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システム制御情報学会論文誌,Vol. 29, No. 5, pp , SCI 15 論文特集号 II 論 文 Subtractive Dither を用いた量子化器のフィードバック制御系における効果 * 森田亮介 Effects of Subtractive Dit

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(1)

225 論 文

Subtractive Dither を用いた量子化器の フィードバック制御系における効果 *

森田 亮介

Effects of Subtractive Dithered Quantizers in Feedback Control Systems*

Ryosuke Morita

Subtractive dither method is that artificial noise called “dither signal” added to the original signal before quantization and subtract the same noise from the quantized signal. In this paper, the method is applied into quantized feedback control systems and the performance of quantizers with subtractive dither is analyzed. One of the analyzed quantizer is that using usual subtractive dither.

In addition, another type of the quantizer which is using “asymmetric subtractive dither” is also analyzed.

1. はじめに

一般的に,雑音は障害と見なされることが多く,制 御工学においても,雑音に対してロバストな手法,雑 音を取り除くための手法が研究されてきた.その一方 で,雑音をあえて積極的に用いて,有効な結果を得る ための手法であるディザ法[1]も広く知られており,さ まざまな分野で用いられている[2,3].著者らもランダ ムディザ量子化器の性能解析[4]を行っており,フィー ドバック制御系に対する有効性を示してきた.これま で著者らが取り扱ってきたランダムディザ量子化器は,

non-subtractive ditherとよばれることもある方法を利 用したものであるが,本論文では,これに対応するも のとして,subtractive ditherとよばれる方法[5–7]を フィードバック制御系に用いた場合の考察を与える.

Subtractive ditherとは,Fig. 1に示すように,まず,

元の連続値信号uにディザ信号wを加えてから量子化器 qによって量子化を行う.その後に量子化された信号か ら,量子化される前に加えたディザと同じものを減じる.

このような方法は,信号が量子化される状況を考える と,ネットワークを介して同じディザ信号を用意する必

原稿受付 2015年7月22日

第59回システム制御情報学会研究発表講演会にて発表 (2015年5月)

岐阜大学 工学部 Faculty of Engineering, Gifu Univer- sity; 1-1 Yanagido, Gifu city, Gifu 501-1193, JAPAN

Key Words: quantized control, dithering, performance analysis.

u q

wE wD

v +

+

+ +

Fig. 1 Subtractive dither

要があり,通信容量の制約などから,現実的ではないよ うに思われる.しかしながら,インターネットバンキン グなどで用いられている,RSA SecureID[8]やVASCO

DIGIPASS[9]に代表される,ワンタイムパスワードを

用いたシステムにおいては,クライアントとサーバで,

あらかじめ用意された同じシードにより,別々に同一の 疑似乱数を生成して運用されている.すなわち,ネット ワークで隔てられている空間において,同じディザ信号 を用いることは不可能ではない.

この仕組みをランダムディザ量子化器に当てはめれ ば,subtractive ditherは,ある種の暗号鍵ととらえる ことができる.通信のセキュリティの観点では,ランダ ムディザは,その非再現性を利用した,リプレイアタッ クに対しての有効性[10]などが研究されているが,本論 文では,ランダムディザ量子化器の新たな応用先を探る ことが目的である.

通常,subtractive ditherは,信号の量子化の前後で 同じディザ信号が用いられるが,ここでは,これを通信 の暗号鍵に相当するものとしてとらえ,量子化の前後で 異なる場合についても考える.本論文では,量子化の前 後で同じディザ信号を用いる場合,異なるディザ信号を 用いる場合についてフィードバック制御系に用いた場合 の制御性能の評価を行う.

SCI’15 論文 特集号 —II

(2)

G Q

u v

z r

Fig. 2 Quantized feedback system

本論文は著者が行った口頭発表[11,12]の結果をまと め,さらなる考察を加えたものである.

