博 士 ( 獣 医 学 ) 齋 藤 成 夫
学 位 論 文 題 名
IVIultiplication of porcine and bovine embryonic cells using various micromanipulative procedures
( 種 々 の 顕 微 操 作 を 施 し た 豚 お よ び 牛 の 胚 性 細 胞 の 増 殖 性 に 関 す る 研 究 )
学位論 文内容の要旨
高泌乳 能カを 有す る乳牛 あるい は優れ た肉 質を誇 る肉畜 個体の 産子を 一度 に多数生産させるこ と(ク 口ーニ ング家 畜生 産)が できれ ば,畜 産経営 にも たらす 経済的 メリッ トは非常に大きい。
また, 一卵性 の多子 を栄 養学, 行動学 および 遺伝学 など の研究 に用い れば, 遺伝的要因による差 異を排 除する ことが でき るため ,少な い個体 数で正 確な 実験結 果を得 られる 有益性がある。しか しなが ら,家 畜初期 胚を 体外で 操作するための基礎的研究は未だ満足すべき水準に達しておらず,
解決す べき多 くの問 題が 山積し ている 。そこ で本研 究で は,効 果的な ク口ー ン家畜生産技術を確 立する ことを 目的と して ,種々 の顕微 操作を 施した 豚お よび牛 胚の割 球の増 殖性を体外培養なら びに生 体内移 植を通 じて 検討し ,下記 の知見 を得た 。
豚 の 初 期 胚盤 胞 と8細 胞初 期胚 の切断2分 離後の 発生を 体外 培養で 調べた ところ ,初 期胚盤 胞 の細 胞 数 が 有 意に 多 く , 胚 の直 径 も 大 き か った (pくO. 05)。ま た, 割球融 合胚(2/4十2/ 4,1/8十1/8,2/8十2/8) を 体 外 培 養 す る こ と に よ っ て 正 常 な 細 胞 数 を 有 す る 胚 盤 胞が得 られた 。豚の 単離 割球の 各々が 産子に 発生で きる 能カを 有して いれば ,一卵性の多子生産 が可能 となる 。しか し, 豚にお いては 単離割 球の移 植に よる産 子は生 産され ておらず,割球の増 殖を促 すため の技術 開発 が必要 である 。そこ で細胞 外基 質およ び細胞 成長因 子を培養液に添加す る こ と に よ っ て , 割 球 増 殖 促 進 効 果 を検 討 し た 結 果,1/4,1/8, お よび1/16割球 を 高 率 に胚盤 胞にま で発生 させ ること ができた。っまり 、細胞外基質フアブ口ネクチンをコートした培 養 皿 上 で , 修 正 ク レ ブ ス リ ン ゲ ル 液 (mKRB)を 培 養 液 と して 用 い た 場 合,1/8割 球の42% が胚盤 胞にま で発生 し, それら は約60の 細胞 核を有 してい た。ま た,細 胞成 長因子のインスリン
(10,000〃 g/ml)をmKRBに添 加 す る と 非 添加 区 の 単 離 割球 に 比 べ て 高い 胚 盤 胞 発 生率 を 示 した (pく0. 05)。更 に,割 球の全 能性 を調べ るため ,全体 で457個の 豚1/8単 離割球 をフ アブ 口 ネ ク チ ン コ ー ト のmKRB中 で 培 養 後 ,16頭 の レ シ ピ ェ ント 豚 に 移 植 した と こ ろ3頭が 妊 娠
