ケース 6 ㈱サンフォーレ
2 サービスモデル革新のプロセス (1) 着想、新機能形成
① 着想
社長は家族の在宅ケアを26 年も行い、これを契機に新時代のケアを地域社会のコミュニティーで 解決する方法をライフワークで取組む夢を持った。
それを実現するために在宅ケアを供給する小規模シニアホームを実験的に建設する計画を立て、ソ フト開発を中心に実験館を5年間運営し、黒字経営を実証し、その後の本格展開につなげてきている。
② 新機能の内容・性格
20世紀の平等、自己抑制的な滞在型の介護サービスに対し、本企業は21世紀の多様な価値観が 展開される時代に基づく自分達の老後創り、一人ひとり自分らしい生きるという視点で以下の3つの サービス革新を実施している。
ⅰ 家庭介護から地域介護へ転換
ⅱ 身体ケア中心から心のケア中心へ、このため大規模(郊外)サービスから小規模(街角)サービ スへの転換を行っている。
ⅲ 従来の単機能サービスに比べ、複合的な多機能サービスメニューを提供している。
(2) 新サービスモデル形成
① 差別化の要素
ⅰ 自由で、楽しく、生きがいあるシニアライフを実現する「いつくしみのスキル」を形成。
ⅱ 連続20年黒字経営のサンフォーレウェイ「小規模多機能」ビジネスモデル
② 収益性確保のメカニズム
ⅰ 21世紀の老後は今の形のままでは満足できず、自分たちはその生き方、サービスモデルを提案し、
各地域の方々の理解と賛同を得ようとしている。
ⅱ 現在14モデルまで来ており、3ヵ年計画で21モデルまで拡充し、外部に対し、New Sun net
でチェーン展開を予定している。
(3) 新サービス開発・内容
① 新サービスの分類
シニアホームのコンセプトは、サービスの基本として街角での立地、小規模ホーム、共生、バリュ ー、マンツーマンケア、心のケア、フリーステイ、フリーサービスを提供する。また、その経営に当 たってはシニアの雇用、女性の雇用と登用、サービス市場の拡大、シニア文化の創造を念頭に置いて いる。以下の入居一時金は、賃料の前払い的な性格のお金で、これを含む顧客の全体的な支払いプラ ンは顧客との相対の相談で、決めていく。以下の利用料には食費、管理費、居室清掃、下着類洗濯、
等を含む。以下に12施設の特徴的な機能別にサービス提供内容、期間、資金負担の方法を説明。
ⅰ コミュニティでの老後 サンフォーレ鎌倉〈シニアホーム〉
入居期間:短期、長期(5年) 入居一時金:長期で5年分相当 利用料負担 サンフォーレ鵠沼〈有料老人ホーム〉
入居期間:短期、長期(10年) 入居一時金:長期で10年分相当 利用料負担 サンフォーレ南林間〈シニアホーム〉
入居期間:短期、長期(1年、10年) 入居一時金:長期で1年、10年分相当 利用料負担 サンフォーレ材木座〈シニアホーム〉
入居期間:短期、長期(5年、10年) 入居一時金:長期で5年、10年分相当 利用料負担 サンフォーレ鎌倉栗田〈ターミナルホーム〉
入居期間:短期、長期(1年、5年) 入居一時金:長期で1年、5年分相当 利用料負担
ⅱ 仲間との老後
神の庭サンフォーレ(サンフォーレ秦野)〈シニアホーム〉
入居期間:短期、長期(1年、10年) 入居一時金:長期で1年、10年分相当 利用料負担 リーラの家 鵠洋〈シニアホーム〉
入居期間:短期、長期(1年、10年) 入居一時金:長期で1年、10年分相当 利用料負担
ⅲ グループホーム
グループホームのコンセプトは、痴呆シニアを対象としヨーロッパで始められた方式で、非常に小 規模のホームで家庭の延長のような部屋とサービスで従業員と家族同様の生活を行うサービス形態を 基本としている。
街角の家南林間〈グループホーム〉
入居期間:特に定めない 入居時費用:48万円 利用料負担 街角の家秦野〈グループホーム〉
入居期間:特に定めない 入居時費用:48万円 利用料負担
ⅳ 小規模多機能型居宅介護
特定地域の特定会員に提供するサービスで、18年度改正の介護保険法ではじめられた1つの事業所
デイサービスを中心に、随時、訪問介護サービスや短期宿泊を組合わせた介護サービスを提供する。
まちかどメンバーズ倶楽部 鵠洋〈小規模多機能型居宅介護〉
利用法 料金負担
まちかどメンバーズ倶楽部 大船〈小規模多機能型居宅介護〉
利用法 料金負担
まちかどメンバーズ倶楽部 秦野〈小規模多機能型居宅介護〉
利用法 料金負担
ⅴ New Sun NET
本企業のこれまでの建築から運用までのノウハウを集積した仕組をフランチャイズとして 国内各地域へ提供を開始。
② サービスモデル上の本部と各施設の業務の棲み分けと機能連携の仕組
ⅰ 施設での日常のケアの基本の仕組
入居者の毎日のa居室での生活、b食事、c入浴、d各種アクティビティーへの参加、等の 動線について、施設内の常勤・パートの従業員が、お年寄りのこだわりの生き方に配慮して顧客接点 での顧客経験・満足を高めるように、多機能型で職員連携の介護サービスを提供している。