【記法】R,Nは,それぞれ実数,正の整数からなる集合 を表す.実数aと正の整数dに対し,⌊a⌋dで離散値の集{0, ±d, ±2d ...}の中で,aを超えない最大の数を表 す.また,確率変数ηに対し,E[η],V[η]で,それぞれ ηの期待値,分散を表す.

2. 問題設定

本論文では,Fig. 2に示すフィードバック制御系を考 える.システムGは離散時間線形時不変システムであり,





x(k+ 1) =Ax(k) +B1r(k) +B2v(k) z(k) =C1x(k) +D1r(k)

u(k) =C2x(k) +D2r(k)

(1)

で表される.ここで,k∈ {0}∪Nは離散時刻,x∈Rnは状 態,r∈Rv∈Rは入力,z∈Ru∈Rは出力,A∈Rn×n B1Rn×1B2Rn×1C1R1×nC2R1×nD1 RD2Rは定数行列であり,初期状態はx0Rによ り,x(0) =x0で与えられる.Qはsubtractive ditherを 用いた量子化器であり,その内部構造はFig. 1のように 表され,

v(k) =q[u(k) +wE(k)] +wD(k) (2) で与えられる.ここで,q−∞方向の最近型静的 一様量子化器であり,その量子化間隔はd∈Nで与え られる.また,wE(k)RwD(k)Rはディザ信号 であり,区間(−d/2, d/2]上の一様分布に従う確率変 数とし,それぞれ時刻k について無相関であるとす る.ディザ信号が−d/2< wE(k)≤d/2 を満たすこと より,ディザを加えない場合における量子化前後の関 係が保存される.すなわち,ディザ信号の有無にかか わらず,q[u(k)]q[u(k) +w(k)]は,ともに⌊u(k)⌋d または⌊u(k)⌋d+dのどちらかとなる.なお,通常の subtractive ditherはwD(k) =−wE(k)であり,non- subtractive ditherはwD(k)0である.ここではそれ らと区別するため,wE(k)とwD(k)が無相関であるも のを非対称型subtractive dither,wD(k) =−wE(k)の ものを対称型subtractive ditherとよぶこととする.

システムΣQはさまざまな構造のシステムを一般的に 表した形式になっている.たとえばFig. 3に示される制 御器Kから制御対象Pへの入力が量子化される場合,

図中の破線で囲まれた部分がFig. 2におけるGに相当

K Q P

r u v z

Fig. 3 Feedback system with input quantizer

G

u

z r

Fig. 4 Unquantized feedback system

する.本論文では,簡単のため,量子化される信号が1 カ所かつ1次元である場合を考えるが,量子化される信 号が複数箇所となる場合には,本論文の結果を多次元に 拡張する場合と同じ問題として扱うことができる.

いま,量子化器の性能を評価するために,Fig. 2に示す システムをΣQと定義し,Fig. 2に示すQの部分が恒等写 像,すなわちu(k) =v(k)となるようなFig. 4に示すシス テムΣIを定義する.二つのシステムΣQΣIに対し,初 期状態x(0) =x0,参照入力列R:={r(0), r(1), ...}∈ℓ, のもとでの時刻kにおける出力をそれぞれzQ(k,x0,R)zI(k,x0,R)とする.このとき,性能評価のための評価関 数Jを,

J:= sup

(x0,R)

∈Rn×ℓ

sup

k∈{0}∪NE[

(zQ(k,x0,R)−zI(k,x0,R))2] (3) と定義する.(3)式はΣQΣIの出力差を定量的に表し たものであり,これにより量子化の影響の大きさを評価 できる.もし,Jの値が十分小さければ,ΣQの入出力 応答は信号の量子化の存在しないシステムΣIの入出力 応答に近似できる.すなわち,ネットワークを介した制 御系において,低解像度の信号を用いる必要がある場合 においても,十分な解像度をもったシステムと見なした 設計が可能となる.

3. Subtractive dither の性能解析

まず,ランダムディザ量子化器に共通して評価関数の 値が一般にどのように表されるかを述べる.そののちに,

対称型,非対称型それぞれのsubtractive ditherについ ての性能評価式を導出する.

