第 3 章 デュッセルドルフの日本人エクスパトリエイト・コミュニティの特徴と変容
3.4 日本人組織
3.4.2 日本人教育機関
3.4.2.1 デュッセルドルフ日本人学校
デュッセルドルフ日本人学校の発端は、日本企業進出と大きく関係している。1960年 代は日本の高度成長期であり、企業進出に伴い、駐在員家族も増え、「日本人会」によ る週1-2回の補習授業が行われる(3.4.1日本クラブ参照)。1963年当初日本語学級は4 クラスで39名だったが、企業進出が進み邦人数が増えるに伴い、1966年には 76名、
1968年には106名になる(デュッセルドルフ日本クラブ創立50周年記念誌編集委員会 2014)。そして、帰国後の転入学や進学時における言語及び教育内容の相違に起因する 困難性を解消する為、全日制日本人学校設立の気運が高まる(デュッセルドルフ日本人 学校 2016)。1970 年代に入ると本格的な直接投資の増大とともに進出企業が増加し、
デュッセルドルフにおいても父母家庭数は、200 を越え、就学児童・生徒数が 230-250 名になる。そのような状況の中で日本人の為の教育機関が必要になる(デュッセルドル フ日本人学校 1996)。そして、1971年1月に総領事館、日本商工会議所、日本クラブの 協力の下で、デュッセルドルフ日本人学校推進委員会が発足し、同年4月に日本人学校 の開校式が行われた。
日本人学校の運営主体は、会員の中から選ばれた理事を中核としたデュッセルドルフ 日本人学校理事会で、理事長は企業から選出された。開校式は小5から中 3 までの43 名で、現地オーバーカッセル区教会付属建物を仮校舎としていた。1972年には、当地進 出企業からの寄付を仰ぎ、日本政府や海外子女教育振興財団の援助を得て、新校舎建設 の杭打ちが開始される。同年には小1-4年まで90名の全日制授業が、現地ドイツ学校 の校舎を借りて開始された。1973年には新校舎が落成し、仮校舎から解放され、その後 児童生徒数は増え続け、1970年代後半には、600名近くになった(デュッセルドルフ日 本人学校 2016)。1980年代には、日本人向け生活インフラも進み、日本からの進出企業 は増え続け、1983 年には日本人生徒数が 800名を超えた為、中学部の校舎をドイツ人 学校の校舎を借用して移転する。そして1980年末には全校生徒数が900人を超え、1992 年に998名のピークを迎える。しかし1900年代前半に日本のバブルが終焉し、日本企 業の一部撤退が起こり、生徒数も減少し、1990年代末には、600人台になり、2001年に は中学部がドイツ人学校校舎から引き上げ、小学部校舎に統合される。2005 年以降は 生徒数がさらに減り500人台になり、2016年時点の生徒数は464人である(図3-9・表 3-7参照)。
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図3-9デュッセルドルフ日本人学校児童生徒数の推移(全日校小学部・中学部) (1971年~2016年) 出典:デュッセルドルフ日本人学校要覧(2016: 26)より作成。
(人)
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表3-7 デュッセルドルフ日本人学校児童生徒数 (1971年~2016年)
出典:デュッセルドルフ日本人学校要覧(2016: 26)より作成。
日本企業の駐在員は、デュッセルドルフ日本人学校運営にも深く関わっている。学校 の運営主体は、デュッセルドルフ日本人学校理事会で、理事会は、理事長1名、副理事 長1名ないし数名、及び理事若干名から構成される43。日本人学校創設の1971年から、
43 デュッセルドルフ日本人学校
http://jisd.de/about_jisd/outline/image/2016teikan.pdf 2018年8月5日閲覧。
年度 小学部 中学部 総 合 計
(人)
年度 小学部 中学部 総合計
(人)
1971 25 13 43 1994 610 195 805
1972 134 33 167 1995 553 183 736
1973 191 46 237 1996 529 176 705
1974 271 53 324 1997 524 173 697
1975 350 70 420 1998 532 142 674
1976 394 78 472 1999 536 136 672
1977 416 94 510 2000 522 150 672
1978 413 84 497 2001 548 163 711
1979 481 106 587 2002 514 154 668
1980 509 115 624 2003 513 147 660
1981 559 134 693 2004 469 145 614
1982 618 165 783 2005 432 144 576
1983 671 177 848 2006 430 129 559
1984 664 186 850 2007 428 135 563
1985 657 222 879 2008 437 134 571
1986 656 233 889 2009 401 133 534
1987 656 262 918 2010 409 114 523
1988 662 269 931 2011 395 106 501
1989 674 243 917 2012 410 119 529
1990 664 244 908 2013 405 116 520
1991 712 255 967 2014 398 130 528
1992 732 266 998 2015 387 126 513
1993 663 234 897 2016 356 108 464
53 理事長、副理事長は企業派遣者が務める。
表3-8 デュッセルドルフ日本人学校歴代理事長
出典: デュッセルドルフ日本人学校要覧(2016: 33)より筆者作成。