し ,2頭 のレ シ ピ ェ ン トが そ れ ぞ れ4頭 お よ び2頭の 子 豚 を 分 娩し た 。 従 っ て ,8細 胞期胚 の割 球 の 中 に は 全 能 性 を 有 し て い る 細 胞 の 存 在 す る こ と が 初 め て 明 ら か に な っ た 。 ク 口ーン 家畜 生産の 効率を 更に向 上させ るこ とが可 能かど うか, 核移 植の手 法を用 いて追求し た 。4〜 16細 胞期 までの 豚単離 割球をMII期 除核 細胞質 と電気 的融合 後,そ の発 生能カ を体外 培 養 法 に よ って 調 べ た 。4〜7細 胞 期 およ び8〜16細 胞 期 割 球 細胞 を ド ナ ー とし た 場 合,共 に7% が 桑 実 胚 にま で 発生し た(卵 管上 皮細胞 との共 培養) 。一方 ,生 体内培 養の核 移植胚 は6%が胚 盤 胞 に 違 した (4〜7細胞 期 ド ナ ー 割球 ) 。 以 上 の結 果 か ら , 胚 性ゲ ノ ム 活 性 時期 (4〜8細胞 期 )を越 えた豚 細胞割 球の 中には 全能性 を有し てい る細胞 があり ,単離 割球の 直接 移植および割 球 細 胞 を ドナ 一 核 と し て核 移 植 を 行 う こと に よ り , クロ ー ン 豚 作 出の 可 能 性 が 示唆さ れた。
現 在 ,一 番 簡便 で実用 的な 牛の一 卵性多 子生産 は, 胚を切 断2分離し たり割 球を分 離する こと に よ る 双 子お よ び4子 の生 産 で あ る 。ま た ,1頭 のレ シ ピ ェ ン ト に1個 の 胚 に 由来 する2個 の分 離 胚を移 植して 双子を 生産 させる ことも フリー マー チンの 障害が 生じな いため に有 効な一卵性多 子 生産手 段とな ってい る。そこで牛胚を用いた研究でfま,初めに分離胚の生存性の検討を行った。
0. 3M濃度 のショ 糖を胚 分離用 溶液 に添加 すると,その後の発生に有効であることが認められた。
一 対 の2分離 胚 の レ シ ピェ ン ト 牛 へ の両 側 子 宮 角 移 植は ,1個の2分離 胚の一 側子宮 角への 移植 よ り も 妊 娠数 が 多くな る傾向 が認 められ た。2分離 胚移植 の実験 結果を 総括 すると ,分離 胚の両 方 とも受 胎する 確率は29%, 一方だ けが受 胎す る確率 は42%で どち らも受 胎しな い確率 は29%で あ った。
豚 と同様 に, 更に, 効率的 なクロ ―ン牛 生産 を目標 に,桑 実期胚 の細 胞核を ドナー とした核移 植 による 胚生産 を検討 した 結果, 卵丘細 胞との 共培 養によ って体 外で10%の割 合で核 移植胚は桑 実 胚 に ま で発 生 し た 。 もし , 体 外 で 継 代培 養 が 可 能 な胚 性 幹細 胞(ES細胞) を核移 植のド ナ一 細 胞核と して使 用する こと があれ ば,無 限に近 いク 口一ン 牛の作 出が現 実のも のと なる。そこで 本 研 究 で はま ずES細 胞を 確 立 し , その 後それ らの細 胞を用 いて 核移植 を行い ,発生 能カを 調べ る 実 験 を 行っ た 。2分 離し た 牛 初 期 胚盤 胞 由 来 のES様 細 胞 株を 作出し ,染色 体分析 を行っ た結 果 ,18個の 中 期 核 板 像の う ち16個で1個のX染色 体と58個 の常染 色体 を有す る正常 な雌牛 の染色 体 像 が 認 めら れ た 。G―バ ン ド 染 色 によ っ て も こ れ ら牛ES様 細胞 の 染 色 体 は 正常 な2倍体 であ る こ と が 明ら か で あ っ た。 こ のES様細 胞の発 生能カ を調べ るた め核移 植実験 を行っ たとこ ろ,
核 移 植 胚 は16細 胞 期 を越 え て 発 生 を続 けるも のは観 察され ず, 牛ES様細 胞の発 生能 カは今 後の 検 討課題 として 残った 。
本 研 究に よ って ,豚の8細 胞期胚 の割 球の中 には, 全能性 を有 する細 胞のあ ること が初め て明