性能解析の準備のため,量子化誤差η(k) :=v(k)−u(k) を定義する.このとき,(1)式は量子化誤差η(k)を用い て,つぎのように書き換えることができる.





x(k+ 1) = ˜Ax(k) + ˜Br(k) +B2η(k) z(k) =C1x(k) +D1r(k)

u(k) =C2x(k) +D2r(k)

(4)

ただし,A˜:=A+B2C2B˜:=B1+B2D2である.ゆえ

(3)

227 に,システムΣQの時刻k+ 1における出力は

zQ(k+ 1,x0,R) =C1A˜k+1x0+

k i=0

C1A˜k−iB2η(i)

+

k i=0

C1A˜kiBr(i) +˜ D1r(k+ 1) (5) となり,同様にΣIの時刻k+ 1における出力は

zI(k+ 1,x0,R) =C1A˜k+1x0

+

k i=0

C1A˜kiBr(i) +˜ D1r(k+ 1) (6) となる.ゆえに,この二つのシステムの,出力差の期待 値の二乗平均をとると,

E[

(zQ(k+ 1,x0,R)−zI(k+ 1,x0,R))2]

=E

 ( k

i=0

C1A˜kiB2η(i) )2

=E [ k

i=0

(C1A˜kiB2)2η(i)2 ]

=

k j=0

(C1A˜jB2)2E[

η(k−j)2] (7) となる.このことより,以下の補題が得られる.

【補題1】 Fig. 2に示すシステムΣQにおいて,GQが与えられるとする.任意の時刻kについてE[η(k)] = 0 となるとき,V[η(k)]が有界ならば,評価関数Jの値に ついて

J≤

j=0

(C1A˜jB2

)2

V[η] (8)

が成り立つ.ただしV[η] = supkV[η(k)]である.

(証明) 量子化誤差ηの分散V[η(k)]が有界ならば,任 意の時刻kについてE[η(k)] = 0を満たすとき,E[η(k)2] V[η]が成り立つ.さらに,(7)式についてk→ ∞とな るときを考えれば,補題 1が得られる.

補題1より,評価関数Jの値は,量子化誤差の確率的 性質によって決まることがわかる.また,システムΣI

が安定なシステムであれば,(8)式はある値に収束する.

以下では,対称型,非対称型それぞれの場合におけ る量子化誤差の確率的性質について述べ,subtractive

ditherを用いた量子化器の性能解析を行う.

3.1 対称型subtractive dither

量子化誤差ηは,その定義より,

η(k) =q[u(k) +wE(k)]−u(k) +wD(k)

と表すことができる.ここで,静的一様量子化器qのみ に注目して考えると,q[u(k) +wE(k)] =⌊u(k)⌋dとなる

場合,q[u(k) +wE(k)] =⌊u(k)⌋d+dとなる場合の二種 類に分類して考えることができる.ゆえに,通常のラン ダムディザ量子化器[4]と同様に考えれば,量子化誤差 η(k)の取り得る値は

η(k) =













⌊u(k)⌋d−u(k) +wD(k) if −d

2< wE(k)≤ ⌊u(k)⌋d−u(k) +d

⌊u(k)⌋d+d−u(k) +wD(k) 2 if⌊u(k)⌋d−u(k) +d

2< wE(k)≤d 2

(9)

となる.本論文で考えるsubtractive ditherでは,η(k) の値にディザ信号wE(k)が含まれているので,(9)式は 実際には二項分布を表していないことに注意されたい.

以上のことから,つぎの補題が得られる.

【補題2】 Subtractive ditherを用いた量子化器にお いて,量子化間隔がd∈Rで与えられるものとする.ディザ 信号wE(k)RwD(k)RについてwD(k) =−wE(k) となるとき,量子化誤差ηについて以下が成り立つ.

