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整 備

都市化により失われた 19 世紀の様子を来訪者に知ってもらうため、出島の全体像が理解できる よう整備計画を策定し、長期的取組を行っている。

2012年、出島本来の入口にあたる表門橋跡の公有化が進み、「表門橋」の復元に加え、表門橋手前 の建物の復元にも着手することが可能になった。これによ

り動線の復元が可能となり、本来の場所から出島に入場す ることによって、出島の本質的な機能や町とのつながりを 意識することができる。整備計画には、築造400年にあた る2036年を目標とする中期的なものと、整備事業計画着手 から100 年にあたる2050年を目標に整備事業の完成を目 指している長期的なものがある。都市部にある遺跡として、

その指定地だけでの計画ではなく周辺について の整備も視野に入れ、観光やまちづくりの視点 から整備計画を策定している。史跡整備だけで はない長期計画を立てることで継続的で計画的 な整備が可能となる。

ウ.活用を意識した整備

1)吉野ヶ里遺跡(佐賀県吉野ヶ里町)

遺跡等の整備において計画段階から観光部局と連携をして実施している。

本遺跡は文化財保護と観光を結びつけ、地域のシンボルとして活用されるよう様々なイベントを行 っている。吉野ヶ里遺跡を内包する吉野ヶ里歴史公園の基本計画を検討する委員会では、歴史の専門 家だけではなく、作家や観光関係の委員を加えて検討を進めた。合わせて学者、文化人(小説家、芸 術家等)、著名人(財界人、ジャーナリスト等)等の有識者に対して吉野ヶ里遺跡と歴史公園に関す るアンケート調査を行い、遺跡を公園化するにあたっての留意点や遺跡の保存と活用のあり方、公園 としてのあり方を把握し、整備等に反映している。その結果、整備された歴史公園では、公園内にあ る施設内で多くの出土品をみることができ、なかに

は実際に手で触れることができるものもある。ま た、年に十数回のイベントを企画し、弥生人の生活 を再現した企画で、勾玉などの装飾品の製作、当時 の衣服の製作・試着、古代米の育成、当時の食事体 験などの参加型のものが多数あり、古代の文化や生 活の体験ができ、地域の観光振興にも寄与してい る。

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2)虎塚古墳(茨城県ひたちなか市)

保存を計りつつ、古墳の最大の特徴である石室の公開も実現することを前提で整備を行った。

壁画がある石室を確実に保存しつつ、遺跡の本質的価値を市内外の人々に還元するため、古墳とそ の石室の一般公開・保存施設建設を具体的に推進する方針とした。そのため、石室内の温湿度測定を はじめとした保存科学的調査の結果、保護室に適当なスペースを設け、二重窓とし、見学人数と時間 制限の適切な処置を行うことにより、石室内部及び壁画に対する一般公開の影響は最小限に抑えられ ることが判明し公開することとした。なお、壁画の一般公開は、調査研究に基づき、温度調節に支障 をきたさない春と秋の2期間とした。

現在までに、最近の気候の変化に伴って、春 の公開を4月から3月末に前倒しするなどの対 処も柔軟になされた。また、古墳の周辺を史跡 公園として一体的に整備することで、古墳周囲 だけではなく、広く周辺の景観を保持するとと もに、地元住民の憩いの場としての機能するこ とができている。

3)大中遺跡(兵庫県播磨町)

史跡等は地域の宝と位置付け、ボランティアのみによる竪穴建物の自主的復元の可能性を示し、

整備段階から地域住民参加で整備活動を実施した。

ガイダンス施設の役割を果たす県立考古博物館の設置に先立って、単に史跡を見学してもらうだけ ではなく、地域住民自らが整備に携わるといった行政と住民の活動を推進していくことが、当初の整 備計画の段階から決定された。大中遺跡の新しい利活用のあり方として、竪穴住居の復元整備にあた り、従来型のハード中心の整備ではなく、住民参加型の取り組み等、ソフト面を重視した整備を進め た。さまざまな活動に取り組む団体に参加を呼びかけ、材料の調達から骨組の架構、茅葺きまで竪穴 住居復元をすべて市民参加で行い、積極的な活用に取り組んだ。市民が整備の段階から史跡に接して きたことで、早急に整備を完了させるのではなく、史跡に対する愛着を持ってもらえ、計画に余裕を 持たせたことで、住民参加による史跡の整備が実現した。

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4)斎宮跡(三重県明和町)

