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サービス業における改善の基本

ケース 10   コンサルソーシング㈱

6  サービス業における改善の基本

多様なサービス業の業務プロセスにおいて、そのホワイトカラー業務におけるカイゼン活動が有効 な領域は、ⅰ業務に作業工程的な複数のプロセス・機能の連鎖があり、ⅱ人の能力が製品の品質、生 産性、等の成果達成に重要な役割を担っている、ⅲ各個人の能力をチームの中で補完しあう高い組織 管理能力が求められているような職場で大きな効果を発揮するが、その仕組、基盤と効果の基本を、

松井順一(2006)により、トヨタのカイゼンの仕組をベースにして、サービス業のホワイトカラー業 務向きに改変して、以下に述べる。

①  仕事の見える化

仕事そのものの目的を見える化して、個の集団からチーム力を発揮する本当の意味の組織に発展さ せる。顧客の要求である業務目的を明確化して、職員は顧客の視点での改善を考えるようになる。業 務の優先度、重要度を組織の視点で決定し、運用する。作業結果の見える化を行い業務品質を定義し、

それを逸脱しない。

②  業務体制の見える化

職員の能力と負荷の与え方を見える化して、能力と業務負荷のバランスを取りながら作業配分した 管理を行い、組織能力の効率的な利用が可能となる。

③  仕事の進行の見える化

仕事の進行を見える化して、案件単位の進捗を管理して全体の作業スピードを管理する。

④  仕事の生産性の見える化

  一定の労働時間に対応した物的な労働生産性を把握して、改善の方向性の確認と改善へのモティベ ーションの維持を可能とする。生産性の見える化により、非正味作業時間の発見等の改善のための要 素を発見できる。

⑤  業務改善の方向

  サービス業におけるホワイトカラー業務のQCDSを阻害するのは種々のムリ・ムダ・ムラである。

作業を正味作業と非正味作業に区分し、非正味作業から改善に取組み、作業のムダ、作業ミスによる ムダ、情報伝達のムダ、見込み作業のムダ、処理待ち作業のムダ、動作のムダ、手持ちのムダ、等が 改善の対象となり、これらを作業カードの動きやデータから把握し、改善。仕事のムラには、密度の ムラと能力のムラの2種類があり、これらはプロセス毎、人毎、日毎にもたらされ、これを組織内で 平準化させて業務処理する。これらムラに起因する慢性的なムリ(過負荷)を改善して品質等のトラ ブルを防止する。

⑥  変動対応性を高める平準化管理

業務変動への対応能力を高めるために、各業務プロセスでの仕事の一個流し処理によるリードタイ ムの短縮、仕事の1列待ち処理によるトラブル等への変動対応能力を向上させる。

また、この仕事の1列待ち処理を実効あるものにするためには職員が多様な業務を身につけている多 能工化が必要である。この多能工化には、仕事のプロセスの標準化を行い、個別対応の必要のない共 通業務の定義と習得を行うのが適切である。また、開発業務を中心に仕様変更に備え、業務の最遅着 手や需要に応じた業務の総量管理、枠管理を行うことも必要な場合がある。

⑦  改善の基盤作り

  管理・改善に向けた基盤の無い組織ではカイゼンは実践できない。

上記の改善の仕組を育てられる基盤には、ⅰノイズの無い職場環境「5S」の実現、ⅱ改善の見える 化、ⅲ改善を運行管理できる仕組、の3つの要素があり、これらの着実な実践が不可欠。

7  サービスモデル革新

(1)着想

鳥取県米子市に本社を構えるサインイン技術コンサルタントは、測量や調査、設計などを手がける 建設コンサルタント会社だ。かつては県発注の業務を中心に、受注のほぼ100%を公共事業が占めて いた。公共投資の削減を受けて、2000年12月期の約11億円をピークに、売上高は減少に転じた。

2003年に親会社の建設会社から転籍してきた社長は、「事業構造の再構築と、生産性向上・コスト 構造の見直しが急務」と痛感。就任早々、介護や風力発電といった新事業に進出するなど、次々と手 を打った。さらに、社内に「もの造り委員会」を設置し、問題点の洗い出しにも努めた。

新規事業が順調に業績を上げていったのに対し、生産性向上・コスト構造の改革は、社長が期待し たほど進展しなかった。

そんな折の2004年春、社長はある経営セミナーに参加し、トヨタの生産方式として知られる「カ イゼン」についての講演を聴く。製造現場の無駄を徹底して排除するカイゼンは、自社の生産性向上・

コスト構造の改革にも使えるのではないかと考えた。

(2)  公的機関の支援の受け入れ

現社長は早速、専門家継続派遣事業を手がける中小企業基盤整備機構の中小企業・ベンチャー総合 支援センター中国に連絡。マツダの製造部門OBをアドバイザーとして紹介してもらった。

