2. 国際機関及び各国の電子商取引政策動向
2.4 ヨーロッパ
2.4.1 EU
(1)概観
欧州連合(EU)の情報化戦略は、1980 年代にアメリカが骨身を削る構造調整を通じてデジタル 経済の成長力を蓄積したように、ヨーロッパも成長の問題を解決するための突破口を情報化に見 出そうとしている。そのためにヨーロッパは、EU レベルと加盟各国レベルを連携させて情報化戦 略を推進している。EU レベルでは eEurope に代表される総合計画を策定・推進しており、各国は、
この総合計画の基本方向の上で自国の条件や能力に合った国家計画を推進している。
EU の情報化政策は、大きく分けて、加盟 15 カ国の全般的な情報化を志向する eEurope 政策、
バルト 3 国や東欧諸国など、今後、EU に加入する予定の加盟候補国の情報化を志向する eEurope+
政策、EU の情報通信技術開発政策である ERA(European Research Area:欧州研究領域)で構成 されている。
「eEurope 2002」政策は、情報化の面でアメリカより立ち後れているという切迫した認識の下、
2000 年 3 月、ポルトガルのリスボンで開催された EU 首脳会談で、今後 10 年内にヨーロッパを知 識と新技術に基盤を置いた世界最高の競争力を持った社会にするという目標を掲げて推進されて きた。「eEurope+」は、2000 年 5 月のワルシャワ外相会談で、バルト 3 国や東欧諸国など、今後、
EU に加入する予定の加盟候補国が EU 加盟国との情報格差を解消し、情報化を促進して、ヨーロ ッパの効果的な統合に寄与することを目標にしている。
「eEurope 2005」は、2002 年 3 月にバルセロナ理事会で決定し、2002 年 5 月 28 日、欧州委員 会が発表した。2005 年までの今後 3 年間に EU 加盟国が追求しなければならない IT 部門の目標と、
具体的な実践方法、関連する懸案を扱っているのであるが、eEurope 2002 計画、eEurope+に続い て出された EU 情報化計画の完結版である。
以下、EU の情報化政策を、eEurope 2005 を中心に分析してみよう。
(2)「eEurope 2005」を中心に
eEurope 2005 は、ヨーロッパが本格的な情報化社会の段階に入ることができるように、諸般の 環境を整備することを目的としている。2005 年までに EU 全域にわたる広帯域ネットワークを構 築して利用できるようにすること、ネットワークセキュリティ、e‑ガバメント(e‑Government)、
e‑ラーニング(e‑Learning)、e‑ヘルス(e‑Health)、および e‑ビジネス(e‑Business)を活性化 することなどに焦点を合わせている。eEurope 2002 計画が、2 年間に、インターネット人口の拡 大、電子商取引に関する規則、電子署名など、情報化社会の環境整備に寄与したとすると、eEurope 2005 は、ヨーロッパ社会の実質的な情報化を追求するものである。2002 年 3 月にバルセロナ会議 で立案され、5 月 28 日に発表された eEurope 2005 計画は、2000 年にポルトガル・リスボンで満 場一致で決議した eEurope 2002 計画の延長線上にあるといえる。
eEurope 計画は、EU を雇用問題の解決および社会的統合を土台に、2010 年までにもっとも競争 力があり活力もある知識基盤経済とするための努力の一部である。現在実行中の eEurope 2002 計画を通じて、ヨーロッパの IT 部門は、刮目に値する成果をおさめている。ヨーロッパの家庭の インターネット普及率は、この 2 年間で 2 倍に増え、ヨーロッパの e‑研究ネットワークは世界最 高レベルにまで発展し、電子商取引と通信市場における諸般の規定が整備されたのはもちろん、
次世代の移動通信およびマルチメディアサービスが新たに登場した。また、EU 各国の政府間電子 情報交流が急増し、市民の社会参加のために知識基盤経済で要求される技術を習得できる多くの 機会が提供され、学校にはコンピューターとインターネットが広く普及した。
新たな行動計画(action plan)の目標は、民間投資と雇用創出のための環境を提供し、生産性 の向上を促進し、公共サービスの現代化、世界化された情報化社会に参加しようとするすべての 人への機会の提供などにある。eEurope 2005 は、広帯域サービス基盤をもとに、安全なサービス とアプリケーションおよびコンテンツサービスを推進することを目標にしている。
情報化社会は、生産性の向上と生活の質の改善を実現可能にする大きな潜在力を有しており、
このような潜在力は、広帯域技術の発達とマルチプラットフォーム接続でより増大している。こ れはデジタル TV や 3G などを通じた新しいインターネット接続の可能性を意味し、このような技 術の発展は、新規サービス、アプリケーション、コンテンツの新市場を形成する。これらを通じ て成長および雇用促進方法を提供し、市民が便利に情報および通信手段に接続することが可能に なる。