(i) E[η(k)] = 0 (ii) V[η(k)] =d2

12 (iii) E[η(k1)η(k2)] =

{0 (k1̸=k2) V[η(k1)] (k1=k2) (∀i)

(証明) 紙面の都合上,Xk:=⌊u(k)⌋d−u(k)とする.

wE(k) =−wD(k) =w(k)とおくと,η(k)の平均につ いて,

E[η(k)] =

d/2

−d/2

(η(k))1 ddw(k)

=

Xk+d/2

d/2

(Xk−w(k))1 ddw(k) +

d/2 Xk+d/2

(Xk+d−w(k))1 ddw(k)

=1 2d

((

−d 2

)2

(

Xk+d 2

)2)

1 2d

((

Xk+d 2

)2

(d

2 )2)

= 0

が得られ,(i)が示される.同様にしてη(k)の分散は V[η(k)] =E[η(k)2](E[η(k)])2

=

d/2

d/2

(η(k)2)1 ddw

=

Xk+d/2

−d/2

(Xk−w(k))21 ddw(k) +

d/2 Xk+d/2

(Xk+d−w(k))21 ddw(k)

=1 3d

((

−d 2

)3

(

Xk+d 2

)3)

(4)

1 3d

((

Xk+d 2

)3

(d

2 )3)

=d2 12

となり,(ii)が示される.また,(iii)は,(i),(ii)と,

k1̸=k2のときE[w(k1)w(k2)] = 0であることより示すこ

とができる.

補題 2によって,対称型subractive ditherを用いた量 子化器の確率的な性質が得られる.通常のランダムディ ザ量子化器[4]では,V[η(k)]≤d2/4であり,補題 2の 結果はこの値よりも小さな値となっている.これは,以 下に述べる簡単な説明によっても直感的に理解できる.

ディザ信号wE(k)が小さな値をとるとき,静的な量 子化によってq[u(k)+wE(k)] =⌊u(k)⌋dとなる確率が高 く,ディザ信号wE(k)が大きな値をとるとき,q[u(k) + wE(k)] =⌊u(k)⌋d=dとなる確率が高い.このことは(9) 式でも明らかであろう.ゆえに,前者の場合では,wE(k) が負となる場合が多く,後者の場合では正となる場合が 多い.これを踏まえて量子化誤差η(k)の値に注目すると,

q[u(k) +wE(k)] =⌊u(k)⌋dのとき,すなわち静的な量子 化によって値が小さくなる場合には,wD(k) =−wE(k) を加えることによってv(k)は大きくなる方向に補正され,

q[u(k) +wE(k)] =⌊u(k)⌋d+dのとき,すなわち静的な 量子化によって値が大きくなる場合には,v(k)は小さく なる方向に補正される.結果として,対称型subtractive

ditherを用いると,η(k)の分散は小さくなることが期待

される.

つぎに,対称型subtractictive ditherを用いた量子化 器の評価関数の値の上界を与える.補題2の結果を補題 1に用いると,以下の定理が得られる.

【定理1】 システムΣQについてGが与えられると する.Qが対称型subtractive ditherを用いた量子化器,

すなわちwD(k) =−wE(k)であるとき,

J≤

j=0

(C1A˜jB2

)d2

12 (10)

が成り立つ.

定理 1によって,subtractive ditherを用いた量子化 器の性能評価式が与えられ,その大きさはシステムGと 量子化間隔dによって特徴づけられる.

ディザを利用した量子化器の性能は,量子化誤差の分 散に依存しているため,通常のランダムディザ量子化 器[4]に比べ,対称型subtractive ditherを用いた場合 では評価関数の値も小さくなる.また,通常のランダム ディザ量子化器の場合では,量子化誤差の分散が不等号 で表されるのに対し,対称型subtractive ditherの場合 では等号で表されるため,より保守性の少ない結果が得 られている.

3.2 非対称型subtractive dither

Subtractive ditherを用いた量子化制御を共通鍵暗号 化方式での暗号化通信と見なして考えると,システム に加えるディザ信号は暗号化と復号のための共通鍵と同 等の役割を果たしている.ここでは,不正な鍵を用い て復号を試みた場合と同様な場合を想定し,非対称型 subtractive ditherを用いた場合について,量子化誤差 の確率的性質について明らかにする.

