• 検索結果がありません。

○白色粘土で下塗りし、赤色顔料のベンガラで連続三角文や幾何学文様、当時の武器や武具などが描かれている 石室の壁画の保護・管理を行うとともに、市民への一般公開としての活用を行うといった、遺跡の保存と活用 の両立に成功している事例として注目される。

虎塚古墳

(58)

2 保存・管理、整備・活用の状況

<史跡等の基本情報>

管理団体等 -

計画書作成 保存管理計画 虎塚古墳壁画保存の基本方針:昭和 52 年2月3日決定

整備・活用基本計画 勝田市虎塚古墳公開保存施設設置基本構想:昭和 53 年2月7日策定

管理体制

整備担当部署 教育委員会 維持・管理担当部署 -

維持・管理の実施主体 -

<保存・整備活用計画>

◇「勝田市史編さん事業」(S48)

・学術調査として計3回の調査が行われた。調査団長は大塚初重明治大学教授に依頼。

◇「保存対策会議」設置(S48)

・昭和 52 年に虎塚古墳壁画保存の基本方針が決定され、公開を前提とすること、公開施設はできる限り墳丘の 景観及び遺構等を損なわないこと、石室内部の科学調査実施、保存管理組織の検討が明記される。

◇「勝田市⻁塚古墳公開保存施設設置基本構想」策定(S53)

・彩色壁画の永久保存と公開のための施設設置について構想が発表され、一般公開を春と秋に行うこと、石室内 部の諸条件の観察を可能にすること、保存施設を墳丘内に収めることが取り決められた。

◇「⻁塚古墳等保存対策委員会」設置(S56)

・虎塚古墳の保存対策と保存経過の点検のために考古学と保存科学等の専門家により組織される。平成元年に「史 跡保存対策委員会」に名称を変更し、現在に至る。

<整備事業>

◇史跡等構成要素等の保存や修理

・昭和 53 年度に国庫・県費補助事業として設計と土質調査等の保存施設の整備、昭和 54~55 年度にかけては公開保存施設と休憩所の建設、羨道の天井石補強を行った。

・史跡保存対策委員会では壁画等の保護に関する調査研究を行うほか、一般公開の状況 や史跡の保護対策や研究等について一般に公開している。

◇⻁塚古墳史跡公園の整備

・虎塚古墳公園の除草、清掃活動は中根ときわ会(地元老人会)に委託しているほか、ボ ランティアによる清掃活動も行われている。今後、解説・案内に地元ボランティアを

起用することも検討している。また、サインや説明版の設置、園路の整備、保護柵の設置も進められている。

◇ひたちなか市埋蔵⽂化財調査センター

・発掘調査等によって収集された遺物を収蔵し、埋蔵文化財の調査・研究を行う。虎塚古墳壁画のレプリカが展示 されている。

<活用>

◇「⻁塚古墳公開事業」(教育委員会)

・虎塚古墳石室を良好な状態で保存し、定期的に広く公開することで、虎塚古墳及び文化財全般に対する理解を 深めるとともに、市民の郷土愛の高揚と文化教養の向上に寄与するため、公開事業を実施している。

・春と秋の壁画の一般公開は有料(大人 150 円、小中学生 80 円)であるが、虎塚古墳は常時無料で見学が可能で ある。毎年 2000 人ほどの観覧者が訪れる事業である。

◇学習活動の実施

・主に社会科見学として教育機関の受け入れを行い、史跡の文化的・歴史的役割を教育に還元している。また、

教育機関以外においても学習活動を実施している。

◇イベント等の開催

・シンポジウム等、史跡等の文化財的な価値に関するイベント(コンサート等)を開催。

◇情報発信

・ホームページやパンフレット等での史跡の説明や情報発信、その他PRを行う。一般公開についての情報も広 く発信されている。

虎塚古墳(外観)

(59)

3 課題克服のポイント

課題:旧勝田市(現ひたちなか市)の市史編さん事業として昭和 48 年に行われた発掘調査により、石室内部よ り極めて良好な保存状態の彩色壁画が発見されたことで、旧勝田市教育委員会は万全な壁画の保存管理 を行う必要に迫られた。同年に行われた保存対策会議で、密閉保存ではなく公開を前提とした保存施設 を作るという基本方針が決定され、相反する壁画の保存整備と一般公開を同時進行で進めるという大き な課題に直面した。

