2 σ の時間応答であり,平均応答の±2 σ の範囲に 操舵角の95%が存在することを意味する.図5-21の下図は標準偏差のサンプリング時間ご との時刻歴を示す.10~15秒と20~25秒の約5秒間は戻し操舵の区間にあたり,この区間 のバラツキが大きいことを示しており,操舵の中点に戻る力が働く特性を持つ系では,切 り込み側より戻し側が操舵しにくいことを示唆している.したがって,切り込み操舵や戻 し操舵などの操作毎に定量評価し,各操作に適した操舵トルク特性を設定できることが望 ましいと考えられる.その意味で,第 3 章で述べたように,操舵の操作に応じた評価指標 が必要であると考えられる.

Time [s]

0 5 10 15 20 25 30

Steeringangle[°]

-60 -40 -20 0 20 40 60

As=-29.9 Ae=-0.5 T=2.99

As=-56.0 Ae=-30.2 T=2.23 As=-30.9

Ae=-57.0 T=2.84 As=32.9 Ae=-29.8 T=2.89 As=55.0

Ae=31.7 T=1.75 As=26.6

Ae=56.3 T=3.48

As=0.6 Ae=28.6

T=2.73

Time [s]

0 10 20 30

Steeringvelocity[°/s]

-60 -40 -20 0 20 40

Steering angle [°]

-50 0 50

Steeringvelocity[°/s]

-60 -40 -20 0 20 40

図5-21 平均操舵角時間応答と標準偏差の時刻歴

また,平均の操舵応答の統計的な性質について検討するため,160走行データからランダ ムに取り出した40,80走行データと160走行データの1秒ごとの操舵角の平均と標準偏差 を求め,平均時間応答と,操舵角のヒストグラムを描いた.ヒストグラムには平均値と標 準偏差から算出される正規分布曲線を重ね合わせた.結果を図5-22~図5-24に示す.これ らの図が示すように,各秒の操舵角の分布をみると走行データ数が多くなるほど,ヒスト グラム上の曲線である正規分布に近づいていることがわかる.このように,人間の操舵の 時刻歴であっても,統計的な大数の法則が成り立つことを示唆している.つまり,この時 間軸の平均操舵角応答も統計的な意味を持つと考えられる.

-2 0 2 4

Histgram

0 0.2

0.4Section 3 sec

-10 0 10 20 0

0.1

0.2Section 4 sec

20 40

0 0.1

Section 5 sec

20 30 40 0

0.05 0.1

Section 6 sec

20 30 40 0

0.1

0.2Section 7 sec

40 60

Histgram

0 0.1

Section 8 sec

45 55 65 0

0.1 0.2

Section 9 sec

50 60 70 0

0.1

0.2Section 10 sec

40 50 60 0

0.05 0.1

Section 11 sec

20 40 0

0.05 0.1

Section 12 sec

20 40

Histgram

0 0.05 0.1

Section 13 sec

-2 0 2 0

0.5

Section 14 sec

-40 -20 0

0.05 0.1

Section 15 sec

-40 -30 -20 0

0.1

Section 16 sec

-40 -30 -20 0

0.1

0.2Section 17 sec

-60 -40

Histgram

0 0.05

0.1Section 18 sec

-60 -40 0

0.1 0.2

Section 19 sec

-60 -40 0

0.05 0.1

Section 20 sec

-60 -40 -20 0

0.1

0.2Section 21 sec

-40 -30 -20 0

0.05 0.1

Section 22 sec

Steering angle [°]-40 -20

Histgram

0 0.1

Section 23 sec

Steering angle [°]-20 -10 0 0

0.1 0.2

Section 24 sec

Steering angle [°]-10 0 10 0

0.1

0.2Section 25 sec

Steering angle [°]-5 0 5 0

0.1

0.2Section 26 sec

Steering angle [°]-5 0 5 0

0.2

Section 27 sec Time [s]

3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28

Steeringangle[°]

-80-60

-40-20204060800 Random 40 cases plot

Mean Mean+σ Mean-σ

図5-22 40走行の平均操舵角応答と分布

図5-23 80走行の平均操舵角応答と分布

図5-24 160走行の平均操舵角応答と分布