博士(歯学)畢 良佳 学位論文題名
歯 周 組織 の 炎 症 と 咬 合 性 外 傷が 合併し た時 のサ ル歯 周組織 の変 化
一炎症の程度と咬合性外傷の強さの影響について―
学位論文内容の要旨
【 緒 言 】1901年 にKarolyiが 咬 合 の 負 担 過 重 に よ っ て 歯周 病 ( 歯 槽 膿 漏 ) が 起 こ る と 報 告 し て 以 来 、1950年 代 頃 ま で は 咬 合 性 外 傷は 歯 周 炎 の 原 因 と し て 歯 肉 の 炎 症 や 歯 周 ポ ケ ット を 形 成 す る と ぃ う 報 告 が 多か っ た が 、 そ の 後 正 常 な 動 物 に 咬 合 性 外 傷 を 起 こ し て も 歯 周 炎 が 生 じ な い こ と が 明 ら か に さ れ た 。 し か し 臨 床 で は 、 咬 合性 外 傷 が 関 与 し て 歯 周 炎 が 高度 に 進 行 し た の で は な い か と 思 わ れ る 症 例 が 多く 観 察 さ れ る こ と か ら 、 炎 症と 咬 合 性 外 傷 が 合 併 し た 場 合 に 歯 周 組 織 が ど のよ う に 破 壊 さ れ る か の 研 究 が重 視 さ れ る よ う に な っ た 。G lickmanら は 炎 症 と 咬 合 性 外 傷 が 合 併 す る と 炎症 の 進 行 路 が 変 化 し て 直 接 歯 根 膜 ヘ 波 及 し 、 骨縁 下 ボ ケ ッ ト や 垂 直 性 骨 吸 収が 生 じ る と い う 共 同 破 壊 説 を 発 表 し た が 、 科 学的 に 実 証 さ れ て い な い 。 一 方Lindheら は イ ヌ で 両 者 を 合 併 さ せ る と 、 高 度 の歯 槽 骨 破 壊 と ア タ ッ チ メ ン ト口 ス が 生 じ た が 、 骨 縁 下 ポ ケ ッ ト は 生 じ な か った と 報 告 し 、Polsonら ほ り スザ ル で 観 察 し 垂 直 性 の 骨 吸 収 は 生 じ た が ア タ ッチ メ ン ト ロ ス は 生 ぜ ず 骨 縁 下ボ ケ ッ ト も 生 じ な か っ た と 述 ベ 、 浅 野tま カニ ク イ サ ル に 強 い 炎 症 と 強い 外 傷 カを加 えた 結果 、ア タ ッ チ メ ン ト ロ ス を 伴 う 高度 の 歯 周 組 織 破 壊 が 生 じ た と報 告 し て い る 。 こ れ ら 研究 報告か ら、 歯周 組織 の炎症 と咬 合性外傷が合併した場合の.組織変化は、
歯 周 組 織 の 炎 症 の 程 度 や 咬合 性 外 傷 の 強 さ に 影 響 を 受 けて 、 種 々 に 変 化 す る の で は な い か と 考 え ら れ る が ま だ 十 分 明 碓 に さ れ て い な い 。 ‑ 399―
そこ で歯 周組織 の炎 症と咬 合性外傷が合併した場合の歯周組織破壊のメカ ニズム をよ り明確 にす る目的 で、サルの歯周組織に実験的に炎症を程度を変 えて誘 発す るとと もに 、咬合 性外傷の程度も変えて合併させ、歯周組織の変 化 を 臨 床 的 、X線 学 的 な ら び に 病 理 組 織 学 的 に 観 察 し 計 測 も 行 っ た 。
【材料 と方 法】実 験動 物とし て全身的に健康で、ほぼ正常な歯列と歯周組織 を有す るカ ニクイ ザル2頭を 選び、 被験 歯は上 下顎 の第二 小臼 歯と第一、第 二大臼 歯と した。 炎症 誘発に はソフトダイエットを与えるとともに歯頚部に 綿 糸 を 結 紮 し 、 さ ら に 結 紮期 間 を10週 と20週と に 変 え て 歯 周 組織 の 炎 症 の程度 を2段 階に 変えた 。一 方咬合 性外 傷の誘 発に は隣接 面に 矯正用工ラス テイッ クを 挿入し て側 方カを 加える方法を採用し、エラステイック挿入部位 を1週 間 ごと に 変 え て 被 験歯 に加わ え咬 合性外 傷の 程度を2段階 にし 、これ らを組 み合 わせて 被験 歯を6群に分 けた 。Ac詳 とBc群はコ ント 口ールとして 外 傷 カ を 加 え ず 炎 症 の み 群と し 、AI群 とAn群は 軽 度 炎 症 群 と し、AI群 は 弱 い 外 傷 カ が 加 わ る 群 、An群 は 強 い 外 傷 カ が加 わ る 群 と し た 。BI群 とBn 群 は 重 度 炎 症 群 と し 、BI群 はAI群 と 同 じ 弱 い カ が 加 わ る 群 、Bn群 はAn 群と 同 じ 強 い カ が 加わ る 群 と し た 。 臨床 的 診 査 はAグ ル ー ブはO、5、10、 15週 、Bグ ル ー プ は 引 き 続 き20、25週 に 、 カ ラ ー 写 真 撮 影 、Gi ngi val Index(G.I.)、Plaque Index(Pl.I.)、Probing Pocket Depth(P.P.D.)、