当初、国の史跡指定地約 8,400 ㎡は民有地であったことから、

旧勝田市は昭和 51 年・52 年度に国庫補助(80%)、県費補助

(10%)を受けて全域を購入し、指定地の速やかな公有化を果 たした。総事業費は約 6,200 万円に上った。指定地の公有化を 実現したことにより、史跡の調査・保護・整備が円滑に進めら れたほか、一般公開の開催が行える環境が整ったといえる。

虎塚古墳の壁画が所在する石室を、将来の教育・

研究に役立て、遺跡の歴史的価値を市内外の 人々に還元するため、古墳とその周辺の地理的 環境の保全、石室の一般公開・保存施設建設を具 体的に推進する必要があった。整備は、国庫・県 費補助等の補助金によって進められている。石 室内の温湿度測定をはじめとした保存科学的調 査の結果、保護室に適当なスペースを設け、二重 窓を設定し、見学人数と時間制限の適切な処置 を行うことが、石室内部及び壁画に対する一般 公開の影響が最小限に抑えられると判明した。

なお、壁画の一般公開は、調査研究に基づき、温 度調節に支障をきたさない春と秋の2期間開催

されている。現在までに、最近の気候の変化に伴って、春の公開を4月から3月末に前倒しするなどの対処 もなされた。壁画の見学は有料であり(大人 150 円、小中学生 80 円)、史跡公開にあわせたPR等が功を奏 して、継続的な観覧者の獲得に成功し、年間約 28 万円の収入を得ている。

一般公開とあわせて、小中学校と提携し、定期的な受け入れを行っている。併設されている埋蔵文化センタ ーの職員がガイドを行うなど、教育の面からも力を入れて古墳の活用に取組んでいる。

遺跡の保護(石室内の管理)と活用(一般公開)の両立を目指した取組 マネジメントのポイント①

保存科学の観点から石室及び壁画の保存・管理調査を徹底することで、石室の保存管理と一般公開 の両立が可能となる環境整備に成功した。

補助金を得て指定地域の公有化を進めたことにより、スムーズな遺跡の保存管理と一般公開の開催 が実現している。

一般公開のチラシ 保存公開施設の平面図 壁画の状況

(60)

発掘調査等によって収集された遺物を収蔵し、埋蔵文 化財の調査・研究を行う機関として、平成5年 12 月に ひたちなか市埋蔵文化財調査センターが設置された。

保存の観点から壁画を一定期間しか公開できないた め、館内には虎塚古墳壁画の実物大レプリカが展示さ れており、壁画の公開期間外でも石室の様子を見学し、

本質的価値に触れることができる。本センターでは、公 開講座「ふるさと考古学」が行われており、子どもたち をはじめとした多くの住民が参加する場になってい る。平成 26 年度には総入館者数 15 万人を突破し、広 く一般に虎塚古墳の本質的価値を公開する場となって いる。

公開保存施設は、古墳の景観を損なうことのないよう に施設全体を墳丘封土中に埋め込むこととし、出入り 口も環境に調和させるように配慮した。また、施設を 造ることによって、なるべく墓道や前庭部の一部を壊 すことのないように、現状のまま保存できるような施 設を造った。更に、観察室は工事施工可能な限り石室 に近づけ、観察室から石室内を観覧できるようにした。

景観に配慮しつつ、史跡の本質的価値を多くの市民に 公開するべく、工夫が施されている。

さらに、古墳の周辺を虎塚古墳史跡公園として一体的 に整備することで、古墳周囲だけではなく、周辺の景観 を保持するとともに、地元住民の憩いの場を創出してい る。

地元老人会「中根ときわ会」が虎塚古墳史跡公園の除草、清掃活動等を受託し、現在に至る。当初民間業者に 依頼していた際より史跡の維持管理に係る予算の大幅削減につながるとともに、史跡に対する市民の愛着も 高まっている。ボランティアの人員は「中根ときわ会」が独自に募集をしている。今後、市では解説・案内に 地元ボランティアの住民を起用することも検討している。

保存的観点から史跡の公開が一定機関に限られていたが、資料館を併設し、実物大のレプリカを展 示したことで、史跡の公開時期以外にも史跡を見学し、本質的価値に触れることが可能となり、多 くの来館者が訪れるようになった。

地域住民との協働による環境整備活動が行われており、住民が史跡の歴史的重要性を認識すること につながっている。

史跡の公開保存施設を整備するにあたり、環境に調和した形で整備したことで、古墳の景観を損な わず、来訪者が史跡の本質的価値を体感することができている。

虎塚古墳の外観

ひたちなか市埋蔵文化財調査センター

(61)