博士(獣医学)伊藤一洋 学位論文題名
Role of Eosinophils in Late Asthmatic Response Experlmentally Induced inaGuinea Pig.
(モルモット遅発型喘息反応における好酸球の役割に関する研究)
学位論文内容の要旨
好酸 球 は 元 来 外 因 性の 侵 襲 、 主 に寄生 虫に 対し生 体防 御の 要とな る細 胞であ る。 好酸球は、寄生虫感染時に増加すること が知ら れ、 その細 胞内 には寄生虫を殺滅あるいは排除するため の 傷害 因 子 や 各 種 メ デイ エ 一 夕 ー が含ま れて いる。 同様 に、
アレル ギー 疾患患 者で も好酸球増多は認められるが、この疾患 は高度 文明 社会で 寄生 虫感染症が減少したのに逆比例して増加 し てき た 。 っ ま り 、 寄生 虫 感 染 減 少とと もに その防 御機 構で あ る 好 酸 球 が 迷 走 し 、 攻 撃 対 象 を 自 己 に 向 け 始 め た こ と が ア レル ギ ー 疾 患 増 加 の原 因 の ー っ と考え られ ている 。し かし な がら 、 ア レ 少 ギ ー 疾患 と 好 酸 球 に関す る研 究は、 まだ 締に ついた ばか りであ り、 その浸潤活性化機序や病態悪化との関係 に つい て は 未 だ 明 ら かに さ れ て い ない。 そこ で、本 研究 では ア レル ギ ー 性 喘 息 モ デル を 作 製 し 、好酸 球の 役割お よぴ その 浸潤機 序に ついて 検討 した。
気管 支喘 息は1960年 代以降、一過性の気道収縮性疾患である と 考え ら れ て き た 。 しか し な が ら 、気管 支喘 息患者 に抗 原を 吸入誘 発す ると、15分 以内に気道収縮を主体とした即時型喘息
反応(IAR)が認 められるが、一 旦緩解した後 、数時間後に気道 抵抗の 再上昇、っま り遅発型の喘息 反応(LAR)が発現すること が 明 ら か に さ れ た 。LARは 臨 床 上IARに 比 ベ気 道 狭窄 時間 が 長く、 気管支拡張薬よりもステロイドが奏効すること、高度な 好 酸球 浸 潤や 気 道過 敏性 を示すなど、 より重症な慢 性難治性 気管支 喘息病態と類 似していること からLARと好酸球に関する 研 究は 、 気管 支 喘息 の重 症化、難治化 を解明する手 がかりと 考えら れ、より効果の高い薬物開発を進める上で重要と考えら れる。
現在のと ころヒトのLARに相 当する動物モ デ少の開発は試み られて はいるが、LARの発 現率、再現性 、強度の点で充分その 目的を.果たすまでは至っていない。そこで本研究ではモルモッ ト遅発 型喘息モデルを開発し、喘息病態発症と好酸球浸潤との 関 わ り に つ い て 様 々 な 側 面 か ら 検 討 を 行 っ た 。 さらに、近年、喘息発症メデイエーターとして注目されている アラキ ドン酸代謝物と好酸球浸潤および活性化の関係について 検 討 し 、 好 酸 球 の 浸 潤 活 性 化 機 序 に つ い て 考 察 し た 。
I.モルモット遅発型喘息モデルの作製と喘息病態発症におけ る好酸球の役割・
モルモ ットを用い、 卵白アルプミンを抗原に全身性感作と 吸 入感作を併 用することに より、ヒトLARに類 似した反応を 惹起 する遅発型喘息 モデルの作製に成功した。本モデ少は、
再 現性 、 発現 率 が高 い こと 、 高度 な好酸 球浸潤およぴ気 道 過敏 性を示すこと、 既存の抗アレルギ一薬では効果がなく、
ステロイド が有効である など、病態学的 にも、薬理学的にも ヒト喘息と近似していた。
ま た、 生 体の 好 酸球 数 をinterleuHn5や抗 好酸球抗体な ど で調節する ことにより、 肺気道組織への 浸潤好酸球数と喘息 の基本病態 と考えられる 気道過敏性ある いは遅発型気道狭窄 強度 と の間 に 明ら か な相 関性 が 認め ら れた 。 さら に好 酸 球 超音 波 破砕 液 吸入 に より 高度 な 気道 過 敏性 が 誘発 され た 。 よって、好 酸球が喘息の 病態悪化に重要 な役割を担っている ことが明らかになった。
本モデルでは、 r.珊mboxane合成酵素阻害薬およひIepddyl leukot血ne拮抗薬が有効 であり、喘息 の新しい治療薬として の可 能 性が 示 唆さ れ ると ともに、喘 息反応発症thromboxanc やleukot血ncの関 与 が示 唆さ れ た。 ま た、 好 酸球 浸 潤へ の thI伽box卸cやleuko缸encの関与が想定され、以下n,III章で検 討した。