Clinical Attachment Loss(C.A.L.)を行った。X線学的検査は川崎式規格 撮影法 を用 い各隣 接面 部に充 填したアマルガムを基準点とし、隣接面の歯槽 骨頂部 まで の距離 を測 定し、 骨吸収量を求めた。病理組織学的観察は、脱灰 標本を 作製 し、H‑E染色 およ ぴマロ リー アザン 染色 を行い 、光 顕下で観察す るとと もに 、CEJから隣 接面 の歯槽骨頂までの距離(B.L.)、CEJからボケ ット底 まで の距離 (A.L.)、 隣接面に残存する歯間水平線維の垂直方向の幅 (T.F.)を計測をした。統計学的分析はStudent st.test検定を用いた。
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【結果】炎症誘発期間では、各群ともブラークの付着が多くなり、歯肉の発 赤と腫脹が著明になり、P.P.D.が深くなり、C.A.L.も増加したが、各群間に 大きな差は見られなかった。外傷誘発期間では、P.P.D.は、外傷カを加えな いコントロール群ではこの期間中変化がなかったが、外傷カを加えた群では 深くなる傾向が見られた。一方C.A.L.は、軽度炎症群ではこの期間に変化が なかったが、重度炎症群では増加し、外傷カを加えた群は増加量が多い傾向 を示 した。X線規 格写 真では 、各 群とも、炎症誘発期間にごく軽度の水平性 骨吸収が生じ、経時的に増加する傾向が観察された。咬合性外傷合併期間で は、合併群の骨吸収は急速に増加し、炎症のみのコントロール群に比ぺて、
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骨頂部の骨吸収量は明らかに大きくなり、根分岐部の骨吸収も明らかとなっ た。炎症の程度で比較すると、炎症のみの場合、重度炎症群は軽度群に比ベ 骨吸収量は多くなる傾向を示したが統計学的には有意差はなかった。炎症と 外傷が合併すると、咬合性外傷が弱い場合には重度炎症群が骨吸収は多い傾 向を示したが有意差はなく、咬合性外傷が強い場合には重度炎症群は有意に 骨吸収が多いことが認められた。
病理組織学的観察およぴ計測では、アタッチメントロスほ、炎症のみの群 では重度炎症群は軽度炎症群より有意に多く、炎症と咬合性外傷の合併群は 炎症のみの群に比ベ明らかに増加していた。さらに合併群の中で比べろと、
重度炎症群は軽度炎症群よりも明らかに多かった。歯槽骨は各{r、とも骨頂部 に吸収がみられ、隣接面の骨頂部の吸収量は、炎症と外傷の合併群が炎症の みの群に比べて明らかに多く、明確な差が見られた。骨頂部の歯間水平線維 の幅は、炎症単独の場合に比べて咬合性外傷を合併すると減少する傾向を示 し、とくに歯肉の炎症が重度でしかも強い外傷カが加わった群では、歯聞水 平線維は著しく減少し走行が乱れ、炎症細胞は歯根膜付近にまで浸潤してい た。
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【考察】本実験でほ、炎症と咬合性外傷の合併による歯周組織破壊のメカニ ズムを解明する方法として、炎症の程度と外傷の程度を変えて合併させて、
臨床的および病理組織学的観察した。病理組織学的には骨頂付近の歯肉線維 とくに歯間水平線維の破壊状態に注目し、線維を染め出すマロリーアザン染 色による、観察と病理組織学的計測を行った。その結果、軽度炎症群では歯間 水平線維がまだよく発達しており接合上皮が根尖側に移動するのを防いで、