広範囲な遺跡の認知度向上のため、情報発信の場の整備(ガイダンス施設、大型模型等)を実施 した。

斎宮に対する住民の関心と認知度を高め、斎宮の魅力を堪能できる環境を形成する必要があるとし て、平成8 年度から平成13 年度にかけて、当史跡では、本格的な大規模整備事業となった文化庁事 業である「歴史ロマン再生事業」(地方拠点史跡等総合整備事業)を行った。平安文化の体験学習拠 点となる「いつきのみや歴史体験館」をはじめとし、1/10 の史跡全体復元模型、外周ヤナギ並木と いった斎宮の雰囲気を感じられる空間の整備を

三重県が進めた。明和町は指定範囲が広域なこ と、かつ指定範囲内に住宅が混在しているため、

史跡の保全と人々の生活の共存を図り、斎宮跡を 核とした地域の活性化に取り組んでいる。ガイド ボランティア等が整備された施設や模型等を活 用して、観光客等をもてなし、斎宮に対する住民 の関心と認知度を向上させた。

5)樫原の棚田及び農村景観(徳島県上勝町)

他部署やNPO法人、地元住民との連携による整備を進めたことで、景観保全に加え、地域外か らの人を呼びこむことに成功し、地域の活性化に寄与している。

地元の棚田を後世に残していきたいという考えから、平成 15年に樫原農家・支援NPOを主体とする棚田保全組織「樫 原の棚田村」が発足した。平成 16 年には上勝町が地域振興 策としての農村滞在型のエコツーリズムを推し進め、「上勝 町まるごとエコツー特区」を申請し、認可された。平成 17 年には「棚田オーナー制度」が誕生し、NPO 法人の運営に より「かみかつ棚田・畑・果樹オーナー」として現在も継続 されている。平成 18 年には都市農村交流活動としてワーキ ングホリデイが導入され、農作業や石積み作業などの棚田保 全活動が展開されている。さらに、中山間直接支払制度を活 用した棚田等の農地の保全も行っている。

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6.体制、連携の確立

(1)体制の整備

関係者及び部署・機関との情報共有・連携は、史跡等・重要文化的景観のマネジメントを実施するう えで基本となる。保存活用計画等の計画を策定し、十分な予算確保していても、体制が十分でなければ マネジメントは遂行できない。

本節における体制とは、史跡等・重要文化的景観の保存・活用等を中心としたマネジメントを推進す るために必要な職員等を配置した地方公共団体の担当部署等の体制を指す。体制の適正な人数を一律に 定めることは困難であるが、管理すべき史跡等・重要文化的景観に対応できる専門(技術)職員と事務 職員が配置されていることが望ましく、両職種のバランス良い配置が有効である。

さらに、担当部署だけの体制ではなく、地方公共団体内における部署間の体制整備が必要となる。

(2)運営

運営においても各史跡等・重要文化的景観に対応できる地方公共団体の職員配置が基本である。し かし、運営においては、地方公共団体だけではなく、地域住民やいろいろな活動団体と協力して実施 することも考えられる。

また、運営方法の一つとして、指定管理者制度があり、ガイダンス施設や史跡公園となっている公 の施設については外部に運営を委託することができる。

(3)連携

連携には、多種の連携の在り方が存在すると考えられる、ここではマネジメントを進めていく上で 必要かつ有効な連携について以下に述べる。

ア.所有者と地方公共団体の連携

所有者が個人の場合は、地方公共団体がもつ、保護に対する専門的な知識、保護経費等の支援など に対応するためにも、所有者と地方公共団体との連携が必要性である。

イ.史跡等を所管する自治体での部署間連携

史跡等を管理している部署は、教育委員会の文化財関係部署が多いが、史跡等・重要文化的景観の 種別によっては、担当部署だけで保存・活用することが困難な場合が多い。そのため、史跡等を保護 するために開発事業との協議や調整ができるように日頃からの連携が必要である。活用においても観 光・地域振興部署との連携が必要な場合が多いため、協働して計画の策定や事業を実施することが望 ましい。

ウ.所有者、市町村、都道府県、国との連携

史跡等をマネジメントする上で文化財保護法における手続き・補助事業の手続きは、所有者と地方 公共団体・文化庁との連携が不可欠である。また、手続き上の連携だけではなく、専門的な知識や技 術等を有効に活用するため連携して実施することが必要となる。担当者個人の知識や経験に頼ると限