らか にされ た。 また, 割球の 体外培 養には ,細 胞外基 質のフ アブロ ネク チンおよび細胞成長因子 イ ン ス リン が 有 効 で ある ことを 明らか にでき た。更 に, 牛でES様 細胞株 を初 めて獲 得する こと がで き,核 移植 の手法 を用い ること で,ク ロー ン家畜 生産の 効率化 を図 ることの可能性が示唆さ れた 。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
金川 波岡 清水 高橋
弘 司 茂 郎 弘 芳 幸
高泌 乳能カ を有 する乳 牛ある いは優 れた肉 質を 誇る肉 畜個体 の産子 を一 度に多数生産させるこ と( ク口ー ニング 家畜生 産) ができ れば, 畜産経 営に もたら す経済 的メリ ットは非常に大きい。
また ,一卵 性の多 子を栄 養学 ,行動 学およ び遺伝 学な どの研 究に用 いれば ,遺伝的要因による差 異を 排除す ること ができ るた め,少 ない個 体数で 正確 な実験 結果を 得られ る有益性がある。しか しな がら, 家畜初 期胚を 体外 で操作 するための基礎的研究は未だ満足すべき水準に達しておらず,
解決 すべき 多くの 問題が 山積 してい る。そ こで本 研究 では, 効果的 なク口 一ン家畜生産技術を確 立す ること を目的 として ,種 々の顕 微操作 を施し た豚 および 牛胚の 割球の 増殖性を体外培養なら びに 生体内 移植を 通じて 検討 し,下 記の知 見を得 た。
豚 の 初 期 胚 盤 胞と8細 胞 初期 胚の切 断2分離後 の発生 を体 外培養 で調べ たとこ ろ,初 期胚 盤胞 の 細 胞数 が 有 意 に 多く , 胚 の 直 径も 大 き か っ た (pく0. 05)。 また ,割球 融合胚 (2/4十2/ 4,1/8十1/8,2/8十2/8) を 体 外 培 養 す る こ と に よ っ て 正 常 な 細 胞 数 を 有 す る 胚 盤 胞が 得られ た。豚 の単離 割球 の各々 が産子 に発生 でき る能カ を有し ていれ ば,一卵性の多子生産 が可 能とな る。し かし, 豚に おいて は単離 割球の 移植 による 産子は 生産さ れておらず,割球の増 殖を 促すた めの技 術開発 が必 要であ る。そ こで細 胞外 基質お よび細 胞成長 因子を培養液に添加す る こ と に よ っ て, 割 球 増 殖 促 進効 果 を 検 討 した 結 果 ,1/4,1/8, お よ び1/16割 球 を 高率 に胚 盤胞に まで発 生させ るこ とがで きた。 っまり ,細 胞外基 質フィ ブロネ クチンをコートした培 養 皿 上 で , 修 正 ク レ ブ ス リ ン ゲ ル 液 (mKRB)を 培 養 液 と し て 用い た 場 合 ,1/8割 球 の42%
が 胚盤 胞にま で発生 し,そ れら は約60個 の細胞 核を 有して いた。 また, 細胞成 長因子のインスリ ン (10,000ロg/ml)をmKRBに 添 加 する と 非 添 加 区 の単 離 割 球 に 比べ て 高 い 胚 盤胞 発 生 率 を 示 し た (pくO. 05)。更 に,割 球の全 能性 を調べ るため ,全体 で457個の 豚1/8単 離割球 をフ ィ ブ 口 ネ ク チ ン コ ― トのmKRB中で 培 養 後 ,16頭 の レ シ ピェ ン 卜 豚 に 移植 し た と こ ろ3頭 が 妊 娠 し ,2頭 の レシ ピ ェ ン ト が それ ぞ れ4頭 およ び2頭 の 子豚 を 分 娩 し た。 従 っ て ,8細 胞期 胚の割 球 の 中 に は 全 能 性 を 有 し て い る 細 胞 の 存 在 す る こ と が 初 め て 明 ら か に な っ た 。 ク口一 ン家畜 生産の 効率 を更に 向上さ せるこ とが 可能か どうか ,核移 植の手 法を用いて追求し た 。