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その後の安定成長に向けての取組

ケース 10   コンサルソーシング㈱

8  その後の安定成長に向けての取組

(1) その後の取組み状況

  一般的に、土木設計は、予定地の測量、地盤調査、設計業務と時系列に業務が連鎖し、設計業務の 中でも業務を分解して外注も含めパーツ毎に並列作業し、最終納期に向けて組合せ完成させている。

前回の業務改革での成果は見られたものの、2007年夏現在でその後の業務改革をレビューした所、民 間業務や小型案件が増えて、社員に慢性的な多忙感があり、業務管理も十分に行えない状況になった。

  これを受け、その後の業務遂行、工程管理、品質管理、業績管理、等について検討を加えて、

会社全体の業務工程管理のあり方、業績管理のあり方についての部門間の連携不足が確認されて、そ れへの組織的対応(プロジェクト遂行グループ制、プロジェクトごとにチーム制導入。)を行っている。

  これと平行して、先進的なプロジェクトマネジメントソフトの「クリティカルチェーン・プロジェ クトマネジメント(CCPM)」の導入を検討し、2008年4月からこれを本格導入した。これは開発 プロジェクト等向けの生産性向上手法で、部門の壁を串刺しにした業務プロセス連携を行うための全 体最適に向けた仕組をベースに、プロジェクト全体の工程を見える化し、各工程での余裕を排除し、

先読みしながら工程を管理できる。また、各工程でのトラブル状況が可視化されており、問題の早期 処理・業務の平準化をチームとして処理できる。

本企業は事前に各業務の標準化、見える化に向けての仕組み化が導入されているので、本ソフトが 円滑に導入でき、成果も期待できる。現在では、これを発注者に見せながら、業務説明を行って、安 心感の共有・顧客満足の向上にも役立たせているが、県内では自社だけがこれを導入している。

(2)その後の成果、従業員満足、顧客満足への取組み

 

こうした取り組みの結果、2004年から2007年にかけての営業利益額は、2004年の水準が低いせ いもあるが格段に増加し、これを職員に可能な形で配分している。

  基本的に社員のやる気と自主的な改善活動が競争力・優位性の源泉で、そのような認識を常に示し ている。

  顧客満足対策については、上記の手法を活用して、工程の先取り管理・短納期化に努め、顧客への 提案、品質向上に努めている。

9  成功の要因

(1)経費管理がどんぶり勘定から、経営改革により、業務プロセスの見える化により合理的な管理 に変革され、各社員の成果も見える化し、評価されるようになったこと。

(2)会社として社員の気付き、考える能力を向上させる社風作りに努めて来て、自律的で知的能力 の高い人材育成に努めてきたこと。

(3)公共事業から民間事業への素早い転換が出来、社員にコスト意識が芽生え、改善への追求心が 醸成されたこと。

10  総合評価

本企業は、2000年以降、減収減益が続いていた建設コンサルタント会社で、本社は鳥取県の米子市 にある。本ケースでは、2003年に就任した現社長が、生産性向上を目指して経営・業務改革に着手し、

公的機関の専門家派遣制度を活用して、自動車メーカーの OB を招請し、「カイゼン」の指導を受け て、利益率の向上に成功した事例のポイントを紹介した。

具体的には、2003年に親会社の建設会社から転籍してきた社長は、「事業構造の再構築と、生産性 向上・コスト構造の見直しが急務」と痛感。新規事業が順調に業績を上げていったのに対し、生産性 向上・コスト構造の改革は、社長が期待したほど進展しなかった。

そんな折の2004年春、社長はトヨタの生産方式として知られる「カイゼン」についての講演を聴き、

製造現場の無駄を徹底して排除するカイゼンは、自社の生産性向上・コスト構造の改革にも使えるの ではないかと考えた。

社長は早速、専門家継続派遣事業を手がける中小企業基盤整備機構の中小企業・ベンチャー総合支 援センター中国に連絡。マツダの製造部門OBをアドバイザーとして紹介してもらった。