ⅱ 本部と各施設の役割分担
本企業のサービスモデルの基本は、フロントオフィスの顧客接点でのプロセスの管理は、各施設で 分散してサービス供給。バックオフィスの見えないサービス業務は本部での集中処理実施。
<本部の主たる業務>
a 事業の企画・開発、
b 人事・研修・経理・財務・IT (資材の一括調達と一括支払い等)
c 知覚品質の管理
d 各施設の食事メニューの開発、食材の集中調達
<各施設>
食事、掃除、洗濯、お風呂、等の生活サービスの供給、食事の調理は各施設で行い、温かい食事を提 供。顧客参加の各種の行事等のアクティビティーの実施。
ⅲ 顧客接点の管理
a 慈しみの介護を目指し、個々人の人間像・老後での基本的なこだわりを解明して家庭介護から地 域介護に転換し、身体のみならず心を支える。(家庭による家族介護から仲間による仲間介護に転 換である)
b 顧客の現在家庭でのライフスタイル上の5 つの重点項目・こだわりを把握して、職員間で情報共
有して、顧客満足・感動に向けてのカスタマイズサービスに努めている。
ⅳ 生産性向上への取組
建築を行う子会社を設立し、資材を自前で買い付けて、コストダウンを図っている。また、福祉器 具を他社と共同開発し、自社用途以外に他社にも販売し、この福祉サービスを総合サービス化するビ ジネスモデルを確立して、生産性向上、低価格でのサービス供給に効果をあげている。
従業員に地域の主婦を活用し、アクティビティーを中心にボランティアを活用している。
地域密着型サービスであり、口コミによる集客に成功し、マーケティング費用が低減できている。
ⅴ 連携する施設間の取組
藤沢地域の4拠点間での人材のプール化によるフレキシブルな勤務管理を実施。
ⅵ 資金構造の基本
施設は地主の理解を得て、地主からのリース契約にて提供を受け、利用料を支払う。入居一時金は、
賃料の先取りであるが、主な支出費用は、職員の人件費である。サンフォーレウェイ「小規模多機能」
ビジネスモデルを確立して、連続20年、黒字経営を実践している。
③ 新サービスの評価
上記の本部と直営の各種施設間の地域内供給システムは、以下のように整理できる。
ⅰ フロントオフィスでの顧客満足・感動確保とバックオフィスでの効率的な事業運営を目指して、事 業全体を本部のバックオフィス的機能の集中・統合実施と各施設での地域密着型の生活サービス 機能の分散実施に分けて実施している。
ⅱ 生産性向上に向けて、本部主導のバックオフィス業務の集中実施、ハード施設の共同開発、等を 実施している。
ⅲ サービス品質向上に向けて、本部主導の現場での知覚品質の向上に向けての取組、従業員の研修、
人材育成、等を実施している。
これら活動は、本企業のような地域密着型の事業運営において、フロントオフィスでの顧客満 足・感動確保とバックオフィスでの効率的な事業運営を目指して、顧客情報共有をベースとし、
その組織の壁を串刺しにして業務プロセス連携を行うための全体最適化に向けた仕組・即ちその業務 運営システムを構築し、サービス供給上の優位性を構築している。さらに適切な顧客接点のマネジメ
ントを通じて、入居者の顧客満足・感動の獲得に成功している。
(4) 開業と顧客接点のマネジメント
① 開業
湘南地域での開業地点選定のポイントは、駅から歩いて10 分、駅の南・海側の住宅地域を意識し ている。これまでは、そこで主婦層、等の雇用が確保できた
② 顧客接点での経験のマネジメント
a 慈しみの介護を目指し、個々人の人間像・老後での基本的なこだわりを解明して家庭介護から地 域介護に転換し、身体のみならず心を支える。
b 顧客の現在家庭でのライフスタイル上の5 つの重点項目・こだわりを把握して、職員間で情報共
有して、顧客満足・感動に向けてのカスタマイズサービスに努めている。
(5) 市場での顧客満足・顧客感動の確保への取組と評価
① 最近の本企業の実施したアンケートでは、本企業の施設での終末期の看取りを希望する件数 が増えて来ており、究極の顧客満足のサインと見られる。
② 地域密着型のサービスであり、日々の希望の実現・苦情処理において、個別対応している。
(6) 経営上の成果
20年連続して、黒字経営を果たしている。
(7) 安定成長・産業化の方向
① 従業員満足への取組
現在は、サービス人材が不足気味で、人材獲得競争になっている。職員のやりがいを刺激する対応 が基本である。
同業他社の資格制度による給与の格付けを超えて、社内で階層別研修を実施している。研修受講者 が試験を受けて、社内ランクを上昇していくと、給与が上がる仕組である。
② 出店・成長戦略
本企業は会社を大きくすることが目的ではなく、シニアが自分らしく地域で生きていけるモデルを 地域社会に提供していく。21位のビジネスバリエーションモデルが必要と考え、現在もモデル開発の 途上である。
③ 経営改革
2007年8月からのCS21計画を策定・実施に入っている。