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ケース 4   ㈱ハッピー

7  サービスモデル革新

(1)  着想

① 空白の市場の把握と新提供機能化、新市場創造

これからの少子高齢化社会では文化度が高いヨーロッパのようにものを大切にする時代が来る。従来 のクリーニングサービス内での競争を超えて、新たな価値創造を行う必要がある。このための空白な 市場として高級で完成度の高いものの汚れ落し、衣類の再生、メンテナンスを行うケア・メンテのサ ービスに着目し、これを新提供機能化して、サービスモデル化すれば顧客価値創造のみならず、文化 創造にもなる。

② 新サービスプロセスの創造

また、お客様とのトラブルを回避して、質の高いサービスを提供するため、商品をお預かりした時点 からお渡しするまでの工程管理・情報管理を正確に行う新サービスプロセスを創造する。

(2)  新サービスモデル

当初は国内のケア・メンテに目覚めた特定顧客をターゲットとし、以下の差別化した仕組と収益確 保のメカニズムを導入している。

A  差別化した仕組

① 顧客価値創造に向けた新技術の開発

ⅰ  アクアドライ

水を使用したバランス洗浄技法で、独自の研究によって開発され、水洗いとドライクリーニングの長 所をミックスさせることにより、汗などの水溶性の汚れについて繊維をいためることなくきれいに洗 い上げる。

ⅱ  リプロン

洋服を新調したときのように戻す再生法。

黄ばみ取り、たんぱく質汚れの除去等。洗浄液を入れた温水(泡状)で手洗いを行うとともに無重力 バランス洗浄装置を使う。25種類のリプロン商品を自社で独自開発。

ⅲ  サイジング加工

独自の加工液を用いて、ウール素材等の水洗いによる縮みを防ぐ方法。

ウール繊維のスケール(人髪のキューティクル様)の開きを閉じることにより、水洗いによる繊維の 絡み、フェルト化、目詰まりを回避、シャリ感となめらかさを与える2つの成分で1本1本の繊維を 包み込む。

ⅳ  シルエットプレス

ハッピーが独自に開発し、人体工学に基づいたプレスツールやパフ台・人型・馬型を使用して、より 立体的なシルエットをつくる。

プレス機もハッピー独自で考案し実機化している。アパレルメーカーレベルのプレス機器を使用。ス ーツ工房並みのプレス技術を誇る。インダストリアル化による生産性の向上、均質な仕上がりを実現。

② 電子カルテ方式の採用

本方式により、預かり品ごとに、預かり時点の様々な情報採寸情報、生産情報をデータベース化し、

入口から出口までの全工程を管理し、すべて履歴をデータベース化している。

本データベースに基づいてお客様にカウンセリングをし、その際に病院と同様のインフォームドコ ンセントを実施、作業上におけるリスクを開示し、お客様と情報を共有することで説明責任を果た し、これら一連の仕事スタイルを本企業のコンプライアンスとして定着。

B  収益性の確保の仕組

①  規模の経済

クリーニング業は、対人サービスで、人対物の関係にあり、通常、注文引き受けの場所と作業場の 分離が可能なサービスである。本企業は、これまでの経緯から、直営店、取次店システムを廃止して いるが、ネット上のHP、電話での申し込み受付を行い、引き取りは顧客に対し無料の宅急便を提供 して、電話、携帯、FAX、HP上から行うことを可能としている。

  これは、ネット・電話と宅配便のサービスの組合せで、上記の注文を受け付ける市場の制約を乗り 越えて、広域からの受注を可能としている。更に顧客が通常行う宅配便代金支払いを免除することに より、顧客の市場距離の制約も乗り越えることが可能となっている。

②  範囲の経済

  洋服のクリーンルームでの保管サービスも手がけている。

③ スピードの経済

  代金決済の方法として、郵便振替、銀行振込、コンビニ振込、クレジットカード、代金引換を利用 している。クレジットカード、コンビニ振込み、代金引換は、計画的な代金回収を可能にし、キャッ シュフローを安定させる効果がある。クレジットカードの構成比率は40%である。郵便振替、銀行振 込は代金回収に流動性を持たせ、資金需要により回収サイトをコントロールできるという効果がある。

郵便振替、銀行振込みでは1週間以内の回収も可能である。デポジットシステムを活用することによ って、さらにキャッシュフローが拡充される。

  顧客の衣類の宅急便業者への提供から仕上がり品の同業者からの受け取りの全プロセスをト レース可能として、顧客の安心感、プロセスへの信頼感を満たしている。

④ 集中化と外部化の経済

    当面、自社内でサービスプロセスを完結するが、将来、FC化を準備。

⑤  囲い込みの経済

    ハッピーブランドの確立に努めている。

    例えばアルフレッドダンヒルと業務提携し、同社の銀座本店内に本企業の東京オフィスを構 え、サービスを提供している。

(3)  新サービス供給システム形成

本企業は、以下のように、ユニークな新サービス開発・サービスイノベーションを行って、高度なサ ービス供給システムを形成して、高い品質・生産性向上を実現しており、結果として、新産業創造へ の道を歩んでいる。

①提供サービスの流れ

ⅰ 受付

  ホームページ、フリーダイヤルで受付   無料宅配便で収集

ⅱ 検品・採寸

お預かりした洋服の状態を検品・チェック

シミ・汚れの種類と位置、生地の痛み具合、素材、メーカー名を電子カルテに入力。

丁寧に採寸(ジャケットならば9ヶ所程度)し、データを電子カルテに入力。(ケア・メンテ®後、

データと実物とを比較し、縮みや伸びがないかをチェックする。カルテのデータは、シルエットプ レスの行程でも使われる。)