量子化誤差η(k)の取り得る値は(9)式と同様であるか ら,以下の補題が得られる.

【補題3】 Subtractive ditherを用いた量子化器にお いて,量子化間隔がd∈Rで与えられるものとする.ディ ザ信号wE(k)RwD(k)Rが無相関であるとき,量 子化誤差ηについて以下が成り立つ.

(i) E[η(k)] = 0 (ii) V[η(k)]≤d2

3 (iii) E[η(k1)η(k2)] =

{0 (k1̸=k2) V[η(k1)] (k1=k2) (∀i)

(証明)補題2と同様,Xk:=⌊u(k)⌋d−u(k)とする.

このとき,η(k)の平均について,

E[η(k)] =

d/2

d/2

d/2

d/2

η(k) (1

d )2

dwE(k)dwD(k)

= 1 d2

d/2

−d/2

(∫ Xk+d/2

−d/2

(Xk+wD(k))dwE(k)

+

d/2 Xk+d/2

(Xk+d+wD(k))dwE(k) )

dwD(k)

= 1 d2

d/2

−d/2

((Xk+wD(k))(Xk+d)

+ (Xk+d+wD(k))(−Xk)) dwD(k)

= 1 d2

d/2

d/2

(wD(k)d)dwD(k)

= 1 2d

((d 2

)2

(

−d 2

)2)

= 0

が得られ,(i)が示される.同様にしてη(k)の分散は V[η(k)] =E[η(k)2](E[η(k)])2

=

d/2

−d/2

d/2

−d/2

η(k)2 (1

d )2

dwE(k)dwD(k)

= 1 d2

d/2

d/2

(∫ Xk+d/2

d/2

(Xk+wD(k))2dwE(k)

+

d/2 Xk+d/2

(Xk+d+wD(k))2dwE(k) )

dwD(k)

= 1 d2

d/2

d/2

((Xk+wD(k))2(Xk+d)

+ (Xk+d+wD(k))2(−Xk)) dwD(k)

(5)

229

= 1 d2

d/2

d/2

(d(Xk+wD(k))2

2dXk(Xk+wD(k))−d2Xk

)dwD(k)

= 1 d2

(d 3

((

Xk+d 2

)3

(

Xk−d 2

)3)

−dXk

((

Xk+d 2

)2

(

Xk−d 2

)2)

−d2Xk

(d 2

(

−d 2

)))

=−Xk2−dXk+d2 12

= (

Xk+d 2

)2

+d2 3 ≤d2

3

となり,(ii)が示される.また,(iii)は,(i),(ii)と,

k1̸=k2のときE[w(k1)w(k2)] = 0であることより示すこ

とができる.

補題 3により,非対称型subtractive ditherを用いた ときの量子化誤差の確率的性質が与えられる.本論文で はsubtractive ditherと呼称しているものの,非対称型 では,non-subtractive ditherに対して無関係の雑音を 後から加えていることと同じ構造をしているため,量子 化誤差は大きくなる.

以上の結果を用いて,非対称型subtractictive dither を用いた量子化器の評価関数の値の上界を与える.補題 3の結果を補題1に用いると,以下の定理が得られる.

【定理2】 システムΣQについてGが与えられると する.Qが非対称型subtractive ditherを用いた量子化 器,すなわちwE(k)RwD(k)Rが無相関である とき,

J≤

i=0

(C1A˜iB2

)2d2

3 (11)

が成り立つ.

定理 2によって,非対称型subtractive ditherを用い た場合の量子化器の性能の上界が与えられる.対称型 subtractive ditherの場合に比べて,4倍の値になってお り,制御性能が対称型に比べて大きく劣化することがわ かる.