この支援・指導を受けるため、現社長は社内に「もの造り委員会」を設置。

前期(2004年7月〜12月)と、後期(2005年2月〜8月)の2期にわたって、アドバイザーに来社 してもらった。前期のテーマは「生産性の向上」と「コスト管理の仕組み」で、後期のテーマは「利 益率改善のための業務改革」と「目標管理体制の強化」であった。

これら取組みの効果は、今回の改善のキーワードである価値作業の追求、数値目標化、プロセス管 理、見える化、標準化がよく理解され、実行に移された。指導の成果は数字にも表れ、前期の指導が 終わった2004年12月期の粗利益率は、前年と比べて設計部で7.7ポイント、測量部で7.2ポイント、

環境調査部で2.8ポイントそれぞれ向上。

今回の本企業の経営・業務改革の本質は、コンサルティング業務における多様な業務処理について、

先進的な自動車企業において共通する仕事の仕方のコンセプトを抽出して、その業務プロセスの連鎖 において、品質と生産性の向上等を目指し、成長と変動への対応を中心としたダイナミックな全体最 適化に向けた仕組の形成・運用により、PDCAサイクルを踏んだ業務プロセスを串刺す業務改善を持 続的に行うことにある。これらにより、顧客への提供サービスの優位性を形成して、市場での経営上 の成果を目指すものである。

今回の支援アドバイザーは、今回の本企業の取り組み、特に、もの造り委員会の前向きな取り組み を評価。今後の方向としては、今回整備できた業務の進め方の基盤をレベルアップし、縦・横展開を 含めた深堀を行う、今回の取り組みで生まれた時間を新事業展開等の次の価値作業に生かす、等の取 組みを行うことが期待された。

  その後の取り組みの状況としては、前回の業務改革での成果は見られたものの、2007年夏現在でそ の後の業務改革をレビューした所、民間業務や小型案件が増えて、社員に慢性的な多忙感があり、業 務管理も十分に行えない状況になった。

  これを受け、その後の業務遂行、工程管理、品質管理、業績管理、等について検討を加えて、

会社全体の業務工程管理のあり方、業績管理のあり方についての部門間の連携不足が確認されて、そ

れへの組織的対応(プロジェクト遂行グループ制、プロジェクトごとにチーム制導入。)を行っている。

これと平行して、先進的なプロジェクトマネジメントソフトの「クリティカルチェーン・プロジェク トマネジメント(CCPM)」の導入を検討し、2008年4月からこれを本格導入した。これは開発プ ロジェクトなどの生産性向上手法で、部門の壁を串刺しにした業務プロセス連携を行うための全体最 適に向けた仕組をベースに、プロジェクト全体の工程を見える化し、各工程での余裕を排除し、先読 みしながら工程を管理できる。

本企業は事前に各業務の標準化、見える化に向けての仕組み化が導入されているので本ソフトが円 滑に導入でき、成果も期待できる。

  成功の要因として、以下の3点を上げている。

(1)経費管理がどんぶり勘定から、経営改革により、業務プロセスの見える化により合理的な管理 に変革され、各社員の成果も見える化し、評価されるようになったこと。

(2)会社として社員の気付き、考える能力を向上させる社風作りに努めて来て、自律的で知的能力 の高い人材育成に努めてきたこと。

(3)公共事業から民間事業への素早い転換が出来、社員にコスト意識が芽生え、改善への追求心が 醸成されたこと。

いずれにしても、地域の建設業、建設コンサルタント業を取巻く経営環境は厳しいものがあり、今 後、一層の生産性向上、新規事業展開、等が求められている。

本企業は、この地域にあって、このような累次の経営・業務改革を実践して生産性向上への取組み、

新規事業開拓への取組みを行う数少ない企業であって、今後ともこれまでの経営方針で、自立的な企 業成長を目指した経営をなされることが期待される。

(注)松井順一(2006)『職場のかんばん方式(トヨタ流改善術ストア管理)』日経BP