経営コンサルタントに依頼すると、半年で数百万から1000万円の費用がかかるが、同センターな ら20万円程度の費用で済むので、経済的であるので、支援を導入した。

(3)  支援活用の生産性向上に向けた経営・業務改革

この支援・指導を受けるため、社長は社内に「もの造り委員会」を設置。

2004年7月〜12月と、2005年2月〜8月の2期にわたって、それぞれ月に2日ずつアドバイザー に来社してもらった。

①  前期(2004年7月〜12月)

前期のテーマは2つあり、1つは「生産性の向上」、2つ目は、「コスト管理の仕組み」である。

ⅰ「生産性の向上」

現状把握と目標設定、社内標準工数の設定、業務の標準化、業務進捗状況の把握方法の検討、   

現状業務の再点検を行った。

ⅱ「コスト管理の仕組み」

現状システムの内容確認、部門別利益管理の検討、部門別業務計画策定手順の検討

ⅲ  改善のポイント

最重点項目が、「作業に要する人数×時間」を示す標準工数の設定だった。それまで同社には明確 な標準工数がなく、受注した業務ごとに、発注者の標準歩掛かりを参考にして、おおまかな工数を設 定していた。

そこで、図面作成や数量計算といった作業ごとに、過去の実績値と標準歩掛かり、実行予算の3点 を基に、目標利益率の確保を念頭に置いて、同社独自の標準工数を設定。それを使って、無駄のない 人員の配置や仕事の割り振りなどを行った。

現状業務の再点検ではまず、「価値のある作業」と、会社にとってマイナスとなる「非価値作業」、 待ち時間など、価値を生まない「中間作業」をそれぞれ洗い出した。仕事量が少ない時期に調べたと

ころ、図面修正や手戻り、クレーム対応などの非価値作業が11%、中間作業が56%も占めているこ とがわかった。

これらを「カイゼン」するために、現状の問題点や失敗事例の洗い出しを全社員に指示。効率の悪 い無駄な会議が多いといった問題点が明らかになった。もの造り委員会のキーマンは、会社のどこに、

どのような問題や無駄があったのか、一目瞭 然りょうぜんになったと語る。

②  後期(2005年2月〜8月)

後期のテーマは、2つあり、1つは「利益率改善のための業務改革」、2つ目は「目標管理体制の強 化」である。

ⅰ「利益率改善のための業務改革」

実行予算の策定と運用、進捗管理システムの運用、スキルマップの作成・実施、コスト削減に向けた 業務再点検、負荷の見える化、業務の標準化、業務遂行体制の見直し検討

ⅱ「目標管理体制の強化」

経営方針の展開、プロセス重視の管理、目標利益率の管理、外注管理改善効果の確認、各部門の差別 化の内容の明確化。

ⅲ  改善のポイント

業務の標準化や負荷の「見える化」などに取り組んだ。見える化では、各業務の週別工数の予定を まとめた「負荷・余力見える化表」を作成。各週のトータルの工数をグラフ化して、負荷の大きさを 一目でわかるようにした。

各業務は専門性が高いので、それまで部門間の連携が悪く、全体像を把握しにくかった。指導後は 全社員が情報を共有し、コスト意識の向上が図れるようになった。

(4)  これら取組みの効果

今回の改善のキーワードである価値作業の追求、数値目標化、プロセス管理、見える化、標準化が よく理解され、実行に移された。

指導の成果は数字にも表れ、前期の指導が終わった2004年12月期の粗利益率は、前年と比べて設 計部で7.7ポイント、測量部で7.2ポイント、環境調査部で2.8ポイントそれぞれ向上。

(5)  評価と今後の方向

今回の本企業の経営・業務改革の本質は、コンサルティング業務における多様な業務処理について、

先進的な自動車企業において共通する仕事の仕方のコンセプトを抽出して、その業務プロセスの連鎖 において、品質と生産性の向上等を目指し、成長と変動への対応を中心としたダイナミックな全体最 適化に向けた仕組の形成・運用により、PDCAサイクルを踏んだ業務プロセスを串刺す業務改善を持 続的に行うことにある。これらにより、顧客への提供サービスの優位性を形成して、市場での経営上 の成果を目指すものである。

今回の支援アドバイザーは、今回の本企業の取り組み、特に、もの造り委員会の前向きな取り組み を評価。今後の方向としては、今回整備できた業務の進め方の基盤をレベルアップし、縦・横展開を 含めた深堀を行う、今回の取り組みで生まれた時間を新事業展開等の次の価値作業に生かす、等の取 組みを行うことが期待された。