4. Subtractive dither の利点

本論文では,ディザ信号として確率的な信号を用いた が,仮に確定的な信号を用いた場合,どのようになるか 考えよう.このとき,量子化誤差に関する性質(補題 2) は量子化器への入力u,すなわち参照入力列Rとシステ ムGによって表される.したがって,性能評価式は(10) 式に比べて複雑なものになることが予想される.本論文 では,ディザ信号w(k)を区間(−d/2,d/2]上で一様分布 となる確率変数としたことで,量子化誤差が,その期待 値や分散が入力uに依存しない形になるような値となっ

ている.このことにより,量子化を含んだシステムΣQ

の制御性能を定理 1, 2のように,簡潔に記すことがで きる.

ここで,本論文で述べた対称型subtractive ditherを 用いた量子化器と,異なるタイプの量子化器との比較を しよう.メモリを有する動的な量子化器[13]では,量子 化の存在しないシステムと,量子化を有するシステムの 入出力応答は,静的な量子化による量子化誤差がメモリ に蓄積される前の状態,すなわち時刻0のインパルス応 答に相当する違いが生じる.本論文と同じ仮定,すなわ ち量子化される信号が1次元となる場合において,評価 式(3)に当てはめれば,その評価関数JD

JD= (C1B2)2d2 4

と表される.一方で,non-subtractive ditherを用いた 方法[4]では,その評価関数JN

JN

i=0

(C1A˜iB2

)2d2 4

となるため,メモリを有する量子化器を用いた場合より も,性能が上回ることはほとんどがない.しかしながら,

対称型subtractive ditherを用いた場合では,(10)式よ り,Gのインパルス応答の大きさがある程度の範囲にお いて,メモリを有する量子化器より,期待値の意味で,

より連続値信号のみを用いるシステムに近い入出力応答 が得られる.このことは,subtractive ditherが,ネッ トワークを超えてディザ信号を同期できると仮定してい るため,あらかじめ,量子化誤差がどの程度になるか,

事前情報を得る構造となっているためと考えることがで きる.

5. 数値例

定理 1,2の結果を数値例で確認しよう.ここでは,著 者らが通常のランダムディザ量子化器の性能解析[4]に 用いたものと同じものを用いる.Fig. 2に示すシステム ΣQにおいて,Gを連続時間システム









˙ x(t) =

[ 0 4

3 2 ]

x(t) + [0

1 ]

v(k)

z(k) = [ 1 0 ]x(t)

u(k) = [ 0.3 4 ]x(t) +r(k)

をサンプリング周期0.05sで離散化したものとし,初期 値をx0= [1 1]とする.また,参照入力列はr(k)≡0 とする.量子化器Qについては,その量子化間隔をd= 2 とする.

まず,対称型subtractive ditherを用いた場合につい て異なるディザ信号に対して10000回のシミュレーション を行ったところ,0≤k≤100においてE[(zQ(k,x0,R)− zI(k,x0,R))2]の最大値は2.67×103であった.一方で,

(6)

v

k

z

0 50 100 150 200

0 50 100 150 200

0 2

-2 -4 -6

0.5 1

0 -0.5 -1

with symmetric subtractive dither with asymmetric subtractive dither without dither

with symmetric subtractive dither with asymmetric subtractive dither without dither

Fig. 5 Time responses of a numerical example 定理 1より得られる値はJ≤5.17×10−3となり,実際 の値に極めて近い値で評価できていることがわかる.

つぎに,非対称型subtractive ditherを用いた場合に ついての結果を述べる.対称型と同様,異なるディザ信 号に対して10000回のシミュレーションを行ったところ,

0≤k≤100においてE[(zQ(k,x0,R)−zI(k,x0,R))2]の 最大値は7.78×103であった.定理 2より得られる値 はJ≤2.58×102であり,定理を満足する結果となって いる.

10000回の試行のうちの1回の入出力応答をFig. 5.に 示す.図中の濃い太線は対称型,薄い太線は非対称型の subtractive ditherを用いた場合を示しており,濃い細 線はΣIの応答を示している.また,比較として,単純 な一様量子化,すなわちwE(k)0,wD(k)0の応答 を薄い細線で示している.対称型subtractive ditherを 用いた場合は,システムの出力がΣIのそれと非常に近 いことがわかる.一方で,非対称型subtractive dither を用いる場合では,出力はΣIとは大きく異なっており,

むしろ静的な一様量子化を行った場合とほとんど変わら ないほどになっていることがわかる.