H. 好 酸 球 浸 潤 お よ ぴ 活 性 化 に 対 す るprostanoidの 関 与 ‑thromboxane合成酵素阻害薬CS‑518の作用機序について.
CS‑518は 、遅 発 型喘息モデ 少において好 酸球浸潤を顕著 に 抑 制 し た 。 そ こ で 、 そ の 作 用 機 序 を 検 討 す る た め に 、 thromboxane拮抗 薬 くAA‑2414)お よぴcyclooxygenase阻 害薬 (indomethacin)を対照薬に好酸球浸潤およぴ活性化に及ぽす影響 について比較 検討した。CS‑518はアレルギー喘息モデルで認め られる高度な 好酸球浸潤を抑制し、また好酸球活性化の指標と され る 低比 重化 も 抑制した。 さらに、in vitro試験におい て
好 酸 球 の 遊 走 、 酵 素 遊 離 、 活 性 酸 素 産 生 を 抑制 し たが 、 それ ら の 作 用 はAA‑2414やindomethacinに は 認 め ら れ な か っ た 。
CS‑518は 肺 気 道 組 織 お よ び 好 酸 球 に お い て 、 抗 原 や 活 性 化 因 子 の 刺 激 に 基 づ く 顕 著 なthromboxane産 生 を抑 制 する と とも に、prostaglandinヒやprostaglandin E2産生を亢進させることを 明 ら か に し 、 ま た 産 生 さ れ たprostaglandinヒ やE2が 、 好酸 球 活 性 化 抑 制 作用 を 有す る こと を 証明 し た。 し たが っ て 、CS‑518 はthromboxane産生を抑制 するだけで なくprostaglan(bヒや瓰の 産 生 を 増 強 する こ とに よ り、 好 酸球 活 性化 を 抑制 し 、 さら に は 喘息反応を 抑制したも のと推定さ れた。
III.好酸球浸潤およぴ活性化におけるpeptidyl leukotriene(pLTs)の 関与
L,eukotriene B4は自血球 遊走因子と して良く知 られている が、
他方同じ5‑lipoxygenase代謝物であるpLTs (LTくニ4,D4,E4)は、それ 自 身 遊 走 活 性 が な い こ と か ら 好 酸 球 浸 潤 へ の 関 与 に つ い て 顧 み ら れ な か っ た 。 し か し な が ら 、 遅 発 型 喘 息 モ デ ル でpLTs拮 抗 薬 が 好 酸 球 浸 潤 を 顕 著 に 抑 制 し た こ と か ら 、pLTsの 好 酸 球 浸 潤 へ の関与について検討を行った。
pLTsを モ ル モ ッ ト に 吸 入 さ せ た と こ ろ 、 高 度 な 好 酸 球 浸 潤 が 誘 発 さ れ 、 同 時 に 肺 胞 洗 浄 液 中 に 未 知 の 好 酸 球 遊 走 因 子 の 産 生 亢 進 が 認 め ら れた 。 その 遊 走因 子 産生 はin vitroで も 確 かめ ら れ た 。 さ ら に pLTsは 、 血 管 内 皮 と の 接 着 亢 進 、 酵 素 遊 離 、 thmmboxane産 生 な ど の 好 酸 球 活 性 化 を 誘 発 し 、 そ の 活 性 は 最 も 選 択 性 の 高 い 好 酸 球 活 性 化 因 子PAFよ り も 強 カ で あ っ た 。 以 上
より好酸球性炎症にpLTsが重要な役割を担っていることが明か となった。
以上本論文では,ヒト遅発型喘息反応に類似したモ少モット遅 発型喘息モデルの作製を通して,好酸球が喘息病態の発症ある い は 悪 化に 深く関 与し ている こと を明ら かに した。 加え て,
好酸球性炎症には、遊走因子でないpeptidyl leukotriIencが関与 していること、prosta.glandinヒおよび竃2が好酸球性炎症を抑制 す る と いう 知見が 得ら れ、今 後の 喘息治 療に 新しい アプ ロー チを与えたと考えられる。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
神 谷 正 男 中 里 幸 和 藤 田 正 一 奥 祐三郎
学 位 論 文 題 名
Role of Eosinophils in Late Asthmatic Response Experimentally Induced in a Guinea Pig.
