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名護屋城跡並びに陣跡

○人為的に破却されたという歴史上の史実を重視し、元はたいへん豪勢な造りであった城郭ではあるものの、敢え て廃城の状態を復元している。

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2 保存・管理、整備・活用の状況

<史跡等の基本情報>

管理団体等 唐津市(指定年月日:平成3年2月9日)

計画書作成

保存管理計画 「名護屋城跡並びに陣跡」保存管理計画:昭和 56 年

整備・活用基本計画 「名護屋城跡並びに陣跡」保存整備計画:第1期-昭和 60 年、

第2期-平成4年、第3期-平成 14 年、第3期改訂-平成 19 年度 第4期-平成 24 年度

管理体制

整備担当部署 特別史跡内<佐賀県>名護屋城博物館学芸課(佐賀県教育委員会文化 財課併任職員が担当)

維持・管理担当部署 <唐津市>

維持・管理の実施主体 <唐津市>

<保存・整備活用計画>

◇「名護屋城跡並びに陣跡保存整備計画(昭和 60 年 11 月)」

・昭和 53 年1月に第1回名護屋城跡並びに陣跡保存整備委員会を開催。昭和 60 年 11 月に策定された、名護屋 城跡並びに陣跡保存整備計画で、「名護屋城跡調査研究所」の設立を審議。これを踏まえ、平成5年 10 月に 佐賀県立名護屋城博物館が開館する。

・以降、第2期保存整備計画が平成4年に、第3期保存整備計画が平成 14 年に、また、平成 19 年に、第3期保 存整備計画が改訂された。

・平成 25 年度からは第4期保存整備計画(平成 25~34 年度)に沿って事業を進めている。

<整備事業>

◇名護屋城跡並びに陣跡保存整備事業

・開始期(昭和 51~60 年度)鎮西・呼子地区に県立高等学校の設置や国営の大型土地改良事業が決まったこと に伴って、陣跡の分布調査・発掘調査を行う。遺構の状況や整備についての情報がほとんど蓄積されていな い段階であったため、名護屋城からではなく、周囲の陣跡から保存整備事業が始められた。

・中近世城郭緊急保存修理事業に基づき、名護屋城でも崩壊の危険の高い箇所を対象に石垣修理に着手(昭和 63 年~平成4年度)。また、陣跡の発掘調査も進める。

・第1期から引き続き石垣修理を行いながら、名護屋城跡の本格的な発掘調査(平成5~14 年度)が始まる。

大規模な改造の痕跡や本丸御殿跡・山里丸の茶室跡など貴重な発見が相次いでいる。また、周辺陣跡の発掘 調査も開始された。

・名護屋城跡山里丸・弾正丸や城下町地区、当時の軍用道路である太閤道等の発掘調査を行ったほか、名護屋 城本丸御殿跡の整備に着手(平成 15~24 年度)。また、名護屋城跡において危険個所の石垣修理や環境整備 を実施している。

・平成 25 年度からは第4期保存整備計画(平成 25~34 年度)に沿って事業を進める。名護屋城本丸御殿跡の整 備や危険個所の石垣修理を第3期から継続して行うほか、山里丸で確認された草庵茶室跡の整備などを計画し ている。

<活用>

◇佐賀県⽴名護屋城博物館による取組

・平成5年 10 月に開館した佐賀県立名護屋城博物館が、特別史跡

「名護屋城跡並びに陣跡」の調査研究・保存整備並びに、展示・

普及活動を担っている。

○展示活動

・築城当時の名護屋城の様子を、復元模型等で常設展示している。

・文禄・慶長の役や名護屋城、朝鮮半島の文化、佐賀県・唐津・東松 浦地域の歴史・文化等を題材としたテーマ展を開催している。

○教育普及活動

・学芸員がそれぞれの研究活動の成果を発表する「なごや歴史講座」を毎月1回開催している。

・発掘調査成果を一般に公開する「史跡探訪会」、公民館・学校等への「出前講座」を実施している。

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3 課題克服のポイント

課題:名護屋城は豊臣秀吉の死後、廃城となった経緯を持つことから、名護屋城跡並びに陣跡の整備と保存を どのように進めるかが課題となっていた。

名護屋城でも、戦後の整備計画では、城を復元しようという動きもあったが、検討を進めるに連れて、豊臣秀 吉の死後、大陸進攻が中止されたために城は廃城となり、二度と城が利用できないように要となる石垣の四隅 を切り崩すなどの破城の作業が行われた。また、島原の乱直後、江戸幕府老中の指示で、一揆が起こった際に 名護屋城を利用させないように意図的に破城した。このような歴史の事実を史跡整備の検討委員会では重要視 し、その破却した状態を超える復元・整備を行わなかった。この整備は、日本でも唯一の整備状況として注目 され、専門家や一般観光客も増えている。また、創建の城を復元整備した場合と比較した場合、整備費は低価 である。