6. おわりに

本論文ではsubtractive ditherを用いた量子化フィー ドバック制御系に対し,性能解析を行った.まず,量子 化器の性能評価のための評価関数をランダムディザ量子 化器の種類によらず,量子化誤差の確率的性質を用いて 表した.つぎに対称型,非対称型それぞれのsubtractive

ditherを用いた場合について,量子化誤差の確率的性

質を導出し,性能評価式の上界を陽に示した.とくに,

対称型subtractive ditherを用いる場合では,制御性能 の低下が著しく少ないことに加え,保守性の少ない結 果が得られた.今後の課題として,ネットワーク上での ディザの同期方法や,それに基づいた暗号化通信など,

subtractive ditherの制御工学的な応用が重要である.

参 考 文 献

[1] R. A. Wannamaker, S. P. Lipshitz, J. Vanderkooy and J. N. Wright: A theory of nonsubtractive dither;

IEEE Transactions on Signal Processing, Vol. 48, No. 2, pp. 499–516 (2000)

[2] A. Ulichney: Dithering with blue noise; Proceedings of the IEEE,Vol. 76, No. 1, pp. 56–79 (1988) [3] C. A. Desoer and S. M. Shahruz: Stability of dithered

non-linear systems with backlash or hysteresis;Inter- national Journal of Control,Vol. 43, No. 4, pp. 1045–

1060 (1986)

[4] R. Morita, S. Azuma and T. Sugie: Performance analysis of random dither quantizers in feedback con- trol systems;SICE Journal of Control, Mesurement, and System Integration, Vol. 6, No. 1, pp. 21–27 (2013)

[5] L. Schuchman: Dither signals and their effect on quantization noise;IEEE Transaction on Communi- cations,Vol. 12, No. 4, pp. 162–165 (1964)

[6] S. P. Lipshitz, R. A. Wannamaker and J. Vanderkooy:

Quantization and dither: A theoretical survey;Jour- nal of Audio Engineering Society, Vol. 40, No. 5, pp. 355–375 (1992)

[7] B. C. Levy: A study of subtractive digital dither in single-stage and multi-stage quantizers;IEEE Trans- actions on Circuits and Systems—I: Regular Papers, Vol. 60, No. 11 pp. 2888–2901 (2013)

[8] RSA SecurID;

http://www.emc.com/security/rsa-securid.htm.

[9] VASCO DIGIPASS;

http://www.vasco.co.jp/digipass.html. [10] 加嶋,井上:ネットワーク化制御系における確率雑音の

白色化効果と非再現性の同時活用;計測自動制御学会論 文集,Vol. 50, No. 10, pp. 712–720 (2014)

[11] 森田: Subtractive Ditherを用いた量子化フィードバッ ク制御系に関する考察;第2回計測自動制御学会制御部 門マルチシンポジウム, pp. 722–724 (2015)

[12] 森田: Subtractive Dither を用いた量子化器のフィー ドバック制御系における暗号化通信への有用性につい て; 第59回システム制御情報学会研究発表講演会, pp.

344–342 (2015)

[13] 南,東,杉江: 離散値入力型フィードバック制御におけ る最適動的量子化器;計測自動制御学会論文集,Vol. 43, No. 3, pp. 227–233 (2007)

著 者 略 歴

もり森 田    りょうすけ介 (正会員)

2013年3月京都大学大学院情報学研究 科博士後期課程修了.2013年4月大阪大 学大学院情報科学研究科特任研究員,2014 年4月青山学院大学理工学部助教,2016 年1月岐阜大学工学部助教となり,現在に 至る.量子化制御などの研究に従事.博士

(情報学).計測自動制御学会,IEEEなどの会員.

参照

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