洗浄方法を検討し決定。必要なケア・メンテ®の内容、さらにケア・メンテ®によっておこりうる リスクも入力。

ⅲカウンセリング

衣類の状態、必要なケア・メンテ®の内容、仕上がりまでの時間、作業結果の見通し、洗浄に伴う リスク、代金について顧客に伝える。

顧客の要望を直接聞き、追加情報を電子カルテに入力。

ⅳ 洗浄・再生加工

洗浄後、シルエットプレスで元のサイズ、風合いに戻す。

電子カルテの採寸データを確認しながら作業。アイロンで使用する馬型はハッピーが独自に 開発した数十種類の中から、シルエットの型に合わせて使い分ける。

ⅴ 仕上げ

電子カルテのデータと実物とを比較し、記録されていた汚れが落ちているか、縮みや伸びがないか 等をチェック

汚れが落ちていなければ洗い直し、問題がなければ、梱包して発送。

ⅵ 検品・梱包・出荷 無料宅配便で配送

ⅶ 顧客に到着

②  フロントオフィスでの顧客満足確保活動

  顧客満足確保のベースとして、カウンセリングにおいて、衣類の状態、必要なケア・メンテ®の内 容、仕上がりまでの時間、作業結果見通し、洗浄に伴うリスク、代金について顧客に伝える。また、

顧客の個別の要望を直接聞き、追加情報を電子カルテに入力。

出来上がり後、電子カルテのデータと実物とを比較し、記録されていた汚れが落ちているか、縮み や伸びがないか等をチェックし、汚れが落ちていなければ洗い直し、問題がなければ、梱包して発送 することを守っている。

  また、重要な顧客接点であるオペレーターの接客について、万全の配慮を払い、消費者への提供サ ービスについて、このような技術品質と完成品質の両面から満足されるよう努めている。

  さらに、電子カルテにより、預かり品ごとに、預かり時点の様々な情報採寸情報、生産情報をデー タベース化し、入口から出口までの全工程を管理し、すべて履歴をデータベース化し、顧客の求めに

応じて、その処理段階の情報提供に努め、顧客の安心の確保を可能としている。

③ バックオフィスでのハッピーナレッジ生産方式

ⅰ 目的・効果

ハッピーナレッジ生産方式は、社員の互助精神、連帯感を増幅させてチームワークのモチベーショ ンを引き上げるために必要な仕組である。

この方式によるチームワークとモチベーションの向上は生産性を増加させるために必要不可欠であり、

これを就業規則に組み入れ、「応援したり、されたり」をポイント制度にして互助精神を養い、それが 自分の収入になって戻ってくる仕組の構築をしている。

同時に、どの洗浄機に、どのお客様の何の商品が、何時に誰が入れて、何時に洗い上がって、洗浄 検品を誰が行って、仕上場へ何時に誰がもって行って、誰が仕上げてという全ての工程をトレースし てデータベース化している。これによって出荷と生産工程の同期化が図られ、遅滞なく生産されてい く。

この同期化を図るということは、納期を守る、誤配を防ぐ等、信用失墜の原因となる事故を未然に 防ぐやり方として有効になっており、品質の安定と向上(ISO9001の適正化)につながる。

また、電子カルテと連動して作業指示が明確になることで、見落とし等がなくなり顧客の希望依頼 を忠実に守ることが可能となり、顧客満足(CS)に役立っている。

ⅱ  内容・手順

a  各個人の生産単位能力を決定する。

b  一人あたりの時間生産能力、アイテム別生産能力を決定(定期的に見直し有り)する。

c  リアルタイムで自分の生産状況がテレビ画面に表示される。

ⅲ  固体識別追跡データベース

ボタンやベルト、フード、ライナーなど付属品はすべて取り外してケア・メンテを行う。ところが、

洗浄から仕上げにいたって、一点ずつの処理方法が違い、また仕掛かりリードタイムがバラバラのた めに出荷時点の同期化を図ることができなかった。

本システムで、別々に処理される作業工程では、個体選別管理をIT によって管理・把握し、それ を大型モニターテレビに可視化(見える化)表示することで、生産現場作業者がその情報を共有化し て、テレビ画面指示に基づいて出荷のタイミングを同期化させることに成功した。

(4)  全体最適な仕組、生産性向上、新産業創造に向けて

① 提供機能の連鎖の最適化に向けた仕組

  本企業の提供サービスの流れにおける機能の連鎖は、ⅰ申し込み、発送、受付、ⅱ検品・採寸、ⅲ カウンセリング、ⅳ洗浄・再生加工、ⅴ仕上げ、ⅵ検品・梱包・出荷、ⅶ顧客に到着となっている。

この流れの処理において、「電子カルテ方式」と「ハッピーナレッジ生産方式」を組合せて、これら連 鎖における縦割りの個別業務に横串を通す形で業務プロセス連携を図るための全体最適化に向けた仕 組を形成して、サービス供給上の優位性を形成している。

この仕組により、顧客・仕様情報を共有し、業務の流れの見える化と対象物、そのデータ、オーダ ーの流れの一致化を行い、複数業務におけるジャストタイミング、同期、並列処理を実現して、フロ