新たなサービスの開発と広帯域情報通信基盤の構築は、民間分野を中心に行われなければなら ない。したがって eEurope 計画は、民間投資誘導のための法制度の整備および需要促進を通じた 投資の不確実性の縮小など、民間投資にもっとも適切な環境をつくりだすことに力点を置くこと になるだろう。
eEurope 2005 は利用者中心の計画案であり、利用者の参加を促進するための機会を提供すべく 諸般の技術を強化することであり、サービスのマルチプラットフォームの提供を保障するために TV や携帯電話などが重要な手段として作用し、すべての市民の参加につながるものである。EU は、eEurope 2005 を通じて、今後 3 年間にヨーロッパ各国が追求しなければならない IT 部門の 目標を次のように提示している。
第 1 に、e‑ガバメント、e‑ラーニング, e‑ヘルスを中心に、現代的なオンライン公共サービス の提供に力を注ぐ。2005 年までに、加盟国政府と公共機関、学校、医療機関などを超高速通信網 で連結し、各都市・地域別に公共インターネット接続点(public internet access point)を設 置して、ヨーロッパの市民が自由にオンライン公共サービスの恩恵を受けられるようにする。第 2 に、ヨーロッパレベルの e‑ヘルスカードの導入および仮想キャンパス構築などを含む e‑ラーニ ングプログラムのような利害関係がともなう問題に対して、加盟国政府間の協議を経て実行計画
の詳細を定める。第 3 に、ヨーロッパの e‑ビジネス環境整備のために 2003 年中に各ビジネスの 代表たちを一堂に集めて e‑ビジネスサミットを開催し、これを土台に e‑ビジネス関連法案を最終 的に確定する。第 4 に、2003 年中にサイバー保護対策班を設置し、ヨーロッパレベルのオンライ ン情報保護インフラを構築する。また無線 LAN、第 3 世代移動通信、デジタル TV など、新しく登 場する通信・メディア分野でも EU 加盟国がひとつの統合された制度を形成するよう交渉を進める 計画である。
eEurope は、優秀な実行力でプロジェクトを実現し、その失敗を含む経験から課業分担の転換 を容易に行うはずである。プロジェクトは、アプリケーションや基盤設備の先行区間の roll‑out を加速化する目的で実行される。政策手段はモニタリングされる。モニタリングは目標達成によ って構成される発展レベル、目標を支援する政策ベンチマーキングに対して集中するだろう。既 存の政策の協力が、提案された実践計画とのあいだでシナジー効果を生み、運営グループはより 優れた政策開発の概観を提示する。また、国際政策メーカーとヨーロッパ政策メーカー、民間分 野間の情報交換を保障し、さらに、この運営グループは、加盟候補国の初期参加を可能にするだ ろう。
2.4.2 イギリス
イギリスは、自国を電子商取引における世界最高の中心地とし、単一のヨーロッパ市場内では、
他の EU 加盟国との戦略的提携を強化して電子商取引活動の中心的役割を担って行きたいという ビジョンをもっている。イギリスは、電子商取引管理のための包括的な規制構造をもち、世界の 電子商取引関連法・制度および政策変化に柔軟に対処しており、これを土台に労働市場の柔軟性 を確保して IT、通信および放送関連の分野では、世界でもっとも競争力のある、活動的な市場の ひとつとして認められている。とくにイギリス政府は、最高の電子商取引環境を維持するための 法・制度を完成・支援し、電子商取引の活性化のために克服しなければならない問題点を見出し て解決し、信頼感を与えられるよう努力している。
電子商取引が本格的に活性化しはじめた 1990 年代中頃から、イギリス政府は、総理主導の下、
情報化時代にイギリスのリーダーシップを強化し、電子商取引の成長を支援することを目標に、
主要政策についての開発および既存政策との相互連関性を追求するために、産業界とのパートナ ーシップを強化してきた。また、イギリスの首相は「e‑Minister」と呼ばれる電子商取引長官を 任命し、政府の電子商取引関連の議題および協議事項などすべての事案について責任を負わせた。
のみならず、イギリス政府は、「e‑Envoy」として特使を任命し、政府の電子商取引関連議題およ び戦略を整理して提示した。
イギリスは、2005 年までにインターネットの利用を望むすべての人々が、すべての政府サービ スをオンラインでできるようにするため、3 種類の目標をプログラムとして設定し、オンライン を通じた電子商取引の活性化と同時に、迅速で便利な信頼性のある政府サービスを提供できるよ う努力している。また、2002 年までに B2B、B2C 電子商取引の比率を、G7 諸国中、最高レベルに まで引き上げるために、関連機関と産業界との共同で多様な研究とマーケティングおよび通信関 連戦略の策定を積極的に行っている。
また、最近では、イギリスの通商産業部が、電子商取引を行う際に発生する技術的・制度的問 題を解決し、中小企業の電子商取引をより活性化するために、政府機関と実務に携わる産業界と