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○「ユクエピラチャシ跡」の整備・活用にあっては、社会経済情勢や取り巻く環境の変化、また、学術的な調査 結果等を踏まえ、整備期間中にも関わらず遺構整備計画の見直し・方向転換を行っている。

○特に、遺跡の最大の特徴である「白いチャシ」を活かした遺構整備計画、並びに、遺構のみならず、周辺の景 観を意識した整備を行っているところが注目される。

ユクエピラチャシ跡

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2 保存・管理、整備・活用の状況

<史跡等の基本情報>

管理団体等 陸別町(指定年月日:平成5年3月 22 日)

計画書作成 保存管理計画 保存管理構想:平成 11 年3月 31 日 整備・活用基本計画 保存整備基本計画:平成 13 年3月 31 日

管理体制

整備担当部署 陸別町教育委員会社会教育・社会体育担当 維持・管理担当部署 陸別町教育委員会社会教育・社会体育担当 維持・管理の実施主体 自治体職員が直接管理

<保存・整備活用計画>

◇史跡ユクエピラチャシ跡保存管理構想報告書(平成 10 年度、陸別町教育委員会)

・国指定(昭和 62 年)に伴い急務だった崖面保護工事の終了の時期が近づく中、本格的なチャシの保存管理構想 を立てる必要性から、平成9年から2年間にわたり、町外の学識経験者と町内の文化財審査委員等による保存管 理構想検討委員会を行い、将来的な活用を目指した史跡整備を実施する意思を確認するとともに、構想の内容と して、史跡ユクエピラチャシ跡の特色は何か、その特色をどのように保存管理していくかについて整理を行い、

併せて、整備の可能性について整理を行った。

・本構想を受け、翌年から試堀調査を実施するとともに、「史跡ユクエピラチャシ跡保存整備委員会設置条例」を 定め、以降、「保存整備委員会」を開催している。

◇史跡ユクエピラチャシ跡保存整備基本計画(平成 12 年度、陸別町教育委員会)

・平成 11 年度から2年間にわたり基本計画の策定作業を行い、遺跡の保存整備に必要な調査研究、保存整備の方 法、保存整備後の活用の計画等を保存整備委員会で審議した。

・遺跡の復元的整備(壕の現状保存、チャシ築造当初のように盛土範囲を白く復元、柵列・礫集中等の郭内の意向 の復元整備の検討、関連整備(遺構への進入路、景観の保全(伐採、間伐等))、ガイダンス施設、その他便益施 設)を位置づけた。

<整備事業>

◇史跡ユクエピラチャシ跡保存整備事業

・平成 14 年度から平成 20 年度の7年間にわたって、史跡ユクエピラチャシ跡の保存整備 事業を実施。

○雨水排水工事による遺跡保護工事の実施

○郭外盛土の復元(白い色彩を使った復元によって、遺跡の大きさと形状を思索的に理解 することが可能とした)

○伐採を主体とする景観整備(チャシ全景を俯瞰できるビューポイントの設置)

○遺構整備と景観整備の効果を損なわないように配慮し、ビューポイントを中心とする景 観演出に沿った園路とサイン工事の実施

○ガイダンス実施の整備(財政的に建設と将来的な維持管理が困難との判断から、既存の 文化施設等を使ったガイダンスシステムを構築する計画に変更)

<活用>

◇「住⺠参加型」の整備

・ガイダンスシステムの構築の具体化のためには、史跡整備事業自体に地元住民の理解と協力が必要であるという 認識から、事業の経過とともに「住民参加型」の整備を試みる工夫を始める。

○平成 19 年度:遺構整備を利用した発掘疑似体験の実施

○平成 20 年度:白い盛土の復元作業でボランティアを募り整備作業に参加してもらう機会を設置

○整備状況は、毎月広報に掲載するとともに、毎年文化祭において「史跡ユクエピラチャシ展」としてパネル展示 を行う。

◇リーフレットの作成

・「史跡ユクエピラチャシ跡」を紹介するパンフレットを作成する。

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3 課題克服のポイント

課題:保存整備基本計画に基づく、遺構の復元整備やガイダンス施設等の基本設計を策定し、整備等が進めら れていたが、地方交付税の減額や町の人口減による財政難や、学術的調査により未確定な部分があるこ とで、遺構復元計画の見直しを図る必要性があった。

川沿いにあるチャシが崩落しかけていることから崖面工事が行わ れたことをきっかけに、史跡ユクエピラチャシ跡の保存・整備・活 用に関する検討が始められた。平成 12 年度に策定された「史跡ユ クエピラチャシ跡保存整備基本計画」、並びに平成 13 年度策定の、

「史跡ユクエピラチャシ跡保存整備基本設計」に基づき、3つの郭 と郭外盛土の発掘調査を行った。チャシの柵跡が発掘されたことに よって、柵の復元が検討されたが、柵の上部構造が不明確であった。