(モル モット遅発 型喘息反 応におけ る好酸球 の役割に 関する研 究)
好 酸球は 、元来、 寄生虫な どに対す る生体防 御の要とな る細胞で あるが、 アレルギ ー疾 患で も増加す ることか ら、アレ ルギー疾 患発症にお ける好酸 球の役割 が注目さ れ てい る。 本研究は アレルギ ー疾患の 中でも特 に治療抵抗 性を示す 喘息の病 態発現に お け る 好 酸 球 の 役 割 お よ び そ の 浸 潤 機 序 に つ い て 検 討 し た も の で あ る 。 喘 息の定 義は、最 近、気道 の収縮性 疾患から 好酸球性炎 症性疾患 ヘ変更さ れたが、
その 背景 には遅発 型喘息反 応の発見 がある。 遅発相とは 喘息患者 で抗原吸 入後の急 激 な発 作の 数時間後 に発現す るステロ イド感受 性の発作で あり、高 度な好酸 球浸潤や 気 道反 応性 亢進を示 すなど慢 性喘息病 態と類似 し、遅発相 に関する 研究は、 喘息の発 症 機序 の解 明や効果 の高い薬 物開発に 重要と考 えられる。 そこで、 申請者は モルモッ ト を用 い、 ヒト遅発 相に相当 する動物 モデルの 作製を試み 、その特 徴から充 分目的を 果 たし たモ デルの確 立に成功 した。本 モデルで は浸潤好酸 球数と気 道過敏性 あるいは 遅 発型 気道 狭窄強度 との間に 相関性が 認められ 、好酸球が 喘息の病 態悪化に 重要な役 割 を担 って いること が明らか になった 。また、 トロンボキ サン合成 酵素阻害 薬およぴ べ プチ ドロ イコトリ エン拮抗 薬が有効 であり、 新規喘息治 療薬とし ての可能 性を示唆 す ると とも に、好酸 球浸潤へ のトロン ボキサン やベプチド ロイコト リエンの 関与が想 定 され、さ らに検討 を行った 。
トロンボ キサン合 成酵素阻 害薬CS‑518は、invivo.in vitroにおいて強カな好酸球浸 潤遊 走お よぴ活性 化抑制作 用を示し た。この 機序として 、CS‑518はトロ ンボキサ ン産 生を 抑制 するだけ でなく抗 炎症性因 子として 今回証明さ れたプロ スタグラ ンジン12や E2の 産 生 を 増 強 す る こ と に よ り 、 好 酸 球 活 性 化 を 抑 制 し た も の と 推 定 さ れ た 。 また、5. リポキシ ゲナーゼ 代謝物で あるべプ チドロイ コトリエンは、それ自身遊走 活性 がな いものの 、遊走因 子遊離、 接着亢進 、酵素遊離 作用など を通して 好酸球性 炎
症に重要な役割を担っていることが明らかとなった。
以上、本研究は、ヒト遅発型喘息反応に近似したモルモット遅発型喘息モデルの作 製を通して、好酸球が喘息病態の発症、悪化に深く関与していることを明らかにし、
加えて、好酸球性炎症に、遊走因子でないべプチドロイコトリエンが関与しているこ と、プ口スタグランジン12およびE2が好酸球性炎症を抑制するとぃう知見が得られ、
今後の喘息治療に新しいアプローチを与えたと考えられる。よって審査員一同は伊藤 一洋氏が博士(獣医学)の学位を受けるのに充分な資格を有するものと認めた。