デュッセルドルフ日本人学校は、海外で生活する日本人の生徒に対し「日本国内と同 等以上の教育を行うことのほかに、将来、児童生徒が日本に帰国した時に、または世界 で活躍する上で、日本国民としての自覚と国際性を身につけられるような教育を行うこ と」を使命の一つとして掲げている。学校の校長や教員は、文部科学省により日本全国 から3年の任期で派遣される。また、現地校との交流や親善活動、ドイツ理解や国際教 育を積極的に取り入れ、国際社会で活躍できる子どもを育成することを教育の大きな柱 の一つとしている(デュッセルドルフ日本人学校 2016)。
また、日本人学校は中学部までしかないので、卒業後は、デュッセルドルフのインタ ーナショナルスクールやヨーロッパの高校への進学、あるいは、帰国し日本国内の高校 に進む。図3-10 が示すように2011年から2015年においては、日本人学校卒業生のう ち日本国内の高校に帰国する生徒の方が多いが、毎年6名から16名ほどがインターナ ショナルスクールに編入する。
デュッセルドルフ日本人学校の生徒の学力レベルは高く、生徒の家庭環境は、日本 の公立に比べ、親が比較的大手の企業に勤めていたり、両親とも高学歴など似ている
代 所属 期間 代 所属 期間
初代 三菱商事 1971.4-1972.8 第16代 日立金属 1997.4-1998.3 第2代 三井物産 1972.8-1973.2 第17代 丸紅 1998.4-1999.9 第3代 トーメン 1973.2-1976.9 第18代 日商岩井 1999.10-2000.9 第4代 三井物産 1976.10-1979.6 第19代 三菱化学 2000.9-2001.12 第5代 日立製作所 1979.6-1981.6 第20代 丸紅 2001.12-2003.4 第6代 三菱商事 1981.7-1983.5 第21代 三菱電機 2003.4-2004.1 第7代 日産自動車 1983.5-1985.3 同代行 UFJ銀行 2004.1-2004.4 第8代 三井物産 1985.4-1986.11 同代行 丸紅 2004.4-2007.3
第9代 丸紅 1986.12-1988.1 第22代 丸紅 2004.6-2007.3
第10代 新日本製鉄 1988.1-1990 4 第23代 協和発酵 2007.4-2008.3
第11代 丸紅 1990.4-1991.3 第24代 丸紅 2008.4-2010.3
第12代 宇部興産 1991.4-1993.3 第25代 協和発酵 2010.4-2011.3
第13代 丸紅 1993.4-1994.3 第26代 丸紅 2011.4-2012.9
第14代 富士フィルム 1994.4-1996.3 第27代 協和発酵 2012.10-2014.1
第15代 丸紅 1996.4-1997.3 第28代 双日 2014.1-
54 点がある(日本人学校事務局のQさん)。
Q:日本だったら、公立の学校に行ったらいろんな家庭環境の子がいるんでね。こ こはそろっちゃっている。企業の駐在員。いわゆる大企業の駐在員の子弟って いう事で。そういう人たちばっかりなんで。(中略)うちの学校で中ぐらいの学 力があれば日本に帰ったらトップレベルですね。進学は毎年20人ぐらいクラス から国立と有名私立付属に入る。偏差値が高いと思いますね。
図3-10 デュッセルドルフ日本人学校中学卒業後の進学先 (2011年~2015年)
出典:デュッセルドルフ日本人学校要覧 2016より筆者作成
生徒の出身は、関東圏が6割で関西圏が3割、その他が1割(デュッセルドルフ日 本人学校 2016: 24)で、先生も全国から来る。その為中学3年の生徒の高校進学指導 などにおいては、東京出身の先生が他の地区の学校事情を知らず、進学指導ができな いケースなどもある。このような状況から、受験情報などに関しては塾44任せだとQ さんは話す。
Q:親御さんたちも(子どもの受験校については)よく考えていて、受験する学校 に関してはあまり、質問してこないですね。
44 2018年時点で、3つの進学塾は、デュッセルドルフ市内の日本人集住地区にあり、それ ぞれ関西系、関東系、インターナショナルスクールに通う生徒向きである。また、指導 に厳しくかなりの勉強量を塾生に課す塾やそれほどでもない塾など、それぞれ特徴があ る。
2011年 2012年 2013年 2014年 2015年
インターナショナルスクール 12 6 16 10 12
ヨーロッパ他 0 0 2 4 5
日本国内 21 30 18 20 23
0 5 10 15 20 25 30 35
インターナショナルスクール ヨーロッパ他 日本国内
(人)
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このように塾に通う目的には、学力をつけることはさることながら、日本の学校情報 を得るという大きな目的がある。Qさんによると中学生のほぼ全員が塾に通い、子ども たちは、学校の授業が終わると、正門のところで母親から、塾の教材の入ったカバンと 夕飯のお弁当をもらい、塾に向かう。デュッセルドルフ市内には3つの進学塾があり、
子どもたちは、日本に帰国する地域により自分の帰国する地域の学校情報量が多い塾の 方を選択する。日本人学校の生徒の約67%が徒歩通学で、通学時間は80%が15分以内 であり、これら3つの塾は、日本人学校近くのオーバーカッセル地区(表3-2参照)に あり、生徒たちは学校が終わってからそのまま塾に通う。塾も学校や自宅の近隣にある ので便利である。
北林は、デュッセルドルフでは、全日制日本人学校、そして塾も含め、教育関連が 充実し、企業派遣者の求める教育、帰国を前提とした帰国後の国内教育へのスムーズ な順応、及び学校入試に備えることが目的とされていること、さらにその背景には海 外の環境に子どもを置いている危機感と企業派遣者自身が高い教育を受けた社会的・
経済的に安定的で恵まれた地位にある点を指摘する(北林 2006: 33)。