外傷力加えても急速なアタッチメントロスや骨゜吸収は見られなかった。この ことは歯間水平線維が発達し十分な量存在すれば、歯冠側の歯肉(歯間乳頭 部や辺縁部)に炎症が存在しても炎症が急速に根尖側に波及すろことはない ことを示していると考えられた。しかし歯肉の炎症部と歯根膜との間の健全 な歯肉線維は歯肉の炎症が強く外傷が加わるにつれて減少する傾向を示し、
重度炎症と強い外傷カを加えた詳では歯間水平線維の破壊が著し〈進行し歯 肉の炎症性細胞浸潤は歯根膜や歯槽骨に接近した状態となっており、さらに 線維が破壊、減少すると炎症が歯根膜にも波及するのではないかと考えられ た。これらの結果から、炎症と咬合性外傷の合併による歯周組織破壊の進行 は歯間水平線維の状態に大きく影響をうけ、歯「む亅水平線維が強い炎症により 破壊され減少すると、外傷カによってさらに線維の断裂や血管の圧迫出血が 丶
生じ、炎症性細胞が浸淵しやすくなり、アタッチメント口スが急述に進行す るのではないかと考えられた。
学位論文審査の要旨 主 査 教 授 加 藤 熈 副 査 教 授 雨 宮 璋 副査 教授 久保木芳徳
学 位 論 文 題 名
歯 周 組 織 の 炎症 と 咬 合 性 外 傷が 合併 した 時のサ ル歯 周組 織の 変化
一炎症の程度と咬合性外傷の強さの影響について一
審 査 は 審 査 担 当 者の も と 、 論 文 提 出 者 に 対 し口 頭 試 問 お よ ぴ 筆 記 試 験 に よ り 論文の 内容 と関 連分 野につ いて 行わ れた 。
炎 症 と 咬 合 性 外 傷 と が 合 併 し た 時 の 歯周 組 織 の 破 壊 に つ い て 、G iickman ら は 炎 症 と 咬 合 性 外傷 が 合 併 す る と 炎 症 の 進 行路 が 変 化 し て 直 接 歯 根 膜 へ 波 及 し 、 骨 縁 下 ボ ケ ット や 垂 直 性 骨 吸 収 が 生 じ ると ぃ う 共 同 破 壊 説 を 発 表 し た が 、科学 的に 実証 され ていな い。 一方Lindheらは イヌ で両 者を合f并きせろと、
高 度 の 歯 槽 骨破 壊と ァタッ チメ ント 口スが 生じ たが 、骨 縁下ホ ケ゛ ソト は生 じ な か っ た と 報 告 し 、Polsonら は り ス ザ ル で 観 察し 垂 直 性 の 骨 吸 収 は 生 じ た が ア タ ッ チ メ ン ト ロ スは 生 ぜ ず 骨 縁 下 ホ ケ ッ ト も生 じ な か っ た と 述 ペ 、 浅 野 は カ ニ ク イ サ ル に 強 い炎 症 と 強 い 外 傷 カ を 加 え た結 果 、 ア タ ッ チ メ ン ト 口 ス を 伴 う 高 度 の 歯 周 組 織破 壊 が 生 じ た と 報 告 し て いる 。 こ れ ら 研 究 報 告 か ら 、 歯 周 組 織 の 炎 症 と 咬 合性 外 傷 が 合 併 し た 場 合 の 組織 変 化 は 、 歯 周 糾 織 の 炎 症 の 程 度 や 咬 合 性 外 傷 の強 さ に 影 響 を 受 け て 、 種 々に 変 化 す ろ の で は な い か と 考 え ら れ ろ が ま だ 十 分明 確 に さ れ て い な い 。 そ こで 歯 周 組 織 の 炎 症 と 咬 合 性 外 傷 が 合 併 し た 場 合 の歯 周 組 織 破 壊 の メ カ ニ ズ ムを よ り 明 確 に す ろ ぼ 的 で 、 サ ル の 歯 周 組 織に 実験 的に炎 症を 程度 を変え て誘 発す ろと ともに 、lI交合 性外 傷 ‑ 403−
の程度も変 えて合併させ 、歯周組織の変 化を臨床的、X線学的ならぴに病理 平線維層の 幅は減少していた。これらの結果から、炎症と咬合性外傷の合併 による歯周 組織破壊の進行は歯間水平線維の状態に大きく影響をうけ、歯間 水平線維が 強い炎症により破壊され減少すると、外傷カによって線維の断裂 や血管の圧迫出血が生じて炎症性細胞が浸潤しやすくなり、アタ゛ソチメント ロスが進行するのではないかと考えられた。
審査は、審 査担当者の全員のもとで行われ、初めに本研究の概要の説明、
次に論文 の内容、更に関連分野の質問が行われた。その結果、いずれにも明 確な解答 、説明が得られ、さらに今後の研究についても明快な説明が得られ た。また 申請者は、専門領域のみならず、関連分野についても十分な学識と 理 解 を 有 し て い る こ と よ り 、 歯 学 博 士 に 価 す る と 認 め ら れ た 。