4〜 16細 胞期ま での 豚単離 割球をMII期 除核細 胞質 と電気 的融合 後,そ の発生 能カを体外培 養 法 に よ っ て 調べ た 。4〜7細 胞 期 お よ び8〜16細胞 期 割 球 細 胞を ド ナ ー と した 場合, 共に7% が 桑 実 胚 にま で発生 した( 卵管上 皮細 胞との 共培養 )。一 方,生 体内 培養の 核移植 胚は6%が 胚 盤 胞 に 達 し た (4〜7細 胞期 ド ナ 一 割 球 )。 以 上 の 結 果か ら , 胚 性 ゲノ 厶 活 性時 期(4〜8細胞 期 )を 越えた 豚細胞 割球の 中に は全能 性を有 してい る細胞 があ り,単 離割球 の直接 移植および割 球 細 胞 を ド ナ 一核 と し て 核 移植 を行 うこと によ り,ク 口 ー ン豚作 出の可 能性 が示唆 された 。 現 在 , 一番簡 便で実 用的な 牛の 一卵性 多子生 産は, 胚を 切断2分離 したり 割球を 分離す ること に よ る 双 子 お よび4子 の 生 産で あ る。ま た,1頭の レシピ ェント 、に1個の 胚に 由来す る2個の分 離 胚を 移植し て双子 を生産 させ ること もフリ ーマー チンの 障害 が生じ ないた めに有 効な一卵性多 子 生産 手段と なって いる。 そこ で牛胚 を用いた研究では,初めに分離胚の生存性の検討を行った。
O. 3M濃度 のシ ョ糖を 胚分離 用溶液 に添加すると,その後の発生に有効であることが認められた。
一 対 の2分 離胚 の レ シ ピ ェ ント 牛 へ の 両 側子 宮 角 移 植 は,1個の2分 離胚の 一側子 宮角へ の移植 よ り も 妊 娠数 が多く なる傾 向が認 めら れた。2分 離胚移 植の実 験結果 を総括 する と,分 離胚の 両 方 とも 受胎す る確率 は29% ,一方 だけが 受胎す る確 率は42% でどち らも 受胎し ない確率は29%で あ った 。
豚と同 様に, 更に, 効率 的なク 口一ン 牛生産 を目 標に, 桑実期 胚の細 胞核を ドナーとした核移 植 によ る胚生 産を検 討した 結果 ,卵丘 細胞と の共培 養によ って 体外で10%の割 合で核移植胚は桑 実 胚 に ま で 発 生し た 。 も し ,体 外 で 継 代 培養 が 可 能 な胚 性幹細 胞(ES細胞 )を核 移植の ドナー 細 胞核 として 使用す ること があ れば, 無限に 近いク 口一ン 牛の 作出が 現実の ものと なる。そこで 本 研 究 で は ま ずES細 胞 を確 立 し ,その 後そ れらの 細胞を 用いて 核移 植を行 い,発 生能カ を調べ る 実 験 を 行 っ た。2分 離 し た牛 初 期 胚 盤 胞由 来 のES様細 胞株を 作出 し,染 色体分 析を行 った結 果 ,18個 の中 期 核 板 像 のう ち16個で2個のX染色 体と58個の常 染色体 を有 する正 常な雌 牛の染 色 体 像 が 認 め ら れた 。G− バ ンド 染 色 に よ って も こ れ ら 牛ES様 細 胞 の染 色 体 は 正常な2倍 体であ
ることが明らかであった。このES様細胞の発生能カを調べるため核移植実験を行ったところ,
核移植胚は16細胞期を越えて発生を続けるものは観察されず,牛ES様細胞の発生能カは今後の 検討課題として残った。
本研究によって,豚の8細胞期胚の割球の中には,全能性を有する細胞のあることが初めて明 らかにされた。また,割球の体外培養には,細胞外基質のフィブロネクチンおよび細胞成長因子 インスリンが有効であることを明らかにできた。更に,牛でES様細胞株を初めて獲得すること ができ,核移植の手法を用いることで,ク口一ン家畜生産の効率化を図ることの可能性が示唆さ れた。
よって,審査員一同は,申請者齋藤成夫氏が博士(獣医学)の学位を受ける資格を有するも のと認める。