第 3 章 デュッセルドルフの日本人エクスパトリエイト・コミュニティの特徴と変容
3.5 デュッセルドルフエクスパトリエイト及びコミュニティの現状・変容と多様性
3.5.1 現地社会とのつながりと日本人コミュニティの紐帯
60 情報 2017年12月時点
https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/world_school/05europe/sch5300000301.html 2018年6月10日閲覧
インターナショナルスクール オン ザ ライン
https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/world_school/05europe/sch5300000601.html 2018年6月10日閲覧
3.5 デュッセルドルフエクスパトリエイト及びコミュニティの現状・変容と多様性
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ある駐在員はドイツ人との交流に関しては、主として幼稚園や小学校の子どもの友だ ちの家族、近所の人との付き合いで、コーヒーやケーキに招かれたり、食事に誘ったり 誘われたりなどを通して、「親密さが徐々に深まっていった」と記す(デュッセルドル フ日本クラブ 1990: 39)。さらに別の駐在員は、現地の文化や歴史、現地のカーニバル など生活面を楽しんだり、仕事面でも現地のドイツ人と家族ぐるみのお付き合いをした り、公私ともに充実していたと記している(デュッセルドルフ日本クラブ 1990: 41-2)。
また、ドイツ語の勉強や少しでもドイツ語を覚えるように努力した方がよく、その方が ドイツの生活を十分楽しめるという当時の駐在員の言葉(デュッセルドルフ日本クラブ 1990: 44)からも彼らが現地社会に溶け込もうと努力していた様子がうかがえる。1974 年に声楽の勉強の為デュッセルドルフに来てから、滞独43年になる日本人クラブスタ ッフのRさんは駐在員家族からよくベビーシッターを頼まれた49が、当時の母親たちは ドイツ語がかなりできたという(Rさん)。
それでは近年はどうであろうか。日本人学校と日本クラブ、日本人関連団体及び関係 者、そして最後にデュッセルドルフ在住のドイツ人たちの聞き取り調査から現状を捉え る。
3.5.1.1 デュッセルドルフ日本人学校の現状から
まずはデュッセルドルフ日本人学校の現状から見ていく。日本人学校には、海外の 日本人学校ということで、国際交流親善に力を入れており、プログラムの一つとして 姉妹校の現地校とのホームステイ交換プログラムがある。しかし、実情は日本に興味 のあるドイツ児童が増えてプログラム参加希望者が多いのに対して、日本人生徒側の 希望者は少なくプログラムが成り立たない(日本人学校事務局Qさん)。日本人学校 で行われた児童生徒の実態調査結果をみても、ドイツ社会や文化、ドイツの人びとに 進んで関わりを持とうとしている日本人生徒が多いとはいえない(デュッセルドルフ 日本人学校 2016)。
また、Qさんによるとプログラム参加希望者が少ないのは、親の姿勢も関係している。
実際、父母の間でも外国語である英語及びドイツ語教育に対する要望も多く、特に帰国 後に有利と考え英語教育に対する関心が強いが、ドイツ人生徒が日本人生徒宅に泊まる ホームステイとなると日本人の親も言葉の問題や家に呼ぶのには「家の中がきれいに整 理整頓されていない」「家が狭い」などの理由から少しためらいがある。
このように日本人学校に通う子どもやその親たちの間で、ドイツ人と積極的に交流を したり、言葉や文化を学ぼうとする意識の低さがみられるが、これに関連して、学校と 関わろうとする親の意識面の低下もある。Qさんによると最近では、あまり学校と関わ
49 当時、日本語ができ車を運転する女性で、幼児や小学校低学年の子どもを見てくれる
ベビーシッターの需要が多かった。Rさんは、夫の会社関係の食事会などの時に母親た ちからよく頼まれ、15年ほどベビーシッターのアルバイトをしていたと話す(2017年 3月13日 聞き取り調査)。
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りたくない親が増えていて、保護者の協力を必要とする学校祭などで保護者の中には負 担が大きいと感じる傾向があるようだ。
さらに Q さんはデュッセルドルフ日本人学校の教師においても教育に対する意識の 低下があることを懸念する。
Q:先日、日本からK高校(日本での進学校)の校長先生が見えて教育についての
講演会があったんですけど(日本人学校の先生たちは)みんな行かないんです よね。日曜日の午前中なのにね。たった(20名中)6名ですよ、参加したの は。家と学校の往復だけじゃねえ。(行けば教育の)肥やしになると言うんです が、なかなか行かない。