様々な研究報告があったものの、推測の域を超えなかったこともあ り、柵の復元は断念した。

調査の上で、盛土には白い火山灰が積もっていたことが判明したことから、400 年前の色を復元し、白いチ ャシに整備した。また、ガイダンス施設と侵入路・駐車場の整備のほか、景観保全としての伐採・間伐の実 施と排水施設の整備も行った。さらに、町指定文化財と連携した広場(開拓記念広場)の整備等を計画に位 置づけ、平成 14 年度から平成 20 年度の7年間にわたって保存整備が進められた。その間、学術的調査によ り、史跡の指定範囲内に他の地点より高い箇所があり、そこからユクエピラチャシ跡の全景が見ることがで きることがわかった。すでに事業を進めていたが、史跡の全貌を見ることができる点は、活用の視点で珍し いことであったため、ビューポイントとして整備するよう計画を変更した。地方交付税の減額や町の人口減 による財政難も踏まえて、調査の成果を反映し、遺構復元計画の大幅な見直しを行った。整備・活用の主旨 が調査によって明確になったことから、計画の変更もスムーズに進められた。

そのほかにも、財政的問題から、ガイダンス施設の建設と将来的な 維持管理は不可能だとする判断が下され、既存の文化施設などを使 ったガイダンスシステムの構築へと計画を変更している。これに伴 い、郭外盛土断面の剥ぎ取りもその展示の受け皿施設がないことか ら物理的に不可能となったほか、柵列についても、上部構造が確定 できないため、復元は後世にゆだねる姿勢をとった。ただし、この 遺跡の最大の特徴である白い盛土は復元し、白いチャシとして景観 演出の中心に据えている。

遺跡を取り巻く環境の変化や、学術的な調査等の結果を踏まえて、整備期間中にも関わらず、遺構 整備計画の見直し・方向転換を行い、ビューポイントを整備するなど遺跡を観光の面からよりよく 活用することにつながった。

遺構整備計画の見直しにあたり、遺跡の特色を活かした遺構整備計画へ変更することによって、史 跡の最大の特徴を表現し、景観演出の改良を実現した。

遺跡だけでなく、周辺景観を意識した整備の実施 マネジメントのポイント①

ビューポイントからの遺構景観

史跡の案内

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遺構の最大の特徴である「白いチャシ」の景観演出を整備の核とし、整備委員会を中心とする詳細な事業内 容協議を現地で行い、遺構整備により年々変化していく景観に配慮しながら事業を進めた。とくに、園路と サイン計画は何度も計画の変更を行った。チャシ全景が俯瞰できるよう、ビューポイントを新たに整備する とともに、ビューポイントを中心とする景観演出を活かすために、人工的な園路については、計画よりもか なり短いものとした。サイン関係についても、総合案内板2基、遺跡名称板2基、誘導標識2基、遺構説明 版2基を設置する計画であったが、人工的な遺構景観にそぐわないとの判断から、総合案内板1基、遺跡名 称板1基の設置へと、縮小している。

平成 14 年度から7年間にわたって実施した史跡ユクエピラチャシ跡の保存整備事業により、遺跡だけでなく、

周辺景観に次のような効果をもたらした。

・壕の外側の大規模な盛土部分は、壕を掘り上げた際にでる白い火山灰とロームが丁寧に折り重なり、表 面が白い火山灰で覆われた美しいものであることが発掘調査等で確認されている。その調査成果を踏ま え、白い色彩を使った郭外盛土の復元を行ったことにより、遺跡の大きさと形状を視覚的に理解するこ とが可能になった。

・伐採を主体とする景観整備によって、指定地内の地形を最大限に利用した、ビューポイントを中心とす る演出が完成したことにより、チャシの全景を俯瞰できる環境が整った。

・遺構整備と景観整備の効果を損なわないように、ビューポイントを中心とする景観演出に沿った園路と サイン工事が行われた。

・これら整備の相乗効果として、季節の移り変わりによる遺構周辺の色彩の変化と、気象状況によって日々 変化する盛土の色彩が生まれ、史跡に足を運ぶたびに異なる景色を見せてくれるものとなった。

整備前には、ボランティア等はなく、史跡の認知度も低かった。しかし、

白いチャシを復元・整備する際に一般公募で協力者を募集したところ、

地元の郷土研究会等からの参加があった。整備の参加者からは、「地域の 宝(財産)の整備に携わることによって史跡の愛着・誇りにつながった」

という声が寄せられている。

整備完了から時間が経ち、徐々に来訪者も減りつつあった時、史跡のP Rとして写真コンテストを行った。多くの住民が参加し、来訪者も回復 した。また、チャシ跡は地域の宝として学校教育等で活用されており、

地元の小中学生が見学や調査に定期的に訪れている。特徴的な概形であ る点(3郭連結型)、「カネラン伝説」に結びつく可能性がある点に史跡 の価値を位置づけ、発信することで、地元の財産だという感覚を地元住 民に持ってもらう必要がある。

遺構並びに周辺の景観演出を遺構保存整備活用の第一と捉え、人工物を出来るだけ整備しない計画 変更を行ったことで、当時のチャシの様子の再現を実現することにつながった。

遺跡整備と周辺景観を意識した整備により、住民や来訪者に遺跡に何度も足を運んでもらえる環境 づくりにつながった。

住民に整備に携わってもらうことで、遺跡が地域の財産であるという意識、また、愛着・誇りの醸 成につながった。

リーフレット (49)