課題:名護屋城の整備にあたって復元を行わない姿勢をとったため、史跡の歴史的・文化的価値をいかに発信 し、地域住民に史跡の価値を理解してもらうかが課題となっていた。

名護屋城跡並びに陣跡の保存整備事業を担うガイダンス施設、「佐賀県 立名護屋城博物館」は、平成5年 10 月に開館。館内展示では、歴史的 説明や名護屋城が破却した経緯などを詳細に解説している。そのなかで も特徴的なのは、博物館や城跡等でタブレット端末やスマートフォンな ど最新の技術を活用した展示解説を導入している点である。AR、バー チャルを活用することにより、名護屋城が現存していた時代の姿と現状 を見比べることもできる。また、史跡内には、観光案内所が整備されて おり、来訪者への案内やガイドを行っている。さらに、博物館ではイベ

博物館や城跡でスマートフォンやタブレットを活用し、気軽に詳細なガイドを受けながら史跡を巡 れる工夫づくりや、定期的でユニークなイベントの開催など、来場者獲得の工夫がなされている。

豊臣秀保陣跡(整備後):第1期

タブレット使用の様子

歴史的背景を尊重した史跡の整備 マネジメントのポイント①

「破城」という歴史を史跡の本質的価値として位置付け保存・整備を行った結果、珍しい史跡の保 存方法として注目され、専門家や観光客の増加につながっている。

ガイダンス施設を通した史跡の積極的な広報活動

名護屋城・城下町復元模型/常設展示室 マネジメントのポイント②

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ント等の情報を発信するメールマガジン「なごやの風」も運営しており、積極的な広報活動にも取組んでいる のが特徴である。また、来場者に任意で清掃協力金として 100 円を徴収し、草刈りなどの管理費に当てるなど の工夫もある。(http://saga-museum.jp/nagoya/nagoya-castle/)

博物館では歴史や文化に親しんでもらう場を提供するため、イベントを随時開催している。「なごや歴史講座」

は、原則として毎月第3日曜日(5月~3月)に開催される講座であり、学芸員による解説を受けることがで きる。佐賀県の歴史や文化を中心に、月ごとにテーマが設定される。また、遺跡や発掘調査・保存整備事業の 成果を一般に向けて公開することを目的に、「史跡探訪会」や「発掘調査現地説明会」も開催されている。その ほかにも、勾玉づくりや出土犬のお守りづくりなどが体験できるウェルカムワークショップや、普段は見る機 会のない夜の城跡と博物館を、懐中電灯を持って学芸員の案内で探検できるナイトミュージアムなどの取組が ある。

また、当博物館は日韓の学術・文化の交流拠点として、日本列島と朝鮮半島との交流 の歴史についても調査・研究を進めている。さらに、「日韓交流センター」として韓 国との交流の相談・交流支援・情報提供を行っており、国際交流化と連携をとりなが ら日韓交流の支援や博学連携授業などに取組んでいる。この博学協働授業を通して生 徒らが作成した、名護屋城の旧城下町地域を紹介する「町歩きマップ」は、博物館内 で配布されている。

課題:唐津市は自然、歴史、文化など多くの優れた資源を有しているが、必ずしも有効に活かされていない状 況であった。そこで、これらの資源をつなぐルートを設定し、複合的な価値を高めるとともに、市民の 郷土への誇りや愛着を育んでいくことが課題となっている。

唐津市では、景観まちづくりの一環として、名護屋城跡、佐用姫 等の歴史や、文化を活かした景観まちづくりに取組んでいる。歴 史的・文化的資源の保護と継承を図りながら、効果的に活用する 景観まちづくりへの機運が高まっている。

唐津市では市民団体による観光ガイドが行われている。名護屋 城跡だけではなく、周辺の観光施設(陣屋跡など)を含めたガイ ドを行い、観光振興に寄与している。その団体の一つである唐津 観光協会には 74 名のボランティアが在籍しており、日本語のほ か、英語、韓国語、中国語、フランス語によるガイドを無償で行 っている。

市民団体の組織づくりを行うための資金が確保できなかったため、清掃協力金や団体のガイドツアーなどの受 け入れを行い、組織運営や管理の資金を集めている。

名護屋城跡の歴史的資源の活用及び文化活動の醸成による地域活性化を図るため、名護屋城跡そばに指定管理 者制度を導入して、唐津市名護屋城茶苑「海月」を設置。茶屋棟、茶室棟、庭園を管理・運営している。茶会 やひなまつり時の人形の展示・茶席の開催のほか、お茶の教室、歴史探訪会、コンサートなどのイベント開催 をしている。さらに、茶屋棟、茶室棟の一般貸出も行っており、社中の稽古やお茶以外の行事の開催、会議、

写真撮影等に利用することができる。

城跡アプリのチラシ

市民と協働し、周辺の観光地を含めた周遊型の観光づくりを進め、まちづくりの観点からも史跡の 活用を図っている。

市民ガイドの様子(HP:唐津観光協会)

市民と協働した史跡の活用と整備 マネジメントのポイント③

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