さらに、派遣された先生の教育への意識の低下に加え、近年では海外勤務を希望する 先生も減っている現状もあると話す(Q さん)。デュッセルドルフ日本人学校において は生徒数が10年前より減少した為、以前27名だった教師が2017年時点で20名に減っ てしまった。そして最近は2年間派遣のシニア教員プログラムで派遣されるケースも目 立つが、シニア教員には退職した校長や教頭が多く、長い間授業を受け持っていないこ とやパソコン操作がよくできなかったり、病気がちの為、指導などに問題が生じている
(Qさん)。
日本人学校が創立された当初は、子どもの教育に対し、親や教師の熱意や気迫が感じ られ、子どもたちも積極的に現地社会になじんでいた様子が駐在員の手記から読み取ら れた。しかしながら、Qさんの話から、現状においては、教育面からみた場合、日本人 エクスパトリエイト・コミュニティの結束が薄れ、弱体化した様相もみせる。
3.5.1.2 日本クラブの現状から
次に日本クラブの現状を見ていく。前述のように日本クラブには多くの部や同好会が あるが、活動はボランティアにより成り立っている。しかし、日本クラブスタッフのR さんは、最近ボランティア希望者が減っていると話す。また、ドイツに40 年近く暮ら し、文化部に長く携わってきた女性は以下のように述べている。
20 年前とは会員の方たちの生活環境が一変し、出向かなくても情報が取れる時代 となりましたので、最近は、見てやろう、聴いてやろうという意欲が薄れてきたので しょうか、参加者を募るのに苦労している現状です(デュッセルドルフ日本クラブ創 立50周年記念誌編集委員会 2014: 22)。
女性の語りから活動に携わるボランティアのみでなく、オペラ観劇、工場見学など 様々なプログラムの参加者も減ってきている傾向もうかがえる。
また、Rさんによると以前は日本クラブに助けを求めてくる人が多く、クラブのスタ ッフも一生懸命に対応していたと語る。
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SNSなどの進歩により情報が簡単に入手でき、わざわざ日本クラブまで足を運ぶ必要 がなくなったこともクラブ主催のプログラム参加者数の低下に関係しているともいえ る。クラブ主催のプログラム参加者やボランティアの減少が、ドイツの文化や生活への 興味・関心や現地社会との接点を求めようとする駐在員の意識の低下を示唆していると 単純には言い切れない背景がある。
しかし、以前に比べて、日本クラブ活動のボランティアやプログラム参加者の減少は、
日本人コミュニティの紐帯の弱体化の表れとも考えられる。実際、日本クラブは筆者の 在独中の2000 年代と雰囲気が随分変わってしまった。当時は、日本クラブ内に日本食 レストランもあり、昼食時にはビジネスマンや家族連れでにぎわい、週末は日本の図書 閲覧室も座る席がないくらい混みあっていて、大変活気があった。しかし、今は場所も 移転し、日本食レストランはなくなり、建物も近代的なオフィス風に変わり、閑散とし た雰囲気になってしまっている。
それでは、その他の日本人関連団体は、エクスパトリエイトやエクスパトリエイト中 心のコミュニティをどのように捉えているのであろうか。
3.5.1.3 日本人関連団体及び関係者から見た現状
現地に滞在する日本人向けに様々なプログラムを開催し、日本人と現地社会との交流 促進に尽力する団体代表の N さんは、日本人とドイツのコミュニティの接点の少なさ について懸念する。
N:日本人コミュニティとデュッセルドルフ市は外交的にはうまくいっているし、ド イツ人は日本人を大切にします。日本人は、問題を起こさないし、経済的にも余裕 がある。そしていつかは(日本に)帰るので、お客さんとしては支障がないとみて います。(デュッセルドルフに在住の駐在員たち自身も)どうせ3年だからという ことで。(中略)でもそこには個人が介在していません。
さらにNさんは、日本とドイツの教育理念の違いについて言及し、日本人は細かい決 まりを守り、規律正しさに重きを置くのに対して、ドイツ人は個人を尊重し、自分の意 見をきちんと持ち、それを主張できることを大切にしていると述べる。そして、お互い を知り、理解しようとする姿勢が大事で、ドイツ人と日本人コミュニティのつながりを Nさんは強く望んでいる。
また、デュッセルドルフ大学現代日本研究所で、ドイツ人学生を指導するW氏は、デ ュッセルドルフ日本人コミュニティは問題をはらんでいると話す。
W:ここでは、日本語だけで生活ができる環境があり、ドイツ語を習う必要がなく、
日本人は充足した生活を送っていると言えますが、内にこもりやすいと思います。
苦労してドイツ人とコンタクトをとろうとする必要もなく、どうしてそんなに苦 労してまでドイツ人とコンタクトをとるのかと。そこが問題です。